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京都3日目の朝・・・予定通り、今日東京に戻る事にした。

本当なら午前中に駅まで行くはずだったけど、京都支部前会計の前崎さんに会うために時間を変更して、本邸にはその人のお見舞いだと総二郎が電話を入れていた。
その人の事は家元達もご存じだったからなんの疑いも無く了承され、ゆっくりの帰宅でいいとのこと。だから夕方の新幹線を予約した。


総二郎は朝食後、昨日池田さんと話したことをお爺様に報告してくると言ったけど、私には部屋で待つようにと・・・だから1人で雪が残っているお庭を眺めていた。
この土地にあの人がいる・・・そう思うと一層心が冷え込んだけど、住んでいるのが京都だとは限らない。
もう会うことはないだろうかと、それが不安だった。


「つくしさん、おひとり?」

その声はお婆様で、椿の花模様の着物・・・今日も上品で可愛らしい。とても70歳を超えているとは思えない装いだけどよく似合っている。
初めて会った時は怖かったけど、今ではこの凜とした表情も優しく見える・・・やっぱり憧れるなぁって思った。


「はい。総二郎さんは先代とお話があるとかで、それが終わるまで待つように言われましたから。それに東京ではあまり雪が積もらないし、こんなお庭の雪景色は珍しいので魅入ってました」

「ほほほ、そうよねぇ。私もこちらに移り住んでから驚きましたわ。最近は暖冬が多くてこの時期から降らないんですけど、昨日は結構降りましたものね」

「ふふふ!雪だるまが作れるぐらいですものね」
「・・・まぁ、誰かに聞いたのね?」


お婆様は私に並んで同じ方向に目をやった。
この人は見慣れているだろうに・・・って思うけど、私も何も言わずにまた庭を眺めた。


「赤い椿に雪って素敵ですけど、なんか可哀想になりますねぇ・・・・・・寒そうだし」
「ふふふ、あれは山茶花ですわよ、つくしさん」

「あれ?そうなんですか?」
「うちの椿は今頃から咲き始め、あの山茶花はもう終わりです。玄関から入ったところに咲いていたのは藪椿ですからまだ蕾が多かったでしょう?それに、ほら・・・下に落ちてる花びら、あれで判るのですよ」

「花びら?」


総二郎の畑にも山茶花と椿があるけど、その違いなんて聞いた事がない・・・そう言ったらお婆様が見分け方を教えてくれた。

椿も山茶花もツバキ科で同じ仲間。
でも違いは沢山あるんだとか。

「椿の花が散る時には花首から落ちますけど、山茶花は花びらが落ちるのです。花の形は椿がやや筒状で厚みがあるのに比べ、山茶花は平らで薄っぺらいの。
それに葉脈を透かしてみると椿は透明で山茶花は黒っぽいし、鋸歯(葉のふちの形)だと椿は浅くて山茶花は深いわ」

「見た目はあんまり変わらないのに随分違いってあるものなのですね!」

「・・・そうね・・・総二郎達兄弟みたいだっていつも思うわ」

「・・・総二郎さん達?お兄様も似てるんですか?」


お医者様になるために、西門の次期家元を総二郎よりも前に放棄したと聞く祥一郎さん。
私は会った事はないけど、その人も総二郎に似ているのならイケメン3兄弟・・・並んで欲しいなぁ、なんて暢気に笑ってしまった。でもお婆様は少しだけ淋しそうに、茶道から離れたお孫さんの事を思い出してるみたいだった。

それを見て慌てて口を噤んだけど、お婆様はクスッと笑って「写真でも見る?」と悪戯っぽく笑った。
私が「是非!」って答えると「ちょっと待っててね」と言って部屋に戻り、てっきり写真を持って来るものだと思ったら、手に持っていたのはスマホ!
流石若々しいお婆様・・・このお歳なのにスマホなんだ?と驚いたけど、ササッと綺麗な指先で操作して、そこにある写真を私に向けてくれた。


「うわっ!可愛い・・・総二郎が小っちゃい!」
「ふふふ、見せたことは内緒よ?考三郎がまだ3歳ぐらいだから総二郎は5~6歳かしら。祥一郎は9歳ぐらい・・・ね、総二郎とよく似てるでしょ?」

「はい、1番優しそうなお顔ですね」
「総二郎が無愛想なのですよ」

「あはは!ホントだ!総二郎、怒ってるみたい・・・どうしてかしら、大学の時はニコニコして写ってましたよ?」
「この頃の方が素直なんでしょうよ。大人になると愛想笑いってものを覚えるから」

「成る程・・・」
「外面が良いのですよ、総二郎は。家ではいつも仏頂面だったもの」

「そうかぁ・・・そう言えば4人で居た時はあんまり笑ってなかったかも・・・」
「あぁ、司君達ね?あの子達はこの頃からの付き合いだからお互いに自分の素を出せるのですよ。そしてあなたの前ではまた別の顔があるんだと良く判ったわ」


そう言われるとちょっと照れる・・・だからお婆様から視線を外してスマホの画面をガン見した。

考三郎さんはまだ幼顔だからちょっとお兄ちゃん達とは似てなかったけど、総二郎とお兄様はよく似ていた。
今会ったとしても見間違いはしないだろうけど、きっとイケメンなんだろうな・・・。


「主人が・・・先代が以前話したことがありますの。
総二郎は椿で考三郎は山茶花・・・祥一郎は娑羅の花ですって」

「娑羅の花?総二郎さんは椿ですか?」

「えぇ、椿は茶花の女王と言われる格の高い花。山茶花はそれに少しだけ劣りますが可愛らしい花。娑羅の木はナツツバキと言ってツバキ科には珍しい落葉樹です。
夏に清楚な花を咲かせ、朝に咲いた花は夕方に落ちる一日花・・・とても控えめですが素敵な花ですのよ」


・・・総二郎は「茶花の女王」、考三郎さんは「可愛らしい花」
祥一郎さんはツバキ科の中では「咲く時期も性質も少しだけ違う」・・・でも花だけ見れば凄く似ている。


「それぞれの良さがありますから、自分に似合う場所で見事に咲いてくれれば良いのだけれど」


お婆様が見ているのは「山茶花」だ。
宗家の事を色々と聞いてるんだろう・・・この人の心配が伝わってくるようだった。



「それはそうと、つくしさん!」
「はい?!」

急に声色が変わって元気よく名前を呼ばれ、背筋がピーン!となった。
それにさっきまでと違う悪戯っぽい目・・・ゾクッとして一歩引いてしまったぐらい!


「あなたが着てきたお着物、美和子さんが何か言ってたかしら?」
「い、いいえ・・・・・・家元夫人からは、ただ『これを着て行きなさい』とだけですけど?」

「あら、そう。では『承知しました』と伝えてちょうだいな」
「・・・はい?」


よく判らないけど、伝えたら・・・良いのね?




*********************




先代には宮本の事は言わなかったが、堀部と櫻井副支部長、遠藤後援会長と齋藤が妙な動きをしているようだと伝えた。
それと脱会を決めた頃の話を聞きたいからと、東京に帰る前に前崎さんを訪ねることも。彼のことは先代も京都に移ってから何度も会っているらしく、病気で退いたことは気に掛けていたようだ。


「1度だけ見舞いに行ったが随分と顔色が悪くてな。
近所の病院では特に問題なしとしか言われなかったと言うから精密検査を受けろというのに、病院嫌いで『寝てれば治る』なんて言うておったがの」

「今は普通にお暮らしのようですよ。この件について何もご存じないかもしれませんが、京都に来ることもあまりありませんのでお会いしてから帰ろうと思いまして」

「そうか・・・総二郎、危険だと思えば1度立ち止まることを考えなさい。
熱くなって周りが見えなくならないようにな。お前の行動で悲しむ人がいることを常に頭に置くように・・・良いな?」

「はい、心得てます。それでは最後に私が茶を点てて差し上げましょうか?」
「ははは!生意気な・・・いや、儂が点てるから飲んでお帰り」

「ありがとうございます」


14代家元の点てた茶・・・今でもその腕は衰えてはいなかった。
茶室の空気も花も、その全部が清々しい。


俺の1番初めの師匠は、それでも「まだ修行中じゃ」と穏やかに笑っていた。





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2020/06/03 (Wed) 16:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

あはは!お元気ですよ♡
今はお仕事中心だけど、たまに花沢城LINEに遊びに来てくれます。
どうやらオフ会をしたいらしい・・・(笑)ストレスを溜めてるみたいなので発散したいんだって。


おっ・・・今日も真面目なコメント。
もしかしたら「椿」は「チン」と読むから?なんて言ってくるかと思っていました(笑)
こりゃ失礼♡

祥兄ちゃん(性兄ちゃん)、このお話じゃ出ないんだけど、ここで花になって登場♡
ナツツバキ、綺麗ですよね~。

うふふ、京都滞在、良かったですか?
楽しんでいただけて良かったわ~。
ちょっと怪しい感じになってくるけど、頑張ってついて来て下さいね♡

2020/06/03 (Wed) 22:41 | EDIT | REPLY |   

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