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牧野のアパートに転がり込んで一週間・・・こんな年の男が仕事もせずに何で出て行かないんだと思わないのだろうか。
どうして何も聞かずに一緒に住むことが出来るんだろう。不審に思ったことはないんだろうか・・・そんなことばかり考えてた。


この間に花沢がここをつきとめることもなく、ニュースを見ても俺の事なんて報道はされていない。
突然いなくなったんだ・・・誘拐やトラブルに巻き込まれていると考えても良さそうだけどそれよりもスキャンダルの方が
気になるんだろう。跡取りの失踪なんて会社にとっては大事件だ。水面下で動いて探し回ってるってところだろう。

一生逃げるつもりもなかったけど、一度知ってしまった心地よい場所から離れることが出来なかっただけ。
あれから一度もスマホの電源を入れることもなかった。

そして今日も牧野が帰る時間、ドアを開けて牧野を出迎えた。
今日は食材と違う荷物が彼女の両手を塞いでいた。


「類~!今日ね、会社の近くの店で買ってきたんだけどこんな服着られるかな・・・それと、ジーンズも買ってきたの。
サイズが同じだから大丈夫だと思うんだけど・・・どうかな?」

「ありがとう・・・ごめんね。俺が何にも持ってないから余計な出費させて・・・いつかちゃんと返すから」

「そんなこといいんだって!男の人の服買うのってなかなか楽しいよ。最初はどうしようって思ったけどね。
どうする?そのうちこの引き出しに入らないぐらい類の服が増えたら!アパートの引っ越しになっちゃうね!」

牧野は買ってきた服のタグを切り取りながらもっと先の話をする。
1人暮らしってそんなに寂しかったのかな・・・俺には彼女が寂しそうにこの部屋で暮らしている姿は想像出来なかった。
俺が来るまでの牧野はどんな生活だったんだろう。


「牧野は一人の時、何をしてたの?テレビをずっと見てたの?」

「一人の時?・・・何にもしなかったよ。簡単に晩ご飯済ませてお風呂に入って・・・見たいものがあればテレビ見てた。
でも一人だと笑わないの。面白くないんだもの・・・やっぱり、一緒に笑ってくれる人がいないとテレビも楽しくないんだって
気がついたの。お菓子もビールも買わなかったかなぁ・・・何してたんだろうね!考えたこともないよ」

「今は楽しそうだからさ。一人でもそうなのかと思ったんだけど違うんだ」

「今は類がいるからね。だってこんなに世間知らずな人はいないんだもん!面白すぎるよ!」

世間知らず・・・当たってるけどはっきり言われると傷ついたかも。
俺が拗ねた顔を見せても全然気が付かずに、綺麗に畳んだ服を手渡された・・・引き出しにしまうようにって。


*********


ある日、また牧野は会社から帰った格好のまま、すぐにエプロンをつけて晩ご飯の支度を始めた。
少しは休めって言ってもちっとも俺の話を聞いてくれない。あんまり言うと煩いからってキッチンから出された。
仕方がないからテレビを眺めてたら、しばらくして牧野の叫ぶような声が聞こえた。


「類ー!ちょっと手伝ってー!・・・これをテーブルに持っていってくれる?」

手渡されたのは大きな皿に山盛りに乗せられた酢飯・・・その酢のいい香りが部屋に広がった。

「これはどうするの?・・・って言うかなんて料理?」

「ふふっ!類はやったことないでしょう?お坊ちゃまみたいだからね~!これはね、手巻き寿司って言うの。
この海苔に酢飯をのせてね、好きな具を巻いて食べるんだよ?鯛のお吸い物もあるからね。
そう言えば、レンジの使い方覚えた?」

「うん。チン!ってやつでしょ?もう覚えたよ。温めを押せばいいんでしょ?時間とか設定するのかと思っただけだよ」

「そうそう!冷たいまま食べるなんてびっくりだよ!冷凍食品なら時間設定があるの。基本買わないけどね」

そう言ってる間にテーブルの上には手巻き寿司っていうものの材料が並んでいった。
細く切られた野菜や魚、エビなんかが皿に盛られてる。そして牧野特製の少しだけ焦げた卵焼きといくら。
海苔を片手に持たされたけど何をどうしていいのかがわからない。牧野は1つ見本だって言って作ってくれた。

「類は何が好きかしら・・・好きなものを入れたらいいんだけど私が買うものだから大していいものはないのよ。
嫌いなものはこの中にある?ないなら作ってあげるね!」

「うん・・・嫌いなものはあんまりない・・・」

牧野はすごく楽しそうに俺用にってエビやキュウリや・・・いろんなものを詰め込んだ手巻き寿司を作ってくれた。
見本って言ったくせに1つじゃなくて2つ、3つってどんどん作っていくから、目の前にそれが積み重なっていった。
見たら牧野は全然食べてない。俺のために種類の違うものを作るんだと言って一生懸命になってた。
今日の出来事や今まであったことなんかを話しながら、作るその手が止まらない。

だから、俺がその手を掴んで止めさせたらキョトンとした目で見てきた。

「どうしたの?・・・類、食べられなかった?それとも嫌いだったかな?」

「違うよ・・・どうして自分のは作らないの?俺にばっかり・・・牧野も食べてくれないと俺が食べられないよ」

「・・・あ!本当だね!作るのに夢中で食べるのを忘れてたわ」

ケラケラと笑う牧野に驚いた・・・こんな人は見たことがないよ。
自分の事を後回しにして、それでも楽しそうにしているなんて俺がいた世界じゃ考えられない。
その後は牧野も自分で作ったものを頬張りながらやっぱり話が止まらなかった。

俺は自分のことを話せずにいた・・ただ牧野の話に頷いて笑っているだけ。
一週間気になっていたそのことを思い切って牧野に聞いてみた。


「どうして何も聞かないの?・・・本当は俺が何処の誰で、なんであの日あの公園にいたのか知りたいでしょ?
そしてどうしてここを出て行かないのか・・・牧野は何一つ聞かないよね?・・・どうして?」

「・・・さぁ、どうしてかな。自分でもわかんないよ。でも、類は悪い人じゃないって思うからそれでいいのよ
話したくなったら話せばいいし、話さずにここを出て行っても怒らないわよ。でも・・・黙っていなくなったら嫌だな」

そう言ってやっぱり笑ってくれた。

巻き寿司を全部食べ終わって二人で片付けをする。この一週間で役割みたいなものが出来ていた。
牧野が皿を洗う間にテーブルを片付けて、洗い終わった食器を拭いて食器棚に入れていった。
食事を作ってくれる牧野には食後のコーヒーを入れてあげる・・・これが唯一出来る俺の仕事だったから。

「ねぇ、何があったのかなんて聞かないんだけどさ・・・気分転換はしたくない?海・・・行ってみない?」

「海?・・・泳ぎに?」

「ううん。バスツアーなんだけど一泊で格安のがあってね。なかなかいい旅館だったから行ってみない?」

牧野はカバンの中から旅行会社のパンフレットを取りだして俺に差しだした。
そのパンフレットの一番最後にある格安ツアーなるところにそれは記載されてた。しかも日程はもうすぐだ。

「ふーん・・・バス旅行?俺、一度もバスに乗ったことがないんだよね・・・」

「そうなの?ホントにびっくりな人だね!じゃあ、いいんじゃない?これも経験だと思ってさ!」

「牧野は行きたいの?」

「うん!私もね、一人だからなかなか遊びには行かないの。友達はみんな彼氏がいるから忙しいでしょう?
だからこんな事でも起きない限り一緒に行ってくれる人なんていなかったと思うのよ。だから一緒に行こう!」

くすっ・・・なんでもいい方にとれるんだね。
その前向きな言葉につられて・・・つい頷いてしまった。


「良かった!類の笑顔が戻るといいね!・・・楽しみっ!」


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Comments 2

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2017/08/19 (Sat) 00:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!おはようございます!

そうなんですよ~!窮屈なバスに類君を乗せるんですよ~!
普段ファーストクラスの人が耐えられるかどうか・・・。
・・・あれ?もしかして一泊に反応してます?
類君はいきなりはオオカミにはなりませんよ?(*^▽^*)

10年くらい前に格安バスツアーで熊本に行ったときに台風が来たんです。
で、予定では熊本のお祭りを見るんだったけど中止になってしまって。
でもさすが格安!中止になったときの代替案がなくて何処にも行けず、
バスの中で雷と大雨を見ながら5時間ぐらい過ごしました。
それをうちの家族は「雷ツアー」と名付けて夏休みの絵日記に書きましたよ。

今考えれば中止にしてお金返してくれれば良かったのに・・・。

2017/08/19 (Sat) 08:41 | EDIT | REPLY |   

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