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花嫁修業・・・その言葉を聞いた牧野は驚きすぎて持っていた反物を下に落とした。
慌ててそれを拾って東屋の息子に返していたけど、もうその動きがギクシャクして怪しくなっていた。

もちろん俺はド真面目だけどこんな言葉を呉服屋でいうのはおかしくねぇか?やっぱり場所は大事だろうと・・・。
つい言葉には出したけどここはいったん誤魔化しておこうと、その後の言葉は出さなかった。
京都に行くまでには俺の気持ちは伝えたいと思って計画していることがあったから・・・。


「ばーか!なに本気にしてんだよ!ちょっと言っただけで顔を赤くしてんじゃねぇよ。その話はまた今度な!
ここが終わったら次は小筆、見に行きたいから付き合えよ。その後は花器を見に行く予定だからな」

「また今度?・・・あっ!またからかったのね?・・・びっくりしたじゃないの!」

「本気にとるならそれでもいいぜ?また今度って・・・そういう意味だろ?」

東屋の息子が呆れたような顔で俺たちを見る中、牧野はまた俺の背中を思いっきり殴っていた。
この俺に拳をあげる女なんて見たこともないだろうから、東屋の息子は大きく溜息をついていた。


この男が牧野に興味を思ってるのは知ってんだ。
だからと言うわけじゃねぇが、いきなり牧野に何か言い出さないようにわざと見せつけたってことは認めるけどな。
わざわざ女に振られる機会を持たせないようにって俺の親切心・・・この男がそうとってくれればいいけど。

牧野はもうさっきのことなんて忘れたかのようにこの店を出て先に車に向かう。

そして俺が店先の暖簾をくぐろうとしたときに不意に息子は俺に声をかけてきた。


「総二郎様・・・牧野さんとは真剣にお付き合いをされているんでしょうか?」

「どうして?・・・あんたに答える必要があるのか?」

「・・・いえ、そうではないのですが、牧野さんは西門家とは・・・」

西門家とは・・・?この男にまで牧野の出自を言われる筋合いはねぇな!
この後の言葉は容易に想像できたから俺はコイツを睨み付けた。

「牧野のことであんたと話すことはなにもないな。1つだけ言っといてやるけど俺の相手は俺が決めるんだよ!
家でも西門でもねぇ!・・・今まではどうだか知らねぇが、この俺は違う選び方させてもらうつもりだ・・・。
間違ってもこの俺を怒らせるようなことすんなよ?・・・そんときゃ容赦しねぇからな!」

牧野が落とした反物をいつまでも握り締めやがって・・・
この男が今どんな顔をしてようがそれを見ることもせずにさっさと店を出て牧野が待っている車に戻った。


「随分遅かったのね?何かまだ話があったの?」
「なんもねぇよ・・・あの男がブツブツ独り言を言ってただけだ」

*******

この後も牧野を連れて自分用に道具を揃えようと何軒かの店を回った。
普通は行かないような専門店だから牧野は何処に行っても珍しそうに店内を見回していた。
そして俺はさりげなく牧野を店主に紹介していた。特別な言葉は使わないんだけどちょっとだけ匂わせておいた。
この行動がどんな意味を持ってるのか牧野は全然気が付かないんだろうけど。

そして全部の用件が終わって自宅に戻ろうとしたときに車の中で牧野がボソッと聞いてきた。


「京都って・・・いつ頃なの?10月って・・・やっぱりまだ決まってないの?」

「あぁ・・・まだ決まってねぇよ。わかったら早めに教えてもらうようにはしてるけど、こっちでの仕事の予定もあるからな。
一通り片付けて、俺の抜けた仕事をまた誰かに組み直さなきゃいけねぇし・・・スケジュール調整は西村さんがするはずだ」

「そうなの・・・なんだか信じられない。西門さんがあの家にいないなんて・・・」

「淋しくなるから今から困ってんだろ?金曜日の飲み会・・・俺がいないとつまんないだろうからな!」


そんなんじゃないって怒ってるけど、お前にはわかんないだろうな。
本当は連れて行きたいのは俺の方で、まだ連れて行けないことに一番悔しいのも俺だって。



「なぁ、今度の土曜日、空いてるよな。・・・海に行かないか?」

「海?・・・西門さんが泳ぐの?」

「泳がねぇよ!俺は仕事柄日焼けできないんだから・・・久しぶりに行ってみたいだけ。夏の思い出ってヤツで行こうぜ!
金曜日はうちに泊まってるから朝が楽だろ?早めに出ないと暑いしな」

海と聞いたら急に牧野の顔は嬉しそうに輝いた・・・やっぱりこの年になっても中身は子供。
まさかと思うが浮き輪を持っての海水浴と思ってるんじゃねぇだろうな?今回はちょっと違うんだけど。
せっかくだから寸前まで黙っといてやろう・・・牧野のびっくりする顔が楽しみだった。

「お弁当作ってもいい?お台所貸してもらえるかな・・・こんなのしたことないし、せっかくだからさ」

「前日に料理長に言っとけばいいんじゃねぇか?俺はどっちでもいいけどお前が大変なんじゃねぇの?
作りたいんなら牧野に任せるよ」

「お弁当作るのは好きなのよ!じゃあ、頑張ろうかな!次の土曜日ね・・・楽しみだな!」

さっきまでの気まずさが嘘のよう・・・もう牧野はその話に夢中になっていた。


********


その週の金曜日、いつものように牧野に稽古をつけてその後は恒例の宴会が始まった。
俺の京都行きが決まってからこの宴会には色んな奴が参加してきて規模がデカくなっていたから用意する酒や料理も
とんでもない量になっていた。牧野はそのせいで食ったり飲んだりよりは世話を焼くのに大変だった。

荒れ放題と状態になった宴会場を夜遅くまで弟子達と片付けている。
それでもみんなと楽しそうに、皿やビンを抱えながら身体を動かしていた。


「牧野、お疲れさん!俺の所で一杯だけ飲めよ。ワイン用意してるからそこが終わったら来い」

そう声をかけたら軽く頷いて小走りで調理場の方へ向かって行った。

牧野が来たのはそれからすぐ、全然飲めなかったからなのか嬉しそうに俺が出したワインを飲んでいた。
少しだけよけていたつまみを頬張りながら明日の話をした。

「ねぇ、何処の海に行くの?遠いの?・・・日焼け止めとか用意した方がいいよね?泳がなくってもさ・・・日差しが強いし」

「場所は秘密!お前はついてくればいいんだよ。特に何もいらねぇけどよく寝とけよ?体力がないと困るから」

その一言に不思議な顔をしていた。そうだろうな・・・泳がないのに体力がいるなんて言われたら悩むだろうな。
それ以上説明しない俺に質問を諦めて、今日の宴会の裏話が始まった。
一杯で終わるはずのワインも2杯目・・・あんまり飲むと明日が大変だからこれで終わりだというと本気で拗ねていた。


「朝は早いからな。7時前にはここを出るから支度済ませとけよ?」

「うん!じゃあ、6時前に起きてお弁当作らないとね!さっきもう料理長さんにおかずになるものもらったの。
詰めたらいいだけにしてるからあんまり時間がかからないと思う」

「ホントに作るのか?・・・俺は別にいいんだぜ?知ってる店もあるし・・・」

「私が作りたいって言ったでしょ?・・・作らせてよ。夏の思い出に・・・」


最後の一口を飲み終えたら少し悲しそうな笑顔で部屋を出て行った。


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Comments 4

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2017/08/14 (Mon) 16:57 | EDIT | REPLY |   
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2017/08/14 (Mon) 20:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

あら?お怪我は大丈夫ですか?大変ですねぇ・・・うちの子もリハビリ中ですからわかります。
子供の怪我は親もストレスたまりますもんね。

娘は1人暮らしだからやりたいだけですよ。
何にもしてやっていません。家にいるときは衣装を作っても喜びもしなかったです。
一人になったから少しはわかったんでしょうね。

さとぴょん様もそのうち色々と手伝ってもらえますよ。
楽しみにしておきましょう!


で、そうなんです!ちょっと走ってもらいますがここでは・・・ないんです。
それは後日のお楽しみ~!でもなんとか甘くしたいですね!頑張ります!

2017/08/14 (Mon) 21:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

瑞穂さま、お久しぶりです~!

お忙しかったんですね~!
いいんですよ、ここにはお暇なときで!
コメントいただいて嬉しく思いなす。忘れずに来ていただいたこと・・・ありがとうございます!
相変わらず上達してなくて申し訳ないっ!でも何となく続けています。

空いた時間にのんびりと読んでいただけたら嬉しいです。

お身体には気をつけて下さいね!
私もそのうちのんびり更新になるとは思いますが楽しんでいきたいと思います!

今日はほんとうにありがとうございました!

2017/08/14 (Mon) 22:05 | EDIT | REPLY |   

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