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plumeria

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ジンバランでの初めての夜は浜辺でイカン・バカールという魚介バーベキューをすることにした。
普段なら面倒くさがってそんなこと考えもしないくせに楽しそうに道具一式を揃えさせていた。

「ここでは結構みんなやるんだって。今から買い物に行かない?食材は自分で選びたいでしょ?
俺は全然わかんないけど荷物持ちなら出来るし!」

「類がそんなに進んで食事の支度をするなんて!それなら日本でもしてくれたらいいのに・・・!」

別荘のすぐ近くには大きなお店があってなんでもそこで揃いそうだった。
日本と違って広い通路・・・類と並んでカートを押しても誰にも迷惑なんてかけないくらい。
私は英語以外が読めないから類が色んな商品のラベルを読んでくれていた。
食事は自分で作ることはなかったんだけど、それでも朝のフルーツくらいは買いたくてその売り場を長いこと見ていた。

「こうしてたら夫婦に見られないかな・・・ね!どう思う?」
「何言ってんのよ!もう・・・真剣に選んでるのにっ!」

クスクス笑いながら類は私の肩に手を回して買い物の邪魔をする・・・そう言いながら私もその手を
離すことは出来ないんだけど・・・。時々自分の欲しいものをポンポンっとカートに入れては笑ってた。


「牧野、ワインも飲まない?向こうにあるみたいだから見てくるよ。俺が戻るまでこのあたりで買い物しててね。
店の外には出ないでよ。女の子の一人歩きは危ないんだから!」

「はいはい、何処にも行かないから!私は白ワインね!・・・よろしく!」


類はすぐ向こう側にあるドリンクの売り場に向かった。
その後ろ姿はやっぱり楽しそうで・・・私は苦笑いしか出なかった。

そして目の前に並んでいる名前もわからない魚と貝類・・・唯一わかるエビを選んでカートに入れていく。
当然野菜もいるからって・・・野菜に手を伸ばしたら同時に手を伸ばしてきた女性と指先をぶつけてしまった。


「あっ・・・!ごめんなさい!じゃなかった・・・sorryってあれ?・・・晴美さん?」

「あら!つくしちゃん?・・・奇遇ねぇっ!いつからジンバランにいたの?」

「私達は今日からこっちに来たんです・・・・・・晴美さんも?」

「えぇ・・・もともと私はこのあたりに来ていたのよ。・・・あら、今日は1人なの?」

何故かキョロキョロと回りを見渡している晴美さんは今日も綺麗に着飾っていた。
なんでこの人がこんなところで野菜に手を伸ばしたんだろう・・・そのドレスでこのお店ってすごく不自然なんだけど。
しかもカートも無しで?・・・お野菜1つを買いに来たの?


「彼は今、ワインを選びに行ってるんです・・・あ!戻ってきた!・・・・・・あれ?晴美さん?」

「私はお邪魔だからいいのっ!ここで会ったことは忘れてね!・・・じゃあ、またね~!」


だから、そのまたね?って言うのはなんなの?そして忘れてって言うのにまた会うわけ?
なんで外国まで来てこんなに同じ人に出会うんだろう・・・お金持ちってのは出かける先が同じなのかしら。


********


牧野は真剣な顔で野菜を見比べていた。それは日本で見るいつもの牧野と同じ・・・主婦そのものだった。
外国まで来て品定め?そんなの気にしないで早く済ませればいいのに!

「牧野、白ワインのいいのがあったよ!・・・・・・どうしたの?」

「うん。今ここでね、また晴美さんに会ったのよ。あの人もヌサドゥアからこっちに来たみたい・・・奇遇だよね!
あの人も長いリゾートしてるのかな・・・見た感じがお金持ちっぽいもん!」

「ふう・・・ん。晴美さんね・・・どんな人だった?」

「そうね、凄い美人よ。でも40歳は超えてると思うんだけどね・・・茶色の髪を長くしてて、とってもいい香りがするの。
左手にはエメラルドかしら・・・グリーンの綺麗な指輪をしてたわ。それも特大よ?」


「・・・あぁ、そう・・・次に会ったら俺にも教えて?挨拶したいから」

なんだかとんでもない事が起こらなければいいけど・・・。
牧野が言った晴美って人が出て行ったドアを睨むように見ていたら・・・やっぱり!・・・まったく何をしてるんだか!
走るように逃げる女性とスーツの男・・・もう呆れてその後ろ姿を見ていた。

「類・・・?どうかしたの・・・もしかして類の知ってる人なのかな・・・毎回彼は?って聞くんだもん」

「そうなんだ・・・俺の知り合いには晴美って人はいないよ?しかも年が離れてるしね」

そう・・・晴美なんて人は知らない。
でも、あの後ろ姿は見間違えないけどね!


「もう買い物終わった?書いてある名前が読めなかっただろ?」

「うん!だから見た目で買ってみたの!・・・どんな味がするんだろ。でもさすがね!調味料は日本のものが揃ってたわ。
さすがにそれは知らずには選べないものね・・・類は?ワインの他に何かあった?」

「ワインだけにしたよ。なに?・・・そんなに酔いたかったの?」

すぐに赤くなる牧野をからかいながら別荘までの道を買い物袋を抱えて歩いた。
俺は右手に牧野は左手にそれぞれ荷物を持つ・・・その残った二つの手は当然握られたまま・・・。


********


別荘の前の海辺で2人でバーベキューをした。
類がトングなんて持ってエビをひっくり返すなんて想像も出来なかったけど、やったことがないから失敗ばかり!
ちゃんと掴むことが出来なくて、それでも自分でやるんだって言うから任せておいたらせっかくの素材がみんな
焦げていった・・・とうとう見てられなくて類からトングを奪い取ることになった!

「はいっ!類・・・焼けたからお皿ここに置いて!」

「なんで牧野に出来て俺が出来ないわけ?・・・納得できない!」

「こんなのはどっちかが出来たらいいのよ!類が思ったより不器用だったの・・・それだけだよ!」

私にも類に勝てることがあるんだって思ったら、それがバーベキューのトング係でも嬉しいわ!
だって類がすごく悔しそうにお皿に乗せていくんだもの。
それでも並んで食べるときはもう笑顔で、お互いお皿の中をつつき合っていた。


「はい!牧野・・・あーんして?」
「えーっ!イヤよッ・・・恥ずかしいじゃん!」

「誰もいないよ?それとも・・・口でいこうか?」

箸でつかんでいたエビを私の前に差し出しながらとんでもない事を言う。
口移しってこと?そんなの無理に決まってるでしょ・・・それなら口を開けた方がまだいいような気がしたから
思わず口を開けたら大きなエビがポトンと入れられた!

「美味しい?」
「うん!とっても!・・・でも、自分で出来るから・・・」


そんな溢れるような笑顔で聞かないで・・・こっちは類についていくので精一杯なんだよ?
こんな私がこの距離に慣れるまでにどのくらいかかったと思ってんの?
本当はついて行きたいよ・・・来年一人になるなんて考えられない。あのアパートに一人で寝ちゃうなんて出来るかな。
誰にもご飯を作れないなんて寂しすぎて怖いよ・・・心の声は口から出ることもなく飲み込んでしまう。

「どうしたの?・・・笑ってるのに悲しそうに見えるんだけど」
「この夕日のせいだよ。幸せすぎたら泣けて来ることもあるのよ」

「そうなんだ・・・じゃあ俺も泣かないといけなかったかな」


一通り焼いてしまってから後は砂浜に座ってワインを片手に飲んでいた。
ここでも頭上には満天の星・・・聞こえてくるのは波の音だけ。

そして類の肩に頭を乗せて寝たふりをする。
そうでもしていないと、今心の中にある想いを全部話してしまいそうになるから・・・。



「牧野・・・もう寝たの?・・・まだ早いよ?」

類の甘い声が聞こえるけど、今はただこうして類の側で寝ていたかったの。


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