ヴィーナスの涙をあなたに・6 

「あら・・・もう見えなくなったわねぇ。つくしちゃん、ほら・・・もう消えちゃうわ」

「そうですね・・・行っちゃいましたね・・・」

夢子おば様と2人であきらを見送る。
青い空に飛行機雲を見ながら、その先の機体が小さくなるのを眼を細めていつまでも見ていた。

今日、あきらはイギリスへ行ってしまった・・・。
結局・・・私はここに残ってあきらを1人でイギリスへ行かせた。でも、この決断を彼は笑って受け入れてくれた。



あの日・・・あきらにこれからのことを聞かれたとき・・・


******


「牧野・・・昨日の夜、お前に決めさせてやるって言っただろ?・・・だから、決めてくれないか?
俺についてイギリスに行くか、日本で俺が帰るのを待つか・・・今すぐここで結婚しても良い。
俺はイギリスに行くけどお前の時間はお前が決めてくれ。俺はそれにあわせるから・・・」

「私は・・・あきらといたいよ。でも・・・新しい夢が出来たの」

「夢?牧野の新しい夢って?」

「この研究施設で働きたいの。全く今までの夢とは方向が違うけど・・・あの日の感動を忘れられないから。
もう一度、この世界に初めて咲く花を自分で作ってみたいの」

花のことなんか何も知らない私の無謀な夢にちょっとだけ・・・苦笑いしたように見えた。
そして、あきらはコーヒーを飲みながら目の前のバラをその指で触った。

「バラの花って美の女神ヴィーナスが流した涙から生まれたって・・・そんな神話があるんだ。昔、ヨーロッパでは
例え戦争している敵国からでもバラの花だけは取引が続いたって言うくらいみんなに愛された花なんだって・・・。
俺もお袋がバラを好きで家中がこの花で埋め尽くされて育ったからかな・・・いつか、心から愛する人が出来たら
このバラを贈ろうって決めてたんだ」

私はあきらとイギリスへ行けないと・・・そう言ったのと同然の言葉を出したのに。
あきらは驚きもせず、悲しみもせず・・・バラの話をしてくれた。
そしてそんな新しいバラの花を作りたいという私の夢を喜んでくれた。


「俺は牧野の夢を応援したい・・・1人でイギリスに行く。お前はしっかり勉強してここに入れるように頑張れよ。
でも忘れないでくれよ?その先の未来は俺と一緒にいるってこと・・・」

いつもと同じ笑顔で私の選択を許してくれた・・・背中を押してくれたあきらにただひとこと・・・

「ありがとう・・・」

そう言うことしか出来なかった。

会えない代わりに毎日電話をするよ・・・写真も動画も送るよって言うと、帰りたくなるから嫌だと言った。
あの日から出発する日まで・・・毎日あきらの側にいた。
泣いたりなんてせずにとにかく笑って過ごした。泣いたのは・・・昨日の夜だけ。


*******


あきらの乗った飛行機が見えなくなってすぐに、今度は着陸する飛行機が見えてくる。
そんな慌ただしい空港をおば様と2人でしばらく眺めていた。
そしていくつかその離発着を見た後におば様が背中を押して帰りを促した。

「つくしちゃん・・・本当にうちの研究施設に入りたいの?あきら君から聞いていたあなたの進路とは違うでしょう?
弁護士を目指してるんだって聞いたことがあるもの・・・私は嬉しいけど・・・試験は大変だと思うわよ?」

おば様の車まで向かう途中、これからのことを話していた。
私の新しい夢はあの研究施設で働くこと・・・私だけの新しい花を咲かせることだったから。

「はい・・・覚悟してます。理数系は苦手ですけど学部も変更しましたし・・・初めからやり直しみたいですけど
夢が出来たので頑張りたいと思います」

「そう?でも私は試験にはノータッチよ?自分の力で来てちょうだいね!」
「はい!もちろんですよ。必ず・・・再来年の春にはあそこへ戻りますから!」

もうさっきまで心の中に響いていた飛行機の音も聞こえなくなってその姿も見えない・・・静かな空が広がっていた。


「あきら・・・私はここで頑張るからね!あきらも・・・お仕事頑張ってね」

今日は泣かないって決めていたのに・・・一度だけ流れた涙を指で拭った。
でも、わたしはもう後ろは振り向かないって決めたから・・・


*******


<2年後>

「牧野・・・本当に1人で大丈夫?あんな田舎に引っ越す気なの?・・・本気で?」

「本気だってば!類もグズグズ言ってないで早くフランスに帰って仕事しなさいよ!ここで遊んでたらダメでしょう?」

一年前からフランスで仕事を始めた類が久しぶりに日本に帰ってきてたけど、ちょうど私は新しい家に引っ越すところだった。
部屋の片付けで忙しいのに類はただそこに座って私の気を引こうとする。


「あきらは?・・・電話とかあるの?」

「あるわよ!ちゃんと・・・まだ、もう少し帰ってくるまでに時間がかかるかもって言ってた・・・」

「向こうに彼女がいるかも・・・だよ?」

「類!そんな事言う暇があるなら手伝ってくれる?その気がないならもう帰ってね!」

結局、引っ越しの手伝いなんてなにも出来ない類は帰って行った。
たいして多くない引っ越しの荷物もあと1つで全部終わり・・・その時目に止まったのは小さなケースに入れた花・・・。
荷物の中に最後に入れるブリザードフラワー・・・あの日の「一目惚れ」のバラだ。

「いや、これはやっぱり私と一緒に連れて行こう・・・段ボールの中は可哀想だわ」

箱の中から取りだして私はそれを手の中に抱いた・・・。
あきらがくれた月夜のバラ・・・記念にあの後研究施設で加工してもらったんだ。
それを自分のカバンに入れてトラックで運ぶ荷物とは別にした。

その次の日にほとんどの荷物は引っ越し業者が持っていった。
私は取ったばかりの運転免許証で・・・初めて買った車に乗って目的地へ向かって走って行く。
助手席にはあのブリザードフラワーを置いて・・・すごく天気の良い日曜日に新しいアパートに移った。

あの研究施設のすぐ近く・・・わりと新しい綺麗なアパートにすべての荷物が降ろされた。

すべての内容を変更して2年間必死に勉強した・・・バイトも控えてただ毎日机に向かった。
その努力が報われて・・・私はこの春から希望どおりあの研究施設で働くことが決まったから!




4月・・・真新しいスーツに袖を通して初めての出勤に緊張した。

「うわ・・・働くってすごく緊張するわ・・・やっぱりバイトとは違うわね!」

施設には車で向かって、いつもあきらが止めていた場所に駐車した。
そして入社式に臨み、会社説明を聞き・・・この日のスケジュールは全部がプレゼンテーションで終わった。
常に役員席に座るおば様は時々私にウインクしている・・・あきらによく似てるから少し照れるんだけど・・・。

「それでは今からは各所属部所に移動して、そこでまた説明を聞いて下さいね」

司会者がそう言うと新入社員はそれぞれの部署に移動する・・・私は「品質管理部」・・・しかも1人だけ?
でも確か「品質管理部」って試験品種の管理を専門にする高度な技術を持つ人が所属するはず・・・
その部署に私が配属?何も出来ない新人がここで何をするんだろう・・・そんな事を考えながら部屋に向かった。

その部署がある部屋をノックしたら、出てきたのは夢子おば様・・・。

「あれ?・・・私、間違えました?ここ・・・品質管理部?」

「よく頑張ってここまできたわね!これからは一緒に頑張りましょう・・・ここの責任者は実は私なのよ?
驚かせてごめんなさいね・・・品質管理部の説明をしたいけど、その前に仕事場に行きましょうか」

「はい・・・ここじゃないんですか?」

「えぇ。ここもそうだけどメインはあそこよ?」


おば様が指を差したのは・・・あの温室だった。
あそこが品質管理部のメインの仕事場?・・・もしかしたら、これはおば様が私の希望をさりげなく叶えてくれたのかしら・・・
おば様は「内緒よっ」って小さな声で囁いた・・・。
もちろん・・・内緒にしますよ?ノータッチのおば様がちょっと仕組んだだけですよね?


そしておば様は温室の前で急に立ち止まった。
真っ直ぐ温室を見ながら、おば様は何故か急に笑い出した。
この温室に何かあるの?私にはなにも見えないけど・・・そしておば様は笑いながら私にこう言った。

「つくしちゃん・・・ここからは1人で行きなさい。・・・そして、今日はもうお仕事は終わりだから帰ってもいいわ」

「はい?まだ退社時間になってませんよ?」

「いいのよ。多分・・・退社時刻は過ぎるでしょうから!早く行きなさい・・・わかるでしょう?」

「え?・・・まさか・・・」



もしかして・・・そういう事なの?
私は胸が高鳴るのを押さえることが出来ない。身体中が熱くなっていく・・・。


温室の扉をゆっくりと・・・ゆっくりと開けてその中に入った。


bara7.jpg
明日はLastStory・・・
あきらっぽかったかな・・・
難しすぎるな・・・やっぱり。
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花より男子

2 Comments

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2017/06/28 (Wed) 12:33 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: こんにちは

えみりん様、こんにちは🎵

お優しいコメントありがとうございます❤
あきらは無理は言わない感じがあるんで、こうしてみましたが感じでてるかしら?

いや、練習だから。
あきつくに慣れるための…少しは慣れたのかな?
でも、まだ照れますけど。

なんだか書いてたらくすぐったくなります。( *´艸`)
明日も…大丈夫かな?
頑張ります🎵

2017/06/28 (Wed) 16:31 | EDIT | REPLY |   

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