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今日の野点の会場は金井支部長の屋敷・・・この京都の中でも有名な旧家で、広大な敷地を持つ大邸宅だ。
当然招待客も多く西門の門下だけでなく、この土地の有力者がかなりの数呼ばれていた。

その屋敷に家元夫人と牧野を連れて朝早くから訪れていた。

屋敷内で宗家専用に着替え用の部屋をもらい、そこで牧野に着物を着せてやった。
夏に作ったこの日のための着物・・・秋らしい色と文様でこの季節にはぴったりだ。俺が選んだだけあって牧野の顔立ちにも
よく合ってるし、今日の会場でも注目されること間違いない。
最後に帯を締めて形を整えたら髪結いと交代。牧野はおとなしくその黒髪を結い上げてもらっていた。
俺はその間に自分の着替えを済ませて、支度の出来上がった牧野を迎えに来た。

「こんな感じでよろしいでしょうか・・・こちらさんはご亭主さん側と聞きましたのでそれなりにいたしましたが」

「えぇ、いいでしょう。ありがとうございます。仕上げはこちらでいたしますから」

結い上げた髪に最後のかんざしを挿す・・・着替え終わって鏡の前に立つ牧野はとても美しかった。
このまま押し倒してしまいたくなるほどの色っぽさ・・・いつの間にこんなに変わったんだろうと思うぐらいだ。

「よし!上出来だな。やっぱ恋してると女は変わるよな」
「何言ってんのよ!メイクさんの腕がいいんでしょうよ!」

「馬鹿言え!お前を変えたのは俺だろう?ちょっと着崩れたら大変だけど・・・まぁ、いいか!」

そう言って唇を重ねる・・・帯の下に伸びていく俺の手を、キスされたままの牧野の手が思いっきり引っぱたいた!

*********

今日は野点とは言えある程度作法を取り入れたもの。
最近はバスバーナーなんてのを使うこともあるみたいだが、間違ってもこの西門がそんな風情のないことはしない。
きちんとかまどを用意して湯を沸かす。道具一式を収納する籠を置きそこに涼炉を組み合わせる。

金井邸の広い庭にいくつかの茶席が作られていて、そこに敷かれた主毛氈が青空に映えていた。
そして色鮮やかに染まっている紅葉がこの秋の野点を一層引き立てる。

時間が来て大勢の客が待ちわびる中、俺たちは金井支部長に続いてこの会場に入った。
家元夫人の後ろに俺と元哉がつき、その後ろには牧野が並ぶ。
わかっていたことだが俺たちよりも牧野が現われたことに驚きの声があがった。

周りからはあの女性は誰だと探りを入れるような声が聞こえたが、本人は下を向くことなく真っ直ぐに顔を上げていた。
家元夫人からの指導もあったんだろう、毅然とした態度で周囲に笑顔を向けていた。


そして金井支部長の挨拶が終わると家元夫人の茶席、俺の茶席、元哉の茶席と別れて野点が始まる。


牧野は家元夫人の後ろについて手伝いをしていた。
ちょうど家元夫人の茶席には京都の古株が集まっていて、ほとんどが男でその視線は牧野に集中している。
牧野の笑顔がそいつらを引きつけてるのか、中には家元夫人の手元なんて見てねぇヤツもいるぐらいだ。

そして俺の前には何故かこの辺りの有力者の娘と思われる連中が集まった・・・なんだかド派手な茶席になってしまったが。
しかも席がすごく近い。もう少し下がってくれないと困るんだけどって引いてたら、それを横から睨み付ける牧野と目があった。
すげぇ恐ろしい顔で見ている・・・いや、だってこれは俺が選んだわけじゃねぇし!

「総二郎様・・・何処を見ていらっしゃるの?ここは私たちのお席ですわ・・・はやくお願いいたします」

「はぁ・・・では、もう少しお下がりいただけますか?少し近すぎますので私が動けませんから」


そして俺の向こうにある元哉の茶席には何故かあの清武ゆかりがいた。
これはこれでなかなか・・・まるでヘビに睨まれた蛙のようになってる。気の毒に元哉はすでに真っ青だ。

***

牧野は家元夫人が茶を点てる手伝いをしていたが、離れた場所から見てもその所作が美しくなっているのがわかる。
いつの間に身につけたのか、西門の作法も覚えて、家元夫人との息もぴったりだ。初めからうちの人間に見えるほどだった。

俺の方が手を止めて見てしまうぐらい着物の着こなしも笑顔の作り方も数ヶ月前とは雲泥の差だ。
野点はある程度の会話は許されているからなのか、家元夫人の茶席の客は牧野になにやら話しかけているようだ。
どんな会話をしているんだろう・・・茶席に相応しい趣のある会話なんて手慣れた人間じゃないと出来ないものだけど・・・。


「総二郎様は先ほどからあちらを見ていますけど、あの方はどなたですの?なぜ家元夫人とご一緒なのかしら?」

「あれは東京の宗家で母について見習いをしている者です。この西門の事を学んでもらっているのですよ」

この一言でわかってくれるのかどうかは疑問だが、俺の周りの女性達は牧野を嫌な目で見ていた。
まぁ・・・これも今だけだ。牧野は京都では俺の側から離れないから嫌がらせになど遭わないだろう。
そう思いながらこの面倒くさい茶席をやり過ごした。何度離れてくれと言っても近寄ってくるこいつら・・・ホントに面倒だっ!


そのうち俺の後ろ側・・・元哉の茶席から突然大きな声が上がった。甲高い女性の声・・・清武ゆかりだった。

「どうして下さるの?これはおばあさまからいただいた着物ですのに!だいたいお茶をこぼしそうになるなんて酷すぎますわ!
それでも京都西門の方なのかしら・・・信じられないわ!」

「申し訳ありません・・・てっ・・・手が滑ってしまって・・・」

「手が滑った?そんな言い訳聞きたくありませんわ。要するにまだお手前が半人前と言うことでしょう?よくそれでこの京都を
纏めようなんて思うんですね!いつもいつもオドオドしてるし・・・本当に頼りないわ!」

ゆかりの声で一斉に周りの連中の視線がそこに集まった。
こんな事で騒ぎ立てること自体、この関西支部が上手くいってない証拠だ。
ほとんどが西門内部の人間で行われてるのに、きちんと客の割り振りもされてないなんて。
あえて元哉に嫌がらせでもしているのかといわんばかりの茶席に少しイラついてしまった。

仕方がないから少し助けてやろうかと、目の前の客に断りを入れて席を立とうとした。
その時に誰かが俺の前をすぅっと通り過ぎていった・・・顔を上げるとそれは牧野だった。
慌てて家元夫人のほうを振り向いたらクスクスと笑っている。もしかして家元夫人が牧野を行かせたのか?


「失礼いたします。お嬢様・・・お着物は大丈夫ですか?もしよろしかったらこちらに来ていただけませんか?
すぐにシミにならないように処置させていただきますので・・・」

ゆかりのすぐ側で腰を低くしてそう声をかける。

「え?・・・いえ、大丈夫よ。あなたはどなたなの?」

「私は牧野と申します。東京で若宗匠にご指導していただいていた者で、今は家元夫人に付いてお勉強させていただいております。
この度若宗匠がこちらで野点をされるというので、お言葉に甘えて家元夫人に同行させていただきました。
元哉様は少しお疲れのご様子ですのでよろしければ私が変わってお茶を点てさせていただきましょう。
よろしいでしょうか?お嬢様・・・」

「え?・・・えぇ。いいわよ」

「ありがとうございます。それでは元哉様、少しの間お席をお借りいたします。その間、お休みになっていてくださいませ」
「え?あ・・・はい。申し訳ありません」

牧野は元哉に変わっていきなりこの野点で茶を点てた。
それは俺でも見たことがない光景だった・・・東京では野点なんてやったことがないからだ。
それなのになんだ?この変わり様は・・・たった1ヶ月なのにすっかり落ち着いて客を相手に茶を点てているなんて。


俺はただその横顔に・・・その姿に目を奪われていた。


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Comments 2

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2017/08/28 (Mon) 23:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は~!

そうなんですよ・・・。何故これが続くんだろう。そんなふうに設定したつもりはないんですが総二郎といい
類といい、何故?チェック入れようと画面開いたらまた軽いこのシーンがまた待っていた・・・。

昨日もこんなシーンを見たような・・・って気分です。
そして今日もでしょ?

もう訂正出来ないから公開するしかないんだけど、毎日何やってるんだろうって思います。
仕事で疲れて帰って、修正するのがこればっかり!
幸い軽めだからいいけど、このシーンが多い作家さんを尊敬します!

助けて~!!

2017/08/29 (Tue) 00:39 | EDIT | REPLY |   

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