今カレはInvestigator・11
「宮本たけし?・・・ううん、そんな事ないよ、だって竜司って名前の運転免許証だって見たもん」
大崎商事で仕入れたネタをつくしに話すと、キョトンとした顔でそれを否定した。
でも「ケンちゃん」と呼ばれていた事を考えるとどれかが偽名でどれかが本名・・・もしかしたら「たけし」も偽名の可能性だってあるわけだ。
「運転免許証か・・・偽造も考えられるけど」
「でもマンションの購入の時には沢山書類出したし、金融機関だって入ってるのに偽造なんて見抜かれるんじゃないの?」
「そこだよな・・・不動産購入してるんだよな」
「そうだよ!嘘なんてついてないよ、絶対!」
「・・・お前、なにムキになってんだよ。あいつを庇うのか?」
「はっ!ごめん、そんなんじゃないけど・・・」
つくしが宮本に恋愛感情を残しているとは思わないが、自分が騙されていたという中身が増えていくのは嫌だったんだろう。マンションに手を出したんだから竜司と言う名前だけでも「真実」であって欲しいと思うのかもしれない。
だからそこに対して怒ることは出来なかった。
やはり美作からの報告を待つほかはないか・・・と今日はこの話題を終わらせた。
「ところで・・・来週はもうクリスマスだろ?今年は少し早いけど22日には各教室が稽古納めだから、それが済んだら海外に行かねぇか?」
「えっ?海外って何処に?」
「ノエルって言えば判るか?」
「ノエル・・・・・・フランス?」
「あぁ、向こうでクリスマスを過ごしてお前の誕生日に帰国ってのはどうよ?」
「うそ!年末なのにそんなに長いこと留守にしてもいいの?」
「それが次期家元じゃねぇ事の利点だな!あの立場じゃ行けないだろうけど今の俺なら行ける・・・どうだ?講師だけってのも悪くねぇだろ?」
「・・・・・・・・・そうかなぁ」
「そうだって!パスポート持ってんのか?持って無かったら大至急手配しないと」
そう言ったらまたシュンとして「持ってる・・・」。
何故そんなに落ち込んで言うのかと思ったら、宮本と結婚したら新婚旅行に行くだろうと思っていたから・・・「ハワイに行こうと言う話まで出ていたから」って苦笑いだった。
そんな約束して偽物の指輪もらって・・・つくづくアホだなって思うけど・・・
「いいじゃねぇか、最終的にお前の横に居る男は極上なんだから。そう思っとけば悔しくねぇだろ?」
「なによ、それ!ただの自慢、ナルシストなだけじゃん!」
「ははっ!なんでもいいんだよ、半年前のお前じゃなくて今のつくしが幸せなら」
「・・・・・・ばか!幸せにするのはあんたでしょうが!」
「じゃあ幸せなはずだ」
「うわ!やっぱり自慢じゃん!・・・くすっ、やだ、総二郎ったら」
「もう泣かせたりしないって事だ。そのパスポートに初めて記されるのは俺との旅行・・・それでいいだろ?」
「・・・・・・うん!」
*********************
貴子さんに情報を聞き出していた・・・その話は初耳だったからショックだった。
廊下でぶつかったのは偶然じゃなくて、初めから私と接触するためだったんだ。その後のお菓子も私の気を引いて印象づけるため・・・その次のロビーでの偶然の出会いも、本当は私の行動を何処かで監視していたんだね。
それなのに総二郎に竜司さんの事を言われてほんの少しムキになったのは確かだった。
そこまで自分が愚かだったと認めたくない・・・名前までが偽りだったのなら、あの1年間を自分の人生から消してしまいたいぐらい情けなかった。
京都で会わなかったのなら・・・
騙された部分も奪われたものもあったけど、西門と竜司さんが関係なかったのなら、それもひとつの「恋」として胸の1番奥に置いとこうと思ったのに。
でも総二郎が言ってくれた『半年前のお前じゃなくて今のつくしが幸せなら』ってひと言で救われた。
うん・・・今はすごく幸せだもん。
もうその1年間が消えてもいい・・・話し終わった時はそう思えた。
その後はいきなり出されたクリスマス旅行の話で盛り上がった。
総二郎の部屋のノートパソコンをテーブルの上に置いて、私がその前に座った。その私を総二郎が後ろから抱くようにしてマウスを動かし、私の背もたれは彼の胸。
その体勢でモニターに映るフランスのクリスマスを眺めてた。
「へぇ~、フランスのノエルって家族で過ごすの?」
「そうらしいな。だから地方出身者の帰省ラッシュがあるんだってさ。深夜にはミサに出掛けるって聞くし、普段教会に行かないヤツもこの日だけは行くらしいぞ」
「でも凄いイルミネーション~~!これは日本と変わらないんだね。どっちかって言うと派手だね~」
「見てみたいだろ?」
「んっ!」
総二郎の顔が耳の横にある・・・こうやって喋る度に息が掛かるからドキドキする。
でもそんな素振りを見せたらとんでもない事になるから知らん顔・・・左手は私の身体を支えてて、右手がカチカチとマウスを動かしてる。
見慣れてる指先なのにどうしてこんなに目が向くんだろう・・・。
「日本と違ってクリスマスシーズンは店が閉まることも多いから意外と静かなんだ。日本の方が騒がしい感じだな・・・こっちは宗教的な意味合いがないから」
「そうなの?」
「あぁ。でも凱旋門からコンコルド広場までクリスマス市があるんだけど行ってみるか?マルシェ・ド・ノエルって言ってつくしの好きそうな雑貨が売られてるぞ。俺も1回しか行ったことねぇけど、人が多かったから全然見てねぇんだよな」
「屋台が出てるの?食べ物もある?」
「くくっ!あるある!寒いけどお前なら全部食いそうだな」
「あっ、酷い~!」
顔を横に向けると総二郎と10㎝ぐらいで目が合った!
そしたらいきなり鼻の頭にチュってされ、私が「ぎゃっ!」って言ったらケラケラ笑いながら次の画像に切り替えた。
街角の花屋で売られているもみの木や、クリスマスカラーで飾られたレストラン。
クリスマス直前になるとオープンするって言うパリ市庁舎のアイススケートリンク・・・そこで滑ってる子供達やカップル。
「うわぁ、滑ってみた~い!スケートってした事がないんだよね」
「・・・残念、これだけはダメだ」
「どうして?」
「もしも手を怪我したらヤバいから」
あぁ、そうか・・・スケートの靴で切ったり氷で切ったりするかもしれないから・・・か。
茶道家は心と手が命・・・そりゃ守らなきゃダメだもんね。
その後も2人で沢山調べて沢山笑った。
まるで現実からちょっとだけ逃げてるみたい・・・そう感じるのはきっと私だけじゃない。
その証拠に彼の左手が私を離さない。何かから守るように強く抱き締めてくれていた。
***********************
<side考三郎>
詩織さんの話しを聞いて数日・・・不安だけが増していった。
それに比べて彼女は話し終わったからなのかすっきりしているし、以前よりも笑顔が増えたぐらいだ。それが何故か恐ろしく、いつか打ち解けて愛情を持てるときが来るだろうと信じていた気持ちすら揺らぐほどだった。
そしてそんな事が上手く行くのだろうかと・・・その気持ちから、つい茶道会館に来てしまった。
今のところ、あの時と展示物等は変わりがない。
丁度見学に来ている人が居たから簡単に挨拶だけしてその場をやり過ごし、頭の中ではあの日の事を思い出していた。
「おや、若宗匠じゃありませんか、どうかしましたか?」
そう声をかけて来たのは館長だ。
ここに居ることは至極当然で、会った事に驚いてはいけないのにビクッと身体が硬直したのが判った。
それを誤魔化さなくてはと思ったが、すぐに外した視線は凄く不自然だったんだろう、館長の方が不安そうに言葉を続けた。
「何かありましたか?何方かお見えになる予定がございましたかね?」
「いえ、そう言う訳ではありません。ここにも・・・あまり来ないなと思っただけでして」
「あぁ、そうですか?展示物に追加したいものとかあれば仰って下さいね、そろそろ配置換えをしようかとも考えていましてねぇ」
「いや!これでいいんじゃないですか?とても見易いと思うし」
「・・・は?はは・・・それはありがとうございます」
「では私はこれで。ご苦労様です、館長」
結局最後まで館長とは目を合わせられなかった。
この人だけじゃなく、俺は家族を裏切ろうとしている・・・不安が一層強くなった。
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
大崎商事で仕入れたネタをつくしに話すと、キョトンとした顔でそれを否定した。
でも「ケンちゃん」と呼ばれていた事を考えるとどれかが偽名でどれかが本名・・・もしかしたら「たけし」も偽名の可能性だってあるわけだ。
「運転免許証か・・・偽造も考えられるけど」
「でもマンションの購入の時には沢山書類出したし、金融機関だって入ってるのに偽造なんて見抜かれるんじゃないの?」
「そこだよな・・・不動産購入してるんだよな」
「そうだよ!嘘なんてついてないよ、絶対!」
「・・・お前、なにムキになってんだよ。あいつを庇うのか?」
「はっ!ごめん、そんなんじゃないけど・・・」
つくしが宮本に恋愛感情を残しているとは思わないが、自分が騙されていたという中身が増えていくのは嫌だったんだろう。マンションに手を出したんだから竜司と言う名前だけでも「真実」であって欲しいと思うのかもしれない。
だからそこに対して怒ることは出来なかった。
やはり美作からの報告を待つほかはないか・・・と今日はこの話題を終わらせた。
「ところで・・・来週はもうクリスマスだろ?今年は少し早いけど22日には各教室が稽古納めだから、それが済んだら海外に行かねぇか?」
「えっ?海外って何処に?」
「ノエルって言えば判るか?」
「ノエル・・・・・・フランス?」
「あぁ、向こうでクリスマスを過ごしてお前の誕生日に帰国ってのはどうよ?」
「うそ!年末なのにそんなに長いこと留守にしてもいいの?」
「それが次期家元じゃねぇ事の利点だな!あの立場じゃ行けないだろうけど今の俺なら行ける・・・どうだ?講師だけってのも悪くねぇだろ?」
「・・・・・・・・・そうかなぁ」
「そうだって!パスポート持ってんのか?持って無かったら大至急手配しないと」
そう言ったらまたシュンとして「持ってる・・・」。
何故そんなに落ち込んで言うのかと思ったら、宮本と結婚したら新婚旅行に行くだろうと思っていたから・・・「ハワイに行こうと言う話まで出ていたから」って苦笑いだった。
そんな約束して偽物の指輪もらって・・・つくづくアホだなって思うけど・・・
「いいじゃねぇか、最終的にお前の横に居る男は極上なんだから。そう思っとけば悔しくねぇだろ?」
「なによ、それ!ただの自慢、ナルシストなだけじゃん!」
「ははっ!なんでもいいんだよ、半年前のお前じゃなくて今のつくしが幸せなら」
「・・・・・・ばか!幸せにするのはあんたでしょうが!」
「じゃあ幸せなはずだ」
「うわ!やっぱり自慢じゃん!・・・くすっ、やだ、総二郎ったら」
「もう泣かせたりしないって事だ。そのパスポートに初めて記されるのは俺との旅行・・・それでいいだろ?」
「・・・・・・うん!」
*********************
貴子さんに情報を聞き出していた・・・その話は初耳だったからショックだった。
廊下でぶつかったのは偶然じゃなくて、初めから私と接触するためだったんだ。その後のお菓子も私の気を引いて印象づけるため・・・その次のロビーでの偶然の出会いも、本当は私の行動を何処かで監視していたんだね。
それなのに総二郎に竜司さんの事を言われてほんの少しムキになったのは確かだった。
そこまで自分が愚かだったと認めたくない・・・名前までが偽りだったのなら、あの1年間を自分の人生から消してしまいたいぐらい情けなかった。
京都で会わなかったのなら・・・
騙された部分も奪われたものもあったけど、西門と竜司さんが関係なかったのなら、それもひとつの「恋」として胸の1番奥に置いとこうと思ったのに。
でも総二郎が言ってくれた『半年前のお前じゃなくて今のつくしが幸せなら』ってひと言で救われた。
うん・・・今はすごく幸せだもん。
もうその1年間が消えてもいい・・・話し終わった時はそう思えた。
その後はいきなり出されたクリスマス旅行の話で盛り上がった。
総二郎の部屋のノートパソコンをテーブルの上に置いて、私がその前に座った。その私を総二郎が後ろから抱くようにしてマウスを動かし、私の背もたれは彼の胸。
その体勢でモニターに映るフランスのクリスマスを眺めてた。
「へぇ~、フランスのノエルって家族で過ごすの?」
「そうらしいな。だから地方出身者の帰省ラッシュがあるんだってさ。深夜にはミサに出掛けるって聞くし、普段教会に行かないヤツもこの日だけは行くらしいぞ」
「でも凄いイルミネーション~~!これは日本と変わらないんだね。どっちかって言うと派手だね~」
「見てみたいだろ?」
「んっ!」
総二郎の顔が耳の横にある・・・こうやって喋る度に息が掛かるからドキドキする。
でもそんな素振りを見せたらとんでもない事になるから知らん顔・・・左手は私の身体を支えてて、右手がカチカチとマウスを動かしてる。
見慣れてる指先なのにどうしてこんなに目が向くんだろう・・・。
「日本と違ってクリスマスシーズンは店が閉まることも多いから意外と静かなんだ。日本の方が騒がしい感じだな・・・こっちは宗教的な意味合いがないから」
「そうなの?」
「あぁ。でも凱旋門からコンコルド広場までクリスマス市があるんだけど行ってみるか?マルシェ・ド・ノエルって言ってつくしの好きそうな雑貨が売られてるぞ。俺も1回しか行ったことねぇけど、人が多かったから全然見てねぇんだよな」
「屋台が出てるの?食べ物もある?」
「くくっ!あるある!寒いけどお前なら全部食いそうだな」
「あっ、酷い~!」
顔を横に向けると総二郎と10㎝ぐらいで目が合った!
そしたらいきなり鼻の頭にチュってされ、私が「ぎゃっ!」って言ったらケラケラ笑いながら次の画像に切り替えた。
街角の花屋で売られているもみの木や、クリスマスカラーで飾られたレストラン。
クリスマス直前になるとオープンするって言うパリ市庁舎のアイススケートリンク・・・そこで滑ってる子供達やカップル。
「うわぁ、滑ってみた~い!スケートってした事がないんだよね」
「・・・残念、これだけはダメだ」
「どうして?」
「もしも手を怪我したらヤバいから」
あぁ、そうか・・・スケートの靴で切ったり氷で切ったりするかもしれないから・・・か。
茶道家は心と手が命・・・そりゃ守らなきゃダメだもんね。
その後も2人で沢山調べて沢山笑った。
まるで現実からちょっとだけ逃げてるみたい・・・そう感じるのはきっと私だけじゃない。
その証拠に彼の左手が私を離さない。何かから守るように強く抱き締めてくれていた。
***********************
<side考三郎>
詩織さんの話しを聞いて数日・・・不安だけが増していった。
それに比べて彼女は話し終わったからなのかすっきりしているし、以前よりも笑顔が増えたぐらいだ。それが何故か恐ろしく、いつか打ち解けて愛情を持てるときが来るだろうと信じていた気持ちすら揺らぐほどだった。
そしてそんな事が上手く行くのだろうかと・・・その気持ちから、つい茶道会館に来てしまった。
今のところ、あの時と展示物等は変わりがない。
丁度見学に来ている人が居たから簡単に挨拶だけしてその場をやり過ごし、頭の中ではあの日の事を思い出していた。
「おや、若宗匠じゃありませんか、どうかしましたか?」
そう声をかけて来たのは館長だ。
ここに居ることは至極当然で、会った事に驚いてはいけないのにビクッと身体が硬直したのが判った。
それを誤魔化さなくてはと思ったが、すぐに外した視線は凄く不自然だったんだろう、館長の方が不安そうに言葉を続けた。
「何かありましたか?何方かお見えになる予定がございましたかね?」
「いえ、そう言う訳ではありません。ここにも・・・あまり来ないなと思っただけでして」
「あぁ、そうですか?展示物に追加したいものとかあれば仰って下さいね、そろそろ配置換えをしようかとも考えていましてねぇ」
「いや!これでいいんじゃないですか?とても見易いと思うし」
「・・・は?はは・・・それはありがとうございます」
「では私はこれで。ご苦労様です、館長」
結局最後まで館長とは目を合わせられなかった。
この人だけじゃなく、俺は家族を裏切ろうとしている・・・不安が一層強くなった。
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡