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寺の隅にある小さな池に咲いている黄菖蒲を見ていた。
これと同じ花を俺も西門で育てていたから。

6月になると綺麗な花をつける・・・牧野に似合いそうなビタミンカラーの黄色・・・。
ここではひっそりと咲いているけど、牧野は今頃どうしているのかとこんな花にまで重ねてしまう。

そうしていたら後ろから人の気配がした。
振り向くとそこにいるのはこの寺の住職・・・俺が気を許している人だった。
今日もいつもと同じ柔らかい笑顔で俺の側まで来てくれた。

「黄菖蒲・・・今年も綺麗に咲きました。この花がお好きですか?」

「はい。私の大切な人と重なって見えます。花言葉を・・・思い出しておりました」

「花言葉・・・総二郎さんは花言葉に長けていると聞きましたが・・・この花はどういうものですかな?」

「幸せを掴む・・・という言葉があります。幸せを信じるとも言いますね」

住職はそれを聞くとまた・・・嬉しそうに微笑んでいた。
何か話しでもあったのだろうかとその顔を見ていたら、池の花に眼をやったまま言葉を続けた。


「総二郎さん・・・ご面会ですよ。客間の方へおいでなさい」

「私に・・・ですか?」

一瞬牧野かと思ったけど、そんなはずもなかった。
こんな所にまで俺を訪ねてくる暇人がいるとは・・・そんな事を思いながら客間に向かった。


そこにいたのは意外にも両親だった。家を出てからそこまで経っていないのに家元はともかく、家元夫人まで・・・

二人の前に座り頭を下げたが、かける言葉は出てこない。
まだ綾乃のことでも言うつもりかと逆に睨み付ける自分がいる。



「総二郎、少しは冷静になれたか?ここでの生活ぶりは住職から聞いてはいるが、残してきたものが
気になっているようだと心配しておられたぞ」

「そうですか。・・・あんな思いをさせたのですから気になって当然でしょう。そんな事を確かめに来られたのですか?
この寺に追いやられてからまだ半月です。そんなに早く謹慎を解いていただけるのですか?」

家元にはそこまでの思いはなかったが、やはり家元夫人を見たら許す気にはなれなかった。


「・・・あきら君がうちに来たよ。またイギリスに行くから挨拶にとね。相変わらずの好青年だね。
お前のことを許してやってくれと何度も私に頭を下げるんだよ。この度のことは西門内部のことだから口出し無用と
何度言っても・・・もう一度牧野さんと会ってくれと言われてな・・・なかなかしぶとかったよ」

あきらがそんな事をこの人達に言ったのか?
またイギリスに行く?牧野はどうしたんだ・・・アパートに帰したんだろうか。

「私たちが知らなかったことまで話をしていったよ。・・・牧野さんと言う人はなかなか面白い人だねぇ」

「牧野が何かしたんでしょうか・・・!」

牧野の名前が出た途端、自然と身体が前に動いた・・・それを見た家元は苦笑いをしたけど家元夫人の方は
むしろ悲しそうに俯いてしまった。

「牧野さんは綾乃さんにわざわざ会いに行ったそうだよ。そしていきなり綾乃さんを叱りつけたらしい」

「は?牧野が綾乃を・・・ですか?」

「いきなり平手打ちしたらしいぞ。そりゃ綾乃さんもびっくりしただろうな・・・そんな事をされた経験もないだろうから。
あきら君の話だと二人で怒鳴りあってたらしい・・・考えもつかんが、そんな事が出来るとは大したものだ」


綾乃を平手打ち?いや、牧野ならやりそうだけど・・・

俺でもやったことがねぇぞ?・・・こんな短期間に何があったのかはわからないけど、もしかしたらあきらが
牧野を動かしたのかもしれない・・・相変わらずの好青年?いや、ただのお節介だな!

俺がその場面を想像して少し笑った後に今度は家元夫人が話しかけてきた。


「総二郎さん・・・綾乃ちゃんのことは甘やかし過ぎたかもしれないわ。あの子が可愛くて仕方なかったから・・・
あなたの話も聞かずにごめんなさいね。でも、だからってすぐにこの世界のことを知らない人を迎える気には
ならないの。私自身がそうだったから嫁いだときには苦労が多くて・・・本当に大変だったのよ」

「ご自分が苦労をしたから?・・・牧野とあなたは違いますよ?あいつはそんなに弱くはありませんから。
そんなところを見ていただきたかったんです。家柄とか血筋ではなく・・・牧野本人を見ていただきたかったんですよ」

「西門という家は若いときの私でも恐怖だったの。ましてや一般家庭の娘さんには難しすぎる・・・
そう思ってたから牧野さんを見ても初めから受け入れようとしなかったことは認めます。
それでも、家元夫人としてこの西門の事を一番に考えていたことだけは理解して欲しいの」


家元夫人は真面目に西門の事を考えた・・・そう思ってやることで今までのことを許せるだろうか。
住職が言ったように許すことから始まるってのはそういう事かもしれない。
これまでに綾乃がしてきたことをあきらが話したんだろう、この人はそれをどんな気持ちで聞いたんだろうか。

しばらく3人とも言葉を出せずにいた。
家元は俺の方を見ている。自分の口で説得しろと・・・そんな眼をしていた。


「正直いえばあなたが綾乃の言葉だけを信じて、牧野を傷つけたことを許す気にはなりませんでした。
だから・・・あなたのいない時に牧野を家元に会わせようとした。私も意固地になりすぎたのかもしれません。
もっと言葉にしてあなたに伝えていれば良かったと思っています。初めから決めつけていたんですよ・・・私も。
あなたが受け入れてくれるはずがないと・・・そこがすでに間違いだったんでしょうね。
私の言葉より牧野本人に会っていただければ、あいつの良さが伝わると勝手に思い込んだんです。
もっと話し合えばよかったと・・・今更ながら思います。でも、今日は少しでもあなたの気持ちが聞けて良かった。
今はとても嬉しく思いますよ・・・お母さん」

お母さん・・・なんていつから呼んでないだろう。
もしかしたら、この人が綾乃に縛られたのも俺がこの人に打ち解けようとしなかったからかもしれねぇな。

「牧野さんに謝らないといけないわね。確かに・・・綾乃ちゃんの言葉しか聞かなかったんですもの。
牧野さんがご自分から身を引いて下さればいいと思ったのも本当だし・・・知らない事があったのも事実だわ。
綾乃ちゃんが計画してやったことだとは知らずに、牧野さんが全部出しゃばったと勘違いしたのね。
なんて親なんでしょうね。自分の息子の気持ちを一番に考えなかったなんてね・・・」


「もういいんですよ。でも、俺の謹慎が解かれたら、是非もう一度牧野と会って下さいませんか?
私は牧野が心を決めてくれたら全力で家のことを教えるつもりでしたが、そこにお二人のご協力がいただけたら
嬉しく思います。・・・牧野は強い人ですから、きっと西門のためになると信じているんですよ」


それからは少しだけ西門での仕事の話をして、暗くなる前に二人は東京へ戻っていった。
家元も家元夫人もその時は俺の手を取って・・・お袋の方は泣いていたかもな。


*******


次の日になって住職が庭の掃除をしている俺の所に来た。


「昨日はお話しが出来ましたか?・・・ご両親とは打ち解けられましたかな?」

「どうでしょうね。でも心の内は話せましたし、母のことも時間はかかりそうですが関係を修復出来そうですよ。
私の心配している人も元気なようです。それが一番安心しました・・・」

住職は静かに笑って俺の背中に手を置いた。

「それは良かったですね。今日の夜・・・また、私にお茶を点てていただけますか?あなたのお茶は
とても優しい味がしますから、私は大好きなのですよ」



夜になって暗い山の中・・・住職と茶を飲みながら昨日の話をしていた。
西門の家にある重たいものを背負ってきた両親の話をしながら、ただ静かな時間が流れていった。

しばらくしてから住職は茶碗を元に戻して俺の正面に改めて座り直した。

「先ほど連絡がありましたよ。もうここを出てよろしいと・・・ただし、まだ謹慎処分中だそうです。
西門の本邸ではなく自分の思う場所でしばらくは考えなさいとの事でした。・・・帰る場所はありますか?」


帰る場所?・・・俺が帰る場所はひとつしかねぇけどな。

「はい・・・ありがとうございます。ちゃんとありますよ」

「そうですか。では・・・そうなさい。あなたのこれからの幸せをこの私は願っておりますよ。どうか、許す心を
忘れないようにお過ごしなさい」


その次の日に僅かな荷物を纏めて俺もこの寺を後にした。
小さく手を振ってくれる住職に、滅多に下げることのない頭を下げて・・・俺は心の中で礼を言った。


そして長野から東京には行かずに自分の帰る場所に向かう。

俺が行く場所はあそこしかないだろう。
あそこで牧野が来るのを待つ・・・梅雨の合間の晴れた空を見上げながら一歩踏み出した。


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大変申し訳ありません!昨日間違えて1日前に最終話予告をしてしまいました!
30分後に気がつきましたがそれまでにご覧になった方、ごめんなさい!

明日が最終話です!これは本当!

明日でこのサスペンス劇場は終わります!
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Comments 4

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2017/06/18 (Sun) 12:46 | EDIT | REPLY |   
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2017/06/18 (Sun) 14:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは~!

あきら君いいでしょう?
あ、別にあえて悲しい役目を負わせてるわけではないのです!
今日の専務シリーズにも書いたけど、たまには楽しいお話しの中に入れてるんですよ?

ただ・・・似合うんですよ!この位置が!
だからあきらを嫌う人がほとんどいないんでしょうね。

いつかね・・・書けたらいいんだけど。
書くなら短編じゃなくてキチンと書きたいけど・・・
どうしてだろう、笑いが出てしまうんです。あきらのラブシーンなんて!

ピンクのバラが飛び散りそう!!

最後まであきらのコメント、ありがとうございます!(*^▽^*)
このお話の隠れた主人公だったのかもしれません!

それでは、またあした~!
ありがとうございました♥

2017/06/18 (Sun) 16:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: え!サスペンス‥

えみりん様、こんにちは。

そうなんです!これはサスペンス劇場だったんです!
2時間ものの!殺人がなかっただけですよ。

明日の最終回は是非バックミュージックに「マドンナ達のララバイ」
を聞きながらお願いします!

もの凄く真面目な話しなのに毎回コメントだけは面白い!
何故かしら?

そして総二郎のことを忘れかけている気がする・・・。
もう一度最後に言いましょう!

本当はこれは総二郎のラブストーリーだったんですよ~!

明日、是非総二郎に会いに来て下さいね!
それでは、また明日~!


2017/06/18 (Sun) 16:17 | EDIT | REPLY |   

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