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plumeria

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聖司に言われた時間は12時。
それまでにテイクアウトで簡単に昼食を済ませ、妙な組み合わせの4人は時間通り花沢邸に向かった。


そこでも誠二郎は車から降りて立ち止まった。
美作と変わらない・・・むしろ花沢の方が落ち着いた感じの豪邸だ。

庭も手入れが行き届き、しかも公園の如く広い。
幾つもある窓からは上品なカーテンが見え、何かの撮影現場かのように感じた。そしてやはりここにも警備の人間だと思われる姿が確認出来た。


類が玄関に近付くと、何処で見ているのか内側からドアが開けられ漆黒のスーツを着た男が姿を見せた。その一連の流れもお辞儀の仕方もテレビドラマでしか見た事がない。
自分には無縁の世界・・・既に驚くと言うよりは面倒臭くなっていた。


「お帰りなさいませ、類様」
「・・・父さんは?」

「旦那様はご自分のお部屋で類様をお待ちでございます」
「判った」


ここでは類を先頭にあきらと総二郎が入り、執事は見知った2人に深々と頭を下げて「お久しぶりでございます、美作様、西門様」と言葉にした。そして初めて見る誠二郎にも同じように頭を下げ、「いらっしゃいませ」とだけ。

でも声を掛けられても返事など出来るわけもない。
愛想良く返事する2人に並んで、無言で花沢邸に足を踏み入れた。

美作邸に比べれば落ち着いた雰囲気だ。
でも見上げるとホテルのようなシャンデリア、正面には上品なアレンジフラワーが抜群の存在感で目に飛び込んでくる。執事の後ろには揃いの服を着た使用人らしき女性が2人ほど並び、一礼する動きは見事にシンクロしている。


「類、俺達は別室で待機する。そこで牧野の情報を待つからお前達だけで行けよ」
「あぁ、そうだな。ここから先は部外者立ち入り禁止・・・だな」

「ん、判った。この奥の応接間で待ってて」


あきらと総二郎はここでヒラヒラと手を振り、2人組の使用人が頬を赤く染めて総二郎達を奥へと案内した。
類は立ち竦む誠二郎に「こっち」とだけ呟き、階段を指さした。ここで誠二郎が逃げ出すなどと考えもしないのか、黙って前を進んだ。

そして2人並んで聖司の部屋の前に立つと、チラッと目を見合わせた後でノックをした。


「父さん、類です。入りますよ」

返事は聞こえなかったが電話済みなのだからと、類はそれを待たずにドアを開けた。
誠二郎も開けられたドアの向こう側、外の光りが差し込む窓際を見詰めた。そこに映るシルエット・・・目を細めて見ていたが、やがてはっきり見えてくるとネットで見た顔だと判った。

まだ何も聞かされていないが、この男が父親・・・でも誠二郎にはなんの感情も湧かなかった。


「待たせたようですみません。こちらが松島誠二郎・・・本人です」


聖司は類の言葉で誠二郎に顔を向けた。
そして暫く無言の時間が流れた。

誠二郎はズボンのポケットに手を突っ込んだまま、片足に体重を掛けて首も傾けている。とても目上の人間に対する態度ではない。そして聖司を見る目は鋭く、初対面なのに敵意を丸出しだ。
マナーどころか真面な教育も受けていないことを、この立ち姿だけで感じさせた。


「君が良子のところで育った誠二郎・・・か」
「・・・あぁ、俺が松島誠二郎だ。あんたの顔、ネットで見たよ」

「あんた?・・・・・・まぁ、いいだろう。取り敢えず座りなさい」


「あんた」と呼ばれたのは生まれて初めてだっただろう。
幼い頃から「坊ちゃま」と言われ、物心つく頃には「様」付きで呼ばれ、これまでにあらゆる人間から特別扱いされてきた人間だ。まだ21歳の、しかも自分の息子から「あんた」と呼ばれて流石にショックだった。


類と誠二郎は聖司の向かい側のソファーに座った。
その時に使用人がノックして部屋に入り、3人に紅茶を出した後、一礼して静かに出ていった。

マイセン・ブルーオーキッドのカップに繊細な香りのダージリン・・・聖司は気持ちを落ち着けるためにひと口飲んだが、誠二郎は目を向けることもなかった。


「父さん、俺はまだ彼に何も話していません。ここでもう1度、21年前の話をします。いいですね?」

「・・・君はまだ何も知らないのか?」
「・・・・・・別に何も?俺はいきなりこいつに捕まってここに連れて来られただけだ」

「少しは姿勢を正せないのか。真面目な話をしていることぐらい判るだろう」
「俺に命令するな。何様だよ、あんた」

「・・・・・・!」


内心怒りに震えた聖司だったが、誠二郎は完全に被害者だ。
これから話す事を聞いた後、どういう態度に出るのかを考えると黙るしかなかった。


「これから話す事は俺達が生まれるまでの両親のこと、そして産まれた時の出来事だ。信じられないかもしれないけど、関係者から直接聞いた事実だから落ち着いて聞いてくれ」


類の口から語られる忌まわしい事件の話・・・それを今度は誠二郎が黙って聞いていた。






つくしは車の中で意識が朦朧としていた。
仙道がそれに気が付いたのは札幌の近くまで来た時・・・あまりにつくしが静かなため、気になって腕を触った時だった。その腕が茹でられたように熱い。驚いて次のパーキングエリアに立ち寄り、そこでつくしを起こした。


「おい!熱があるのか?おい、つくし?!」
「・・・・・・る・・・い?」

「・・・!」


つくしが譫言のように呼んだのは自分の名前ではなくて類・・・仙道はそれを聞いてムカつき、つくしを抱き抱えていた手を離した。そして自分の車の中で何かが起きても困る、そんな理由で仕方なく飲み物を買いに外に出た。


その時のドアの音でつくしは目を覚ました。
そして目だけを動かして辺りを確認・・・車の中だと言うことは判るが、外は初めて見る景色だ。目も霞んでよく見えないが、遠くに「北海道」という文字を見つけた瞬間、気が抜けてシートに沈んだ。


「そっか・・・北海道だった」

チラッと横を見れば運転席は誰も居ない。
もしかしたら今、逃げられるかも・・・何処に逃げるのかも思い付かないままフラフラと身体を起こすと、自動販売機の方から戻って来る仙道の姿が見えた。
そこで大きく溜息をつく・・・その時にこの車から少し離れたところに苫小牧で見たシルバーの車を発見、運転席にはサングラスの男が乗っていた。


「やっぱり、あの車って・・・」

熱で乾いた唇がそう呟く。
考える事もままならない状態だったが、あの車は1つの希望のような気がした。


「目が覚めたのか?」
「・・・うん、あっちゃん・・・私・・・」

「熱が出たんだろ?自業自得だ、あんなところで寝るから」
「・・・ごめん」


大丈夫か、と言う言葉は出ない。勿論期待もしていなかった。
むしろ心配される方が困る・・・だから悲しくも悔しくもなかった。その程度でいい、そう思っていたらポン!とミネラルウォーターを手渡された。

ヒヤリとしたペットボトルが気持ちいい・・・つくしはそれを両手で持って、すぐに額に当てた。
それがすぐに生温く感じるのだから相当熱が高いのだろう、それでも飲まずに自分の顔を冷やしていた。


「そんな事をせずに飲んどけよ。熱をすぐに下げないと実家に戻れないじゃないか」
「・・・・・・え?」

「病人を連れて帰る気はしない。つくしの熱が下がるまで何処かで休むことにするから」
「・・・・・・あっちゃんだけ帰ればいいのに」

「そんなの母さんが嫌がるだろ?今朝話した通り、お前が北海道初めてだからって観光してることにする。小樽には明日帰るから話を合せとけよ」



つくしは何故か笑いそうだった。
こんな時でも母親なのだと・・・自分の病気は母親の笑顔に比べたら大したことはないのだと。

それでもいい。
これで少なくとも1日は仙道の実家に行くのが延びたのだ。


時間稼ぎをしてやる・・・つくしは潤んだ目であの車を見ていた。





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