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茶道教室の時間が迫ってきて、西の棟を出て裏口に向かった。
その時に正面から来たのはさっき詩織にくっついていた使用人・・・俺を見てサッと隅に避け、軽く頭を下げた。


「おい、詩織さんはどうした?」
「詩織様ですか?先程北棟にご案内しましたら、そこからはお1人で様子を見たいと申されましたので」

「あんな場所を1人で?」
「はい。何があるのかはお話ししたのですが、このお屋敷の事を全部把握したいと申されました。ですから私で宜しければ各部屋をご説明しますと申し上げましたら、それは無用だと・・・。ご自分の目で見たいだけだと申されましたけど?」

「見たいだけ?」
「はい、そのように」


使用人はそれまで言うと立ち去ったが、一体何を見たいと思ったんだろう。
茶道を覚えようというならそれなりの部屋も倉庫もあるし、茶道会館もある。西門の事なら事務所や衣装部屋、書庫の方がいいだろうに。
使用人の真似事なんてする気もないだろうから、あそこには詩織が気になるようなものは・・・って考えたら、その奥の蔵か?


でも今はもう時間が無い。
詩織の事はまた探りを入れればいいかと裏口に急いだら、丁度本人が北棟からの廊下を戻って来た。
その時の顔・・・何故か少し赤くて、笑ってるようにも見えて驚いた。

周りには誰も居ないはずなのに、後ろを振り向いて・・・やっぱり笑ってる?
勿論その顔の方が可愛くていいんだけど、俺にとっては不気味だった。初対面の印象が悪すぎるのに、ここでいきなり1人笑いされても気持ち悪いし!

でも俺が足を止めた瞬間、詩織も俺に気が付いた。


「あ、あら、総二郎様。いらっしゃってたのですか?」
「一応ここは俺の自宅ですからね。いらっしゃってたって言われるのも心外だけど」

「・・・そうでしたわね、失礼しました」


もうこれまでの冷たい表情に戻った。
てか、むしろバツが悪そうに視線を横に逸らせ、たった今まで上向きだった口角も一気にダウン。そんなにこの俺がイヤか?ってぐらい露骨に態度を変えられ、俺もムッとした。
一瞬でも可愛らしいと思った自分を殴りたいぐらいだ!


「それより北の棟に良いものでもありましたか?」
「・・・良いもの?そのような意味合いで行ったわけじゃありませんわ。お屋敷の中を詳しく知りたかっただけです。西門に嫁ぐのでしたら当然でしょう?」

「当然ねぇ・・・なにも1人で偵察するみたいに行かなくても、そんなのこそ考三郎に聞けば宜しいのでは?わざわざ使用人を外すなど、変な噂を立てられますよ?」
「まぁ!変な噂ってなんですの?失礼ですわ、総二郎様」

「そのように大声を出さないでください。すぐそこで孝三郎が茶席中ですよ?」
「・・・・・・!!」


お~お~!また真っ赤になって怒りやがって。
詩織はこの後「ふんっ!」とばかりに顔を逸らせて俺に背中を向けた。
さっきみたいに笑ってりゃ可愛いのに・・・なんて思った時、詩織の帯の辺りから何かが落ちた。それに気付かず俺から遠離ったけど、そいつを拾ったら緑色の実だった。

「なんの実だ・・・あ、これはカクレミノか?」

カクレミノとはウコギ科の常緑樹。日陰に強い植木の代表で和風庭園、特に茶庭の露地にはよく使われる。
葉の形が伝説上の「隠れ蓑」に似てるからつけられた名前だ。
成木になると6~8月にクリーム色の五弁花が咲き、秋から冬にかけて実が黒く熟す・・・まだ夏の終わりだから実も緑色って訳だ。

そいつが植えてあるのはこの屋敷だと茶室の露地と玄関前の玉砂利の横、そして・・・蔵の前だ。
詩織の帯にこいつが残ったって事は蔵に行ったって事・・・か?


でもこの実がそれの証拠になる訳でもないから、そこら辺にポイッと捨ててガレージに向かおうとした。そこで出くわしたのが志乃さんで、俺に客が待っていると伝えてきた。
誰かと思えばさっきまで考三郎の客だった後援会の役員・・・何故茶会の後で俺に?と思ったが、仕方なくそいつが待っている客間に向かった。


「失礼致します、総二郎でございます」
「おぉ、若・・・じゃない総二郎様、お元気ですかな?」

「はい、お陰様で元気にしております。本日はお稽古ではなく茶会のようでしたね。如何でしたか?」
「・・・はは、まぁ、その・・・」


水野海産の社長であるこの男は、何故か言い難そうに口籠もり、頭を掻きながら苦笑い・・・茶道教室の時間に間に合わなくなるじゃねぇか!と思ったが言葉に出来ず、水野が喋るのを待っていた。
だが一向にその気配が無い・・・ってか、言いたそうなのに言わない。

どうしたのかと思ってそいつが気にしている廊下側にさり気なく目をやると、そこに人の気配があった。
柱の陰に隠れてるつもりなんだろうが、極僅か見えているシルエットは男のものだ。この状況でそんなことをするのは彼奴しかいない。

情けねぇヤツだ・・・と、そこから視線を戻した。


「水野様」
「はい?!」

「失礼ながら水野様は色んな事を分析するのがお好きですか?常にご自分の周囲のことを把握しておかないと気が済まないとか?」
「は?いえ、そんな事は・・・私はどちらかと言うと考える事が苦手でして、社のことも周りに有能な人間が居るので助かってるぐらいです。どうしてですか?」

「いえね、そういう人間は人の話を盗み聞きするのだそうですよ。他の理由としては相手の弱みを握りたいとか自分の評価が気になるとか、自分にとって有意義な情報集めをしたい場合はコソコソと聞きまくるそうです」

「・・・はい?」
「あぁ、それかただ単に暇だとも言いますがね」


そう言うと廊下の気配は消えた。
それは水野にも判ったのだろう、驚いたように俺の顔を見ていた。
「総二郎様もお気付きでしたか?」なんて言うから「なにがですか?」と・・・そうしたら苦笑いだった。



「それで、如何されましたか?宗家になにかご意見でも?」

「いえ、そういう訳ではないのですが・・・どうして総二郎様が跡をお継ぎにならないのかと思いましてね。後援会の幹部達は考三郎様でご納得されてますが、役員の中には首を傾げる者もいるのです。
でも家元にご意見も出来ないし、後援会長も決まったことを覆すような事はなさいませんしねぇ・・・」

「その事でしたら大変申し訳なく思います。私が自ら次期家元を降りてしまった訳ですから」

「確かに総二郎様にもお悩みの時期があった事は存じております。でもそれは若いうちにはよくある事・・・本来のあなたの茶席はいずれ戻って来ると信じておりましたよ。
それなのに早々と弟君に譲られて・・・それが残念でならんのです」


有り難い言葉だとは思うが、もう代わっちまったし。
今更戻らねぇし、なんて言われないから黙って頭を下げるしかなかった。それにしても茶会終了後に即訴えるとはどういう事だ?と俺の方が眉をひん曲げた。

まるで失恋でもしたかのような溜息・・・勘弁してくれねぇかな、と時計を見た時に次の愚痴が溢れた。


「先程若宗匠のお茶席におりましたが、なんとも言えない緊張感でした。
茶室にお入りになった瞬間は怒っておいでなのかと驚きましたし、お茶をお点てになる時の細かな動きが速すぎて、ゆったりとした時間になりませんでしたし、私の方が焦って粗相をいたしました。
そうしましたら少しお顔を歪められて・・・いや、大変失礼とは思いますがお茶の味などしませんでした」

「まだその立場に慣れていないのでしょう。今まで自由にして来ましたから急な重責で戸惑っているのだと思います」

「そうだろうとは思いますよ?でも、こう言ってはなんですが末が心配でして・・・いや、兄君にお話しするのも申し訳ないのですが」

「・・・いえ、ご心配いただきありがとうございます。水野様の名前は伏せて、それとなく家元にも相談致します故、もう少しお時間いただけますか?」

「お任せ致します。ご無礼、お許しください」



大丈夫か?考三郎・・・俺の前ではデカい事言ってるが、実はガッチガチじゃね?
それなのに嫁さんは詩織・・・ある意味可哀想なヤツ。


なんで俺が言われなきゃならないのか・・・と、言ってる間に俺は遅刻だっ!!






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Comments 4

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2020/04/07 (Tue) 15:50 | EDIT | REPLY |   
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2020/04/07 (Tue) 17:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

あはは!判る~~~~!!
私も会社に勤めてたとき、いただいたコメント読んで1人で笑ってた(笑)
で、よく若い子に「気持ちわる!」って言われてた💦

今はよくGPSラインで爆笑するんだけど、旦那が「気持ちわるっ!」って言ってる(笑)


そそ、考ちゃんですよ。
私、そんなに隠れてる男を書いてる?(笑)←言いながらまた一人で笑っている💦


へぇ~~~っ!初めて聞いた!お勉強になったわ~!
って事で調べた(笑)

恵比寿=日本(神道)の神
大黒天・毘沙門天・弁財天=インド(ヒンドゥー教)の神
布袋・福禄寿・寿老人=中国(道教)の神

・・・何故なんだろう?暇になったら調べようっと!


あっ、そうそう!(笑)
今日、漁師が会社休みだったから海に出たんだけど、船酔いして帰って来たらしい(笑)

バカだよね~~~!

2020/04/07 (Tue) 23:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

生粋娘様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

趣味悪い(笑)詩織さんは美人さんの設定なので笑うときっと可愛いんですよ(笑)
うふふ、突然ここから類つくにしちゃおうかしら♡

プル、初めてのUnhappyendになったりして💦

うん、ドタバタしたお話しには間違いないかと思います(笑)

2020/04/07 (Tue) 23:09 | EDIT | REPLY |   

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