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plumeria

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今年の夏もうちの女性陣は夏の避暑地巡りの計画を立てるのに忙しそうだった。
毎年必ず外国を含め国内でも数カ所、家族で行くことが勝手に決めつけられていてその度に俺の予定は
狂わされるんだが、そこで断ろうものなら双子の攻撃がもの凄い・・・だからつい言うことを聞いてしまうんだ。

もちろん妹が可愛いのもあるが、いつまでこうして家族で過ごせるのかもわかんないだろう?
そのうち双子が恋をして俺よりも恋人を優先するようになるだろうし、俺にもそんな相手が出来たら
そっちを優先するだろうから。

「お兄様は私たちのものですわ!恋人なんて作らないでね?」
「そうですわ!お兄様が私たちよりも他の女性を選ぶのは許せませんわ!」

そんな言葉は今だけだよ?・・・今にお前達にも俺よりも心奪われる男性が必ず現われるんだから・・・。
せめてその男が俺が認めるようないい奴であって欲しいと思うから、付き合う前に会わせてくれるといいけどな。
そんなことを思いながら今年も全員で避暑地に向かう。


今年初めのバカンスは軽井沢の別荘・・・ここで数日間過ごしたらカナダに向かうらしい。
お袋はついた途端にキッチンに走って行きケーキ作りを始めた。
双子はここの管理人が飼っているゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーを従えて庭を散歩していた。
親父はここに来ても会社の資料を捲りながら電話が離せないようだ。

「あきらくーん!ちょっと手伝ってくれない?男の人の力が欲しいの~!」

「なに?どうしたの?重たいものでも動かしたらいいわけ?」

お袋に呼ばれてキッチンに行くとそこで泣きそうな顔をして俺の方を見ていた。
いつの間にか着替えていたお袋は例によってフリルだらけのドレスとエプロン・・・見慣れたはずだけど引いてしまう!
そんないい年してるのに大きな白いリボンを髪につけなくてもいいのに・・・似合ってるところがすごいけどさ。

お袋がしばらく使ってなかったピザ釜の扉が開かないって泣きつくからちょっと力を出して開けると飛び跳ねて喜んでる・・・
親父にはこの姿が堪んないんだろうか?俺には理解が出来ないけど・・・。

「お兄様~!今からこの子達と散歩に行きますの!ご一緒に行きましょう?」
「私たちだけでは力がないからこの子達を止められないんですの!お願いしますわ~!」

双子は自分たちとたいしてかわらない2匹のリードを持ってるけど明らかに引きずられてる。
このまま行ったら2匹は戻ってくるけど2人は完全に迷子だろうな。

「わかったからちょっと待ってて。支度してくるから・・・先に行くなよ?危ないから」

「「はーい!お兄様っ!」」

別に支度なんてないんだけど簡単に上着だけを着替えて念のために防犯道具を揃える程度・・・。
美作という組織にいたらいつ何処で狙われるかなんてわからないから、それが会社と関係ない妹達でも油断は出来ない。
毎回だけど付き添うときにはこういった備品が必要ってことだ。


双子を連れて散歩に出たが案の定2人は10分もしないうちにこの大型犬の力に負けてしまった。
そのリードは俺に託されて2人はただ2匹の横に並んで歩いていた。

「お兄様、この辺りは東京と比べたら少しは涼しいですわね」

「あぁ、そうだな。でも、やっぱり暑いな・・・お前達がリードを俺に渡すから俺が疲れるんだよな」

「あら?殿方ですもの!女性に苦労はさせてはいけないんですのよ?お母様がいつもそうおっしゃってるわ。
殿方は女性のために頑張るんですって!だから、頑張って下さいね、お兄様!」

「都合がいいな・・・!お袋みたいになるんだろうな、お前達はっ!」

結局手を繋いで並んで歩く2人の後ろを2匹と共について行くだけ・・・しばらく歩いてから別荘に戻る途中に
道のすぐ側で何かを見つけた。
それはまだ新しい・・・綺麗な状態のネックレス。
真珠のようなペンダントトップがついていてるけど、如何にも上質な感じのもの。
イミテーションではないことはすぐにわかった。

「あれ?・・・さっき通ったときにはなかったと思うけど?」

そう呟いたときに双子から大声で呼ばれて・・・慌てて2匹を連れて別荘に向かって走った。
その手にネックレスを掴んだまま・・・。


*******


その夜はお袋が焼いたピザがメインメニュー。
5人でテーブルを囲んでピザ以外のお袋の料理もつつきながら横にはケーキまで準備されていた。

「あきらくんがもう少しして会社で働き出したらこうやって揃って旅行するのも難しくなるわねぇ」

「仕方ないだろ?新入社員に休みはないんだよ!でも俺の年で家族に付き合ってるヤツなんていないんだから有り難く思えよ。
これをあいつらに言ったら無茶苦茶馬鹿にされるんだから!」

「そうなのか?まぁ、そうだろうな!彼らの家はなかなかこうやって揃わないらしいしな。
特に西門はそこに家族が揃ってるのに会わないんだろう?気の毒な話だな」

「「お兄様はお仕事を始めても私たちの方が優先ですわ!」」

そんないつもの会話・・・別に嫌なわけじゃないけど少し解放されたいとは思う。
もっと自由になりたい・・・なんて思うときはあるよ。

世話のかかる幼馴染みから、俺に甘えたがる妹から、そこまで来ている会社組織から・・・。


いい加減出されたものを食べ尽くしてから俺と親父はワインを片手に黙って飲んでいた。
妹たちはすでに部屋に戻り、お袋は後片付けを始めていた。

そしてふとジーンズのポケットに手が当たると・・・チャリッと音がした。
昼間に拾ったネックレス・・・そのままに出来なくて持ってきてしまったんだ!

「どうして持ってきたんだ?・・・こんなもの置いとけば良かったのに・・・」


その時・・・さわっと風が吹いて俺の耳に微かに女性の声が聞こえたような気がした。

「お袋・・・今何か言ったか?」
「え?いいえ・・・なにも言ってないし何も聞こえなかったわよ?」

でも確かにどこかで誰かの声がした・・・暗くなった周辺を見渡したけど特に変わった様子はなかった。


俺の正面・・・別荘のすぐ前の道に一本の脇道が見える。
そこにふわっと白い影が通った・・・確かにそれは一瞬だけど見えたんだ。


「ごめん・・・すぐに戻るから心配しないでくれ」

そう両親に告げて俺はその脇道に吸い込まれるように入って行った。
両脇は鬱蒼とした木々に囲まれ夜だから何も見えないのに・・・不思議と恐怖はなくただその道を進んだ。

しばらく歩くと目の前に広がったのは・・・青黒い湖?月明かりに中央が輝いている湖が現われた。
今まで何度もここに来ているのに一度も見たことがない湖にただ驚いて・・・その岸辺で立ち竦んだ。


カサ・・・


小さな音がうしろから聞こえて・・・振り向いたところに1人の少女が立っていた。
黒く長い髪の・・・大きな瞳の少女。

白いドレスを纏ったあどけない少女が俺の方を見ていた。


「君は誰?・・・どうしてこんなところに君みたいな人がいるの?」

「あなたを待っていたの・・・もうずっと前から・・・」


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