Sister Complex (20)

司達から離れて一人で廊下を進んで・・・教室には向かわずに俺の足はそのまま屋上へと向かった。
誰とも話したくないとき・・・一人になりたいときにはよく屋上で寝転んでいたから。

屋上のドアを開けて一番端にあるコンクリートの段差に座る・・・そこは高校の時にいつも寝転んでた
非常階段が見える場所だった。
少し風が吹いていて気持ちいいはずなのに・・・。


『つくしが俺と眼が合ったら逃げて行きやがった・・・』

司の言葉を思い出して思わず拳を握りしめた。
司の思い過ごしかもしれないのに・・・あんな言葉を言われただけでこんなにも腹がたつ自分に苛立っていた。
いや、司に・・・じゃなくて自分を取り巻くすべてのものに腹が立っているんだ!


そして総二郎の一言・・・『異常だろ・・・』

俺はただ単につくしといたいからこうしてるけど、周りはそう見てはいないのかもしれない。
仲が良すぎる兄妹で済めばいいけど、1つ間違えたらつくしは同級生から変な目で見られていたんだろうか。

そんな事は少しも気にしていなかった・・・目の前のつくししか見ていなかったから。
つくしの気持ちも俺にあるんじゃないかって思い始めてからはそれだけで嬉しくて、つくしの立場なんて
考えていなかったのかもしれない。

どのくらい屋上で寝ていたんだろう・・・気がついたらとっくに授業が終わっている時間。
立ち上がって空を見たら・・・もう随分と日が落ちていた。
それでもゆっくりとつくしの教室に向かう。

もう誰もいなくなった方が連れて帰るのに騒がれないだろうから・・・。



「あっ!類・・・今日は遅かったんだね!待ちくたびれたよ!」

「ごめんね・・・教授と話しがあったから。もう支度出来てる?帰ろうか・・・」

確かに・・・僅かに残っていた生徒達がこっちを見てなにか小さい声で囁いてる。
俺が視線を向けるとその子達はすぐに顔を背けた・・・俺はこの状況を少しもわかろうとしなかったんだ。


「ねぇ・・・つくし。俺が毎日ここに来るのってクラスメイトから何か言われるの?」

「え?なんで?・・・直接は言われないよ?陰で何か言ってたら知らないけど」

「陰で?そんな気配あるの?」

「わかんない。・・・私ね、ここの学校の人と友だちにはなれないってわかったの!だから、気にしないことにしたのよ。
だってすぐに付き合うとか婚約とかって話になるでしょ?面倒くさいのよ!」

つくしは口を尖らせてカバンを振り回して答えた。


「それとね・・・今日も同級生が騒いでたわ!類に包まれたいらしいわよ?もう・・・びっくりして笑ったわ!
類のことをね、穏やかで怒らないって・・・そんな事ないのにね!もう少しでバラしそうになったよ!」

「えっ?そんな事言ってるの?俺に包まれるってどういうこと?」

「抱き締めて欲しいんじゃないの?・・・馬鹿みたい!知らない人に類がそんな事するわけないじゃない。
まぁ・・・類にそんな事が出来るとも思わないけどね!」

「何気に傷つくこと言うよね。俺だって出来るかもしれないじゃん!」

そう言うとつくしがびっくりした顔で止まったから、こっちまで止まってしまった。


「うそ・・・類って抱き締めてって言われたら抱き締めてあげるの?そんなに簡単にできるの?」

「なんだよ!自分が出来ないって決めつけたからだろ?言ってみただけだよ!」

もう・・・!なんでこんな時だけ反応するんだろう・・・いつも鈍感なくせに!
止まったままのつくしを引っ張って車まで行ったけど、あれからつくしは黙ってしまった。
女の子ってのはわかんない・・・急にはしゃいだり急に怒ったり・・・急に黙ったり、なのにすぐに笑ったり!


「類は・・・そんな事しないよね?」

今度は拗ねた猫みたいな声と、大きなその眼で俺を見つめてくる。

「するわけないでしょ・・・ここにヤキモチ焼く子がいるんだから」


あれだけ悩んだのに・・・つくしの笑顔を見たら何もかも忘れてしまいそうだった。
今この時だけは二人だけの世界で・・・俺に恋をしているつくしを感じていたかった。


********


「類様。つくし様・・・来週はご両親様がフランスから戻られるそうですよ」

「父さん達が?なにかあるの?・・こっちで」

夕食の時に加代が両親の帰国を告げてきた。
いつもは前もって予定が決まっているからそんなに驚かないんだけど今回は突然の話でつくしも驚いていた。
次の帰国予定はもう冬だったから・・・。

「道明寺様の新会社設立記念のパーティーにご出席されるそうです。招待状がフランスの方にも届いたようですよ?
こちらには類様宛に届いておりましたのにね」

「そう・・・わざわざフランスから帰ってまで出席するんだね。珍しい・・・」


大学でも耳にしたウィルソン社を吸収してから設立した会社のことか?
うちの両親が出席するほどそんなに大きな会社でもなかったと思ったけど・・・

「・・・類、またパーティーには私も出席するのかしら・・・」

つくしが今までにない不安な顔をした。
この前の俺のバースディパーティーの時とは違う緊張に見える。

「さぁ・・・わかんないね。こんな会社関係のパーティーなら俺だけかもしれないよ?」

本当はそうじゃないだろうけど。
両親から言われるまではその緊張を解いてあげたくてわざとそんなふうに言った。

でも・・・つくしはこの日からあまり笑わなくなった。


********


そして次の週に両親が揃って帰国した。
花沢の屋敷は使用人が勢揃いして玄関に並んで両親を出迎える。
その一番奥には俺とつくし・・・執事と加代が並んで待った。

「お帰りなさいませ!旦那様、奥様」

全員が揃って挨拶する中を2人は真っ直ぐに俺たちの前に来た。
つくしは加代に教わったとおり両親に深く頭を下げた。それは今までになく淑やかなレディのように。
上品なワンピースに薄く化粧までしているつくしは春よりは随分と綺麗に見えた。

毎日見ている俺でさえ時々ハッとするような・・・そんな仕草を見せるようになった。


「お帰りなさいませ・・・お父様、お母様」

「あら!つくしはしばらく見ないうちに随分変わったわね!あれだけ騒いでいたのにおとなしくなったわ。
加代の教えがいいのね・・・助かるわ。ありがとう、加代」

「とんでもございません。類様がつくし様によく教えていらっしゃるので私はなにも・・・」


そう言うと両親は俺の方を見た。
何か言いたそうな表情・・・それでも母さんは側まで来て俺の手をとった。

「類・・・つくしの事ありがとう・・・あなたがいてくれて助かったわ。色々と報告は受けているのよ。
学校でも随分とつくしを守っているようね・・・?」

「いえ・・・ただ一緒にいるだけですから・・・」

「そう・・・でも、その役目もそろそろ他の方にお譲りしましょうか・・・わかるわね?類・・・」


この時二人の顔が変わったのを俺も加代も見ていた。
報告を受けている・・・それはどんな内容の報告なのか、聞かなくてもわかる。


ただ、つくしだけが不安そうに下を向いていた。

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花より男子

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