Sister Complex  (31)

次の日の朝・・・花沢家の前には大勢の報道陣が取材のために押し寄せて使用人達はその対応に追われた。
父さんと母さんは前もって都内のホテルに移動してそのまま花沢の本社に出勤していた。

俺はつくしと共に家から出られない状態・・・カーテンの隙間から遠くに見える人集りにため息をついた。


「困りましたね・・・本当にこのようなことになるなんて・・・学校にも行けませんわね」

加代は朝食の支度をしながら俺たちに声をかける。
つくしは何も答えずにサラダをつつくけど口に入れようとはしなかった。

「つくし・・・昨日も貧血を起こしてるんだから・・・少しは食べないとまた倒れるよ?」

「食べたくないの。心配しなくても少し頭が痛いだけよ」

無理して笑顔を見せてるけど眼が腫れてるし・・・顔色も悪かった。
もしかしたら眠れなかったのかもしれない。俺でさえほとんど寝てはいないのだから無理もないけど・・・。
楽しい恋もしたことにないつくしに突然婚約なんていわれても受け入れられるはずがないのは当たり前だ。

「ごめんなさい・・・もう少し横になりたいから部屋に戻るね」

フォークをテーブルに戻して、何も食べずにダイニングから出て行った。
加代はその後ろ姿を心配そうに見ていた。


「類様・・・実はこんな時ですけど奥様が今度の婚約発表のドレスの採寸にと・・・本日デザイナーの方が来られるんです。
どのようにつくし様に申し上げましょうか・・・。あの様子では抵抗なさるのではございませんか?」

「もう?随分用意がいいね・・・まったく、いつからそんな事を準備してるんだろう!母さんは気が早すぎるよ。
つくしの気持ちも考えないで・・・。いいよ、わかった。俺が話してくるから・・・」

「申し訳ありません・・・本来は私の仕事ですのに・・・」

少しでも側についていたくて加代の仕事を奪ってしまったようなもの。
頭痛薬とつくしの好きなぶどうのコンポートを持って部屋に向かった。


*******


「つくし・・・ちょっといい?ドア、開けてくれる?」

つくしの部屋をノックしたら、しばらくして無表情なつくしがそのドアを開けた。
加代から許可をもらっているからっていうわけでもないけど、久しぶりにつくしの部屋で2人になる。
いつも俺の部屋につくしが来るから、俺がこの部屋に入るのはほとんどなかったから・・・。
女の子の部屋に少しドキドキしながら・・・つくしの部屋のソファーに座った。

ここではつくしが自分のベッドに座っている。いつもと反対のこの感じにつくしも俺も少し笑っていた。


「良かった・・・少しは笑顔が見れて。加代も心配してるよ?・・・昨日も言っただろ?今はこうでもこの先は
わかんないって・・・。この報道陣も相手が道明寺だから仕方ないけど、3日もしたらいなくなるよ」

「わかってるんだけど・・・いろんなことがありすぎたから疲れちゃったの。3日間か・・・いい休暇だね」

「俺も一緒にここにいるから心配しなくていいよ。嫌だろうけど今日はドレスの採寸に人が来るらしい。
まぁ、女の子の準備に俺が付き添うことも出来ないけどね。・・・そのくらいは頑張れる?」

つくしは小さく頷いた。
諦めてるのかはわからないけど・・・泣くような感じは見られなかったから、それだけ伝えて部屋を出ようとした。

「じゃあ、このくらいは食べてくれる?ぶどうのコンポート・・・つくし、好きだろ?これを食べたら早めに
頭痛薬飲んでおいて・・・ここに置いておくから」



「類・・・待って」

つくしが俺を呼び止めた。
振り向いたらベッドの上に座ったままのつくしが俺に手を伸ばしていた。
それは・・・小さい頃からつくしが俺に見せるポーズ・・・。
寂しい時や悲しいときに抱き締めてくれって強請る時の・・・両手を広げて見せるポーズだ。

「少しだけでいいの・・・もう少しだけここにいてくれないかな」

「・・・俺がつくしのそんなところに弱いの知ってるくせに。・・・甘えてるだろ?」

つくしの側まで戻るとつくしはその両手で俺に抱きついた。
俺がすることはあってもつくしからこんな事するなんて・・・俺は自分の手でつくしを包んでいいか迷った。


「ふふ・・・今、類はどうしようか悩んでるでしょ?私がこんなことするから・・・」

「え?・・・確かに悩んでるけど・・・わざとやってんの?」

「そうだよ?類を困らせてるの・・・」

つくしはそんなふうに言うけど本当は怖くてたまらないから・・・助けて欲しくて縋ってるんだろう?
総二郎からも言われたから・・・これがこんな家の子供の運命みたいなもんだって。
どうしようも出来ない事もわかっているから気持ちの持って行き場がないんだよね。

俺はつくしの細い身体を思いっきり抱き締めた。いつかの夜のように・・・

「泣きたいなら、泣いてもいいよ。俺がここで受け止めてやるから」
「泣かないよ・・・もう、泣いてもダメだってわかってるから・・・」

「無理しなくてもいいよ。誰も見てないよ?」
「泣かないってば・・・心配しなくても私はもう大丈夫だよ」

つくしは自分から身体を離した。
そして急に背伸びをして・・・俺に触れるだけのキスをした・・・。


「・・・え?どうしたの・・・いまの」


「ファーストキスは・・・好きな人が良かっただけ・・・」

つくしはそう言うと顔を反らして俺に背中を向けた。
つくしに手を伸ばそうとしたところで部屋をノックする音がして、加代が入ってきた。

「つくし様・・・ドレスの業者の方が来ましたので・・・お支度はよろしいですか?」

「えぇ!大丈夫よ・・・ここに来てもらっていいわ」


つくしはその後も俺を見ようとはしなかった。
加代は少し不思議そうな顔をしたけど、俺も何も言わずにつくしの部屋を出た。


******


廊下で部屋の中の声を聞いていた。

「まぁ、このドレスはお似合いです事!さすが花沢様の奥様・・・選ばれるものが違いますわね!」
「つくし様・・・本当にお綺麗ですわ。このデザインの方がお似合いだと加代は思いますけど?」

「任せるわ・・・私にはよくわからないから」


はしゃいでいる2人に混ざってつくしの小さい声が時々聞こえる。
嬉しくもないドレス選びをどんな気持ちでやっているんだろう。


『ファーストキスは好きな人と・・・』

つくしが知らないだけで・・・本当はもうつくしのファーストキスは奪ってしまったんだけど。
いつか、それも話せるかな・・・つくしの唇の感触がまだはっきりと残っている自分の唇に触れてみた。

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