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2月、特に冷え込むこの季節には茶の世界にも独特の風習があって、西門では「暁」と呼ばれる茶事がある。
これは厳冬の夜明けをあえて楽しむもので、暖をとるための大炉を開き釜をかける。

僅かな客だけを招く暁は特別なもので、ここでも数回この茶事を行った。
まだ薄暗い中で幻想的な明かりを灯し、吐く息ですら凍るような空間で炉の中の湯気だけが立上っている。
あえて亭主は元哉に務めさせ、俺は普段ならその場にはいないはずだが客に断りをいれて同席していた。

それなのに・・・だ!
やる気になった元哉だがこの季節の早朝には慣れないらしくて、客を前にしても目が開いてるんだかわかんない時があった。
暁の茶事が終わり、茶道口で客を見送ったあと何度同じ事を注意したことか!

「おい!今日の茶事は何だよ!せっかくこの時間にわざわざ足を運んでくれた客を前に、お前、欠伸我慢してただろう!」

「あ・・・すみません。気がつきました?・・・ちょっと寝不足でして・・・」

そう言いながら口を押さえてやがる。つまりは・・・そういう事か!
この俺が我慢してるときに、教えたとおりに実践してるんだな?とんでもない男だ・・・次の日が茶事だって日にまで頑張るなってんだ!

「結構なことだな・・・元哉。そういう事は次の日が休みの時にとことんやればいいだろう!寝癖までつけやがって!」

「えっ!本当ですか?・・・すみません、彼女のほうが積極的なもんですから・・・」

「・・・だろうな。想像出来るよ」

あのゆかりならそうかもしれない。初めて会ったときから想像してたし、元哉がリードするなんて到底思えないし。
俺は絶対に嫌だけど、こいつはリードされて喜びそうだ・・・こういうところは西門の中の異端児だろうな。

「どうかしましたか?総二郎さん、まだ、寝癖ついてます?」
「いや・・・大丈夫だ。今度から彼女にちゃんと見てもらえ。恥をかくのはお前だからな」

「それが、終わった後は自分の方が先に支度を済ませるんで・・・彼女はしばらく爆睡するんですよね。声をかけにくくて・・・」
「・・・爆睡させるほどの技があって良かったな。教えた甲斐があったってもんだ」

俺の言葉に喜んでるんじゃねぇよ!全然わかってねぇな?
叔父さんの病気の原因は間違いなくこいつだろう・・・心中察した俺は今日、見舞いに行くことを決めた。

すぐ側でコクンと首を傾ける元哉を見てたら、全然帰れる気がしなくなってきた・・・マジで不安なんだけど。


*******


そして2月13日のバレンタイン前日。

この日から3日間、京都支部に休みをもらって東京のMホテルに部屋を予約していた。
そこで待ち合わせをしていたのはイタリア人のデザイナー、アレックスだ。
ウエディングドレスの仮縫いのために呼んだんだが、当然1人じゃなかった。隣にいるのはモデルのようなゴージャスな彼女だ。

「ハイ、ソウジロウ!約束どおりやってきたよ。悪かったな、彼女まで招待してもらって。これが俺の彼女のマリアだよ!」
「ソウジロウ、初めまして!アレックスが言うとおりいい男ね!彼がいなかったらすぐにでも襲っちゃいそう!」

「ははっ!初めまして、マリア。ごめんね、せっかくのバレンタインにアレックスを日本に呼んでしまって。その代わりに今日は
このホテルで2人でゆっくりしてよ。俺は早々に消えるからさ!」

なんて明るいイタリア美人。アレックス好みのナイスバディだ。しかもわざとなのか身体のラインが丸わかり。
アレックスのデザインだろうけどとんでもないドレスを着せてんな?まぁ、見せびらかしたくなるほどの美人だから仕方がないか!
夕食だけ3人でテーブルを囲んだが、当然ながら俺の前でもイチャつきまくってるから邪魔者はさっさと部屋に戻った。

まだ、牧野には俺が東京に戻ってるなんて伝えていない。明日の午前中、ここに来るように連絡してあるだけだった。
急な呼び出しに理由を聞いてばかりだったが、ただバレンタインを一緒に過ごしたいとしか言わなかった。
まさかドレスの仮縫いが始まるなんて思ってもいないだろうから驚くだろう。牧野のその顔を想像しながらその夜は1人で過ごした。



そして14日、時間どおりに部屋をノックする音が聞こえた。

ドアを開けたらそこには随分とお洒落した牧野が赤い顔で立っていた。

「時間どおりだな!入れよ・・・寒かっただろ?」

俺が手を差しだしたら真っ直ぐ歩いて腕の中に入って来た。今日も冷たくなってる頬を手で押さえると甘えたように擦り寄せてくる。
思いっきり抱き締めたらいつものように牧野の腕も俺の背中に回った・・・クリスマスプレゼントのピアスがその耳で揺れてる。
その耳朶に軽くキスしたら、やっぱりくすぐったいと肩を竦める。その仕草が俺はすげぇ好きなんだけど!

「お帰り・・・総二郎。なんでここなの?びっくりしたよ!」
「ただいま、つくし。たまにはお袋抜きで逢いたいじゃん。あそこだとすぐにお袋が邪魔するだろ?」

そうだねって言いながら俺から離れると、自然と唇が重なる。
少し背伸びをしてしがみつく牧野をもう一度抱き締めたら、このまま次の行動に移りそうになるのを慌てて止めた!


「今日はお前に仕事を頼もうと思ってここに呼んだんだ。上の階に人を待たせてるから行くぞ。そのままでいいからな」

「お仕事ってなんのこと?ここで今日、お茶会でもするの?」

「来たらわかるよ。茶のことじゃねぇから心配すんな」

不安な顔をする牧野の手を引っ張って、一つ上の階に行く。アレックスの部屋の前でノックをしたらマリアがドアを開けてくれた。
金髪の美人が出てきたから牧野の顔は一気に青ざめて、俺の顔を睨み付ける・・・当然の反応で俺はそれすら楽しんでいた。
マリアについていくように、牧野の背中を押して部屋に入ったらそこではアレックスが支度をして待っていた。

沢山の白い生地とレースやベールに囲まれたその部屋は、本当にどこかのアトリエのようだ。
マリアはアレックスの専属モデルをしながら、デザインの仕事の補佐もしているらしい。手際よく準備を始めていた。

部屋の中央には見本のドレスがマネキンに着せられている。


「え?・・・これって、ウエディングドレス・・・?」

「そう。約束しただろ?俺が作ってやるって・・・だからお前の仕事はモデル。着る本人だからな。彼は友人のアレックスで、
こっちは彼女のマリア。今日のためにイタリアから来てもらったんだ」

「うそ・・・このためにイタリアから?本当に?」

びっくりして立ち竦んでる牧野にアレックスが近寄って来た。

「そうだよ。初めまして、ツクシ。今日は宜しくね。日本語は少ししか話せないから今日はイタリア語で進めさせてもらうよ。
通訳は総二郎がしてくれるからツクシは何もしなくていいからね」

アレックスはいつもの挨拶で、牧野の手を取ってキスをする。
イタリア語はほとんど理解出来ないから、いきなりのキスに真っ赤になりながら俺に助けを求めるような目を向けた。

「心配すんな。イタリア人の癖だ。俺が見ててやるからお前は言うとおりに立ってるだけでいい。じゃあ、アレックス始めていいぞ」


アレックスとマリアは牧野に基本スタイルのドレスを着せて、それにアレンジするレースや飾りを仮止めしていった。
少し時間がたって落ち着いてきた牧野は、段々と出来上がってくる自分だけのドレスに嬉しそうな顔を向けている。

「もう少し腰の部分のボリューム抑えて、裾にレースを持ってこれる?流れるような感じにしたいんだけど。それと胸んとこだけど
もう少しカットを深めにしてそこにネックレスが来るようにしたいな・・・難しいか?」

「いや、ソウジロウがそれでいいなら出来るけど、随分とスリムだからね。これぐらいがいいと思うんだけど?」

「そっか・・・じゃあいいや。背中の方はもう少し開きを抑えられねぇか?開きすぎだろう・・・ウエディングドレスってのはそこまで
肌を見せなくてもいいんじゃね?袖は総レースだよな?」

「胸は開けろって言うし背中は開けるなって言うのか?我儘なクライアントだな!」

「仕方ねぇだろ?俺の好みで作るって事になってるんだよ!そうか・・・もう一着カクテルドレスも作りゃいいんだよな」

ウエディングドレスだけのつもりが調子に乗ってカクテルドレスも仮縫いが始まった。
牧野はイタリア語で進む作業に、目を丸くさせているだけ。急に奥から持ってこられたブルーの生地に何が始まったのかと大慌てしていた。
カクテルドレスはボリュームのあるパニエを使って幾重にも重なる花びらのようねデザイン。
上半身はちょっと寂しいから全体的に花のモチーフを散らしたオフショルダーにした。


「出来上がりは2ヶ月先だ。極上に仕上げてくれるから楽しみに待っとけよ」

「うん。なんだかわかんないけど・・・すごく綺麗なものが出来そうだね。ありがとう、総二郎」

後はヘッドドレスとアクセサリーを選んで、受発注書類にサインをして終了だ。
こうして仮縫いは終わってアレックスとマリアは次の仕事のためにすぐに日本を離れた。
帰り際に言われた一言は予想どおり。イタリア語がわかんない牧野だから遠慮なくアレックスも言葉に出してきた。


「まさかソウジロウの選んだ相手が子供だったとは・・・!本当に驚いたよ。大丈夫なのか?心配だよ・・・!」

「アレックス・・・ああ見えて俺の1つ下なんだよ。子供じゃねぇよ!しかも、中身はけっこういい女なんだぜ?」

「ホントに?あれでマリアより年上か?日本人は幼く見えるって言うけど・・・まぁ、ソウジロウがいい顔してるから大丈夫なんだろうな!
ドレスが出来たらすぐに送るよ!いい仕事が出来て最高に嬉しかったよ!」

「あぁ、サンキュ!いつかあいつとイタリアに遊びに行くよ!マリアと上手くやれよ!」



また1つ、準備が終わった。
今度は何をするんだっけ?振り向いたらニコニコした牧野がそっとチョコレートを出してきた。

「昨日、頑張って作ったの。総二郎はあんまり食べられないから小さいのにしたんだよ。はい、どうぞ・・・これからも宜しくね」
「サンキュ!じゃあ、これ食った後に・・・覚悟は出来てんだろうな!」

もう一晩ここを予約しておいて正解だ。
バレンタインの夜もチョコなんてものよりも甘く、このホテルで牧野と過ごした。


そして次の日に西門に帰ったら、今度は別棟の改装工事の打ち合わせに強制参加・・・お袋も順調に進めてるんだな。


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Comments 4

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2017/09/08 (Fri) 13:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは。

今日はまた楽しいコメントですねぇっ!何ですかあの歌(?)は!
思わず勤務中に噴いてしまいましたよ!
いや、どんなことを教えたんでしょうねぇ。ほら!初心者は吸収が早いって言うし!
なんでもすぐに覚えて実践したいんですよ!きっと!

さて・・・あと2回になってしまいました!!

いやん!寂しいなぁっ!
今日もありがとうございました!

2017/09/08 (Fri) 15:14 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/12 (Tue) 13:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は~♥

アレックス!なんて在り来たりな名前なんでしょう!
もう終わりに近づいたらしたいことをさせまくりですよ!
総二郎にとってドレスなんて作るものじゃなくて脱がせるものですからね!

いかに脱がせやすいかが決め手でしょう!

で、私がドレス?・・・ウエディングドレス?
作れと言われれば作れるかもしれませんが衣装の延長になっちゃいますね!
娘がお金を払ってくれるなら頑張ってみようかな・・・なーんて!

いつになることやら・・・彼氏いないみたいなんで!
F4のような彼氏、母が募集しています!!

2017/09/12 (Tue) 19:51 | EDIT | REPLY |   

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