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「あれ・・・牧野さんじゃないですか?」

運転手が声をかけてきた方を見たら道路の反対側の歩道を牧野が男と並んで歩いていた。
俺も知っている男・・・大野屋の息子だった。何故か男のほうが嬉しそうに牧野に話しかけてねぇか?
おとなしそうな男だと思ったけど、ああいうのが一番わかんねぇんだ!・・・絶対に牧野を狙ってんな?
しかも牧野の方も警戒心ゼロ状態じゃねぇの?・・・そんな笑顔を向けてると男は勘違いするってのに・・・。


「悪いけど向きを変えてくれ。牧野を連れて帰るから」

そう言うと運転手はすぐに向きを変えた。
そして牧野の真横まで車をつけたけど相変わらず回りを見ないこいつは全然気が付かない。
でも大野屋の息子のほうはすぐ俺の車に気がついた。そして急いで腰を低くしてく車に寄ってきた。

「これは・・・若宗匠、お久しぶりでございます。今日はそちらから来ていただきまして申し訳ございませんでした。
いま牧野さんをお送りしておりまして・・・」

「いえ・・・偶然見かけたものですから。ご主人が動けないそうですね・・・どうぞお大事にして下さい。
牧野、車に乗れ。俺ももう本邸に帰るところだから・・・それでは大野屋さん、またこちらから連絡いたしますね」

牧野は何故か不機嫌な顔で車に近づこうとしなかった。
もしかして俺が邪魔者だってのか?この男とまだ話したかったとか言わねぇよな。
朝の様子からこんなに機嫌を悪くするようなことはなかったと思うんだけど・・・俺は車を降りて横に行った。
俺が側に来たことで大野屋は驚いて俺たちを交互に見ていた。


「いいよ、西門さん・・・私バスで帰るから。なんだか西門さんを迎えに来させたみたいでイヤじゃないの!」

「俺はただ車に乗れって言っただけだろ?・・・この暑い中バスになんか乗らずにすむんだからいいだろうが!」

「・・・私の立場も考えてよね?普通の事務員が西門さんの車に業務中には乗れないのよ!」

牧野の立場?普通の事務員・・・急にそんな言葉を出したことに驚いた。
今まではそんなことを口に出さなかったのに・・・この半日で何があったんだ?
でもここで牧野を置いて帰ることは出来ない。半ば強引に牧野を車に押し込めた。

そんな俺たちをキョトンとした顔で見ている大野だけどそいつには車からもう一度軽く頭を下げて車を出した。
ああいう大人しそうな男がすぐに連絡をしてきて食事に誘い、3回目ぐらいでホテルに連れ込むんだよっ!
油断ならねぇヤツが東以外にもいるとは思ったが、こんなところで現われるとは!

そんなことを思いながら隣を見たら・・・牧野は俺と反対側に顔を向けていた。


「なんでそんなに怒ってんだよ・・・絶対車のほうが楽だろう?」

「楽だけど考え事が出来ないっ!私だっていろんなこと考えるんだから・・・一人になりたいときもあるわよ」

「お前が考えると変な方向へ行くんじゃねぇか?思った通りに動いた方が牧野らしいぜ。本当は別の理由でも
あるんじゃねぇの?俺に言えないようなこととか、知られたくないこととか・・・当たりか?」

そう言ったら今度はびっくりした眼で俺を見てる。
なんだよ・・・やっぱり変なこと考えてたな?どうせさっきの牧野の立場ってやつだろ?
普通の事務員じゃないことなんて・・・お前以外は全員知ってるよ。気がつかなかったのはお前だけだと思うが?



「これ・・・食べる?大野さんからもらったの。バスで1人で食べようと思ったの。バレるとは思わなかったわ・・・」

「は?・・・菓子?」

「うん。美味しそうって言ったらくれたの、1人分・・・いる?」

「いらねぇよっ!!」

途端に牧野は袋からガサゴソと菓子をとりだして自分の膝の上に広げ始めた。
まさかホントにそのためにバスで帰ろうとしたのか?

「こっちはね、今度のお茶会用だから帰ったら見せてあげるね!2つあるから好きな方を選んで下さいって言われたわ。
こっちが私のなの。凄く可愛いよ!・・・見るだけ見る?ほら・・・ここのグラデーション綺麗でしょ?」

「またお前が物欲しそうな顔したんだろ?マジで色気より食い気だから・・・でもあんまり油断してると
本当に食われるぞ?あんまり外では甘い顔すんなよ!」

「はい?油断って?食われるって・・・どういう意味?」

お持ち帰りって事だよっ!俺の言ってることが全然通じない・・・男ってものを理解してないからな・・・!
横を見たらもうこいつは車の中で菓子を食っててとにかく幸せそうな顔をしていた。
やっぱり牧野は外出禁止にしよう・・・帰ったら即刻西村さんに報告だな!

断言できる!こいつは絶対にいつか外で食われるタイプだ!


西門に付いたらぱたぱたと足音をさせて牧野は事務所に戻っていった。
その後ろ姿を見ていたらさっきの言葉がやっぱり気になった。

バスで一人になりたかった・・・それは本当は菓子のことなんかじゃないだろう?牧野・・・。
私の立場も考えて・・・それは俺が中途半端にお前と関わってることを言ってるんだろうな。

俺は確かに認めるよ。お前に惚れてるって・・・
でも、お前をこの西門に縛り付けることが本当にお前の為になるのか・・・それを考えるとまだ言えねぇんだ。

お前の自由時間がなくなりそうで・・・それを俺にくれとはまだ言えねぇよ。
元気印のお前が窮屈な西門でその笑顔を失ったらと思うと・・・まぁ、俺次第なのはわかってるけどな。


*******


「総二郎・・・少しいいか?」

家元が夜に俺の自室に来た。こんな事は滅多にないから驚いた・・・同時に嫌な予感がした。

「なに?・・・どうしたんだよ。そんな真面目な顔して・・・事件でも起きたのかよ?」

「茶化すな!・・・わかっているだろう。お前の京都行きだ。もうすぐ結論が出る」


やっぱりそれか・・・。

この西門の元々の本家は京都にある・・・今そこには家元の兄弟がまとめているが大病を患い仕事は出来ない
状態が続いていた。その家の長男・・・俺のいとこの元哉が今ひとつ頼りなくて京都のほうが上手くいってなかった。
そこで出たのが俺の京都移動・・・俺の拠点を京都に移すって話だった。
仮にも次期家元という立場にいる俺が京都にいればやかましい支部の連中も少しはおとなしくなるかもしれない。
叔父さんが戻るまでの間、宗家に対して余計な口を挟ませないように・・・間違っても分裂なんかが起きないように
しなくてはならなかった。

ただ何かと関東を敵視する傾向のある関西支部だ。
京都と大阪中心の関西支部連がこの件については賛否両論でいまだ結論は出ていなかった。


「で?どっちになりそう?」

「今のところ・・・しばらく京都だろうな。大阪が納得すればな・・・」

「そうか・・・しばらくね」


牧野には言えなかったこの話・・・不確かなことだったから口にはしなかったけどどうやら俺の希望とは
違う方向に進んでいるようだ。本決まりになればすぐにでも話さないといけねぇかな・・・。


今日の車の中で上手そうに菓子を食う牧野をあんなに叱るんじゃなかった。
なぜかこんな時でも牧野の嬉しそうな顔しか浮かばなかった。


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Comments 2

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2017/08/10 (Thu) 17:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

そう言えばそうですよね!この人外で食いたい放題!
なんて素晴らしいお言葉!

時々さとぴょん様の言葉をメモろうかと思いますよ!
自分の事は棚に上げてねぇ!独占欲の塊になっている総ちゃんです。

で、そうなのです。この2人は離ればなれになるんですよ~!
早くしないとモノに出来ないよ~!!って感じです。

なかなか前に進まないじれったい2人を応援してあげてください!

2017/08/10 (Thu) 20:25 | EDIT | REPLY |   

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