FC2ブログ

plumeria

plumeria

クリスマスが終わるとすぐに牧野の誕生日だ。この日は西門でも盛大に宴会が行われた。

俺が京都に行く前よりも規模がデカいのが気に入らないが、牧野が何もしないで座っておける唯一の宴会だった。
出席者の中には後援会長やら茶道教室の指導員やら、遠くからはどこかの支部長やら・・・。
いつの間にか牧野は西門の主要部門から可愛がられていて、今では出入りする親父達のアイドルと化していた。
正式発表前にしてはすごいメンバーだ。後援会の忘年会みたいになってる気がすんのは俺だけか?
牧野は平気で皆と会話して飲めない酒を注いでもらってるけど、その光景に俺の方が戸惑ってしまう。


「西村さん・・・何があったんでしょうか。牧野はちゃんと稽古してるんでしょうね?」

「はい。心配しなくても大丈夫ですよ。お稽古は家元夫人が結構厳しくされてますから。その態度を見てのこの評判でしょう。
どんなに辛くても終わったあとには笑顔がありますからね。それにあのエネルギーの持ち主ですから次の日には元気ですし」

「そんなにお袋は厳しくしているんですか?」

「・・・ご自分がご苦労されたところは、牧野さんの場合もっと苦労するでしょう?今のうちに厳しくしておかないとこの先が大変だと
いつもおっしゃっていましたから。でも牧野さんも泣くような人ではありませんから頑張っていましたよ」

俺といるときにはそんなふうには見えなかったけどな。お袋も俺の分まで稽古するんだって張り切ったんだろう・・・。
牧野がいつか言っていたな、時々俺の部屋で休むんだって・・・そんなときは稽古で辛かったときかもしれねぇな。
京都での野点で見せた牧野の変化は、想像以上に厳しかったお袋の指導の賜ってわけだ。

「つくしちゃん、お誕生日おめでとう!これは私とお家元から。お役に立つといいんだけど」

お袋が手渡したのは和装用のバッグ。牧野の歳にあうように少し明るめのものだった。
如何にもここでは必需品って感じのプレゼントに笑うしかない。牧野はまだ持っていなかったと言って喜んでいた。

西村さんからはマフラーを、小池さんからは帽子を、料理長からはエプロンとレシピ本を、皆がそれぞれに考えた贈り物を受け取っていた。
例の2人からもさりげなくプレゼントがあったようだけど、西村さんがこっそりと他のプレゼントの中に紛れさせていた。

何故かここにあきらと類からバラの花束が届けられた。つい、先日会ったばかりなのにどうしてもこの日だけは特別なんだろう。
メッセージカード付きの大輪のバラの花束を抱えて写真を撮り、2人にお礼のメールを送っている。
そして司からもダイヤモンドが鏤められたブレスレットが届けられた。
懲りないヤツ!俺が呆れた顔をしているから牧野はそれをどうしようかと、箱の中身を見て悩んでいた。

「いいんじゃねぇか?俺がいないときにつけてやれ。それならかまわねぇよ。あいつの気持ちだからな。
でも俺がいるときは許さねぇぞ。この前のあきらのネックレスもそうだけど、他の男からのアクセサリーは俺に見せるなよ!」

「ん・・・じゃあ記念にしまっておくよ。総二郎から見えないところにね」

宴会が終わる頃には牧野の席の後ろはプレゼントの山。色んな親父達からの包みで溢れかえっていた。
それを一つ一つ開けては大騒ぎ。中には牧野を自分の孫と勘違いして、ぬいぐるみを贈るようなヤツもいてみんなで大笑いしていた。

久しぶりの自宅での宴会は次の日になるまで続きそうだったから、親父に断って早々に牧野と部屋に戻る。


部屋に戻ると牧野の誕生日はあと十五分で終わってしまうところだった。

「今日は俺からは何もないけど、誕生日が終わるまでこうしといてやるよ」

立ったまま牧野を抱き寄せた。
キスするわけでもなくただ思いっきり抱き締めてるだけ・・・昨日もこいつの誕生日がくる瞬間、ベッドの中でこうしてたんだけど
終わるときも同じようにこうしていたかった。

「うん・・・もうなにも要らないよ。総二郎がいたらそれでいい・・・」
「ごめんな。まだ帰ることが出来なくて、お前を連れて行くことが出来なくて。マジで離れたくねぇけど、もう少し我慢しといてくれ」

「大丈夫だって!お稽古しながら待ってるから」
「お袋が厳しいらしいけどそれだけ真剣だって事で許してくれよ。この家を守っていくにはそんだけ覚悟がいるって事だから」

こうして12月28日、「牧野」としての最後の誕生日が終わった。


********


新しい年が明けた。牧野は自分の親元に帰る日を遅くして西門で新年を迎えた。

今年初めての汲む水で釜を開く・・・初釜は3日を予定していたからそれまでは内々での祝い事だった。
もちろんその中に牧野もいれて家族で正月を過ごした。家を出て行った兄貴もこの時だけは顔を出すことを許されていた。
まだ学生の弟も自宅に戻ってきて久しぶりに賑やかな正月だった。

「へぇ、総兄ちゃんの彼女なんだ!可愛いね!意外だな・・・こんなタイプ選ぶとは思わなかったよ」
「うるせぇよ!久しぶりに顔見せたと思ったら一言余計なんだよ!」

「いいんじゃないか?総二郎が落ち着いたのは彼女のおかげなんだろ?家を出て行った俺が言うのも変だけどこいつのこと
宜しくね、つくしちゃん、だっけ?」

「はい、牧野つくしと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします!」

去年の夏に作った着物を着てお袋の横に立って挨拶をしている。
ほとんどの使用人には正月休みを取らせているから、俺たち家族のことはほとんど牧野がやっていた。
年末には料理長と一緒におせちを作って重箱に詰め、それ以外にもお袋に習って昔ながらの正月飾りなど色々と準備をしていた。
まるで家族のように楽しそうに俺たちの中で動き回るこいつを見ていると、まだ何も約束できてない事に焦りを感じた。

そんな俺の表情を親父は見逃していなかった。


「総二郎・・・3日の初釜の席で話を出そうと思うがそれでいいか?」

「え?・・・いいのか?後援会の方に反対意見はないのかよ」

「この前の宴会を見ただろう?あれだけの大御所が参加して彼女の誕生祝いをしてくれたんだ・・・反対意見はないだろう。
もしあったとしても上手く纏めてくれるんじゃないのか?そのぐらいのメンバーだったろう?」

確かにそうだった。俺が次期家元として茶会に出るときは厳しい目で見ていたくせに、牧野には優しいんだと思ったぐらいだ。
牧野は知らない間にあの連中を虜にしたって事なのか?その明るさで・・・真っ直ぐな瞳で人を引き寄せるヤツだから。

親父のあとにはお袋も言葉を続けてきた。

「つくしちゃんにはもう随分前からお話ししてたの。初釜でとは言わなかったけど、いつの日か総二郎さんの横に立とうというなら
覚悟してお稽古しなさいと・・・並大抵の努力ではこの西門を守れないって話してきたの。だからつくしちゃんも変わったでしょう?
貴方がいない寂しさを全部お稽古に使うことで頑張ったのよ。褒めてあげなさいね・・・総二郎さん」

「あぁ・・・色々ありがとう。これからも頼むな」

こんな話をしている間も、隣で兄貴と弟から俺の昔話を聞いて大笑いしてる。
何処にいてもすぐに牧野の周りは、陽だまりの中心みたいに賑やかで明るくなっちまうんだな。

***

1月3日になった。

西門本邸で行われる初釜には後援会幹部に続いて各支部長、主要後援会メンバーに婦人会の大御所が揃う。
今まで来なかったくせにあの3人までが顔を揃えて来やがった!どこからネタを仕入れたのか知らないが、すまして最前列を陣取った
おまけに滋と桜子までが派手な振り袖で現われた。5人揃ったら圧巻だ・・・古株の爺さん達が呆れた顔でこいつらを見ていた。
初釜ってのは主催者より目立つもんじゃないのに、こいつら全員が悪目立ちしていた。

今日は牧野には西門の紋を織り込んだ緋色綸子地の大振袖、花車を模様に入れた特注のものを着せていた。
そこにいるだけで華やぐその着物もそうだが、牧野自身もいつもよりも和装メイクしてるせいか溜息が出るほどの美しさだった。
初釜の儀式が終わったあとの茶懐石、それが始まる前に家元から牧野の紹介がされた。

正面に座る家元と家元夫人に続き、俺の横には牧野が座り招待客の前で頭を下げる。
誰からも異議はなかった。お袋の実家、西條家の名前があってなのか、それともあいつらがそこに並んでいるからなのか・・・。
にこやかに正面を向く牧野に桜子と滋が手を振ってた。「手を振り返すなよ!」と、思ったときにはもう遅かったけど。
類は寂しそうに、あきらは嬉しそうに・・・司は無表情で牧野を見つめていた。

「新しく西門に迎える者も決まりました所で、総二郎も今後なお一層の精進を重ねるものと信じております。
皆様方には若い2人にこれからも厳しいご指導をお願いしたいと存じます。西門がこの先も茶の心と伝統を守っていけるよう、
お力をお貸しいただきたい・・・どうぞ宜しくお願い申し上げます」

家元の締めくくりに家族一同が頭を下げた。牧野は深く下げすぎて笑われるほどだった。


すべてが終わってから招待客を見送ると、安心した牧野は俺の腕の中に倒れ込んできた。

「よく頑張ったな!お疲れさん。これが毎年の行事だ・・・よろしくな。来年もやるんだから」
「総二郎、大変な家に生まれたんだね・・・こりゃ、苦労するわ!」

そう言いながら嬉しそうに笑ってた。


yjimageAATOY8GO.jpg
関連記事

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/09/06 (Wed) 14:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

もうプチバージョンじゃなくて残念でした?今回は意外と沢山書いた方でしょ?
このお話だけもう年を越しましたよ。
半袖で寒い時期のお話しを書いても、なんか変な感じがします。いや、自分のせいだけど。

もうねぇ・・・プレゼント攻撃のネタがなくなりまして、抱いててもらっただけで幸せだろうッ!っていう
自分の願望により、最後の15分はハグのみにしました。
それだけで私なら十分だわ・・・(そのままで終わるはずがないんだけど)

最近涼しくなりましたねぇ・・・私も少し熱を出しましたよ。さとぴょん様も気をつけてくださいね!

今日もありがとうございました!

2017/09/06 (Wed) 20:51 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply