Sister Complex (30)

「もう帰ろう・・・つくし」

司がいなくなってこの辺りにいた生徒も随分少なくなった。
少しキレてしまった唇から血が出ていて・・・俺のそんな姿を見たことがないつくしは泣きながらハンカチを出す。
このくらいなんでもないって・・・つくしをあのまま司に送らせるぐらいなら・・・。
つくしが涙眼で拭いてくれるのを嬉しいようなくすぐったいような気分で見つめていた。

守るものがあれば・・・つい、そんな言葉を口に出してしまった。
総二郎が言っていた・・・「類しか見ていない」ってつくしの言葉に俺の方も独占欲が強まったのかもしれない。


つくしが落としていたカバンを拾おうとして身を屈めたら・・・ふらっとその場に座り込んだ。

「つくし・・・!大丈夫?・・・俺よりもつくしの方が真っ青じゃん!貧血でも起こしたかな・・・歩ける?」

「ううん・・・ちょっと待って・・・。すぐに良くなるよ・・・」

そう言ったけどもう眼が開いてない・・・少し意識も遠くなってるようだった。
俺はつくしのカバンを自分の肩にかけて、そのままつくしを抱き上げた。
そのあと完全に気を失ってしまったつくしは俺の腕の中でぐったりしている。
駐車場まではそんなに離れてはいない・・・つくしの顔を見ながら車まで急いだ。


駐車場では運転手が俺の顔とつくしの姿を見てびっくりして飛んできた。

「類様・・・!どうされたのですか?つくし様は?・・・病院に行かれますか?」

「いや、いいよ。つくしは疲れすぎただけだから・・・このまま自宅に戻ってくれる?」

ドアを開けてもらってつくしを抱いたまま車に乗った。
後部座席で俺の膝に載せたまま・・・その青白い顔を見つめていた。
可哀想に・・・随分泣いた後がわかる。今日一日で一体どれだけ泣かせたんだろう・・・。

「もうすぐですから・・・類様も大丈夫ですか?随分と腫れておいでではないですか?」

「そう?顔が変わってる?加代が見たらわかるかな・・・裏口から入ってくれ。騒がれたくないし・・・」

「かしこまりました」

そう言えば結構痛いかも・・・つくしの事で忘れていたけど少し自分の顔を触ったら腫れているのがわかる。
今頃になって口の中の血の味に気がついた。随分と本気で殴り合ったんだ・・・。
あの司相手に・・・でも、今思えば頭に血が上っていたのは司の方だ。俺は逆に冷静だった。
俺自身もそうだけど・・・女のことで司が殴りかかるなんて初めてのような気がするな。

つくしの髪を撫でながら、司のあの真剣な顔が思い出された。


*******


「まぁっ・・・!類様!何てことでしょう・・・そのお顔は!奥様がご覧になったら倒れてしまわれますわ!」

「そんな大袈裟な・・・いくつだと思ってんの?こんな喧嘩くらいするよ・・・たまには」

加代はつくしをベッドに運ぶ俺の後ろを歩きながら、俺達両方の顔を見て泣きそうになってる。
たまには喧嘩する何て言ったけど・・・本当はこんなケガをして家に帰る事なんてなかった。
多分初めてだろうな。殴られたことは初めてじゃないかもしれないけど・・・殴り合いは初めてかも。


加代がつくしのベッドを準備して・・・俺はそっとそこにつくしを寝かせた。
そしてその寝顔を覗き込んだところで加代に止められた。

「類様・・・今は奥様も旦那様もこの家にいらっしゃいますから・・・このお部屋からは出た方がよろしいかと・・・」

「そう・・・だね。いたんだっけ・・・あの人達が。忘れてたよ・・・でも、ちょっと待って!」

加代の止めようとする手を振り払ってつくしに顔を近づけた。
そして寝ているつくしの頬にキスをして・・・顔をもう一度撫でてから部屋を出た。


*******


「もう・・・類様は加代の寿命を縮めるおつもりですか?平気であんな事を・・・!」

今度は俺の手当をする加代・・・傷があったのは口だけじゃなくて背中と肩にも擦り傷があったらしい。
消毒をしながら加代のお小言を聞いていた。

「そんなわけないじゃん・・・加代は母親みたいなもんなんだから。大切に思ってるし長生きして欲しいよ?
ちょっと・・・加代!痛いんだけど・・・ひどくない?消毒の仕方が・・・」

「このぐらい我慢なさってください!・・・どうしてこんなケガをしたんです?もう大人ですよ!」

どうしてって・・・司の手がつくしを掴んだからさ。
忠告したにもかかわらず司が俺からつくしを奪おうとするからだよ!

「司が・・・つくしを連れて帰ろうとしたからさ・・・俺からその役目を奪おうとしたからだよ」

「・・・え?」


加代の手が止まった。
そんな加代を横目で見ながら自分の服を着た。もう消毒は全部終わったんだろうから。

「司が学校でつくしに全部話したらしいよ・・・正式に決まったって。それを聞いたつくしが倒れたんだ。
加代・・・そういえば総二郎が随分つくしの世話をしてくれたんだ・・・西門にお礼でもしておいて?」

「あ!はい・・・かしこまりました。そうですか・・・つくし様はそれで・・・」

もうすぐ報道発表されるだろう・・・そうなったらつくしはしばらく家から出られない。
つくし本人がまったく想像も出来ないほどこの家にもマスコミが押し寄せるだろう。



その報道は予想どおり・・・その日の夜に速報としてテレビでもテロップが流された。
ニュース番組では特番が組まれ・・・日本を代表する企業同士の話題だからトップニュースとして扱われた。
いつの間に調べられたのかつくしの事も大々的に報道された。当然出生の事には何も触れずに・・・。
触れられても戸籍上は実子だから問題ないんだけど。

俺はそんなものを見る気もしなくてすぐにテレビを消してベッドに倒れ込んだ・・・。

どうせ明日はもっと凄いことになってるだろう。
それよりもこの報道をつくしが見たらどう思うだろうかと、それを心配していた。
もしかして・・・今1人で泣いてないだろうか。あのあと眼を覚ましたかどうかの確認もしていなかった!
何となく気になってつくしの部屋に行こうと自分の部屋を開けたら・・・


俺の部屋の前につくしが立っていた。またその眼を赤くして。


「どうしたの?・・・そんな顔して、泣いてんの?」

「うん・・・泣いてたの。テレビ・・・見たから」



「お入り・・・いいから」

加代が知ったら大騒ぎだろうけど、このまま廊下で泣かせるわけにもいかない。
つくしを俺の部屋に入れた。そしていつものようにつくしはソファーへ、俺は自分のベッドに座る。

つくしは俺の方を見ずに自分の膝の上に置いた手を見ながら呟いた。

「テレビをつけたら・・・自分が出ていてびっくりしたの。私は本当に・・・道明寺のところへ行くの?」

「・・・いつかは行くかもしれないけど、事情が変わるかもしれない・・・」

「行かないっていうこともあるの?これは決まったことなんでしょう?・・・事情が変わるってなに?」


「婚約が決まったことは事実なんだけど、本当に結婚までいくかどうかはわからないって事だよ。
本人達の意思じゃないからね。会社同士の契約みたいなものだからこの先はまだ不確かなものだよ。
もし、花沢と道明寺の間にトラブルでも起きたらこの話はなくなるかもしれない。
今回は道明寺からの話だから向こうの気持ちが変わればね。・・・まだ、わかんないよ」

本当は有り得ないことだけど・・・過去に全くなかったわけじゃない。

特に道明寺社長はそんな人だ・・・土壇場で花沢よりいい企業を見つけたら解消することは考える人だ。
ただ・・・司の気持ちがあるけどね・・・。


「だから今は冷静になるんだ。状況は常に変化するから・・・」

つくしに向かって言うけど、本当は俺自身に向けた言葉だ。


冷静になる・・・いまはまだ動けないから。
俺は司よりも道明寺社長の動きを探っていた。

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