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あれから牧野は毎日元気よく西門に出勤している。
自分の意思とは関係なく無理矢理変えさせられた職場なのに明るく笑っていた。


「だってさ、前の会社よりお給料がいいのよ!それはラッキーでしょ?それにね煩い上司がいないでしょ?
一番いいのはお弁当を忘れてもご飯が出てくるっていうことよね!これはもう他では有り得ないもん!」

「お前の基準はメシか!もう少し言いようがあるだろう!働きがいがあるとか、いい男が側にいるとか!」

「いい男は何処にでもいるわよ。少しランクを下げればいいだけのことだもん!それよりもここのお昼は最高よ?
なんたって一流シェフが作ってくれてるのよ!昨日もお弁当持ってきたけど食べに行ったもん!」

それは違うだろ・・・メシはわざわざ俺がいるときは呼んでやってんだよっ!お袋が喜ぶから・・・。
毎日のようにつくしちゃんは?って聞くからもうウザいんだって!どうにかして牧野をダイニングに呼ぼうとするから
俺がわざわざ声かけてるんだよ!

そんな事も知らない牧野は今日も母屋のダイニングで楽しそうにお袋と昼飯タイム。
2人で並んでまるでこっちが親子のようだ・・・そして世間知らずのお袋に色んな話を聞かせていた。
マジで困るのが俺の昔話なんだけど・・・コレをお袋がとにかく聞きたがるんだ。

「家元夫人はご存じないかもしれませんけどね・・・大学の時はホントに大変だったんですよ?
学校にまで飲み屋のお姉さんが押しかけてくるし、そこで喧嘩が始まるし、西門さんは逃げるしでね!」

「本当に?噂では聞いたことがあるんだけど皆さん口を閉ざすから・・・そんなにひどかったの?」

「そりゃもう!それにですね・・・夜になったら両手どころじゃないんですよ?そのお店ごとですからね!
1人のお姉さんが2時間ぐらいじゃないですか?だからね、複数のお店に行くとなると・・・一晩で6人とか8人とか・・・」

「まぁぁっ!なんて事でしょ!昔の総二郎さんってそんな人だったの?」
「牧野っ!余計なこと言ってるとこの部屋には出入り禁止にするぞ!明日からはメシ抜きだ!」

黙って聞いてたらどんどんこの俺がとんでもない男になってきたから牧野に向かって怒鳴った。
でも牧野はひるむどころか嬉しそうに笑いやがった!


「いいのよ、牧野さん続けてちょうだい。他にはないの?」

「お袋もそんな昔話に喜んでるんじゃねぇよ!俺は親父に似たんだよっ!今は真面目なんだからいいじゃねぇか!」

「あれ?・・・私と再会した時にはいたよね?ついこの間、両脇に美女が2人も・・・」

「総二郎さん・・・まだそんなことしてるの?」

お袋が俺を呆れた眼で見て、牧野はやっぱり下を向いて笑っている・・・。

「いいのか?牧野・・・お前がその時にどんな目に遭ってたのかお袋にバラすぞ!」
「ああっ!そ・・・それはダメ!ごめん!もう言わないから!」

今度は牧野が面白いほど赤い顔して俺に頭を下げてるのをお袋が面白そうに眺めていた。


でもよく言うよな・・・上手くやるためにはまずは親から落とすって。
うちの場合、お袋はこの調子で親父もお袋のやることに文句ないからここは成功してんだな。

この後ももう言わないとか言ったくせに俺の悪口で2人が盛り上がる・・・反論も鬱陶しいから黙って聞いていた。
まぁ・・・全部本当の事だ!お袋には申し訳ないけどな。


*******


何かと重苦しかった西門に笑いが加わった。
牧野が来るようになってからなんとなく使用人達の笑顔が増えた、
牧野が事務をするようになってから何かとそこに立ち止まる弟子や使用人がいて笑い声がしている。
こいつのエネルギーが至る所でみんなを明るくしてしまうんだろうな・・・昔の俺たちみたいに。


「総二郎さんのお薦めでしたけどでしたけど初めは不安だったんですよ。なんと言っても伝統ある西門ですから。
後援会の方の中には煩い方もいらっしゃいますしね。少しでも態度が悪ければすぐにクレームが来ますから。
でも牧野さんは一度説明したら覚えるのも早いし、気難しい方もすぐに虜にしてしまう・・・不思議な人です」

「もともと頭のいい奴ですから覚えることは得意でしょう。ただ作法を知らないので少しずつ教えようとは
思っていますけどね。俺が言ってもなかなか素直に聞かないので、西村さんからも指導してやって下さい」

西村さんは牧野の事を随分と褒めていた。
学生の時からとにかくバイトばかりしてたから職場で上手くやるコツってものは掴んでるんだろう。
ここで働かせることで心配だったのは後援会のジジィ達よりも俺目当てのお嬢達からの攻撃なんだけど・・・。

「先日も口煩いので有名な近藤支部長に怒られていましたけど、1時間後には一緒にお茶してお菓子を
食べていましたから・・・どうやって1時間であの方を沈めたのかと噂になりましたよ」

「そうですか・・・。でも、強そうに見えて意外と弱いところもあるヤツなんですよ。
わざと明るく振る舞うときもあるしね。自分の中にストレスを溜め込むときがあるから何かあったら教えて下さい。
特に女性関係は・・・彼女たちは俺にわからないように罠を仕掛けますからね」

確かに牧野は色んな人間を引き寄せて味方につけてしまう魅力がある反面、自分の事はあまり他人には見せない。
心を許せる関係になるまでに十分な時間をかけるヤツだ。

俺に何でも相談出来るようになるまでに、ここに出入りする女性達の攻撃を受ける可能性があった。
俺の独断で牧野をここに入れて俺の事務処理担当につけているのは結構知られているからな。

だから、俺がいない時は西村さんに牧野の事を頼むしかなかった。


「でも・・・多分大丈夫でしょう。そんな時は家元夫人が牧野さんを側に置かれてますからね」

「え?・・・お袋が牧野を?」

「総二郎さんに内緒で仕事中でもお買い物などにね・・・楽しそうですよ?」

「仕事中に買い物・・・?」

西村さんが言うにはどこかのお嬢達が事務所に来て牧野を睨んでることは確かにあるらしい。
でもそれがわかるとお袋がやって来て牧野をどこかに連れて行くと・・・。
家元夫人ともあろう立場なのにケジメってもんをつけられないのか!・・・この俺が我慢してるのに!



そして一番意外だったのが毎週金曜日の茶の稽古だった。

確かに筋は悪くないんだ。しかも昔から覚えが早く、恋愛と違ってこういうことはすごく素直に吸収する。
普段は元気印の牧野が嘘のようにその所作を美しく変える・・・動きもすごく女性らしくなるのが不思議だけど。
その場の空気を読むのも速いし、何より丁寧で気持ちを込めて向き合える・・・そんな姿勢が見えた。


「お前・・・昔からそうだっけ?前は嫌そうだったような記憶があるんだけど」

「そうかしら・・・そうかもね!あ!やっぱり年をとったのよ。大人になったってことじゃない?」

稽古が終わると急に素に戻る・・・今までの女らしさなんてまたどこかへ吹っ飛んでいった。
あれだけ綺麗だった姿勢も途端に崩れて俺の前で足を投げ出してる・・・切り替えが早すぎるってもんじゃねぇ!

「違うところも大人になったらいいのにな!でも、茶はこのまま続けていこうぜ?そのうちに俺の半東ぐらい出来る
ようにしてやるよ。このほかにも着付けぐらいはしておくか。どうせ金曜日はここに泊まるんだろ?
俺の稽古が終わったら志乃さんの着付けの時間にしてやるよ」

「ちょっと!泊まるの前提で話すのやめてよ!まだ、そんな事決まってないよね?」

「でもメシと酒がつくぜ?その時はいくら食って飲んで酔っ払っても誰も困らない!・・・・・・どうだ?」


「・・・そうね。ホントだわ」


牧野は毎週金曜日、西門に泊まることになった。そしてお袋が用意した牧野の部屋は何故か母屋の俺の隣・・・。
お袋は本気だな・・・。


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Comments 4

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2017/07/31 (Mon) 02:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 初めて訪問させていただきましたm(_ _)m

みゃお様、はじめまして!そしてご訪問ありがとうございます!

あら、いけませんでしたね・・・お仕事大変そう!
そんなときにうちの総二郎君とつくしちゃんがお役に立ったのなら嬉しいです!
うちの総二郎は色気は足りませんが、そこそこおちゃらけてますのでね。
そして私の話は至って簡単なものが多いので気楽に読んでいただくと助かります。

お仕事無理をなさいませんように。

笑いが欲しいときには我が家の専務と若宗匠に会いに来て下さいませ!
少しは癒やされるかも・・・です。

今日はありがとうございました!

2017/07/31 (Mon) 07:38 | EDIT | REPLY |   
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2017/07/31 (Mon) 13:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

あはは!さとぴょん様のお好きな家元夫人でしょ?
今後もお楽しみに!

総二郎、今回はまだ他人事のようにしておりますがだんだんと・・・
変わってくるはず!そしてやはり最後には書いちゃおっかな~!アレ!
って気分でおります。

ここはね・・・恋が進まないといけないのでね!

やっと茶と華との続編に入りました!・・・やっぱりキーボードが進むわ・・・。
あの2人は楽ちんだから!待ってて下さいね!

2017/07/31 (Mon) 20:58 | EDIT | REPLY |   

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