恋と出会えるその日まで(22)
Kビルはお洒落で高級ってイメージだったから入った事もなかったけど、噂通りどのテナントも華やかだった。
そんな中を同じように(見た目だけ)華やかな花沢専務が歩くと、お客さんも店員さんも皆が注目・・・少し後ろを歩く私と藤本さんはまるで無関係な人間に思えた。
だから彼が振り向いて「藤本、どっち?」って聞こうものなら、何処かから「うそっ!」って聞こえる。
・・・私だって嘘だと思いたいけど。
「ここの7階の奥にあるんで」って藤本さんが言えば、無言で前向いてさっさと歩く。
ここでも後ろの私達を無視するから「待ってください!」って叫ぶんだけど、聞えてるのか態となのか無視。だから、痛い足で近付いて背広の後ろを引っ張ったら、予想以上に力が入って藤本さんの方に傾いた!
「・・・っと!」
「うわぁっ!!」
「きゃああぁっ、藤本さん?!」
次の瞬間には専務の長い手に突き飛ばされ、通路の植木に抱きついてる藤本さん。それに対して「何やってんの?」って、まるで仔猫拾うみたいに起こしてる。
確かに引っ張ったのは私だけど、原因が自分の行動だとは思わないのだろうか。
さっき話したばかりなのに!と思うけど本人はポカンとしてる。こりゃ改善までにかなりの時間を要するな・・・とクラッとした。
これを部下の私達にならいいけど、取引先の女性にやったらそりゃ嫌われるっつーの!
そして7階のその店に着いたら、入り口は可愛らしいレトロな木のドア。
自動ドアじゃなくて、今時珍しい自分で押して開ける扉だった。
その時、藤本さんが電話がかかったと言って何処かに行き、専務がドアを開けて中に・・・続いて入ろうとしたら彼が手を離したから、反動で戻って来たドアに思いっきりおでこをぶつけた!
「・・・ったぁ!」
「今度は顔面?あんた、かなりドジだね」
「ドジなんじゃなくて、専務がさっさと手を離すからでしょ!」
「だって俺は入ったもん。後ろに居たんだからよく見ておかないと」
「そうじゃないんですよ!後ろの人が入るまでドアをキープしなきゃ!」
「・・・俺が悪いの?」
「悪いとかって話じゃないけど、そうしてあげるのが気配りってもんですっ!」
「・・・・・・・・・・・・面倒」
「臭いとか言わない!!」
これ、婚活パーティーでもまったく同じやり取りしたよね?って睨んだら、本当に嫌そうに奥に入って行った。
この時も「どの席がいい?」なんて聞く気もない。私は窓際で、夜景が見える席が良かったのに、適当に選んだ奥の壁際に座られたからドン引き!
しかもはっきり書かれてないけど、そのまた奥の通路はどう見てもトイレ・・・そこが見える位置に私が座ることになり、ここでもデリカシーの無さを痛感した。
「専務、どうせなら1つ開いてる窓際の席に・・・」、そう言った時に私達の後から入って来たカップルがそこに座った。
・・・カップルなら仕方ないわ、あそこの方がムードあるもの。
こんな上司と部下の集まりが窓際に移動して、恋人たちをトイレの前に座らせることなんて出来ない。
そして電話が終わって入って来た藤本さんも、その席を見て唖然・・・でも専務は知らん顔でメニュー見てた。
「お待たせしました・・・と、言いたいのですが、実は実家の母が具合悪いらしく、すぐに行かなくてはなりません。ここはお2人で食事していただけますか?」
「えっ?!どうしたんですか?」
「・・・今から行くの?」
「ご心配なく、風邪を拗らせたのでしょう。では失礼致します」
「はい!お気をつけて!」
「・・・・・・・・・・・・」
***********************
母親が風邪・・・そのぐらいで今から実家がある草津温泉まで行くの?
車で3時間ぐらい掛かると思うんだけど。その見え見えな行動に溜息・・・吐いたら怒られるから、牧野に判らないように小さく静かに息を出した。
いくらここで2人きりにされても、そんなに急に変われないのに。
「大丈夫かなぁ・・・心配ですね」
「本人が風邪って言うんだから問題ないだろ」
「そうだけど、藤本さんのお母さんならもういいお歳ですよね?」
「どうだったかな・・・藤本はかなり若い時の子供だったから、母親はまだ還暦じゃなかったと思うけど」
「えっ!藤本さんのお母さん、学生の時に産んだって事ですか?」
「・・・・・・なんで?」
「だってどう見ても40超えてるでしょ?45ぐらいですか?」
「・・・ううん、36だよ」
「えっ?!!」
店中に響くような声で驚くこと?
今のひと言に厨房からも人が飛び出して来るほどで、牧野は両手を合せて「ごめんなさい!」を繰り返す・・・ホントに面白い子だなって思うけど自分の顔は多分変化無し。
真顔でメニューを見ていたら、「あれで36?!」ってまだ驚いてた。
・・・羨ましいぐらい感情爆発するんだな、この子。
「それより、あんた何食べるか決まったの?」
「あっ!いえ、まだメニューも見てないし」
「早く決めて」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう言うと今度はド真剣な顔して眉を寄せ、メニューを見てると言うより睨んでる。でも目が泳いでるし、どこ見てるかも定まってない・・・なにかブツブツ言ってるけど声が小さいから判らない。
こう言っちゃなんだけど、昼がのり弁だったからお腹空いた・・・どっちかって言うと食は細い俺だけど、流石に食べた気がしなかったし。
だから実は少しイラッとしてる・・・こんな風に空腹で機嫌が悪くなることは初めてかも?
「決まらないの?」
「あっ、あの・・・書いてあることが判りません!」
「好き嫌いは?」
「なんにもありません!食品でしたらなんでもOKです!」
「・・・・・・・・・(食品じゃないものが出るわけないじゃん)じゃあ俺が注文するから文句言うなよ」
「はい!お願いします!(私が払える範囲で!)」
面倒臭いからここはコースで。
ホール係を呼んだらメニューを見ずにシェフのお薦めコースを頼み、食前酒はFerrari Perle 、ワインはコルトン・シャルルマーニュにした。
牧野はさっぱりみたいだったからキョトンとしてるけど、「少しは飲めるんでしょ?」と言えばコクコクと頷いたから・・・まぁ、いいだろう。
前菜にはモッツアレラとオリーブのピンチョスに海老のカルピオーネ、パテ・ド・カンパーニュ。
魚介のラグディマーレ生パスタが出て来た時には目をまん丸くして、真鯛のポワレは食べ方が良く判らず・・・でも、研修してきたからなのか、辿々しくもカトラリーを駆使してなんとか食べてた。
そしてワインを飲んで「美味しい・・・!」と。
「ふぅ~~ん、良かったじゃん」
「でも、難しいですよね、食べ方!お魚は何度食べてもお皿の上が汚くなって・・・・・・あれ?専務は綺麗ですね」
「そりゃ子供の時からこのスタイルで食べてるし」
「へぇ~~~っ!でも美味しいですか?こんなにチマチマ食べて」
「味は判んない」
「・・・サイテーですね。嘘でも美味しいって言うもんですよ」
「あんたの方が酷くない?」
「はっ!このお店の事じゃないから!」
「じゃあなに?うちのシェフのこと?」
「やだっ、そういう意味でも・・・ほら、食べるならやっぱり大きな口で・・・」
「やめな、笑われるの、あんただから」
「・・・・・・///!!」
・・・あれ?食べてる時にこんなに話した事ってあったっけ。
いつも黙って食べてた気がするし、何も考えずに時間だけが過ぎてたのに。
口直しのグラニテも美味そうに食べて、でもこの頃から少し顔が・・・赤い?
この後出て来た和牛のローストの時にはワインにばかり手が伸びてない?
・・・あれ?食べてる時に目の前の人間をこんなに見たことあるっけ・・・?
ラストのドルチェの時にはもう目が・・・・・・まさかと思うけど、これって・・・・・・
「牧野・・・あんた、酔ってる?」
「あい?なんれすかぁ~?」
「・・・・・・・・・酒、飲めるって言わなかった?」
「ひゃはははは!もう飲めらい~~~!」
「・・・・・・・・・」
うそっ!!完全に酔っ払い?!

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だから彼が振り向いて「藤本、どっち?」って聞こうものなら、何処かから「うそっ!」って聞こえる。
・・・私だって嘘だと思いたいけど。
「ここの7階の奥にあるんで」って藤本さんが言えば、無言で前向いてさっさと歩く。
ここでも後ろの私達を無視するから「待ってください!」って叫ぶんだけど、聞えてるのか態となのか無視。だから、痛い足で近付いて背広の後ろを引っ張ったら、予想以上に力が入って藤本さんの方に傾いた!
「・・・っと!」
「うわぁっ!!」
「きゃああぁっ、藤本さん?!」
次の瞬間には専務の長い手に突き飛ばされ、通路の植木に抱きついてる藤本さん。それに対して「何やってんの?」って、まるで仔猫拾うみたいに起こしてる。
確かに引っ張ったのは私だけど、原因が自分の行動だとは思わないのだろうか。
さっき話したばかりなのに!と思うけど本人はポカンとしてる。こりゃ改善までにかなりの時間を要するな・・・とクラッとした。
これを部下の私達にならいいけど、取引先の女性にやったらそりゃ嫌われるっつーの!
そして7階のその店に着いたら、入り口は可愛らしいレトロな木のドア。
自動ドアじゃなくて、今時珍しい自分で押して開ける扉だった。
その時、藤本さんが電話がかかったと言って何処かに行き、専務がドアを開けて中に・・・続いて入ろうとしたら彼が手を離したから、反動で戻って来たドアに思いっきりおでこをぶつけた!
「・・・ったぁ!」
「今度は顔面?あんた、かなりドジだね」
「ドジなんじゃなくて、専務がさっさと手を離すからでしょ!」
「だって俺は入ったもん。後ろに居たんだからよく見ておかないと」
「そうじゃないんですよ!後ろの人が入るまでドアをキープしなきゃ!」
「・・・俺が悪いの?」
「悪いとかって話じゃないけど、そうしてあげるのが気配りってもんですっ!」
「・・・・・・・・・・・・面倒」
「臭いとか言わない!!」
これ、婚活パーティーでもまったく同じやり取りしたよね?って睨んだら、本当に嫌そうに奥に入って行った。
この時も「どの席がいい?」なんて聞く気もない。私は窓際で、夜景が見える席が良かったのに、適当に選んだ奥の壁際に座られたからドン引き!
しかもはっきり書かれてないけど、そのまた奥の通路はどう見てもトイレ・・・そこが見える位置に私が座ることになり、ここでもデリカシーの無さを痛感した。
「専務、どうせなら1つ開いてる窓際の席に・・・」、そう言った時に私達の後から入って来たカップルがそこに座った。
・・・カップルなら仕方ないわ、あそこの方がムードあるもの。
こんな上司と部下の集まりが窓際に移動して、恋人たちをトイレの前に座らせることなんて出来ない。
そして電話が終わって入って来た藤本さんも、その席を見て唖然・・・でも専務は知らん顔でメニュー見てた。
「お待たせしました・・・と、言いたいのですが、実は実家の母が具合悪いらしく、すぐに行かなくてはなりません。ここはお2人で食事していただけますか?」
「えっ?!どうしたんですか?」
「・・・今から行くの?」
「ご心配なく、風邪を拗らせたのでしょう。では失礼致します」
「はい!お気をつけて!」
「・・・・・・・・・・・・」
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母親が風邪・・・そのぐらいで今から実家がある草津温泉まで行くの?
車で3時間ぐらい掛かると思うんだけど。その見え見えな行動に溜息・・・吐いたら怒られるから、牧野に判らないように小さく静かに息を出した。
いくらここで2人きりにされても、そんなに急に変われないのに。
「大丈夫かなぁ・・・心配ですね」
「本人が風邪って言うんだから問題ないだろ」
「そうだけど、藤本さんのお母さんならもういいお歳ですよね?」
「どうだったかな・・・藤本はかなり若い時の子供だったから、母親はまだ還暦じゃなかったと思うけど」
「えっ!藤本さんのお母さん、学生の時に産んだって事ですか?」
「・・・・・・なんで?」
「だってどう見ても40超えてるでしょ?45ぐらいですか?」
「・・・ううん、36だよ」
「えっ?!!」
店中に響くような声で驚くこと?
今のひと言に厨房からも人が飛び出して来るほどで、牧野は両手を合せて「ごめんなさい!」を繰り返す・・・ホントに面白い子だなって思うけど自分の顔は多分変化無し。
真顔でメニューを見ていたら、「あれで36?!」ってまだ驚いてた。
・・・羨ましいぐらい感情爆発するんだな、この子。
「それより、あんた何食べるか決まったの?」
「あっ!いえ、まだメニューも見てないし」
「早く決めて」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう言うと今度はド真剣な顔して眉を寄せ、メニューを見てると言うより睨んでる。でも目が泳いでるし、どこ見てるかも定まってない・・・なにかブツブツ言ってるけど声が小さいから判らない。
こう言っちゃなんだけど、昼がのり弁だったからお腹空いた・・・どっちかって言うと食は細い俺だけど、流石に食べた気がしなかったし。
だから実は少しイラッとしてる・・・こんな風に空腹で機嫌が悪くなることは初めてかも?
「決まらないの?」
「あっ、あの・・・書いてあることが判りません!」
「好き嫌いは?」
「なんにもありません!食品でしたらなんでもOKです!」
「・・・・・・・・・(食品じゃないものが出るわけないじゃん)じゃあ俺が注文するから文句言うなよ」
「はい!お願いします!(私が払える範囲で!)」
面倒臭いからここはコースで。
ホール係を呼んだらメニューを見ずにシェフのお薦めコースを頼み、食前酒はFerrari Perle 、ワインはコルトン・シャルルマーニュにした。
牧野はさっぱりみたいだったからキョトンとしてるけど、「少しは飲めるんでしょ?」と言えばコクコクと頷いたから・・・まぁ、いいだろう。
前菜にはモッツアレラとオリーブのピンチョスに海老のカルピオーネ、パテ・ド・カンパーニュ。
魚介のラグディマーレ生パスタが出て来た時には目をまん丸くして、真鯛のポワレは食べ方が良く判らず・・・でも、研修してきたからなのか、辿々しくもカトラリーを駆使してなんとか食べてた。
そしてワインを飲んで「美味しい・・・!」と。
「ふぅ~~ん、良かったじゃん」
「でも、難しいですよね、食べ方!お魚は何度食べてもお皿の上が汚くなって・・・・・・あれ?専務は綺麗ですね」
「そりゃ子供の時からこのスタイルで食べてるし」
「へぇ~~~っ!でも美味しいですか?こんなにチマチマ食べて」
「味は判んない」
「・・・サイテーですね。嘘でも美味しいって言うもんですよ」
「あんたの方が酷くない?」
「はっ!このお店の事じゃないから!」
「じゃあなに?うちのシェフのこと?」
「やだっ、そういう意味でも・・・ほら、食べるならやっぱり大きな口で・・・」
「やめな、笑われるの、あんただから」
「・・・・・・///!!」
・・・あれ?食べてる時にこんなに話した事ってあったっけ。
いつも黙って食べてた気がするし、何も考えずに時間だけが過ぎてたのに。
口直しのグラニテも美味そうに食べて、でもこの頃から少し顔が・・・赤い?
この後出て来た和牛のローストの時にはワインにばかり手が伸びてない?
・・・あれ?食べてる時に目の前の人間をこんなに見たことあるっけ・・・?
ラストのドルチェの時にはもう目が・・・・・・まさかと思うけど、これって・・・・・・
「牧野・・・あんた、酔ってる?」
「あい?なんれすかぁ~?」
「・・・・・・・・・酒、飲めるって言わなかった?」
「ひゃはははは!もう飲めらい~~~!」
「・・・・・・・・・」
うそっ!!完全に酔っ払い?!

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