10月の向日葵 (15)

弟子の1人が告げてきたのは類の訪問だった。
しかも俺宛じゃない。つくしに会いに来たと言われて驚いた。

あいつらはこの家を敬遠してる。それもそうだろう、いるだけで息が詰まるような空気に包まれてるんだ。
それなのに何年も来なかった類がつくしを訪ねてきたなんて・・・何の用事で来たのかと思って様子を見に行ったら、もうつくしは
茶道会館に戻っていくところだった。その表情はこの前と同じく悲しげで辛そうだった。

そして、足早に茶道会館に戻っていく。その様子から類との話で何かがあったと悟った。
俺はそのまま応接室に行くと、なぜかそこにはお袋が厳しい顔で立っていた。

「どうかしましたか?類が来たと聞きました。つくしに何の用で来たんですか?あいつ・・・」

「総二郎さん・・・別に大したことではないわ。でも、貴方には悪いんだけど、もうここには来ないようにって類君にはお話ししたの。
ごめんなさいね、お友人なのに。類君がつくしちゃんにプロポーズしてるから返事を聞きに来ただなんて言うんですもの・・・。
花沢は大丈夫なのかしらねぇ、つくしちゃんは西門にいてもうちの人間じゃないのに勘違いしてるんじゃないかしら」

「類は勘違いなんてしていませんよ。西門の名前なんか気にしていないでしょう。それで、なんで家元夫人が追い返すんです?
それこそこの家の人間じゃないなら必要ないのでは?類に何を言ったんですか?」

「・・・何も言ってませんよ。失礼するわ・・・婦人会があるから支度をしないと」


俺の横を厳しい顔のまま通り過ぎる家元夫人。
そんなわけねぇだろう・・・!もう少しでお袋を掴んでこの言葉を出すところだった!
必死で堪えてお袋の足音が聞こえなくなるのを待ってから、俺は応接室の壁に拳を振り下ろした!

壁に薄く血が滲む・・・それよりもお袋がどこまでもつくしを縛り付けていることが許せない・・・
お嬢様育ちで苦労を知らないお袋は、自分でしていることがどれだけつくしを苦しめているのかわかってないんだ!
子供の時の恩を知らず知らず言葉に出して、雁字搦めにしてるのに!つくしが断れないようにしてる事がわかってねぇんだ!

どうしてわからないんだ!母代わりに育てたって言うんならつくしの表情を見て気がつけよ!


傷つけた指先が熱い・・・あまりに力を入れすぎたのか床に一滴の血が落ちた・・・。
つくしもこんな涙を1人で流してるかもしれない・・・そう思いながら自分では助けてやらなかったことを今更ながら悔やんでいた。


********


「総兄・・・怖い顔してどうしたんだ?そんな顔してたら稽古に来る女に嫌われるぜ?この世界も今では愛想が一番じゃね?」

自分の部屋の前で偶然鉢合わせした考に話しかけられて、その内容の調子良さに頭にきた。
孝三郎は今は大学4年、俺の4つ下でこの西門の3男坊だ。一応師範免状は持っているが昔の俺と同様、夜遊びの酷い男だった。
昔からこの家では何をやっても許されるヤツで、それが為に今でも自分の思い通りにならないと暴れまくる面倒なヤツ!

こいつが自分では告らねぇでお袋を使ってつくしを自分の相手に決めつけた・・・それがどうしても許せなかった。


「考・・・お前、なんでこんな事をしたんだ?」

「こんな事?つくしの事か?・・・どうしてだろう。どうしても一緒になりたかったから?邪魔なヤツが大勢いるからさ。
目の前にもいるし、フランスにもアメリカにもいただろ?手に入れるためにはこうでもしないとさ・・・頭を使っただけだけど?」

「何だと!じゃあ、つくしの気持ちはどうなるんだ!あいつがお前の事を選んでないのに馬鹿言ってんじゃねぇよ!今すぐに撤回してやれ!
つくしはお前の所有物じゃねぇよ!それに本気でモノにしようと思うんなら自分の口で言えばいいだろう!
お袋を使ってふざけたマネしやがって・・・男らしくねぇんだよ!」

怒りがおさまらない俺とは反対に考はまるで「それがどうした」と言わんばかりにニヤけていた。

「なに熱くなってんの?総兄・・・やっぱり総兄もつくしに惚れてんだろ?でも、言えない・・・そうだろ?
昔っからそうだよな!一番つくしの側にいて、つくしも総兄にくっついててさ!でも、言えねぇんだよ。俺は知ってるよ、総兄の気持ち。
祥兄がいたときには祥兄がつくしを好きだったから言えなくて、他の女で誤魔化した。
今度は自分が次期家元になったから庶民出のつくしは手に入れられない。でも、もう立場上夜遊びも出来ない。
だから、総兄は今限界なんだよ!何にも手に入らなくなったからな」

「・・・言いたいことだけいいやがって!!考、お前・・・!」

ホントにこいつは子供だ・・・なにもわかっちゃいない!
自分の気持ちだけ押しつけやがって、つくしの気持ちなんて考えてもないんだ!
右の拳をぐっと握り締めると微かに震えるのが自分でもわかる・・・!


「ここで俺に手を上げるつもり?馬鹿なことは止めた方がいいぜ?総兄・・・つくしは俺が大事にしてやるよ。それにさ、残念だけど
総兄にはそろそろ相手が現われるぜ?覚悟しといた方がいいんじゃない?・・・けっこう美人らしいよ?」

「・・・何だと?」


今すぐに殴り倒したいほど考が憎かった!・・・それでも、ここで考を殴ってもなにも変わらない。
俺の相手が決まるだと・・・?上等じゃねぇか!そんなもの連れてくるなら連れてくればいい!俺は認めねぇ、絶対に・・・な!

俺の横を薄笑いを浮かべて通り過ぎる考・・・その姿を眼で追うこともなく俺は自室に戻った。



この時、俺は決心した。つくしを考には渡さない・・・!そして俺は他の女を選ばない。


*********


夜遅く・・・今日は晩飯も食わずに自室に籠もっていた。

考と別れてから自分の部屋で1人、酒を飲んでいた。少しだけ強めの酒だ。
でも、全然酔わない。むしろ頭が冴えてくるような気がしていた。琥珀色のグラスを傾けて長い時間考え事をしていた。
何を考えていたのかと問われると答えられないんだが、漠然と今の気持ちを整理していた。

そこにまた、ノックする音が聞こえた。このノックは・・・つくしのものだ。

いつもより早く身体が動いてドアを開けると、今日も眼を赤くしたつくしが立っていた。
また泣いたのか?俯いたまま少し震えて、何かを喋ろうとしているけど言葉にならない・・・そんな怯えたような表情は見たくなかった。
その震えを止めてしまいたくて俺はつくしを引き寄せて自分の胸の中に入れた!

「きゃっ!総ちゃ・・・ん?」
「いいから!いいからこうしてろ・・・!なにも言わなくていいから!」

つくしはびっくりしただろうな・・・6歳の時に抱き締めた後は、冗談でしかこんなことしてない。
抱き締められてるつくしが泣き出した・・・それは俺の胸辺りが熱く濡れてきたからわかった事だった。
つくしを抱いたまま部屋のドアを閉めて、少し力を緩めたら、つくしは手の甲で目元を拭いながら恥ずかしそうに立っていた。
その手には小さな皿があって、少しだけ形が崩れた握り飯があった。

「それ・・・持ってきたのか」

「うん。晩ご飯食べなかったって聞いたから。これ渡したら帰ろうかと思って・・・総ちゃんが急にそんな事するから崩れたじゃない」

「今から帰る?・・・もう10時過ぎてんのに?」

「いままで家元夫人達とお話ししてて・・・大丈夫だよ。アパートはそんなにここから離れてないから・・・」

つくしはすぐ側の机に皿を置いて、俺の部屋を出て行こうとした。
この時、今までの俺なら止めずに見送っただろう・・・でも、今日はそれが出来なかった!

出て行こうとするつくしの後ろからもう一度抱き締めた・・・ビクッとしたつくしは身を固くして両手を握り締めている。
その固く握られた手を、その上から覆うように俺の手が包むとこいつの震えが伝わってきた。


「つくし・・・帰るな。話があるんだ」

「話?・・・総ちゃんが私になんの話があるのよ」

この前、冷たく追い返したことを責められているような気がした。


「今日はお前を帰さない・・・このままここにいてくれ。俺の側にいてくれないか」


つくしの手の震えが止まった。


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花より男子

6 Comments

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2017/09/25 (Mon) 13:02 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは🎵

なんとか素直にはなってもらいましたが、まだまだ試練続きなんですよ(笑)
もしかしたら、総二郎では話数記録更新かもしれません。まだ、始まっているばかりって感じです。
総ちゃん、頑張りますから!

なかなかややこしい話ですが、最後までお付き合いくださいませ。

今日はありがとうございました♥️

2017/09/25 (Mon) 16:35 | EDIT | REPLY |   

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2017/09/25 (Mon) 18:09 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: こん~~ばんちは?

えみりん様~!爆笑!

9月の彼岸花・・・!流石だわ、ナイスネーミング!あと4回で終われば訂正しなくちゃ!
それがですね、どうも10月でも終わりそうにないんですよ。
大変申し訳ないんですけど、11月は何がいいか考えて下さいません?

そうなのよねぇ~10月末エンドにしたかったんですけどねぇ。
ほら・・・雨の降る日は、ってのに空梅雨でしたでしょ?
晴天の日に終わりましたからねぇ・・・。このお話しも私の希望どおりにはいかないんでしょうね。

何件か「類つくに変えたら?」っていただくこのお話し・・・やっと、総つくになってたかな?ふふふ・・・

2017/09/25 (Mon) 19:41 | EDIT | REPLY |   

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2017/09/26 (Tue) 23:33 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

張り倒したい・・・ですよね?うんうん・・・でもね、考ちゃん、こんなもんじゃないんですよ。
今はまだ可愛いと思って下さい。

申し訳ないですねぇ、家元夫人といい、考ちゃんといい・・・
さとぴょん様のご期待に添えなくて・・・。

あ、秋だからしっとりしてるんですよ。そう思ってね?

2017/09/27 (Wed) 19:30 | EDIT | REPLY |   

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