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plumeria

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永峯会長がニコニコしながらつくしから茶を受け取っている。
つくしもこれまで特にミスも無く、むしろここまでよく覚えたなってぐらいで俺はかなり驚いていた。
それに少し離れた場所で茶を点てている親父達も時々こっちの様子を気にしている・・・それは俺というよりつくしを見ている気がしていた。


わざわざ振り向いてまで考三郎の茶席を見ようとも思わないが、次席の茶碗が無くなったから控えていた弟子に指示した時にチラッと目をやった。
そこそこ客は居るが・・・どの程度満足してもらっているのかはここからじゃ判らない。

ただ、半東の立場に戻った詩織の動きは鈍いように感じた。
半東は亭主が何も言わなくても次の行動を読んで準備し、滞りなく点前が進むように計らわなきゃいけない。故に俺よりもスムーズに進まなきゃおかしいんだ。
それなのに何処か手間取ってるようにも見える・・・それは詩織が指図されなければ動かないからだろう。

つくしは「お運び」と呼ばれる仕事が主だが、絶えず棚の上を見て次の用意もしてくれる。ほぼ半東と言えるだけの仕事をしてくれていた。


そのうち会長がつくしを呼んで何かを談笑・・・それを見た他の連中がヒソヒソと話し始める程だ。

「あの方は?」
「確か総二郎様のお相手だとか・・・幹部の皆様にはご紹介されたそうですよ?」
「ほう・・・それで永峯様がお声掛けされるのですね?」

「随分とお気に入りのようだが、どちらのお嬢様だろう?」
「それが極普通の家庭のお嬢様らしいですわ」
「それなのに総二郎様のお手伝いを?でもよく動いておいでだ。余程お勉強されたのでしょうな」


つくしの事となると地獄耳の俺・・・そんな言葉を聞くとニヤけそうになるが、必死に堪えて茶を点てていた。


「総二郎様」

つくしが声をかけて来たから顔をあげると、先程の辛そうな表情じゃなくて品の良い微笑みを浮かべていてドキッとした。見慣れているはずなのに、何故俺の方か熱くなるのかと慌ててしまう。
それを誤魔化すように視線を外して「なんだ?」と答えた。


「永峯会長がお道具の説明をご希望です」
「・・・判った。これが終わればお話しすると伝えるように」

「はい」

「・・・ありがとう、凄く助かる」
「・・・くすっ、まだ終わっていませんよ?」


確かに・・・でも言いたくなったんだ。
こんなに茶を点てる時間を嬉しいと思うのは久しぶりだったから・・・。


チラッと会長を見れば、今日も俺を見てニヤリ・・・これだけ大勢の中じゃ喧嘩は吹っ掛けねぇだろうけど、相変わらず戯けた表情をする爺さんだ。
そして言われた通りにこのあと道具の説明をし、「大変美味しゅうございました」のひと言・・・この茶席が終われば席を立ち、再び家元の茶席辺りで他の幹部達との談笑が始まった。



こうして茶会は終わり、齋藤の両親だけを残して招待客達は本邸を後にした。
この2人は家元の誘いでうちに1泊するらしく、6人が連れ立って屋敷に戻っていく。俺はその中に入る気もなく、それよりつくしのことが気になっていた。

だが後片付けをしている弟子達の中につくしの姿が無い・・・何処に行ったのかと探していたら、1人の弟子が血相変えて俺を呼びに来た。


「総二郎様!牧野さんが・・・!」
「どうした、何があった?!」

「水屋で倒れてしまって、今志乃さんが手当を!」

「・・・・・・!!」


倒れた?
やっぱりそんなに具合が悪かったのか・・・!



**



水屋に駆け込むと、そこの真ん中でつくしが苦しそうな顔で踞り、志乃さんに背中を支えられていた。
痛みを我慢しているかのような表情でその額には汗が滲み、着物の袖を手で握り締めている。、驚いて近寄り腕を掴んだら「痛っ!」と声をあげた。

腕が痛い・・・?でもあれだけ茶碗を運んだけど1度も落とさなかったのに?

掴んだ腕の着物の袖を肘上まで上げると・・・


「総二郎様、これは・・・」
「なんだ?発疹・・・?」

「これはもしや虫刺されでは?」
「・・・この腫れの酷さは・・・チャドクガ?でもこの時期にはもういないし、つくしは昨日も庭の事はしてねぇよな?」

「えぇ、そうですわね。総二郎様、家元達には・・・?」
「志乃さん、悪いけど黙っといてくれる?事情が判らないから騒ぎを大きくしたくない」

「畏まりました!」
「取り敢えず部屋に運ぼう。つくし、少し我慢しろ!志乃さんは本邸に戻ってくれ、後は俺がやるから」


そう言って抱き抱えた瞬間、今度は軽く悲鳴をあげるほど痛がった。
ただの虫刺されにしては酷すぎる反応で、一体何が起きたのか俺にはさっぱり・・・でも、ここでは着物も脱がすわけにいかなくて、苦しむつくしを抱えて急いで自分の部屋に戻った。


部屋に入った瞬間、つくしが言ったのは「ベッドはだめ・・・!」だった。
その言葉でベッドに視線をやると見慣れないバスローブが丸めて置いてある・・・つくしはそれを見て身体を震わせ、俺にも「触っちゃだめ!」と泣きながら訴えた。


「判った、兎に角着物を脱げ!」
「・・・・・・うん・・・総二郎、ゆっくり帯を解いて・・・」

「痛いのは何処だ?身体なのか?」
「・・・痛いって言うか、痒いって言うか・・・もうよくわかんないっ・・・!」

「馬鹿!どうして言わなかった!」
「・・・だって茶会が・・・終わるまでって」


出来るだけ刺激を与えないようにとは思うが身体を締め付けるように着ている物だから当然身体に力が加わり、その度につくしは痛がって声をあげた。
どの程度の・・・と考えるとゾッとして、帯を解き、着物を脱がせて長襦袢もゆっくり脱がせた・・・そうしたら・・・


「なん・・・だ!これ・・・どうしてこんな事になった!」
「総二郎、痛い・・・何でこんなに痛いの?ヤだよぉ・・・!!」

「ちょっと待て、羽織るもの持って来るから!」


俺が思っていたより酷い症状だった。
胸から腹にかけての広範囲に毒針毛にやられたと思う発疹があり、それが肌を真っ赤に腫れ上がらせ熱を持っている。それなのに着物を着ていたから紐の痕なんかがあって、痛々しかった。

この状態でニコニコしながら運び役を・・・それは到底信じられなかった。


「総二郎・・・どうなるの?・・・これ、治る?痕が残る?」
「すぐに医者に行く・・・話は治療が済んでからだ!」


虫刺されでもチャドクガは馬鹿に出来ない。
2回目、3回目と刺されると症状は重くなる。チャドクガの毒性は一度刺されると抗体となり、数回刺されるとアレルギー反応を起こすこともある。
おそらくこれがつくしにとっては2回目だろうが、回数を重ねるとその時のだるさや発熱感は尋常じゃない。猛毒じゃないがこんなアレルギー反応を起こすと心配なのはアナフィラキシーショックだ。

皮膚の赤味、息切れ、倒れる・・・もう充分にその要件は満たしている!
下着だけになったつくしに新しいガウンだけ羽織らせ、すぐに西門の主治医の所に運んだ。

    


幸いアナフィラキシーショックと言う診断はされず、正しい処置をしないまま掻き毟ったために毒が回ったこと、その後の茶会のストレスなどで倒れたのだろうという結果だった。
医者に薬を処方してもらい、この件については口止めをしておいた。

点滴をして少しは落ち着き、何とか抱き抱えて本邸に戻る事が出来たのは夜中・・・賑やかな客間の声を無視して自分の部屋に入った。





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