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大森会長が間に入るっていう意味がわからなくて、1人でオロオロしていたら類がそっと手を握ってくれた。

「落ち着いて聞いてね。牧野には大森会長の所に養女に入ってもらって、それで花沢に迎えたいんだけどっていう相談なんだ。
あの日、牧野のアパートに行った時にね・・・どうしたらこの先もこうしていられるかを考えてたら、大森会長の顔が浮かんでさ。
きっと力になって下さるだろうって思ったんだ。牧野の事、可愛がってくれてるみたいだったから」

真剣な顔でその言葉を出す類に、私はポカンと口を開けたまま・・・何も答えることが出来なかった。
養女って、この私が会長の?そんなことが簡単にできるのかどうかもわからない。
なのに優しい顔で類が笑う・・・心配するなって小さな声で囁いて、また私の手を強く握ってくれた。

一瞬、夢のようなその話に頷いてしまいそうだったけど、我に返って首を振った。

「むっ・・・無理ですっ!私はこんな世界でやっていく自信なんてありません!絶対に無理ですってば!」

本気で両手を振って会長に断りをいれた。会長はそれを見ても大笑いするだけで、類は困ったような顔で私を見た。
会長が笑いすぎてコホコホと咳き込んだから、慌てて側に行って背中をさすった。

「あぁ・・・すまないね。年寄のくせに笑いすぎてしまって・・・もう、大丈夫だよ。さぁ、彼の横にお座り」

「はい・・・では、お茶だけでも入れますから、待ってて下さいね」

まだ、咳き込んでいる会長には緑茶を煎れて、類には好きだと言っていた紅茶を出した。
そしてもう一度類の横に座った。会長はゆっくりとお茶を口にする・・・そして再び私に向かって話し始めた。


「牧野さんのそういう優しさが気に入ったのだよ。初めて会ったレストランでもあなたの笑顔はお客さんを幸せな気分にしていた。
注文ミスでさえクレームになるどころか、店の来客数を上げる要因にしてしまうだなんてねぇ。そんな人は珍しいのだよ。
そしてあなたはその笑顔だけで彼を助けて、夢を与えた・・・そしてまた出会えたんだよ?偶然とは素敵だねぇ。
何も持っていないと言うけど、君の笑顔はある意味ではすごい武器だとは思わないかね?もしかしたら今後、花沢とうちが手を
組むかも知れないだろう?そうなったら、その間を取り持ったのは君だよ?すごい力だと思うがねぇ・・・」

「でも、私は何もしていません。会長の言うような笑顔が武器だなんて・・・私にはそんなふうに思えません。
なんの力も持っていない、普通の人間です。とても花沢でやっていけえるとは思えない・・・やっぱり無理ですよ」


そう言うと今度は類が声を掛けてきた。

「牧野は俺を助けてくれたよ?看病してくれてご飯を作ってくれて毎日笑ってくれた。それで俺がどれだけ救われたかわかる?
初めてのことも沢山あったけど一度も俺を拒否も否定もしなかった・・・そこにいていいんだって思わせてくれた。
そうして今は牧野を手に入れるために必死になる力をもらってるよ。生きる力をもらったって言ってもいい」

「そんな・・・褒めすぎだよ」

そんなに大層なことはしていない・・・ただ迷子の猫を拾っただけ。
その猫をもう一度捨てることが出来なかっただけだよ。だって2回目に拾う人がいなかったら死んでしまうから・・・。



「それでね、牧野さん。どうだろう・・・1年間、私の元でしっかりと勉強をしてから、花沢くんの所で仕事が出来るだけの知識を
つけてみないかね?確かに今すぐと言っても花沢は受け入れてはくれんだろう。君も押し潰されてしまうかもしれないからね。
だが、私の側に1年もいれば、それなりに評価されるようになると思うがね・・・若い2人には長いかな?1年間は・・・」

「いいえ!是非お願いします。大森会長」

私よりも類の方が頭を下げてる・・・もうつられて下げるしかなかった。

「私もこの業界では一応名前が通っておるから心配はいらんよ、この花沢くんのお父上もよく知っているし、30年前には結婚式
にも出席しておるしな。何か言って来るようなら私が直接説得しましょう。彼女は自慢の娘ですからな・・・ははは」


「でも・・・何故そんなに牧野によくして下さるんでしょう・・・確かに私は直接助けられたのですが、会長は・・・」


類がそう聞くと会長は少し目を伏せて懐かしそうに言った。


「牧野さんは私の亡くなった妻によく似ているのですよ。初めて会ったときは彼女が生き返ったのかと思いました。
私にいつも笑顔を向けていた妻は交通事故でね・・・お腹の子供と一緒に天に召されました。もう40年も前のことです。
だから、花沢くんの言う守る者がないと人生はつまらないという気持ちは痛いほどわかるのですよ」

私も類もその後は何も言えなかった。
ただ2人で深々と頭を下げてこの会長室を後にした。


「あなた達は私の子供も同じ・・・いつの日にかこの腕に孫が抱けそうだ・・・こちらこそありがとう」

会長の最後の言葉に涙が止まらない・・・それをそっと抱き締めてくれる人が隣にいた。


********


「ごめんな・・・相談も無しに会長に申し出てしまって。そのぐらいもう焦ってたんだよ。牧野を失いたくなくてさ」

「本当に驚いたわ。まさかそんな話が出てくるなんて思わなかった・・・怖いくらいだよ」

こう話しているのは私の部屋のベッドの中。あの日と同じようにお互いに抱き締め合ったまま、類が耳元で呟いた。
類の指が私の髪を触ってる・・・少しくすぐったいけど幸せすぎて類の胸に顔をうずめた。
クスって笑う類の顔・・・月明かりに照らされてて今日は特に魅惑的に感じた。

「思い出しちゃった・・・初めてこの部屋に入れたときに濡れた類の服を脱がせるの・・・恥ずかしくて大変だった・・・」

「そうなの?覚えてないや・・・熱出してたし、あの時は死んでもいいって思ってたからね。残念だな・・・気を失うんじゃなかったよ。
少しぐらい覚えとけば良かった・・・その時の牧野の顔、想像出来るよ!」

「もう!・・・だって私もずぶ濡れなのに、そのまま服を買いに行ったりして・・・類は全然動いてくれなくて困ったんだよ?
でも、拾って良かった・・・あの時は公園を通ったのも偶然だったの。会長の言うとおり、偶然って素敵だね」

「うん・・・迷い込んだところが牧野の家で良かったよ」


何度も類からのキスをもらう。その度に流れる涙は彼が拭ってくれた。
あの日が最初で最後だって思ったのに、今日もこうして一緒になれることが嬉しい・・・朝まで類の香りに包まれていた。
絡められた指先にそっとキスをしてくれる。


そして何度も「愛してる」・・・って言葉が私の耳に聞こえるの。



*********


次の日の朝、類の腕の中で目が覚めた。

「おはよう・・・今日もこれが言えて幸せかも」
「うん、おはよう。私はまた類のその半分しか開いてない目を見られて幸せだわ」

「ぷっ・・・変なの!」


小さく笑うけどこの幸福感は世界で一番ではないかしら。
私はこの日、人生で2回目のずる休みをしたんだ。


「牧野、お腹がすいた!朝ご飯にしよう?・・・今日も作ってね、卵焼き!」


asa19.jpg



展開が早くてごめんなさいっ!
明日がラストです!
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Comments 4

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2017/08/30 (Wed) 05:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます

えみりん様、おはようございます。

藤本、えらい嫌われちゃったなぁ!(笑)
頑張って可愛い藤本を復活させないといけませんねぇ!
連休がもらえたらがんばろうっ!って思ってます。

今度はコメント返信が出来ないという不具合が発生しまして、昨日はえみりん様に10回ぐらいコメ返書きましたよ。
そのうちの1回が送れたようなので良かったけど。最近なんだか不具合が多くて困ってます。
今日は1回で送れそう・・・頑張れ!私のブログ!

明日はもう月末・・・大っ嫌いな棚卸しだ・・・。

2017/08/30 (Wed) 08:20 | EDIT | REPLY |   
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2017/08/30 (Wed) 13:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは🎵

死んだ魚…そうきましたか!
可愛く感じで書いたはずなのに、まさかの死んだ魚(笑)にびっくりしました!

ラストね~❗
このラストを書きたくて作ったんですよね。
実は猫は苦手なんですけどね。みなさんはどうなんだろう。私は類と総二郎は猫、司くんとあきらくんは犬系だとおもうんだけど。

いや、犬とか書いたら怒られそう!ごめんね、司君!

2017/08/30 (Wed) 17:19 | EDIT | REPLY |   

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