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plumeria

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類の話を聞き終えた誠二郎は無言のまま、身動き1つしなかった。
驚くこともなく、表情も変えない・・・しかも興味が無さそうだ。むしろ聖司のほうがその反応の無さに驚き、初めて会う息子の顔を見詰めていた。


「理解出来た?」

類が視線を合わせることなく尋ねると、誠二郎も類とは別の方向に顔を傾け、頭の後ろで両腕組んだ。聞く前から変わらない横柄な態度に聖司の顔が曇る。
・・・良子はこんな下品な育て方をしたのかと。

そんな聖司の顔色を見たのか、誠二郎は鼻先で笑いながら答えた。


「あぁ、何となく。それで?だからどうだって言うんだ?」

「何となく?どうだとは・・・君は何も思わないのか?この家が君の本当の・・・」
「本当もクソもねぇよ!話は判ったが俺は松島って名前のただのチンピラだ。こんな家とは関係ねぇな~」


語尾を上げて如何にも人を小馬鹿にしたかのような返事だ。
今まで類からそのような態度をされたこともなく、何処に行っても頭を下げられることに慣れきっている聖司には我慢出来なかった。

類は横目で二人の姿を捉えたが何も言わない。
この先は誠二郎に総てを任せる、そう決めていたからだ。


「関係ないだと?!なんだ、その言い方は!」
「悪いか?俺はこんな言い方しか出来ねぇけど?」

「それならすぐに改めなさい!私が君の父親だと言っているのだ!これから先は花沢の為に・・・」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!!」


夢子の前では荒ぶらなかったのに、ここで一気に感情を出した。
それは運命を変えられた事を今更言われてもどうにも出来ないと言う憤りからだろうか、「本当」と言う言葉は今まで信じてきたことを虚妄させるからだろうか。

それとも・・・


「俺には最初っから親父なんて居ない・・・そんなヤツが今更現れても認めない!
血がどうとか、すり替えがどうとか、あんたがどっちの女に入れ込んでたかなんて俺には全然関係ねぇよ!俺の血は俺だけのものだ・・・だから俺に花沢を押し付けるな!!」

「なっ、なに?!」


誠二郎の叫び声は屋敷中に響いたかもしれない、そのぐらい大きなものだった。
組んでいた腕を降ろし椅子から立ち上がると、聖司を見下ろしてなおも怒声を張り上げた。


「あんたはこれまでどんな暮らしをしてたんだ?!こんなデカい屋敷に住んで美味いもん食って、良い気分で過ごしてたんだろう!その時に母さんはどうしてたと思う?こんな出来損ないの息子抱えて、家には金も無くて、朝から晩まで働いてたんだ・・・男に混じって市場で力仕事して、夜は飲んだくれの爺さん相手に酒を注いでたんだ!」

「市場で・・・良子が力仕事?」

「あぁ、そうだ!俺の事は・・・・・・俺の事は放ったらかしだったさ!
酷い言葉も何度も吐き捨てられたし、叩かれたのなんか数え切れねぇよ!毎日毎日俺を睨みつけて、2人っきりの家族だったのに楽しい事なんて何も無かった・・・!
あんた、そんなの何にも知らねぇで今更父親面すんな!!反吐が出るんだよ!!」


自分の前にあったテーブルを蹴り、それが類と聖司にぶつかりそうになるぐらい動いた。
聖司は驚いて身を竦めたが、類は微動だにしない。ただ俯いて誠二郎の叫びを聞いていた。


羨ましいぐらいの自己主張・・・自分には出来なかった事だった。


聖司はその後の良子の暮らしぶりを知らない。
身綺麗にして花沢の秘書をしていた時の良子しか思いだせない。誠二郎の話を聞いてその変わりようを想像し、身体を震わせ目を閉じていた。

でも次に出した言葉も誠二郎を余計に怒らせただけだった。


「・・・これまでの事は悪かったと思う。確かに良子にも何もしてやれなかった・・・。でも君は私の妻の・・・亜弓の子供だ。勿論類も私の息子だが、君にも今後は然るべき・・・」

「断わる!見て判るだろう?この性格で生きて来たし、サツに捕まってないだけで犯罪紛いのことは山ほどして来た。花沢の名前で大暴れしたのも俺だし、なんだっけ・・・どっかの会社で叫いたのも俺だ。
そんなのをどうやって飼い慣らす?無駄だって判るだろうが!」

「飼うなどと言うものではない!確かに会社経営は無理かもしれないが、もう1度勉強し直してそれなりのポストに就けるようにはする。それには専門の人間をつけてやるから・・・」

「はっ!そんな所も他人任せか?あんた、自分じゃ何も出来ねぇのかよ!」

「私にはそんな時間は無い!企業経営者とはそんなものなのだよ!」


「・・・時間じゃねぇよ。あんたは逃げることしか知らねぇんだよ。
母さんからも逃げたし、自分の嫁からも逃げたんだ。ここに居る息子からも逃げたんじゃねぇの?全部仕事のせいにして見ないフリして来たんだよ。その代わり俺は見たくないものばっか見せられて、薄暗い場所でしか生きられなくなったんだ。
まぁ、それも逃げたって言われちゃそれまでだけどな!」


逃げた、と言われた聖司は言葉も出せなかった。
あの山本産婦人科診療所を出る時、確かに聖司は良子から逃げたという感覚があった。
その後、亜弓と類に対して距離を置くようになったのも、罪の意識から逃げたくなったから・・・なのかもしれない。

それを「息子」から言われるなどと思ってもみなかったのだろう。聖司はもう何も言えなかった。


「最近やらかした事の詫びなんて入れねぇからな。その代わりもう俺の事は忘れてくれ。
2度と花沢の名前も出さねぇし、あんた達の前にも現れない。金を要求するつもりだったけど、それももう要らねぇ。俺はこれまで通り好きに生きていくからさ」


「・・・既に困ってるんじゃないの?」


ここで漸く類が誠二郎を見上げて言葉を出した。
誠二郎も類を見下ろして・・・でも、それまでに見せていた鋭い目ではなかった。何処か茶化したような顔でニヤリと笑った。


「困った時には来いって言った人が居たからな。まぁ、どうしてもの時は・・・あそこに行くさ」
「・・・それがいいかもね」

「じゃ、俺はこれで帰るわ」


呆然としている聖司には目を向けず、誠二郎はクルッと踵を返した。
そしてスタスタとドアまで行き、そこで1度立ち止まった。


「あぁ、1つだけ言っとくわ。俺の名前・・・どうして誠二郎にしたのか、母さんが昔教えてくれたことがある」

『お母さんの1番好きな人の名前に一文字足したの。あなた、よく似てるから』

「・・・1番好きな人・・・?」
「男見る目が無かったんだな、あの人は。
俺を見るとそいつを思い出すって泣いたり怒ったり笑ったり・・・いい迷惑だったよ」


「どこで気が付いた?仙道は何も知らないから言わなかったはずだ」

類の質問に誠二郎は何かを話そうとして、少し開けた口を閉じ、その言葉を呑み込んだ。
良子が生前呟いたことは言わない方がいい・・・根拠など何もないが良子の為にはその方がいいと、普段物事を深く考えない男が思ったのだ。

『いつか本当の事が判った時、あの人が泣き叫ぶかと思うと嬉しいわ。
自分だけ幸せになるなんて許さない・・・その手で偽物を抱き締めてればいいわ』



今思えば、それは本心とは真逆だったのかもしれない。
そうでも言わないと苦しすぎたのかもしれない。
夢子に触れて母の優しさを思い出した時、この台詞を吐いた母が後で泣いていたことを思い出したのだ。


「なんだろうな・・・ネットの顔見た時の直感・・・かな」

「父親は要らない・・・・・・じゃあ、弟は?」


その時には振り返り、類を見た。
初めてみる誠二郎の驚いたような・・・少し照れた顔だ。でもすぐにドアに顔を向け、吐き捨てるように言葉を出した。


「・・・それも要らねぇや、面倒臭いだけだ」


でもその時の声は出会ってから1番穏やかなものだ。
面倒臭いか・・・と類も薄く笑ったが、ドアを開けて出ていく異母兄の背中を見ていた。



ドアが閉まり足音が小さくなって聞こえなくなると、今度は類が聖司に顔を向けた。


「・・・父さん、俺からも話があります」


項垂れたまま額に両手を当てて表情を見せない。
そして出した声は小さくて弱々しく、大企業のトップだと思えないものだった。


「・・・・・・お前までなんだ・・・」

「どう言う結果で終わるにしろ、今日、あなたに言うつもりでした。
俺は花沢を出て行きます。そして自分の力で夢を叶えます。だから花沢物産は継がない・・・これは許してくれとか認めてくれとかって意味じゃありません。そう決めたという報告です」


類もスッと立ち上がると聖司の目を見詰めた。
これが父に対する最後の挨拶・・・少しだけ微笑んで頭を下げた。


「今までありがとうございました。父さん・・・お元気で」





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