真夏の夜の夢 (LastStory)

急に現実となった湖の中での恐怖・・・今まであれだけはっきりと見えていた光景が一気に暗闇と化した。
いきなり呼吸が止まるわけではない!冷静にならなくてはと思うが視界が全くなくて自分の足に纏わり付くものの
正体さえわからなかった。

「ごめんね・・・あきら、もう少ししたらあなたの苦しみも消えるから・・・」

どこかから聞こえるその声・・・微かに震えているようだったけど今はもうその姿を見る余裕はなかった。
俺はただ今自分が生きて帰るために必死で、僅かに残った時間と戦っていた。
解こうとする手には力が入るが身体はどんどん冷たくなるのがわかる・・・また、ゴホッ・・・!と息が漏れた。

これ以上は・・・息が続かない!・・・もう・・・無理かもしれない・・・


そう思った時、身体の力がふっと抜けて・・・藻掻いていたその手は緩んで水中を流れていく・・・

「あきら・・・あきら・・・ごめんね」

少女の声が遠くから聞こえてくる・・・でも俺はもう答えることは出来なかった。
自分の身体が急にふわっと湖面に向かって行くのがわかる・・・月が真上に見えている気がするから・・・。



「やっぱり出来ない!あきら、待ってて!・・・今からここを出るわ!」

突然強く聞こえたその声は、もの凄い濁流を呼んで俺を勢いよく湖面に浮かび上がらせた!
そしてそのまま仰向けに横たわる俺に少女の唇が近づいて・・・俺が飲み込んだ湖水を吸い取るかのようにキスをしてきた・・・
そしてゆっくりとその唇は離れていった。

「ごめんなさい・・・あきらを連れて行きたかったけどやっぱり出来ない・・・ごめんなさい、許して・・・」

涙を流しながら少女は俺に縋り付くようにして声を震わせた。
その顔にやっと手が伸ばせたのはそれから少し経ってから・・・涙に濡れる顔を俺の手で拭ってやった。
黒い瞳からは妖しい光は消えていて、悲しそうに俺を覗き込むあどけない表情に戻っていた。

「いいよ・・・こうして戻れたのならもういい。また君を見ることが出来たから・・・でももう水の中はごめんだな。
こうやって抱き締めてくれる方がいい・・・」

まだ開けられない眼で少女の手を掴んで自然と引き寄せていた。
たった今この命を奪われようとしたのになんてお人好し・・・自分でもそう思うけど身体は正直だった。

俺に引き寄せられた少女はもう一度過去の出来事を語った。


「あきらに助けられて飛び去ったのは良かったけど、たった1人で生きていくことが出来なくなったの。
だから思い切ってこの湖に戻ったら・・・すでにここは埋められてて何もなかったの。
夫も・・・あきらもいなかった。でも私にはあなたの姿が忘れられなかった・・・あんなに必死に私たちを
助けてくれようとしたあきらの事を忘れられなかったの・・・だから」

少女の手が俺の頬に触れる・・・やっぱりそれは人肌の温かさで、どこか懐かしい優しい感触・・・。
思わずその手に自分の手を重ねた。

「どうしてもあなたに会いたくて・・・会いたくて堪らなかったからここで息絶えた後もあきらを待っていたの。
もう私の身体は随分と前になくなったけど・・・心だけはあきらを求めてしまったのね・・・」

「そんなはずはないだろう?じゃあなんでこんなに暖かいんだ?・・・君は生きているんじゃないのか?」

「いいえ・・・あきらにだから温かさがわかるだけ・・・私はここに戻った後にこの命は尽きてしまったわ・・・
魂だけが残ったの・・・そしてここであきらに会えたら私の世界に連れて行くことだけを考えてしまったの・・・ごめんね」

ゆっくりと少女の手は俺から離れていく・・・追いかけて手を伸ばしたけどその指先が少し触れた後・・・それは離れた。
でももう俺は限界だったのかもう一度見たかったその姿を見ることが出来なかった。


「もう一度あえただけで嬉しかった・・・あきら、ひどいことをしてごめんね・・・どうか許してね。
そしてまたどこかで私に会えたら・・・その時はちゃんと恋をしましょう?・・・あきら、ありがとう・・・」


これは・・・夢だろうか。


俺の側から白い光の玉が月に向かって飛んでいくような・・・閉じたままの眼でそれを見たような気がした。



********



「あきらくんっ!あきらくんったらっ!!・・・眼を開けなさいっ!あきらっ!」

もの凄い剣幕で俺の名前を叫んでいるのはお袋?・・・すごい力で肩を揺すられているのがわかった。
少しだけ眼を開けたら、ボロボロになった顔で俺の真上から覗き込むお袋の姿があった。

「なんだよ・・・そんなに大声で・・・頭に響くだろ?」
「何言ってんのよ!部屋から出るなって言ったのに・・・こんな所で倒れてたらびっくりするじゃないの!」

こんな所?横を見たら見覚えのない草むらで・・・その真ん中で仰向けに寝ているようだった。
でも服も髪も濡れていて・・・お袋はわけがわからず大泣きしていた。


そうか・・・やっぱりあれは夢だけど、でも真実でもあったってことか・・・。
その証拠に今度はあのネックレスは俺のポケットに残されたまま・・・この手に取ると白く輝いていた。
これはあの少女が残した彼女の魂なのかもしれない・・・手の中で握り締めたらその温かさが伝わった。

「ごめんな・・・もう終わったみたいだ。もうここには来ないから大丈夫だよ」

「え?・・・何が終わったの?」

「・・・真夏の夢物語だよ・・・」


なんとか立ち上がって真上の月を見上げる・・・そこにはもうなにも感じなかった。
完全にあの少女の気配は俺の周りから消えてしまったんだ。



********


そしてこの後、家族はカナダへと向かったけど気が乗らなかった俺は日本に残っていた。
そしてすることもなかったから何となく大学へ向かって、夏期講習でも受けようかなんて思っていた。
今は誰かと会う気にも、女性と話す気にも・・・総二郎達とふざける気にもならなかった。
むしろ誰とも話さずに彼女とのことを思い出していたかったのかもしれない。

あれからずっと持ち歩いているこのネックレス・・・手の中にあるそれを見つめて立ち竦んでいたときに
突然後ろから体当たりしてきた奴がいて、思わずそのネックレスと下に落とした!

「おいっ!・・・気をつけろよ!危ないだろうっ!」

そう言って振り向いたところにいたのは・・・あの時の少女?!
黒い髪に黒い大きな瞳の少女が俺の真後ろで鼻を押さえて立っていた!

「ごっ・・・ごめんなさいっ!急いでたから前を見ずに走ってて・・・こんな所で誰かが立ち止まってるなんて
全然思わなかったのよ!本当にごめんなさいっ!」

「いや・・・いいけど。君はここの学生?見たことがないようだけど・・・」

その少女は落とした荷物を拾いながら俺に謝ってきた・・・そして俺が落としたネックレスを拾うと不思議な顔をした。


「このネックレス・・・何処で手に入れたの?」

「え?これは・・・ある人からもらったんだけど・・・どうして?」

「・・・ほら!これ・・・私の宝物と同じだから!」


よく見たらその子の首に付けられたネックレスは俺が拾った物と同じ・・・全く同じ白い真珠のネックレスだった。
2つを並べてもその大きさも白さも同じ・・・これは一体どういう事だ?


「なんで君はこれを持っているんだ?宝物って言ったよね?」

「うん!私が生まれたときに何故か手に持っていた物だってお母さんが言ってたの。ふふっ・・・不思議な話でしょう?
だからお守りでずっと大事に持っているの。・・・でも2つあるなんてそっちの方が不思議だわ・・・」


この子が見せる笑顔はあの湖の少女と同じ・・・ドクンと俺の中で何かが弾けた。


「ねぇ・・・君の名前は何て言うの?」

「私?私は牧野つくし!・・・ここの編入生なの。あなたは?」

「俺は・・・美作あきら・・・多分、君とは前に会ってるよ」


「・・・そうなの?何処でだろう・・・でも、私もあなたのこと見たことがあるような気がするわ」


そうだろうね・・・君はあの時の白鷺の生まれ変わりだろう?
この前の夢の後に・・・この子の中に魂が入り込んだのかな・・・。


「良かったら少し話さない?・・・夢の続きを見られそうだから・・・」



・・・・・・あきら、ようやく出会えたのね・・・・・・


mori9.jpg
唐突に始めてしまったあきらくんのファンタジー(まだ言う)でした!
これは美作と言う地名の由来が白鷺の夫婦の伝説からきているというのを
読んで思いついてしまったんです。
でも、よーく考えたら潔癖のあきらが1人で迷子になり、湖に入るとは思えないんですけどね。
大人になったら尚更、湖の水を飲んだら胃洗浄を申し込むのではなかろうかと・・・。

まぁ、このような夢物語が一番似合うのはあきらくんだと思いまして書いたわけです。えへへ・・・

終わった後で言うのもなんですが一番可哀想なのは旦那の白鷺ではなかろうか?
妻を助けたのに山猫に殺されて、妻は人間に恋をして自分は湖と共に埋められ、最終的に妻の生まれ変わりは
また人間と恋に落ちそうだし・・・。本当に謝らないといけないのは旦那鷺でした。

ごめんね・・・旦那鷺。

花より男子

4 Comments

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2017/08/11 (Fri) 23:04 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

あははっ!突っ込んだらダメですって!ファンタジーなんでネックレスは白鷺さんの内職だと思ってください。
不思議なことが起きるのが妄想のいいところ・・・。つくしちゃんが生まれたときにネックレスかけてたらギャグですよね。
私の脳内では白鷺さんの身体が白い塊に変化しての真珠。
いやぁ、未熟者ですから書き方が足らないのね・・・頑張ります!
あきらくんはこういう感じだと思い浮かぶんですけど・・・リアルにその場面は・・・実は一番エロいのではないかと思うんですよ。
4人の中で・・・総二郎よりもエロいイメージがあります。なんでかなぁ・・・。

で、最後の一言カタカナにしたら良かったかな・・・失敗したかも。

毎度爆笑なコメントありがとうございます!

2017/08/12 (Sat) 00:26 | EDIT | REPLY |   

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2017/08/13 (Sun) 14:54 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

花さま、こんにちは🎵

いやぁ、ぶっつけ本番はいかんわ!
焦る❗(笑)2回目だけど、思い付きは。
たまたま白鷺伝説調べたら、一つのお話が美作の土地の由来だって書いてあったの。
で、あきらを沈めたかった(笑)

悶えるあきら…なんか、書いてみたかったんです~❗

疲れてるのかな、私。

2017/08/13 (Sun) 18:52 | EDIT | REPLY |   

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