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「今なんとおっしゃいましたか?つくしの稽古を考三郎に変わると?」

「そうです。これからは総二郎さんに代わって孝三郎さんにつくしちゃんの稽古をつけていただくことにしたのよ。来週からですから、
総二郎さんのお稽古は今日が最後になるわ。しっかりと仕上げて下さい。別に問題はないでしょう?同じ西門流ですもの。
基本は同じです。総二郎さんに問題があったと言うことではないのよ?ただね・・・」

家元夫人の突然の言葉・・・考がさせていることはすぐにわかったが証拠もなく口に出すことも出来なかった。

「ただ・・・なんですか?でもつくしは私がもう5年近く教えてきた弟子の1人・・・いきなり師匠を変えるというのもおかしな話でしょう?」

「つくしちゃんにはもうお話をしてあるのよ。彼女は承知してくれたわ。この私が頼むんですもの、断わったりはしないわよ。
問題はつくしちゃんじゃなくて・・・総二郎さん、あなたです」

「私・・・ですか?」


家元夫人はそう言うと俺に座るように勧めてきたから、仕方なくテーブルを挟んで家元夫人と向かい合って座った。
久しぶりにこの人を正面切って向かい合う・・・残念だがこの時ほど自分がこの人の息子だと自覚するときはない。
祥兄はどちらかというと親父に似ているが、俺と考はこの人にそっくりだ。

まるで自分を見ているかのような気分になるから、昔からこうして話すことには抵抗があった。
昔から俺には愛情を向けなかった母親。それなのに一番似ているのはこの俺なんだ。


「実はね、あなたにもそろそろお相手の方を選ばなくてはと、お家元と相談していたの。それでね、いままであなたが直接教えてる
生徒さんやお弟子さんの選別もしないと、妙な噂が立つといけないでしょう?それで、つくしちゃんには総二郎さんから離れて
もらおうと思ったの。つくしちゃんはもちもん可愛いんだけど、所詮はうちの使用人だった人の娘さんでしょう?
元々あなたが教えてるのも批判があったものだから・・・そういう訳だから総二郎さんも心の準備をしておきなさいな」

「それはどういう意味ですか?すでに私の相手が決まっているとでも?」

「・・・近いうちにお家元からお話しがあります。総二郎さん、あなたはこの家の跡取りだと言うことをお忘れではないわよね?」

「残念ですがこの件に関しては、例え家元のご命令でも聞く気はありません。私には・・・」
「総二郎さん!それ以上はお止めなさい!」

滅多に聞かないお袋の甲高い声・・・流石30年ここで家元夫人をしているだけあってこんな時のオーラは半端ない。
この俺を一言で黙らせた。

「よろしいですね?この家は1000年続く伝統ある西門家・・・あなたの使命はこの西門を次の世代へと立派に継いでいくことです。
多少の事は受け入れて頂きます。そのぐらいのことは次期家元として公式発表された特から承知していますよね?」

「承知したのはこの西門を引き継ぐことだけです。自分の相手は自分で選びますのでご心配なく・・・例えそれが家元のご意向に
添わなくても仕方ないと・・・そちらもそのようにお考え下されば助かります。それではこれ以上の話し合いは無駄のようですので」

「総二郎さん!」

最後の怒鳴り声なんて耳にも入らない・・・お袋の部屋を後にして茶室へと向かった。


***


今日はこの後に後援会の会議と茶道教室で特別講師の仕事・・・茶室でその準備をしていたら珍しくつくしがそこに立っていた。
照れているわけでもないだろう・・・むしろ少し悲しそうに見える。
つくしに向けられたお袋の言葉がどんなものだったのかを想像すると、すぐにでもつくしを抱き締めてやりたくなった。


「あの・・・若宗匠、少しよろしいですか?」

「なんだ・・・その言い方。いいから中に入れば?」

つくしは手に書類を持っている。今日、特別講師をする生徒の名簿を持ってきたらしい。

「失礼します・・・これが、今日の青山での生徒さんの名簿です・・・あの、事前に見せてきなさいと事務長が言うので・・・」

「それで?」

「それで・・・こっちが時間と講義内容と、終わった後に簡単なお茶会があって・・・」

「それで?」

「それで、この時に持っていかないといけないのがこの書類と・・・」

「もう、いいから来い・・・」

真っ赤な顔で書類だけ見ながら説明するつくしの腕を引き寄せて自分の胸に押しつける。
書類がハラリと手から落ちたけど、そんなものは無視・・・一度気持ちを打ち明けたらもう手放すことなんて出来るはずもなかった。

「お着物が皺になるよ・・・総・・・総二郎」

「くくっ・・・!言えるようになったんだ?いいんだよ、着物なんて着替えればいいし、それよりかこうしていたい。もう少しだけな・・・」


つくしを抱き締めているのに、今日は幸福感よりも恐怖心の方が強いだなんて。
さっきまで悲しそうにしていたつくしが俺に抱かれていると安心したように目を閉じる・・・その髪に俺も顔を埋めた。
俺はこの腕の中にいるこいつを守らなくてはいけなかった。遠い昔、おばさんにも誓ったんだから。


*********


結局、つくしの稽古が考に代わる事だけは決定事項となり、今日がその最後の稽古日となった。

自室で着物に着替えたのはいいが茶室に向かう気分にならなくて、予定を10分も過ぎてからつくしが待つ茶室に入った。
いつもと全く変わらないつくしはきちんと着物に着替えて両手をついて頭を下げていた。

「待たせたな・・・ごめん」

「とんでもございません。今日も宜しくお願いいたします」

すべてを知っているのに動揺も見せずに稽古に向かうつくしに、俺の方がこんなんでどうするんだと恥ずかしくなるほどだった。
よく考えたら稽古が最後というだけだ・・・むしろ俺たちはこれから始まるんじゃないのか?
そう思うと自然と背筋がピンと張るような気がしてきた。

「今日はこの前の続きから・・・もうすぐ10月になるから風炉を中置きに変えるんだ。その配置は理解しているか?」

「はい、去年教えていただきましたから・・・」

今日も静かに稽古は進んだ。
少し気温も下がってきたこの季節はひんやりとした空気が心地いい・・・つくしを目の前にして高ぶっていた俺の気持ちを少しは
沈めてくれるかのようだった。

「10月を名残の月というのは春から夏にかけて慣れ親しんだ風炉の茶を惜しむことからきてるんだ。それに11月になれば茶道は
冬支度に入るから大炉を構えるだろ?ちょうど季節の入れ替わりだからな・・・」

つくしは俺の話を聞きながら、ジッと俺の作法を目で追う・・・あまりにも真剣だからこっちの方が緊張してしまうほどだ。
今日が最後だからかもしれないが、俺の動きを残らず吸収しようとしているのかもしれない。
説明の一つ一つを頷きながら聞いている。
俺がやりたかった茶道の精神は、つくしとの稽古で一番強く感じられるような気がしていた。


ただ無心で目の前の1人のために精一杯の気持ちを込めて茶を点てる・・・今日も”いのり”を込めて静かに茶筅を回す。


「じゃあ、今日はここまでだな」

「ありがとうございました」

つくしは俺に向かって始まりと同様、両手をついて礼をした。

でも、今度は頭を上げることが出来ない・・・始めるときには感じなかったつくしの思いがここで一気に溢れ出したんだ。
両手の上にポタポタと落ちる涙は、自分で決められないものすべてに対する悔しさなのかもしれない。


「つくし・・・もう泣くのはやめろ。泣いても変わんねぇよ。それよりも強くなろうぜ?」

「総二郎・・・どうしてなのかなぁ。なんで、昔から私の大事なものはどこかに行ってしまうんだろう・・・お父さんもお母さんも進も・・・
今度は総二郎までが私から離されてしまう・・・それを止める力が私にはないの・・・」

つくしが畳についていた両手がぐっと握られて拳に変わる・・・それでも涙はそこに落ちていった。


支えてやるとふらっと立ち上がるつくし・・・泣きすぎて開けられない目元を拭ってやると俺の着物の襟を掴んでまた泣き出した。
茶室だからなのか声を押し殺してるんだ。


この上、俺にどこかから妙な女を持ってくるつもりか・・・!
ニヤッと笑う考の顔と、何も知らない間に考に操られているお袋。

胸の中につくしを抱き抱えながら、2人に対する憎しみにも似た感情が爆発しそうだった



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Comments 2

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2017/09/30 (Sat) 23:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!おはようございます!

ぷっ!盛るの3連発・・・!私が盛られそうな気分・・・(*^▽^*)

なんだか盛りたい気分になってきました。
どこかで薬でも調達してこようか・・・家元夫人にでも。

つくしちゃんばっか泣かしてるから自分で書いてて可哀相になってきました。
最近は楽しいクリスマスの話を書こうかな!って仕事しながら考えてます。

で、思ったのが・・・クリスマス?もうそんな時期?
私、1月末に始めたのですが、今年はブログしか記憶にないんですよ。
始めた頃は春のお話に夢中で楽しかったのに、すでにクリスマスの話を考えてるだなんて・・・
こんなに一つのことに夢中になった年はないかも。

憧れた方達とイベントも出来て、幸せな1年でした(まだ10月だってば)


2017/10/01 (Sun) 08:35 | EDIT | REPLY |   

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