ヴィーナスの涙をあなたに・3

牧野がくれた四つ葉のクローバー・・・この施設の人間に頼んで一番綺麗に残るように特殊加工をしてもらった。
俺はそれをクリスタルのフォトフレームの中に・・・そのフレームの隅に入れてもらった。

このフォトフレームの中に入れる写真はきっと随分先になるだろうけど・・・。
その中にずっとこのクローバーも残しておきたかったから。


数日後、大学にいる時にお袋からの電話が鳴った。
俺には滅多に電話なんかしないのに・・・いま連絡することといったら牧野の事以外考えられなかった。

「どうしたんだ?牧野になにかあったのか?」

『つくしちゃんがすごく熱が高いんだけど・・・例の温室から出ようとしないの。昨日から38度もあるのよ・・・
でも、あのバラがもう咲くからって動かないの。あきら君から話してくれないかしら・・・心配で・・・』

「わかった。今からすぐに向かうよ」

俺はすぐに大学を出て施設に向かった。
あの夜に風邪を引いてしまったんだろうか?俺が気付くのが遅かったから随分長い時間、牧野は外に出ていた。
この季節でも夜はまだ気温が低い・・・特に施設は高い場所にあるからな。
そんな夜にあのクローバーを探していたから・・・。


******


施設に入って俺は走って温室まで行った。
お袋が温室の外にいて、中を心配そうに覗いている・・・俺に気がついて近寄ってきた。

「ごめんね・・・あきら君。あそこにいるわ・・・あそこから動いてくれないの。倒れてしまうわ・・・どうしよう!」

「お袋が泣いてどうすんだよ!牧野の事は大丈夫だから・・・もう俺が付いてるから。薄いやつでいいからタオルケットと
タオル・・・後は頭を冷やしたいから保冷剤あるかな・・・用意してくれる?」

「えぇ・・・すぐに持ってくるわ」


お袋は眼を赤くしながら俺が頼んだものを探しに行ってくれた。スポーツドリンクも手に持って俺は温室に入った。
温室と言っても暑い訳ではない。バラのためにその育成に丁度いい温度に調節されているだけ。
むしろ外の方が暑いくらいだった。お袋が頼んだものを手に持って来た。
俺はそれを受け取って牧野の側まで行く・・・俺に気がついて牧野はその赤い顔を上げた。

「牧野・・・どうして言うことを聞かないんだ?お袋が心配して俺に電話してきたよ。ここにいたいのか?」

「美作さん・・・ごめんね。でも、どうしてもこの花が咲く瞬間を見たいの・・・」

「・・・仕方ないな。俺は滅多にこんな我儘は聞かないんだけど・・・」

バラの前にうずくまっている牧野を一度抱き上げてすぐそばのいつものベンチに座らせた。
額にはすごい汗・・・タオルで拭いて自分の手を当ててみた。

「結構熱いな・・・。どうしてもダメだと判断したらこのまま病院に運ぶからな。それまでは俺が一緒にここにいるから」

牧野の額に冷却シートを貼って顔や首元をタオルで拭いてやった。
そしてタオルケットで身体を包んでそのまま俺の膝の上に頭を乗せてベンチに寝かせた。
病気の時はこうすると安心するらしいから・・・そっと背中に手を当てて・・・牧野からバラが見えるようにしてやった。

「どうしてそんなにあのバラが見たいんだ?お袋が言ったからか?それならここに来れば時々は新品種の誕生に
立ち会えるんだぞ?なにも今じゃなくても・・・」

「わかってるよ・・・でもチャンスをもらったんだもん。見るチャンスをもらった花だから・・・どうしてかな・・・
見たくてたまらないの。・・・この世で初めて咲く花だもの・・・」

「お袋の話だとハイブリッド系のカップ咲き・・・色は淡いクリーム色に黄緑色のラインが入るらしいぞ?
どんな感じなんだろうな」

牧野はもう話すのも辛そうだったけど、その眼はずっとバラの方を向いていた。

時々熱のせいで寝てしまう・・・その時だけ気付かれないように抱き締めていた。
早く牧野が前のように上だけ向いて笑えるように・・・そのために必要ならこの時間を俺が守ってやるから・・・。



「やっぱり熱が引かないな・・・どっちにしても水分を摂らせないと・・・」

でも牧野はもう眼を開けなかった。このままだと脱水症状が起きてしまう・・・。

「ごめんな・・・こんなやり方でしか出来ないから・・・許してくれよ」

俺は口移しで牧野に水を飲ませた・・・牧野の喉に水が流れるのを見ながら何度か・・・。

「ん・・・?あ・・・美作さん・・・」

「気がついたか?ちゃんと飲めるなら起きて飲めよ」

「ううん・・・もういいよ。大丈夫・・・ありがと・・・」

少しだけ笑って・・・赤い顔の牧野はまた俺の膝で眠ってしまった。
気がついたら後ろには食事を持ったお袋が立っている。


「なんだよ・・・見てたのか?人が悪いな・・・」

「うふふ・・・あきら君ってやっぱり優しいのね・・・安心したわ。あなたが少し食べなさい。つくしちゃんはまだ無理でしょう?
新しいお水も持ってきたわ。それとタオルも・・・このバラは多分朝には咲いてると思うわ・・・。つくしちゃんの思いが
強いみたいだから、あきら君に任せるわね。それとも・・・お部屋に行く?」

「いや・・・いいよ。俺は大丈夫だから」

「いい男ね、あなた。さすがパパの息子だわ。じゃあ・・・私は帰るわね」

お袋は牧野の髪を撫でで、少しその顔を見た後温室を出て行った。


外はもう月夜・・・今日も雲がなくて綺麗な月が温室の中を薄明るく照らしていた。
俺はその中で牧野に何度も水を飲ませながら・・・一晩中牧野を抱き締めていた。
牧野の手はいつの間にか俺の手を掴んでいる。

俺はその手を自分に寄せて・・・俺の手を掴んでいるその手にキスをした。



気がついたら外が少し明るくなっている・・・俺はまたうたた寝をしていたみたいだ。
俺の膝の上が軽くなっている。


「あれ?・・・もう朝になった?・・・牧野?」

牧野はタオルケットを身体に巻き付けたままバラの前に座っていた。
その様子から熱はもう下がったみたいだった。
俺はゆっくりと牧野の後ろまで歩いていって、同じ目線まで座ってその先にある白い花を見た。

「牧野・・・そのバラは咲いたか?咲く瞬間・・・ちゃんと見ることが出来たか?」

「うん!ほら・・・すごく綺麗に咲いたわ・・・見て?」

「うん・・・綺麗だな」


そのバラはこの世界に初めてその花を咲かせた。
そして牧野と俺はその花をこの世界で初めて見た二人になった。

bara9.jpg
関連記事

花より男子

4 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/06/25 (Sun) 11:24 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは~!

みわちゃん様もあきら君お好きでしたよね!
もう笑えるでしょう!どう書いていいんだかわっかんないんですけど~!

とにかく私の中のあきら君を最大級引っ張り出して!
なんとか類と総二郎を封印して!
ここまで書いたんですけど・・・この後のラストシーンまでがこれまた・・・!
あきらならこの後どうするんだろう~!って感じです。

お話しは決めてるんですけど、言葉と行動が上手いことあきらになるかしら?

期待薄でお願いします!
私のあきら君のイメージは「月とバラと白いカーテン」・・・最後はよくわかんないけど
白いカーテンの前に立ってるイメージなんです。(*^▽^*)

何とか頑張ってみます!
今日もありがとうございました!

2017/06/25 (Sun) 11:37 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/06/29 (Thu) 16:00 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!(7)

あきらなら夢子ママの前でもやりそうな気がしたんですよ。
そこまでなら・・・。いや、今回は夢子ママがいると思わなくてしたんですけど
あきらは怒りそうにないと思って・・・。

実際の家庭で息子のそんなの見たら世間のお母さんは止めに入るんだろうか・・・。
うちは女の子なんで想像できないけど。

いい感じになってます?

もの凄く自信ないです・・・なんとか書いてる感じですよ!

いつもありがとうございます!

2017/06/29 (Thu) 22:26 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment