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そして9月の終わりに近い金曜日・・・京都に行く前、最後の稽古になった。

その日、牧野は俺が作った着物を着て稽古に臨んだ。
今までよりも時間をかけて丁寧にじっくりと細かいところまで教えていった。
牧野も同じく俺の姿をジッと見ながらその指先まで・・・総てを吸収しようと必死だった。

張り詰めた空気の中で時間が静かに過ぎていく・・・まるでこの茶室だけが現世から切り離されたように感じた。
湯を注ぐ音、茶筅が泳ぐような音・・・そして衣擦れの音だけが聞こえる。
そのくらい濃く深い時間だったと思う。終わったときには二人とも深い溜息をついた。

「これからも時間のあるときは家元夫人に稽古をつけてもらうようにしているから必ず続けるように。
新しく華道や習字の稽古も入るからそのつもりで準備しとけよ」

「はい、わかりました」

今日の牧野は全く涙を見せることはなかった。どちらかというと凜としていて落ち着いているように見えた。


「それとお前の事務所の机はもう10月からはないからな。西村さんが新しい事務員探してきたから間違うなよ」
「えっ?!それは困るわよ!生活できなくなるじゃないの!」

・・・急に素に戻りやがったな!今までいい感じで話してたのに。横目で睨んだら牧野は泣きそうな目付きで抗議している。
せっかく女っぽく座っていたのに今にも掴みかかりそうな勢いで身を乗り出した!

「だから、出勤しなくてもいいようにすりゃいいんだろ?!」

「何言ってんのよ!また私から職場を取り上げるつもりなの?何回やったら気が済むの?!」

「馬鹿か!マジで鈍感だな!・・・とっととアパート引き払ってここに住め!幸い部屋はあるんだから問題ないだろう!
アパートの中の最低限必要なものだけ持って来いって言ってるんだよ!」

「・・・は?」

あと少しで俺の着物に手をかけるのかと思うぐらい攻め寄ってきた牧野はそこで止まった。


「俺を送り出すことが事務所では最後の仕事だ。新しい仕事はもっと重要で厳しいぞ。なんたってこの家を仕切ってる
お袋の仕事を覚えることだからな。家元から許可もらってる・・・だから、引っ越してこいって事だ」

「西門さんがいないのに私がここに住むの?」

「そう、俺の代わりに両親を見といてくれ。一緒にメシ食って、話を聞いてやってくれ。お前にしか頼めないだろう?
俺が帰るまでここを守っといてくれ。余計なことは考えなくていいから、この家で俺を待っててくれよ」

最後の稽古が終わるときもやっぱり牧野は俺の腕の中にいた。
こうしてここでまた、こいつに稽古がつけられるのはいつになるのかわからない。
でも牧野が笑って過ごせる場所がうちであるようにと願わずにはいられなかった。


「これからはつくしって呼ぶからな。もうすぐ牧野じゃなくなるって・・・準備期間だから」


********


その日の夜は西門さんが京都に行くからって結構な人数での宴会になった。
こっちの後援会の大御所が向こうでも頑張ってこいと口々に言う中で私は黙っておば様の横にいた。
おば様も今日は口数が少ない・・・二人で目の前の料理を少しいただくだけでお酒もほとんど飲まなかった。
お互いに目を合わせては軽く笑うだけ・・・その気持ちが同じだからかな。

そしてどこかの支部長さんがふざけながら大声で西門さんに話しかけた。

「京都に行って妙な芸子に言い寄られないようにして下さいよ?総二郎さんは昔、よく京都に行かれてたけど向こうに女性が
いるなんて噂もあったでしょう?もうそろそろ遊んでないで本気で西門の事も考えてもらわんとねぇ!」

「森本さん、随分お酒が入ってますね。俺はもうそんな遊びなんてしてないですよ?それに京都には修行のために行ってただけで
女なんかいませんでしたって!ちょっと御茶屋に行っただけで変な噂が流れたんですよ」

「そうでしたっけ?総二郎さんの奪い合いが芸子同士であったとか・・・これだけの色男だから無理はないがねぇ!」

その内容にぴくっと反応してしまった私・・・。
チラッと見たら慌てて手を横に振る西門さんが見えるけど、その笑ってる顔にはなんの説得力もなかった!
どのくらい前か知らないけど手を出す範囲が京都にまで伸びていたとは・・・!
思いっきり横目で睨んだらさっさと向きを変えて他の人と会話を始めた。まぁ、今に始まったことじゃないからいいんだけど。


「つくしちゃん・・・大丈夫よ。心配しなくてもそこまで長くはならないわよ。京都の弟もそんなに長い入院じゃないと思うわよ?
総二郎さんが行くことで向こうの息子さんにもいい刺激になってやる気になってくれたらいいんだけどね」

「はい・・・すみません。ご心配かけて」

「いいのよ。娘みたいなもんだから・・・総二郎さんがいない間は私のお手伝いをしてね。こう見えても色々とやるとこは多いのよ。
頼りにしてるわ。婦人会はちょっと厄介な方もいるんだけどつくしちゃんなら大丈夫だと思うわ」

おば様はそう言うと私にお料理を取ってくれてそっと目の前に置く・・・でもその表情はなんだか悲しそう。
だから私もビールをついであげた。おば様は珍しくそれを一気に飲んでいた。
私よりは強いから心配はないんだけど、気持ちが沈んでるから悪酔いしないか心配だった。

「あんな年の息子が少し家を出るからってここまで寂しがる母親なんて鬱陶しいでしょうね。でも、逆に言えばこの年まで
本当の親子になれなかったのよ。お互いに遠慮して会話も避けて、相談事も内緒話もしたことないの。
初めてつくしちゃんの話しをしたときの総二郎さん・・・楽しそうに見えたわ。やっと、私の子供に戻ったと思ったの。
仕事の上司じゃなくて、母親に戻れたって思ったのよ。なのに、しばらく離れるなんて・・・」

お昼のお稽古の時に言ってたのはこの事なのね。
おば様の話を聞いてやってくれって・・・西門さんはちゃんと今までも親のことを見ていたんだと思う。
だから自分がいなくなったあとにおば様がどうなるかなんて想像つくから私に引っ越してこいなんて言ったのね。

でも、やっぱり気になるのは後援会の・・・特にお嬢様達の攻撃だった。

「私・・・大丈夫でしょうか。西門さんに無理をさせる結果になりませんか?」

「家柄のこと?・・・それならあなたの後ろ盾には私の実家、西條家がつくから大丈夫よ。了解はもらってるから心配しないで?
つくしちゃんは西門の作法とお茶のお稽古を頑張ればいいの・・・後はもう慣れかしら!」

おば様のご実家が?・・・いつの間にそんな話が出来上がっていたんだろう。
チラッと西門さんを見たら西村さん達とふざけあってる。お酒も進んでるみたいだし今日は向こうの方が楽しそう・・・
いつもは私の方が騒いでいるのに・・・。

しばらくそんな彼を見ていたら急におば様が甘えたような声で話しかけてきた。

「ありがとう・・・つくしちゃん。総二郎さんを変えてくれて。とっても感謝してるの」

「え?・・・私は何もしていませんよ?」

おば様は多分酔っ払ってるんだろう。目を真っ赤にしてテーブルに頬杖をついてる姿を初めて見た。
いつも背筋を伸ばしてしゃんとしているのに。

「いいえ、多分あなたと再会してからなのよ。あの子、いつもなんのためにこの仕事をしているのかわからないって顔してたけど、
あれから少し変わったわ。お茶は好きだったと思うけどそうじゃなくて・・・守りたいものがもう一つ欲しかったんだと思うの。
それがきっと・・・つくしちゃんだったのよ。意外と気がつくのが遅いから可笑しかったわ・・・」

男性達が盛り上がっている中で、おば様に肩を支えられて泣いていた。


「あらあら・・・泣き虫さんは西門にはいらないわよ?総二郎さんのそばにいるんならいつも笑っていてね」

そういうおば様だって泣いてるのにね。


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Comments 4

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2017/08/22 (Tue) 14:58 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは🎵

とうとうお別れですわ。
いやぁ、バイクシーンで使い果たしたからなぁ。このお話のラブシーンは…って言ったら怒ります?
やっぱり…お別れ前には必要ですよね?

お待たせしました!明後日だから‼️(笑)

待っててなくてもいいけど(笑)
今、頑張ってますから!

あははは!どーしよー‼️(笑)

2017/08/22 (Tue) 17:05 | EDIT | REPLY |   
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2017/08/22 (Tue) 22:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、二度びっくり!

1ストーリーに・・・あ、そういうものですか?
先輩方もそうおっしゃっておりましたねぇ。そう言えば。
勢いで行けと!・・・その勢いがどこから出てくるのかがわかんないっ!
えぇ、何日もかけるのも恥ずかしいんですけどね。
何回も読み返すから・・・変態じゃないか?ってたまに思います。

そして時々有り得ないポーズを取っていることに気がつくんです。
軟体動物か?みたいな・・・修正ばっかり!

まぁ、期待薄でお願いします。いつものごとく・・・

2017/08/22 (Tue) 23:32 | EDIT | REPLY |   

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