FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
8階に着くとエレベーターホールの談話スペースに居た男がソファーから立ち上がり近寄って来た。
その男の格好は普通のシャツにジーンズで、サングラスもしていない。こんな場所でスーツでは逆に目立つために普段着に着替えた情報部員だった。

類達は客室の廊下から離れた場所に集まり、そこでも同じような説明を受けた。


このホテルではルームサービスはワゴンで運ばれてくる。
その場合、食事が終われば皿をワゴンに乗せて廊下に出しておけばホテル側が引き取りに来ると言うシステムだ。つい先程仙道がそのワゴンを廊下に出したことから、ドアが閉まった後に情報部員はその中身を確認した。


「1人分は完食でしたが、1人分は殆ど手が付けられていませんでした。メイン料理はそのままで、少し盛り付けが崩れている程度でしたね」

「牧野が食えなかったって事か」
「そりゃ重症だな・・・熱でもあるのかな」

「スマホに入れている赤外線サーモグラフィカメラでは発熱を確認しています。アプリケーションですので正確ではありませんが38度以上あるという表示でした」

「そんなに?」
「あくまでも推定です。ですが、あの歩き方では納得出来る数字です」


そんな状態なのに病院ではなくホテル・・・しかも情報部員の話ではとても病人が食べるメニューではなかったと言う。あまりにも自分勝手な仙道の行動に類は我慢出来なかった。
それもここまで来れば怯むこともない。直ぐさまつくしを助け出そうと815号室の前に立った。

「こっちのことは勘付いてないな?」、とあきらがここでも小声で確認すると、男は首を縦に振った。
それなら仙道には油断があるはずで、つくしが拘束されているとは考えにくい。不意を突いて突入すれば取り押さえることは容易なことだ。
そして声を掛けるのは仙道が聞き覚えのない情報部員の声・・・その男が3人に「行きます」と呟いた後でドアをノックした。


「失礼致します、お客様。先程ルームサービスをお持ちした者ですが」

その言葉で仙道が出てくるのを、類達は壁際にくっついて待っていた。

微かに足音が聞こえてガチャ、とドアが開いた。
そして男の手が見えて「そこに置いていただろう」と言う声が聞こえた瞬間、ドアの向こう側に居たあきらがそれを力一杯引いて仙道を蹌踉めかせた!

「うわぁ!」と叫び声を上げられたが、他の客に騒がれるのは不味い。
前につんのめった仙道を今度は総二郎が首元を掴んで部屋に引き摺り込み、類はその横をすり抜けて室内に入った!


「牧野!!」


名前を呼んだがすぐに返事は無い。

急いでベッドを覗き込むと、真っ赤な顔をして荒い息を吐くつくしを見つけた!
額を触ると燃えるように熱い・・・驚いて抱き上げたが、類の腕の中でぐったりとしてその声にも反応せず、身体のどこにも力が入らないようだ。

額に滲む汗・・・抱き締めると熱い息が肩に伝わり、こうなるまで放置された事に怒りが爆発しそうだった。


「なっ、なんだ・・・!何故お前等がここに!」
「喧しい!!俺達を誰だと思ってんだ・・・?本気だしゃお前の居場所ぐらいすぐに判んだよっ!」

「・・・なに?!誠二郎に・・・いや、あいつも知らないはずだ・・・何故だ!」


首を締め上げられた状態で壁に押し付けられ、それを振り払おうにも本気の総二郎には敵わない。必死に足を動かして総二郎を蹴ろうとするが、それも鳩尾に膝蹴りを喰らって逆に動けなくなった。
蹴られたところを手で覆いその表情は苦しそうだが、総二郎の手はさっきよりも強くなり、仙道の顔は赤くなり筋が立つ。


「総二郎、それ以上すると本当にヤバいぞ」
「許せねぇんだよ・・・!俺の電話を盗み聞きしやがったんだろう!」

「ぐぅっ・・・!あぁ、そうだ・・・お前が喋ったからつくしを見つけられたんだよ!」
「・・・・・・くっ!」


この言葉で総二郎が掴み上げていた腕を振り回して、仙道の身体を床に叩き付けた。
その拍子にテーブルに身体がぶつかり、周りの部屋にも聞こえそうな程の物音が響く。これ以上暴れるとホテルの従業員が来るかもしれないと、あきらがもう1度掴み掛かろうとする総二郎を羽交い締めにした。

「落ち着け!」と叫んだあきらの声でつくしが少し目を開けた。


「・・・・・・・・・・・・」
「牧野、気が付いた?」

「・・・・・・る、い?」
「ん、もう大丈夫。助けに来たよ」

「ホント・・・に類・・・?類・・・っ!」
「ほんとだって。あんたはもう少し寝てな、すぐ病院に連れて行くから」

「花沢様、牧野様はこちらに」


2人の横に来たのは情報部の男で、類の代わりにつくしを病院に連れて行くと申し出てくれた。
つくしは心細さから首を横に振ったが、類が宥めて何とか納得させ、その男に後を任せた。本当は付き添いたかったが、仙道の事を終わらせないとつくしが自由にならないから・・・。

ドアを出る寸前まで類に向けて手を伸ばすつくし・・・それを態と笑顔で見送った。



つくしが部屋から居なくなると、類は仙道に向き直った。

仙道は大学でも類に殴られているからその力は知っている。
そして今はあの時よりも冷たい目をした類・・・ゆっくり近付いて目の前まで来ると、その動きは急に素早くなった。仙道が抵抗する余裕も与えず、左手で服の襟を掴み上げて立たせ、直ぐさま右手の拳を仙道の左頬に向けて振り下ろした!
それをまともに喰らって鈍い音が室内に響き、仙道の身体はそこにあった椅子と共に窓際まで吹っ飛んだ!

声も出せず自分の顔面を抑え、その指の隙間から血が流れ出る。口の中を切ったのだろう、その血を床に吐き出すと手の甲で口を拭い、その血を自分の目で確かめていた。


「・・・よくも牧野をあんな目に・・・・・・いつからあの状態なんだ!何故早く医者に診せなかった!」
「知るか!あいつが俺から離れるから悪いんだ・・・ただの風邪ぐらいで熱くなるな!」

「そうじゃなかったらどうする気だ!もしも牧野に何かあったら俺はあんたを許さない・・・!」
「はっ!今度こそ本物が暴れるってのか?好きにしろよ、花沢だろうがなんだろうが傷害罪で訴えてやる!」

「俺が罪に問われようがそんなのどうでもいい。牧野の身体の方が大事だ!」
「花沢物産はそうはいかない。後継者の不祥事なんてマスコミが喜んで飛び付くさ!お前はそういう立場の人間なんだよ!」


自分がした事は何も悪くないかのように仙道は類を睨み返した。
類に殴られたところは既に真っ赤に腫れ上がり、総二郎に蹴られた鳩尾を押さえながらヨロヨロと立ち上がった。でも元々喧嘩に強い男ではないし、人と殴り合った経験も少ない。
喧嘩などは母が嫌う野蛮なことであり、そんな行いを蔑んで来た男に立ち向かう余力は無さそうだ。


「よく言うよなぁ~?類の傷害罪の前に牧野の監禁罪の方が先じゃね?」
「ストーカー規制法にも抵触するよな。住居に押し掛け、または付近をみだりにうろつくこと・・・したよな?恋人って言いながら交際の強要、乱暴な言動、総て当て嵌まるだろう?
罰則って知ってるか?1年以下の懲役又は100万円以下の罰金だ」

「ストーカー?はっ!馬鹿言うな、これは愛情だよ。そんな行為と一緒にするな!」

「随分一方的な愛情だな。それを押し付けるのをストーカーってんだぜ?」
「部屋の合鍵作った時点でアウトだし」

「つくしが忘れてるだけで許可もらって作った鍵、そう言えば罪にはならない。証拠だって何も無いだろ?」


愛情などないことはお互いに初めから・・・つくしが仙道に別れ話をした時にそう言った。
つくしのことを自分の使い古しだと言い捨てた、それも類ははっきりと覚えている。
大学で襲った時には親に馬鹿にされたからだと・・・それが許せないと言い放ったくせに、今更「愛情」という言葉を出す仙道を心底軽蔑した。


「あんた・・・何にも知らないんだよ」

「なんだと・・・?どう言う意味だ」


「両親に・・・母親に認められたくて必死だからさ。その母親があんたを裏切ってるって知らないんだ」


知らない方が幸せな事実もある。
でも、事実を知らなければ自分が前に進めないことを身をもって思い知った。


「教えてやるよ。これを見てから小樽に帰るかどうか決めたらいい」

「・・・・・・・・・・・・」





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by