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やっとベッドから出たのはもうお昼前・・・あっさりと裸でそこら辺を歩く彼に大声で叫んでいた。

「ちょっとっ!そういう事やめてよ!隠したらどうなのよ・・・もう、明るいんだから!」

「なんで?いいじゃん・・・お前しかこの部屋にいねぇんだから。それにもっと気にしないといけない事があるんじゃねぇか?
俺はいいけど・・・お前、結構叫んでたからお袋達の部屋まで聞こえてたかも知れねぇぞ?・・・どうすんだ?」

「・・・ほ、ホントに?私、叫んでた?」
「あぁ、抑えろって言ったけど無理だったみたいだな。終わりの方はもう死にそうな声出してたけど?」

西門さんは平然とした顔でそんな言葉を出した・・・でも、それを聞いた私は動くことが出来なくなった。
まさかおば様に聞かれた?そう思ったら夜とは違う汗が出る・・・。

「どうでもいいけどお前も着替えてこい。そのままシャワーに行く勇気があるなら行ってもいいけど?」
「このまま行くわけないでしょうっ!着替えてから行くわよ・・・意地悪!」

ベッドの下に落ちてる服を拾って着たけど皺だらけでとんでもない事に・・・でも部屋はすぐ隣だから急いでドアを開けた。



「あら・・・おはよう!つくしちゃん。遅かったのねぇ・・・夜が暑かったから寝苦しかったでしょう?」

「・・・お、おはようございます。おば様・・・これは、その・・・」
「私は何も知りませんから気にしなくてよくってよ?昨日はお酒も入ったからよく寝てたわ。ほほ・・・」

まさか、ドアを開けたらおば様がいるなんて思いもせずに・・・そして、思いっきりバレていることも確信した。
振り向いたら肩を震わせて笑いを堪えてる西門さん・・・殴りたかったけど、今日はやめておいた。


次の日の午前中・・・西門さんはこの家を出て行く。
駅まで見送りたいと行ったけど許してくれなかった。この家の人間は門までが見送りだと・・・そう言って止められた。
車に乗ってから、開けられた窓を挟んでお互いの指を絡めていた。

「じゃあ、行ってくる・・・留守を頼むな。泣くんじゃねぇぞ!」

「うん。そっちこそ・・・寂しくなって逃げ出さないでよ!それと、遊んだらダメだよ!」
「そんな時間はねぇよ!お前こそ遊んでないで稽古しとけよ」

ゆっくりと閉まる窓ガラス・・・相変わらず憎たらしいほどの笑顔を残して車は走り出した。
車が見えなくなると、寂しいと言うよりも身が引き締まる感じの方が強かった。

これからやらないといけないことが山ほどある・・・私の中に「覚悟」っていうものが生まれたような気がした。
次に会うのは野点の時・・・少しでも成長した自分を見てもらおう。

そんな気分でお屋敷に戻った。私の少し前を歩くおば様の後ろ姿を、いつもと違う目で見ていた。

***

西門さんが京都に移ってすぐに私の仕事は事務所から家元夫人の側での勉強に変わった。
改めて誰かに紹介なんていう形は取らなかったけど、西條家の後ろ盾を持ったということで後援会の人達から何かを
言われるようなこともなかった。

ただ、予想どおりここにお稽古に来るお嬢様達からは随分と攻撃を受けた。

「家元夫人のご機嫌を取っても所詮は貧乏人でしょう?この西門でやっていけるとでも思っているのかしら」

「総二郎様もちょっといつもと違うタイプで遊んでみようと思われたのよ。それを真に受けるなんて身の程知らずな・・・。
早めに自分から出ていけばいいのよ。目障りだわ」

私が1人でいるときにわざと聞こえるように話している。
残念だけど学生の時からそんな言葉には慣れていたから、びっくりなんてしなかった。むしろ懐かしいぐらい。
もちろん悲しくなるし聞きたくもなかったけど・・・。

でも、弱さをみせるわけにはいかない。私は陰で何を言われても、下を向くのだけはやめようと決めていた。
あの人の横に立つということはそういうことだ。守ってもらうだけではいけない。強くならなくてはいけないんだ。
支えていくのはむしろ自分のほうなのだと・・・辛い時こそそう言い聞かせて毎日を過ごした。


「つくしちゃん、総二郎さんから美味しいお菓子が届いたわよ。一緒にいただきましょうよ」

「はーい。おば様、では私がお茶を点てましょう。お付き合いいただけますか?」

「まぁ!よろしくてよ。では、茶室に行きましょうか」

彼がいなくなって寂しがっているおば様を支えるのも頼まれていた仕事の1つだった。
私たちはいつも一緒にいてお喋りしたり、お稽古したり・・・外出先では仕事の手伝いをした。
そしていつも話す内容はお互いの昔話・・・おば様は西門さんの小さい頃の話を、私は学生の時の話をした。

「私は総二郎さんが小さいときはこの西門の仕事ばかりしていて、全然遊んだりしてあげなかったの。
海に泳ぎに行くとか遊園地に行くとか・・・小さい子がしたいことは何も叶えてあげられなかったわ。
当然のようにお稽古ばかりさせてねぇ・・・。気がついたら司くん達とお友達になってて、一時期はこの家からも遠ざかってたわ。
夜になると家を出て行くあの子を何度止めようかと思ったか・・・でも今更親らしいことも言えなくて時間だけが過ぎたわ」

「そうなんですか?私は総二郎さんの楽しそうな顔しか学生の時は見てなかったんです。でもある日、たった1人で道を歩いてる
総二郎さんが、擦れ違った親子連れを羨ましそうにみたのを覚えてます。当時の彼と同じぐらいの学生でした。
その時に初めて総二郎さんの中にも寂しい部分があるんだって思いました。その時かなぁ・・・親近感が持てたのは。
彼にも悩みがあるなんて思わなかったんですもの。いつもクールで強い人だったから」

「あの子は強くはないわ。強がりたいだけよ。・・・結構気が小さいって思うときがあるもの」

「え?・・・そうなんですか?少しも感じなかった・・・総二郎さんが?」

「つくしちゃんの事がそうだもの!肝心なときに何も言えないのよ!」


それを言われたらもうなにも言えなかった・・・お互い様だから。

そんな話に盛り上がりながらお稽古と言う名のお喋りは続いた。
西門さんの小さいときの話は新鮮だった。本人は絶対に話してくれないから・・・。
おば様の話を聞きながら私の頭の中で小さな彼が動き回る・・・想像した事を言ったら、きっと怒るんでしょうね。


********


京都に移ってからまず始めにここの支部長の金井という爺さんと対面した。
なかなかしぶとそうな面構えの爺さんで、叔父や元哉が手を焼くのも無理なさそうだ。

「これはこれは・・・わざわざ東京からお越しいただいて申し訳ないですなぁ。別にこちらが頼んだわけでもないですが、本家の
家元にも心配かけたようで・・・まぁ、確かに元哉くんがもう少しお強ければ纏まりますんでしょうがねぇ・・・
気が弱い方ですんで色んな意見に振り回されるんですわ・・・お若いから仕方ないですが、もう少し頑張っていただかんと・・・」

「ご心配おかけして申し訳ありません。叔父ももう少し養生したら復帰できそうですが、今しばらくは支部長のお力をお借り
しなければなりません。これからは茶事も増えて忙しくなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
元哉の指導ということでこちらには来ておりますが、私1人では力不足ですので皆様からもご支援いただきたいと思います」

無難に挨拶だけ済ませて初日はひとまず帰ろうとしたが、すぐに会食の予定を入れられた。
こういう時は必ず付きもの娘同伴の会食か?断ることも出来ずに仕方なく元哉を連れて行くことになった。
元哉は俺より一回り小柄だが顔立ちは似ていて・・・なかなかの男前だ。俺と違うのは目力くらいか?

「すみません・・・総二郎さん。私が頼りないために京都まで来ていただいて・・・お家元にも申し訳ないです」

「まぁ、そう言うんならもう少し気合い入れて頑張ったらどうだ?まずはその小さい声からどうにかしろよ!そんなんじゃ誰にも話を
聞いてもらえないだろう!それに背中に力がねぇよ・・・しゃんと立て!姿勢が悪すぎだよ!」


元哉と一緒に行ったのは京都でも有名な料亭でなかなか風情のある粋な店。
そこでやはり同席したのは金井支部長とその息のかかった後援会の重鎮達。それぞれ隣には年頃の娘が着飾って
座ってるがその中でも一際目立つ美人がいた。

「総二郎さん、あちらは後援会副部長の清武さんのお嬢さんでゆかりさんと申します。なかなかの美人でしょう?
どうでしょう・・・お隣にお呼びしましょうか?お年頃もいい感じかと思いますが?」

「いえ・・・私はそのために来ているわけではございませんのでご遠慮申し上げます。東京のほうに見習いをさせている
者がおりますので・・・今度、家元夫人とこちらにも来る予定です。その時に支部長にもご紹介しましょうね」

「・・・ほう、そうでしたか。それは余計なことを申しましたな」

俺の噂でも聞いていて女を見れば見境ないと思ったか?
悪いがあんな女には興味はない。確かに美人で連れて歩くにはいいかもしれないが俺の気持ちが全く反応しない。
それにどう見ても気が強い・・・あの手の女は抱いた時に興ざめするタイプが多いんだよなぁ・・・。
演技するタイプだろ?そのくせ要求はすげぇんだよ!・・・って何を考えてるんだ?

思わず周りを見てしまった・・・元哉だけが妙な顔してるけど他の連中には気が付かれなかったようだ。

俺に呼ばれなかったことが気に入らなかったのか、ゆかりという女性はこの後も笑うことなくそこに座っていた。
横を見たら元哉がそっちを見てるけど、こいつ自分はかなりの小心者のくせにもしかしてこんな女がタイプなのか?

今度は俺が妙な顔して元哉を見ていた。
それに気がついた元哉は、慌てて持ってた皿を下に落とすほど。おかしくなって小さな声で聞いてみた。


「お前・・・もしかして好きな女とかっていんのか?」

「とっ・・・とんでもないですっ!いません!・・・いませんよ!すっ・・・好きな人なんてっ!」
「なんだよ!そこまで驚くことでもねぇだろう?聞いただけだよっ!」

マジでこいつの中に西門の血が流れてんのか?俺が知る限り西門の男は昔から女に困らないヤツばかりだ。
親父もそうだしここの叔父さんもそうだ!俺に至っては記録保持者・・・それに比べてなんて気の弱い男だ!
この男を一人前にする前に、叔父さんの回復を待った方が絶対に早い気がする。


そんなことを思いながら酒を飲む。ついこの前の夜を思い出していた。

この会場を通り越して俺が見ているのは東京にいる牧野の笑顔だった。


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Comments 2

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2017/08/25 (Fri) 14:13 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは✨

いきなり画面に「玄関あけたら…」だったからびっくりしましたよ!ありましたね~❗(笑)

確かに自宅はないかも…。類はありましたよね!
しかも響きそう…(゜ロ゜;ノ)ノ
石庭に響くアノ声…ヤバい‼️(笑)

バイクの時に考えたのですが、帰りがキツいだろうからやめました(笑)自分の経験から…。

ラストに向けて頑張ります‼️

2017/08/25 (Fri) 14:56 | EDIT | REPLY |   

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