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「美味しかった。ありがとう、牧野の朝ご飯がどうしても食べたかったんだ。しばらく日本を離れることにしたから」

「え?・・・どういう事?離れるって・・・何処に行くの?」

俺の言葉に牧野はびっくりした。それも当然・・・昨日は花沢に来いって言ったばかりだから。
そんな牧野の隣でいつものようにコーヒーを入れた。
自分用のマグカップを持っても牧野の目は俺を見つめたまま、次の言葉を待っているのがわかった。

「そんなに驚かないで。これは大森会長に話したときにはもう決めていたんだ。会長の方から1年間ほど時間をおけって言われたんだよ。
牧野のためにちゃんと時間をとるようにってさ。実は牧野が来るまでは厳しい声で言われてたんだよ。
俺にも何の実績もないって・・・そんな男に牧野は渡せないんだってさ」

「会長が?類にそんなことを言ったの?」

「うん。その時にね、会長は本当に牧野の事を可愛がってるんだって思ってさ。養子の話も会長からだよ?
俺は大森の秘書としての牧野を花沢に迎えたいって言っただけなんだけど、それだとこの世界に入った後、牧野が辛いからって。
自分の養子にしたら誰も文句は言えないだろうって・・・まさか、奥さんに似てたなんて知らなかったけど」

牧野はやっと一口だけコーヒーを飲んだ。
ちょっと涙眼になってるのを隠すように横を向いて鼻をこすってる。

「それで・・・類は何処に行くの?・・・フランス?」

「うん。去年の秋からフランスで新しい観光ホテルの建設と、その内装設備を向こうの企業と共同でやってるんだ。
でも、その担当者が現地で上手くいかないみたいだからね。俺が責任者として立て直しに行くことにしたんだ。
準備が出来次第行くって、会社にもさっき報告した。そこが完成するのは来年の夏だからね・・・いまから1年後だ」

この1年を2人の準備期間にする・・・俺は自分を鍛え直すために、牧野を守れる男になるために。
そして牧野は大森会長の元で、社交界について、世界の経済についての勉強をする。

不安そうな牧野を抱き締めて、1年間の誓いをする。


「必ず仕事を片付けて牧野の所に帰ってくるよ。だから、ここで待っててよ。寂しいかもしれないけどこの部屋で待ってて・・・
俺はここの鍵をお守りで持っていくよ。いいよね?」

「ん・・・わかったよ。類のこと、信じて待ってる・・・」


この日、部屋を出て行く俺を初めて牧野が見送ってくれた。

「行ってらっしゃい・・・気をつけてね」
「うん。行ってきます・・・牧野も元気にしててね」

いつも迎えに飛び出ていた時は嬉しかったのに、逆に送り出されるのは結構寂しいもんだって思ったよ。
またねって・・・最後にキスをして俺はこの小さなアパートを後にした。


**********


類がフランスに仕事のために向かったのはそれからしばらくしてだった。
2人で決めたのは月に一度の手紙だけ・・・電話やメールだと会いたくなってしまうから、やめようっていうことになった。

月の初めに私から類に手紙を送る。そしたら類が返事をくれる・・・中に書くのは毎日の小さな出来事だけ。
悩み事や心配事なんて書かなかった。何を食べたとか、何処に行ったとか・・・新しい料理を覚えたとか。
類からも書かれる内容は同じようなもの・・・パリで流行っているものや、ちょっと怖い出来事や仕事の失敗談とか。
少しずつ覚えているのは家事らしくて、卵焼きを練習しているらしい。

「ぷっ・・・!卵焼きだって・・・ちゃんと少しだけ焦がしてるのかしら・・・あれは技術がいるのよ?」

類の綺麗な字はとても丁寧で・・・でもパリの消印が距離を感じさせて悲しかった。
類から来るときはいつも小包。毎回可愛いプレゼントが1つ入っていた。オルゴールだったりマフラーだったり・・・。
それが届いたときは抱き締めたまま眠ったっけ。



私はと言うと、それからも会長の秘書として色んな場所に行くようになっていて、仕事にも少しずつ慣れていった。
この世界の暗黙のルールなんてのも教えてもらいながら、パーティーにも同行して顔を覚えてもらう。
会長も毎回私を宣伝しては、むしろ娘を紹介しているかのようにはしゃいでいた。

当然花沢にも何度か顔を出したけど、あの藤本という人も私には一度も気がつかなかった。

「これは大森様、お久しぶりでございます。新しい秘書の方ですか?お美しい方をお連れですね」

「あぁ・・・良く出来た秘書でしてね。そのうち宜しくお願いしますよ。その時は穏やかにね・・・ははは」

「・・・・・・は?」

私は言葉を交わすことなく、藤本さんに頭を下げた。
この人はアパートでは私の顔なんて見てもいなかったんだろう。でも、そんなことはどうでもいい。
私はあの時の牧野つくしではない・・・この時、すでに大森つくしとなっていたから。


クリスマスにはあの狭いアパートにとんでもない量のバラの花が届いた。
部屋中がバラで覆われてて座ることも出来ない!・・・一体何本送ってきたんだと思って配達店に聞いたら999本・・・。
これは永遠の愛って意味らしいけど、この部屋を知っているくせに何でー!って流石にキレた!

約束を破って1回だけ電話をかけたのはこの時・・・時差を考えると申し訳なかったけど、類はすぐに電話に出た。


「もうっ!嬉しいけど何本送ってくるのよ!・・・もう私が寝るところすらなくなったよ!花瓶だってないから買いに行ったし、
でもどれだけ買っても間に合わないからとうとうお風呂にも入れてんのよ?」

「えっ?そうなの・・・ぷっ!笑えるね!あのお風呂にバラがあんの?そんなになるんだね・・・999本って」

「確かめないで送るからよっ!後で写真送るわ。びっくりするよ、きっと!・・・・・・そっちのクリスマスはどう?」

「ここではノエルって言うんだけどみんな楽しそうだよ?俺は1人だけどね・・・来年はこっちで楽しもうよ。
今から来年の予約入れようと思う店があるんだ・・・だから寂しくはないよ。牧野は?」

「私・・・?私は・・・寂しいよ。でも今は大丈夫・・・類の声が聞こえてるから」


前後左右をバラに囲まれて何言ってるんだか・・・それでも電話から聞こえる類の声に自然と顔が緩んだ。
やっぱり電話で話すと会いたくなるね・・・何て言いながらいつまでも話していた。
きっと類は途中で寝てたと思うけど・・・なんてことない話でもなかなか切ることが出来なかった。


クリスマスが過ぎてお正月が過ぎて・・・冬は足早に通り過ぎていく。そして春が来て・・・待っていた季節が来た。


*********


その日の東京も1年前と同じ、蒸し暑くて突然の夕立があった。
生憎、傘を持ってなかった私はまたあの公園を通り抜けてアパートまで走っていた。

「きゃあぁーっ!濡れちゃうっ!今日に限って傘を持ってないんだから!」

水たまりを飛び越えながらその近道を通っていたら、あのベンチのところに傘を差した男性を見つけた。
思わず顔をそっちに向けてみると、その傘の中からひょいっと顔を出したのは類・・・!

私を見るなりニコッと笑って・・・私は雨の中で足が止まった。



「牧野!お帰り!・・・濡れるからこっちにおいで!」


「うそ・・・類なの?帰ってきたの?」


私はゆっくりとそのベンチの方に足を向けて・・・次の瞬間すごい勢いで彼のところに飛び込んで行った!
類に飛びついたらその傘は飛んでいったけど、もう自分を止められなくて・・・類の首に巻き付くようにぶら下がってた!

「会いたかった・・・!会いたかったよ・・・類!今日帰ってくるなんて聞いてないよっ!」

「だって驚かせたかったんだもん・・・ただいま、牧野!」


雨が小降りになっても類と抱き合ったまま、その場を動くことが出来なかった。
懐かしい類の香り・・・何度も夢見た類の体温がこの手に伝わってくる!
私の背中を抱き締めている類の指の力がぐっと強くなって、思わず背伸びをしてキスをした。

「もう・・・本当にびっくりした。でも・・・良かった、何も変わんなくて」

「牧野も全然変わんないね!少しはおとなしくなったのかと思った・・・うん、変わってなくて嬉しい」


ニャァ~・・・

2人で抱き合っていたらどこかから猫の声がした。

どこから聞こえるんだろうって2人で鳴き声が聞こえた方を見たら、飛んでいった傘の中で小さな猫が雨宿りしていた。
汚れているんだけど白い猫でとても綺麗、ブルーの瞳でとても野良猫には見えない。

「猫だ・・・一匹なのかな」
「去年の類みたい。だってどこかの飼い猫でしょう?あの子・・・」

そしたら今度はもう一匹奥から出てきた、そして白い猫の横にピッタリとくっついた。
今度の猫は茶色のトラ猫・・・白い猫よりも少し小さくて痩せてる、本物の野良猫みたいだった。

「・・・もう一匹いたんだね」
「今年の類みたい。じゃあ、あのトラ猫は私かな?・・・だってあれは野生児だよ!」

そう言うとクスクス類が笑いだした。


「雨がひどくならないうちにアパートに戻ろうか」
「うん・・・でも、この後買い物に行かないと晩ご飯が出来ないわ。玉子をきらしてるかも・・・」


「あの傘はあの猫たちに貸しててあげようか?きっと、2人で新しい家を見つけると思うから、それまでの間ね」

「そうだね・・・素敵な家が見つかるといいね!」


去年ここで拾った迷い猫は今年の夏・・・また私のところに戻ってきた。

名前は少し変わってるの・・・類っていうんだよ。



fin.


asa20.jpg
お待たせしました。もう忘れられているとは思いますが
明日からSister Complex 恋人編・・・再開いたします。

言い訳して申し訳ありません。時間がなくて公開時に誤字脱字が多かったようです。
修正しながら頑張ったんですが間に合わないことが多くて・・・発見した方、申し訳ありませんでした。
公開が3分遅いときは私が必死なときです・・・粗探しはこの時がお薦めですよ・・・ふふふ。

では、類くんの夏のお話し,2本立てにお付き合いいただきましてありがとうございました!
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Comments 8

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2017/08/31 (Thu) 00:19 | EDIT | REPLY |   
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2017/08/31 (Thu) 05:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: お疲れ様でした❗

ないない様、おはようございます。

そうなんですねぇ!こんな庶民生活する類くんは「こんなの違う~」って
言われるかと思いながら書いておりましたけど。
F4として何でも出来ちゃうのを書くのも、楽しいんですけどね~!
4人の中では一番庶民生活が似合いそうな気がして・・・。

類くんなら洗濯物、笑いながら干しそうじゃないですか?(*^▽^*)

体調までお気遣いいただいてありがとうございます。
ドタバタが続いていますので、確かにすこし疲れているんですけどね。
何とかもう少し頑張りたいと思っています。

応援コメント本当に嬉しいです。
ありがとうございました!


2017/08/31 (Thu) 07:45 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます

えみりん様、おはようございます!

そういえば・・・いくつになったんでしたっけ?(笑)
聞くなって書いてあったので聞かなかったんですよ?

浮かれて書いた夏のお話しが終わっちゃいましたよ・・・。
次に浮かれたお話しはいつ書けるんだろう。クリスマスかな?
この秋は類くんも総ちゃんも暗いお話しに戻るから・・・。

どこかで明るい藤本でも呼んでこないと!

そして今日は月末・・・何時に帰れるのかわかんない・・・トホホです。
と、言うことで今日は早出なので行ってきまーす!
いつもコメントしていただいてありがとうござます!

2017/08/31 (Thu) 07:54 | EDIT | REPLY |   
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2017/08/31 (Thu) 14:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは🎵

可愛く終わったでしょう?
実はこの話、あんまり受け入れてもらえないだろうと思ってました。
でも、結構読んでいただいたみたいでびっくりしてます。嬉しいなぁ。

また、ほんわかしたお話を思い付いたら書いてみようかな!

色々と気を遣っていただいてありがとうございます♥️
無理せず頑張りますので、宜しくお願い致します❗

2017/08/31 (Thu) 16:08 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/03 (Sun) 22:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

瑞穂様、今晩は!

お仕事大変そうですね・・・。季節の変わり目ですから十分に気をつけて下さいね。
つくしに拾われたいですか?毎日卵焼きですけどいいですか?ふふふ!

私は類か総二郎を拾いたいです。
どこかに落ちてないかなぁ・・・。野良猫なら毎日来るんですけど可愛くないし。
また、ストレスがたまったら覗きに来て下さいね。
ストレスがたまるようなお話しを書いていたら申し訳ないけど・・・(笑)

私も9月は毎年体調崩してるので恐怖があります。
睡眠障害が起きるんですよね・・・そして昼間に眠気が・・・!
お互いに気をつけましょうね!今日はありがとうございました!

2017/09/03 (Sun) 23:48 | EDIT | REPLY |   

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