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どうしても抜けられない講義を受けて、やっと山田教授から解放されたのは夕方になってから。
つくしは図書室でフランス語の勉強をするって言ってたから、急いでそこに向かっていたらちょうどドアを開けて出てくる高城を見かけた。
その表情はつくしを前にしたときとは違って、随分と険しいものだった。
多少イラついてるのか、通り過ぎる学生にぶつかっても一言も謝ることなく気難しい顔を全面に出している。

その光景に足を止めてしまったが、高城は俺の方に向かって来たのに気付きもせず廊下を右に曲がった。

まさか、またつくしに近づいたのか?そう思って図書室に入ると読書スペースにつくしの姿はなかった。
少し遠くまで眼をやると、窓辺の閑談席で総二郎と話をしているのが見えた。
相手が総二郎ならそこまで気にはしないけど、あいつがいつもより優しい笑顔をつくしに向けてる気がするんだけど。

でも、つくしが笑ってるっていうことは高城のことで嫌なことがあったわけじゃなさそうだ。
もしかしたら総二郎が助けてくれたのかもしれない・・・俺は2人の方にゆっくりと近づいていった。
それにしてもなんて穏やかな顔でつくしを見てるんだろう。あの女ったらしの総二郎とは思えない表情に少しだけ戸惑った。

すぐ近くまで行くと先に総二郎が俺に気がついて、つくしに寄せていた身体を元に戻す。
そしていつものように片手を上げて、ふざけた笑顔を見せた。さっきまでの溶けそうな顔はつくしにだけってことか・・・!

「よっ!類。今日は随分遅かったんだな。珍しいじゃん、つくしちゃんを1人にするなんて」

「つくし、総二郎と何話してたの?総二郎も今日は大学に何しに来てるのさ。つくしの勉強の邪魔ならやめてよね」

「西門さんはそんなんじゃないわよ。お話しぐらいいいじゃない?」

つくしは別に気にしていない様子で笑っていたけど、総二郎の方が変な顔していた。
それによく見たら総二郎がつくしの隣に座ってる。こいつは俺たちの気持ちを知っているから一度もそんなことはしなかった。
と、言うことはここに誰かが座っていたと言うこと?・・・俺は今は空席の向かい側の席に目をやった。

「お!気がついたか?そこにお前の新しい敵が座ってたんだ。気配だけで気がつくなんてマジで怖いな!・・・類」

「違うよ。今そこで見かけたからさ・・・総二郎も話したの?高城誠・・・だろ?」

「あぁ、何者だ?随分と意味ありげな態度でつくしちゃんといたから、こっちに引っ張ってきて尋問してたとこ!でも上手く交わされた
感じでさ・・・お前の事も知ってるらしいじゃん。完全につくしちゃん狙いだな・・・こりゃ、また事件発生だな」

「茶化さないでくれる?俺もあいつの事は気に入らないんだから・・・」

総二郎は自分から席を立ってつくしの横を俺に譲って、向かい側の高城が座っていた席に移動した。
つくしは借りてきた本を夢中になって読んでいたから俺たちの話はほとんど聞いていない。


そんなつくしを横に置いたまま、あきらから聞いた高城の話を総二郎にも話した。
総二郎は茶道家だからわざわざ海外で活動している日本企業までは詳しく知らないはずなのに、高城コーポレーションの名前を
知っていた。こう見えて経済誌までちゃんと目を通しているんだと偉そうに説教してる。

「お前が知らなくてどうすんだよ!仮にも花沢の後継者だろう?日本に戻ってきた企業なんだから西門ですら目をつけてんだ。
ホント・・・興味が出てきたらすげぇ調べるくせに出なかったら完全放置するんだから・・・花沢が心配だよ」

「総二郎が心配しなくても大丈夫だよ!たまたま知らなかっただけで、そこまであきらみたいに言わなくても・・・」

「高城コーポレーションかぁ・・・花沢とは扱うものがちょっと違わないか?いや・・・違うから手を出したいのか。
そういう線もあるよな。類を敵に回してでも近寄るんだからどっちかだろうな。」

「どっちか?」
「本気の恋か、営業の恋か・・・ってことじゃねぇの?」

暢気に本を読んでるつくしを見て2人で溜息をつく・・・総二郎は自分の役目はここまでって顔をして席を立った。

「まぁ、何かあったら力になってやるよ。妹ってのは面倒だな・・・俺にはいなくて良かったよ。じゃあな!」
「総二郎、守ってくれたんならサンキュ!でもちょっと距離が近すぎるよ」

アホか!って小さく呟きながら、総二郎は俺の肩をポンっと叩いて図書室を出て行った。


「つくし・・・そろそろここを出ようか?もう遅くなったよ。本が必要なら買いに行こうか?付き合うよ」
「うん・・・・・・あら?西門さんは?もう帰ったの?」

「つくしが本の中の王子様と恋をしてるうちに帰ったよ。それ、童話でしょ?楽しそうに読んでたね」

「ふふっ・・・わかった?この童話の王子様・・・何だか類に似ているのよ!」


ここが図書室じゃなかったら確実に押し倒してるよ・・・。


********


大学に通い始めて2ヶ月が過ぎた。
類とは時間が合えば情報屋って人から集めた書類を見ながら、過去の事件や新聞記事をネットで調べていた。
それでも20年近く前の事、何か知っていそうな人が見つかっても連絡を取ることさえ難しかった。
それに昔と違って個人情報管理が厳しい今は、情報源に辿り着くことさえ出来ないことも多かった。

やっともらった僅かな資料から数人の人に連絡をしてみたけど、私が花沢に置かれていた日の事なんて誰も覚えてはいない。


「そうですか・・・失礼なことを聞いて申し訳ありませんでした」

溜息をつきながら何件めかの電話を切る類に、どうやって声をかけていいかわからなかった。

「どうだった?・・・怒られたの?」
「ううん。怒られはしないけど、もうここの子供は亡くなっていたみたいで・・・悪いこと聞いたみたいでね」

どれだけ嫌な言葉をかけられても毎日少しずつ調べ物を進めてる。そんな類に感謝しながらも、もうこのままでいいって思うときがある。
誰も祝ってくれなくても、誰も理解してくれなくてもいいから・・・このまま側に類がいてくれたらそれでいいって。
そんなことを考えていたら、つい自宅と勘違いして類の肩に頭を置いてしまう。

「どうしたの?疲れちゃった?学校でそんな事するの珍しいね」
「あっ!忘れてた!・・・どうしよ、誰にも見られてないかしら・・・」

「いいじゃん、もう知られてるよ。今更誰もおかしいなんて思わないよ・・・多分ね」


この後、類は今日最後の講義に出るために情報処理室を出て別棟の方に行った。
私は今日の授業が終わっていたから、類が終わるまでカフェで待つことになり、荷物を纏めてそこに向かった。

英徳のカフェはすごく広いスペースを確保してあって、たくさんの生徒が時間が空くとここでくつろいでいた。
私のお気に入りは中庭がよく見える一番端の席。そこで授業の復習をしながら類を待つことが多かった。


「つくしちゃん・・・一人?」

「え?・・・あ、高城さん。うん、今は類を待ってるの」

また、声をかけてきたのは高城誠さんだ。

私はこの人は苦手ではなかった。何故かこの人といると不思議と落ち着ける・・・類が言うほど嫌な人とも思えなかった。
私には攻撃的な部分も見せないし、話し方も穏やかで優しいから・・・かしら?
西門さんや美作さんみたいにわざと誘うような言い回しもしないし、他の男子生徒みたいに目的が花沢の家だと思わせないし。

「そう言えば高城さんはアメリカにずっといたんでしたっけ?でも、生まれは日本なんでしょ?」

「うん、そうなんだ。結構長いことアメリカに住んでるんだけど、その前は日本で父が小さな機械部品の工場やっててね。
ちょうど俺が産まれたころは会社経営が大変だったらしいんだ。だから一時期は親戚の家に預けられたりしてね。
そのうち日本の工場は潰れちゃって、父がアメリカでやり直そうとして俺を連れて向こうに移ったんだって。
今じゃこんな生活してるけど昔は貧乏してたみたい。つくしちゃん、それよりさ・・・名字じゃなくて誠って呼んでよ」

「え、名前で?・・・誠さんって呼ぶの?」

「そう・・・なんだか距離が近づかない?名前で呼ぶとさ」


いや、近づいてもいいんだけど困るのは私じゃなくて高城さんだと思うけど。

「それはどうかしら。類に何て言われるかわからないから高城さんにしておくわ。ごめんね、類は・・・兄は厳しい人だから」

「・・・でもお兄さんだよね?慕うのは構わないけどそれ以上の関係にはなれないんだよ?君はともかく彼は妹にばかり目を
向けてたらご両親が黙ってないんじゃないの?」

「うん。わかってるわ・・・でも、私たちはこれでいいのよ。じゃあ、類が来る時間だからそろそろ行かなきゃ。またね!高城さん」

本当はここで待っていたかったけど、これ以上会話をしたら彼が何を言い出すかわからなかったから席を立ってしまった。
類がいる別棟の休憩室で待とう・・・高城さんをカフェに残したまま、振り返らずに足を速めた。


「ふぅ・・・毎回こんな事言われると嘘がつけなくなっちゃうよ・・・」


ここで振り返ったら見ることが出来たかもしれない。
私に向ける笑顔とは正反対の、驚くほど怖い表情を・・・。


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Comments 2

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2017/09/05 (Tue) 05:42 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます

えみりん様~!おはようございます!

匂いますか・・・?ふふふ。
どうなんでしょうねぇ。私は単純な人間なんで難しいこと考えられないんですよ。

怪しい人は大好きです!最後まで嫌なヤツで突っ走りたいと思います!でも、いつ終わるんだろう・・(始まったばかりなのに)

熱は下がってないんです・・・むしろ上がった。知恵熱かなぁ・・・馬鹿な話からいきなり真面目モードなお話しに切り替えたから・・・
次の総二郎のお話を書き始めたらもっと暗くなってしまった・・・。
明日辺りダウンしそうな気がします。早く月初の仕事を片付けないとっ!

と、言うことで今から行ってきまーす!


2017/09/05 (Tue) 08:42 | EDIT | REPLY |   

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