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もう1度お爺様がこの度の事を総二郎に詫び、両親も一緒に並んで頭を下げていた。
総二郎は「その件はもう終わった事ですから」とお爺様に手を差し伸べ、2人が握手・・・これで蟠りは消えたみたい。(何となく槍のことは根に持ってるようにも見えたけど)
それでもまだ「いつ何処で話が変わったのかのぉ?」と、小さい頃から信じてきたことを覆され、お宝を眺めながら首を傾げてる。

そして結婚の事もお父さんが総二郎の言葉を信じると言い、お母さんも「玉の輿だねぇ」なんてハンカチを目に当てて泣いてる。お爺様もそれが先祖の意思ならば仕方あるまい、なんて言い方して口を尖らせた。



「それでは最後に、薄茶点前をさせていただこうと思うのですが宜しいでしょうか?」

「えっ?!でもここにはお道具はなにも・・・」
「武家茶道と言ってもお恥ずかしいぐらい道具は残っておりませんが?」

「つくしさんから(エア茶道と)聞いていたので持参致しました。季節的に炉の点前なのですが、そこは風炉でご勘弁下さいませ」

「なんだ!炉から作るのかと思ったわい!」

「・・・炉を作れといわれれば作りますが、今すぐには無理ですので明日にでも職人を手配しましょうか?ただ、大変失礼ですがこちらのお宅が工事に耐えられるでしょうか。それに炉開きすることあります?(風炉の道具すら邪魔だろうに)」

「むむっ!馬鹿にしたな?」
「馬鹿になどとんでもない。詫び寂びと言う点では問題ないお宅ですが、炉を作るより先にする事がおありのような気も致しましたので」

「・・・・・・・・・・・・」
「では準備させていただきます」


「「「・・・・・・・・・(また喧嘩が始まるのかと思った)」」」


総二郎がここで薄茶点前をすると言い、スッと立ち上がると玄関から出て行った。
その間に私は狭い部屋を出来るだけ広くし、卓袱台も片付けた。そして庭(空き地)に出て行き、総二郎に「どうしよう?」と言えば、少し見回して・・・「あれにしようか」って言ったのは寒菊。
ちょうど空き地に端っこにあったから、それを摘んで家に持ち帰った。

床の間が無いから掛物は掛けられず、花台に花器を置いて飾るだけ・・・それでもいいからって総二郎が笑ってた。


「太田さん、お待たせしてます~、もう少しだから待ってて下さいね。ホントは入ってもらいたいけど座れないから」
「あぁ、気にしなくていいですよ、車で寝てるから(その方が暖かいだろうし)」

「太田、風炉先屏風も頼む!」
「はい、畏まりました」

「総二郎、私は?」
「お前は中に入ってろ。準備は俺がするから」

「・・・はい」

まだまだ亭主のお手伝いは出来ないって事かな?
これも今から私が勉強することか・・・と総二郎の頼もしい背中を見ながら、寒菊だけを持って部屋に入った。


全部の茶道具を運び終えたら太田さんはまた車に戻り、ここからは総二郎の世界。
風炉だけど本格的なものは初めて見るお父さん達は既にカチンコチンに固まっていた。お爺様は経験があるからジッとその手先を見てる。
総二郎が茶道具を拭き清めるところも、それを置いたり持ったりするところも全部見てる。

その時だけはお爺様も茶道家だったんだなって感じる。
本当はこんなお道具で茶を点てたかったのかもしれない・・・そんな風に見えた。


総二郎の準備はいつもながら完璧。
台十能と言う熱い炭を入れた容器を特殊ケースに入れて予め車に用意していて、それを使ってすぐに火を起こした。
釜の湯が沸くまでの間はひたすら清めの作業で、その手先の美しさにお母さんもうっとり・・・そのうち「つくし、茶菓子を」と言われて、菓子盆に「雪餅」と呼ばれる白いきんとんを雪に見立てて作った和菓子を出した。

湯が沸き、帛紗捌きを終えるといよいよ薄茶点前・・・こんな荒ら家なのに、何故か凜とした空気に変わるから不思議だ。


茶碗を右手で取り左掌に乗せ、茶碗の正面をお爺様の方へ向け、回して出す。
お爺様は茶碗が出されるとにじり出て膝前にそれを引き、にじり帰って茶碗を畳の縁内に取りこみ「お点前ちょうだいします」と挨拶する。
右手で茶碗を取り上げ左手に乗せ、感謝の気持ちでおしいただき、正面を避けるために時計回りに回してからいただく。

お父さんもお母さんも一通りお稽古してるはずだけど、仕事優先で茶道なんて何年もやってなくて、今更ながらお爺様を見てポカンとしてる。
総二郎は「あまり堅苦しく思わず、気楽にどうぞ」なんてにっこり・・・3人がお茶を飲み終わったら、お爺様が「おしまいください」と最後の言葉を出した。

「お終いさせていただきます」と総二郎が挨拶・・・この後、茶筅通しをし、茶杓などを拭いたりする「中終い」を行う。その作業が全部終わったら釜の蓋を閉め、薄茶点前終了。


「いかがでしたか、お爺様」
「・・・まぁまぁじゃな」

「ははは、これは手厳しい(💢)。ではこれからも飲んでいただき、上達ぶりを見ていただかなければなりませんね」
「そっちがそう言うなら・・・付き合わんでもない」

「・・・・・・そうですか。では本日はこの茶道具一式ここに置いて帰ります。次回お会いする時には是非、お爺様のお茶で楽しむことと致しましょう」

「・・・・・・なに?!」
「あれ?自信が無いとか?」

「馬鹿を言うな!若造に負けるような儂ではない!」
「茶道は勝ち負けではございません💢!」


やれやれ、気が合うんだか合わないんだか。
でもこれで牧野家への挨拶もお宝の返却も終わり、私たちは帰ることになった。




***********************




「それじゃあ、あの小文箱のことは宜しく。私はこのまま西門に戻るから」

「つくし、本当に大丈夫なの?我慢してない?」
「何かあったら連絡するんだぞ?今度は進の居る時に戻っておいで」

「我慢なんてしてないよ?みんな楽しい人達だからワイワイやってるって!」


つくしがそんな風に両親と話してるが、我慢してるのは志乃さんや他の連中じゃないだろうか?と太田を目を合わせて笑った。そして痛そうに腰を摩りながら玄関外まで来た爺さんに近寄ると、やせ我慢して背中を伸ばし、そのくせ「いたたた!」と蹌踉めいたから慌てて手を貸した。


「大丈夫ですか?お歳のことも考えずに槍など振り回すからですよ」
「年寄扱いするでない!あのぐらいどうって事はないが、入り口が狭かったのだ!」

「はいはい・・・それにしても何処の流派ですか?今どき槍をお持ちの家なんて珍しい」
「宝蔵院流じゃよ。武家茶道家は武道も訓練せねばならんと言われてたからな」

「・・・お爺様。今はもう侍は居りませんから、静かな茶会においでくださいませ」
「判っておるわい!」


最後の最後に太田が土産という名の差し入れ(肉類・魚類・野菜類・乾物類・酒類・菓子類)を母親に手渡し、これで任務完了。
「今度は西門にご招待します」と言って牧野家を後にした。

後部座席に入れば俺もつくしも完全脱力・・・太田は「ご苦労様でした」と笑い、つくしに案内してもらって牧野家の墓がある大田区の寺に向かった。


途中生花をを買って、寺に着いたら先ず本堂のご本尊をお参りし、住職に挨拶。
その後、柄杓と手桶を借り、水を汲んで墓に向かった。

合掌礼拝をしてから墓の掃除をし、その後で花立てに水を入れ用意した花を飾る。線香に点火した後香炉に立て、その横に櫛の入った箱を置いた。
これはつくしの手じゃなくて俺から・・・西門の先祖の代わりに小梅さんに櫛を贈った。


「長いこと時が過ぎましたが、こうして巡り会った私たちが縁を結び、両家を繋いで参ります。どうか見守って下さいませ」


2人横に並んで手を合わせ、その櫛は住職に頼んでお焚きあげしてもらう事になった。


寺から出ると、車は本邸に戻らず都内のホテルに向かった。


「あ、あれ?なんで・・・」
「今日は俺の誕生日だと言ったろ?このままディナーしようぜ」

「ホテルディナー?!ホントに?でも着物・・・帯が苦しいかも」
「ホテルの中にあるドレスショップで着替えさせてやるって」

「やったぁ!!」
「・・・・・・・・・」


どっちの誕生日か判りゃしねぇ。
でも、今まで自分の誕生日を楽しもうなんて思わなかったからすげぇ進歩だ。記念日ってのも悪くねぇなと、隣ではしゃぐつくしを見ながら思った。


「はっ・・・!」
「どうした?」

「プレゼント、何も用意してなかった・・・」
「・・・・・・・・・・」




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Comments 2

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2020/12/11 (Fri) 21:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

そうそう、一応茶道家だからね(笑)
いつか家元と茶会してもらいたいねぇ♥どんな会話になるんだろ?
考ちゃんでもいいなぁ~!

とんでもない爺さんだけど可愛いでしょ?

牧野家、お宝は帰って来るわ、笠地蔵は来るわで嬉しい1日だったよね(笑)
総ちゃん、自分の誕生日なのに人にプレゼントばっかり💦


あぁ、そうそう!箱で売ってるよ(笑)
子供のお弁当の時は絶対掛けてた!
「今日は梅入り~」「今日はエビ入り~」って。

でも高いのよ!!1袋ちょこっとで298円だったかな?398円だったかな?
安いので98円とかもあるけど美味しくない。
だから娘が居なくなってから買ってない・・・明日、買おうかな(笑)

2020/12/11 (Fri) 23:53 | EDIT | REPLY |   

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