FC2ブログ

plumeria

plumeria

「大好き・・・西門さん」

その言葉は今までどんな女から囁かれた怪しげな告白の言葉よりもスッと俺の中に入ってきた。
きつい香水を振りまいて俺に抱きつく女は何人もいたけど、こんな太陽の下で微かな汗の匂いだけで俺を堕としたのは
お前だけだな・・・まさか、この俺がこんな寂れた場所でこの言葉を囁くことになるとは思わなかったな・・・。


「待たせたな・・・・・・愛してるよ。牧野」

背伸びをしてきたこいつをもう一度抱き締めた時・・・遠くでツクツクボウシの鳴き声がした。
夏の終わりが近づいていた。


*******


明日は日曜で牧野は休みだったが、俺は午後から仕事で人と会うことになっていたからもう帰ろうということになった。
さっきの灯台で思いの外大胆な行動に出た牧野はそれが恥ずかしかったのか俺を見ようとはしなかった。
手を繋ごうと伸ばせば逃げるし、顔を見ようとしたら反対を向く・・・2人しかいないのにそこまで照れることもないだろうに。
それがおかしくて・・・わざとからかって触ってみたり近づいてみると本気で殴りかかってきた。

「もうっ!・・・人が今どんな気持ちかわかってるくせに!意地悪すぎるよ!西門さんっ!」

「ははっ!悪かったって!・・・お前があんまり態度を変えるからおかしいんだって!普通に出来ないのかよ。
それに呼び方、変えないか?いつまでも西門さんってのもおかしいだろ」

「・・・えっ?ダメなの?」

ダメとは言わないが・・・それだといつまでたってもその先に進めそうにないけど?
あんな時に名字で呼ばれても雰囲気でないだろう?・・・って言ったら絶対にまた殴りかかってくるんだろうな。
いや、牧野にはまだ無理かもしれないけど俺はそんなに時間をかける気はないからな。

「恋人でさん付けの呼び方するヤツいるのかよ・・・だからっていくらお前でも西門!って呼び捨ては許せねぇからな。
やっぱりここは名前だろうな!ほら・・・1回言えば慣れるぞ?」

「1回で慣れるわけないじゃん!・・・そのうちでいいでしょ?言い慣れてないから急には言えないよ!」
「・・・バイクに乗せねぇぞ?言うまで動かねぇからな!」

牧野のヘルメットを取り上げて俺の名前を呼ぶように強要したら、困った顔で立ち尽くした。
我ながらガキみたいなことしてるとは思うが京都に行くまでに少しでも距離を縮めたかったっていうのが本音だ。
ニヤって笑うと諦めたのか牧野は俺の顔を見ずに、反対を向いて一言俺の名前を口にした。


「わかったわよ・・・総二郎」
「は?そこは呼び捨てか?・・・まぁ、いいや。2人の時はそれでいこうぜ。特別に許してやるよ!」

牧野にヘルメットを渡してまたライダースジャケットを着させた。
告白したときはド真剣だったのに呼び方を変えるときの方がそんなに恥ずかしいものなんだ!
牧野は一度俺をそう呼んだだけであとは無言で帰り支度をしていた。耳まで赤くしてるのが何とも言えず可愛らしかった。

「帰りも飛ばすぞ。帰りの方が疲れているから絶対に後ろで寝るなよ!辛くなったら背中を叩いて合図しろ。
いつでも止めてやるから。いきなり恋人を失うような悲劇はお断りだからな」

「うん・・・多分大丈夫だと思う」


牧野が後ろに跨がって俺のジャケットを掴んだ。
バイクのエンジンをかけて今朝来た道を戻っていく・・・牧野は朝よりは手慣れた感じで俺の背中に身体を寄せてきた。
時々牧野の手を掴んで俺を離さないようにと伝えるとちゃんとその手には反応があって俺を抱くように力を強めた。
なんだか朝よりももっと大切な荷物を積んでいるような気がして・・・自然とハンドルを握る手に神経が集中する。


どのくらい走っただろう・・・牧野の反応が鈍くなってるような気がする。

まさかと思うがこの状況で寝てないだろうな?
だんだん力がなくなっていく牧野の手を思いっきり引き寄せたが恐ろしいことに無反応だった・・・!

もう少し走れば一軒の和食レストランがある。そこはうちの料理長の実家で休憩をとるために予約していた店だった。
なんとか牧野の手を掴んで危険きわまりないが片手走行でハーレーを飛ばしていた。
朝とは違ってカーブが恐ろしい・・・俺のハーレーが低速でカーブを抜けるなんてとんでもない屈辱だ!
冗談じゃねぇぞ!さっき言葉で伝えたばかりなのにホントにこのまま走ってたら事故ってトップニュースだ!

なんとかその店に着いたとき・・・マジで俺は疲労困憊だった。


駐車場にハーレーを駐めたら牧野はハッとしてヘルメットごと頭を上げて周りを確認していた。
ある意味でもの凄い神経してるな・・・ハーレーの後ろで爆睡できるのはこいつだけじゃねぇのか?
バイクから降りてヘルメットを外したら、涙目の牧野があくびをしていた・・・。

「お前!今朝から何回も言ってるだろう!落ちたら確実に死ぬんだぞ!合図しろって言ったのにする前に爆睡すんなっ!
マジで焦るだろう・・・お前の手が外れたときの俺の気持ちがわかんのか?」

「ご・・・ごめん!緊張しすぎて疲れたのよ!あんまりにも背中が気持ちよかったもんだから・・・」

「・・・適当に上手いこと言いやがって!ほら、ここで休憩しようぜ。腹減っただろ?」


俺の背中に安心したとかさらっといいやがって・・・口が緩むのを見られないように手で隠しながら店内へと入った。


********


西門さんに大声で叱られた。
自分でも驚いたけど、まさか本当にあの状態で寝てしまうとは・・・寝てた本人よりも運転してた彼は怖かったと思うわ・・・。
だって朝からの緊張で疲れたんだもの。僅かに残ってた体力もあの灯台で全部消耗してしまったから。
お店に向かう西門さんの後ろ姿・・・あの背中で寝たんだと思うとまた顔が熱くなった。


「いらっしゃいませ!総二郎様、お久しぶりですね。お待ちしておりましたよ。さぁ、奥へどうぞ!」

「大将、久しぶりですね。今日はお任せしますからよろしく・・・バイクなんで酒は結構ですから」

「バイク?珍しいですねぇ、しかもお嬢様連れで・・・もしかして特別な方ですか?」

「はい。まぁ、そんなところです。うちで俺の仕事を手伝ってくれている牧野と言います。今日もこちらの良介さんと朝早くから
弁当を作ってくれて湘南の方まで走ってきたんですよ」

このお店は西門の料理長の実家らしくて西門さんは「大将」と呼んでいた人と面識がある様子だった。
もう予約してあったみたいで入ってすぐに奥の部屋に通された。

そこにはもうすでに色々と準備されていて、向かい合わせで座ってその料理を眺めていた。
すごく綺麗に飾り付けてあって食べるのがもったいないくらい・・・なんだか見ていたらお腹が鳴ってしまった!
それをしっかりと聞かれていてクスクスと笑われたけど、本当にお昼のお弁当、あんまり食べられなかったんだもの。
私のお弁当をこの人が本当に食べられるのか心配だったから・・・西門さんが食べるのを見ているだけでお腹がいっぱいになって
自分はほとんど手をつけなかった。

「そこまで笑わないでよ!お腹すいてたんだもん。でも綺麗なお料理だよね。ここは料理長のご実家なんでしょう?
やっぱり飾り付け方が似てない?この前菜、西門でも見たことがあるような気がする。親子だねっ!」

「俺はここにどんなものが並んでも今日の昼飯の方が美味かったけどな・・・」

「・・・は?」

お酒が飲めない西門さんはウーロン茶を飲みながら小さい声でそう言った。
そんなものなのかな・・・高級食材で作られたご馳走を前に今日のお昼のおかずを思い出したら・・・おにぎりと芋餅だよ?
いや、敵うはずはないのに・・・それでもお昼のおかずが美味しかったって、最後までお弁当の話をしていた。

「今度、また作ってくれよ。弁当じゃなくて普通にさ。朝起きたらお前のメシっていいよな!」
「朝起きたら?・・・早朝出勤するの?」

「・・・やっぱり鈍感だな」
「へ?なんで鈍感なのよっ!」

この意味を知ったときは恥ずかしくて驚いたけど。

ここでは西門さんがあんまり食べられなくて、私の方がほとんど2人分を食べてしまった。
私の前に並ぶ食器の数の多さに2人で大笑いした。

この後、大将にお礼を言って店を出た。もう外はすっかり暗くなっていて西の空が赤紫に変わっていた。


「目が覚めただろ?もう家までは止まらないからしっかり掴まっとけよ!」


「うん!もう大丈夫!・・・総二郎のこと離さないからね!」

ヘルメットの中の西門さんは今どんな顔をしているのか・・・それはわかんなかった。


ha-re3.jpg
関連記事

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 12:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは

えみりん様、こんにちは。

大丈夫ではなかろうかと・・・このバイク後ろ爆睡は私のことですから。
遠い昔にやりましたが今も生きてます。怖かったってのは覚えていますが運転手は気がついてないと思います。
ふわって後ろに身体が持って行かれたんですよ。
「あれ?今寝てた?」って思ったの覚えてます。
意外と寝るんですよ・・・あんな状況なのに。人間って怖いですね。

楽しかったバイクが終わってしまった~!

書きにくいくせに好きだったなぁ。このシーン・・・。
さて、もう少し頑張ろうかな!総二郎・・・いや、西門!

最近ちょっと夜が涼しくなって寝やすくなりました。
本格的につくつくぼうしが鳴いてるし。秋が近づきましたねぇ。
そして始まる夏ばての季節・・・私は1年で9月が一番調子悪いです。
気をつけようっと!

今日もありがとうございました!

2017/08/19 (Sat) 14:16 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 15:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

そうそう!実話は時には役に立つんですよ。なんとか生きてるもんです!
スローなハーレーですか?若宗匠ですね?原付に抜かされたハーレーですね。
いや、もうバイクシーンが終わったんでこのお話が終わったぐらいの感覚です。
明日からやる気が出るんだかどうだか・・・。(*^▽^*)

え?お初?・・・またですか?
今んとこ予定ないけど入れますか?・・・ないといけないのかー・・・。

ちょっと変えないと面白くないしなー・・・(真剣)
さとぴょん様の頼みかぁ。笑!なんとかしなくては!

2017/08/19 (Sat) 21:04 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply