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plumeria

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「なんだ?これ・・・いつの間にこんな風に変わったんだ?」

お袋がやけに嬉しそうに連れて行ったのは母屋から少し離れた別棟だった。
ここは昔、西門が大所帯だった頃に各家庭が使っていたらしくて、今では手入れだけはするものの使用していなかった。
その中でも比較的大きくて新しい建物・・・新しいと言っても戦前のものだけど。日当たりのいい場所にある小綺麗な建物だ。
母屋の中でさえ使っていない場所は多くあるのに、何でわざわざこの別棟を使おうとするんだ?

「ここを改装してね、総二郎さん達の家にしようと思うの。お家元には許可をいただいてるから構わないのよ。
それでね、今はここまで進んでるの・・・ここがね、お客様を連れてきてもいいようにパーティールームでしょ?
そしてここがね寝室なの。・・・心配しないで!・・・ここなら聞こえないわよ!」

「何の心配してんだよ!いい年してとんでもない事考えてんじゃねぇよ!」

そんな理由でこの別棟にしたってのか?そうだとしても、他に別の言い方があるだろうに。
隣で聞いてる牧野が耳まで真っ赤にしてんじゃねぇか!確かにあの時は申し訳なかったとは思うが、わざわざ息子の部屋に
様子を見に来たのはそっちだろうよ!今でもお互いの部屋にいたら多分聞こえないと思うんだけど・・・いや、聞こえるか。

「それでね。家具はやっぱり総二郎さんが決めた方がいいと思って選んでないのよ。注文したいから決めてくれない?
どうせあなたのことだから海外から取り寄せるんでしょう?時間がかかるから急ぎたいのよね・・・」

「わかったよ。で、家具の他は何を決めたらいいわけ?」

「基本、今は全部和室でしょ?でもあなた達の年代はもうそうじゃないんだから洋間に変えてもいいと思うの。それにいずれは
子供部屋も必要でしょうからね・・・何処を洋間にするのか決めてちょうだい。総二郎さんが京都にいる間に終わらせたいわ。
15部屋もいらないってつくしちゃんは言うんだけど・・・それだけで大丈夫かしら。キッチンは作った方がいいわよね?」

「つくしは一部屋で生活できるヤツだからな。まぁ、15部屋ありゃ何とかなるだろう。じゃあ、今から考えるから設計図貸してくれ。
こいつは料理が好きだからキッチンは必要だろうな。バスルームも最新に変えていいか?ここには古いのしかねぇし。
お袋、悪いな。色々とやってもらって・・・疲れるだろ?」

そう言うとすぐに泣くんだ・・・歳をとったのかもしれないが、涙もろくなってしまって!

「全然疲れないわよ・・・こんなに楽しい事なんですもの。あのまま総二郎さんがとんでもない生活を続けてたら私だってこんなに
楽しい計画なんて立てられなかったかもしれないけど・・・!」

「おば様・・・少し休みましょう?最近この改装のことで考えることが多かったから、本当にお疲れなんですよ・・・ね?」

今度は牧野がお袋の肩を支えるようにして母屋の方に連れて行った。
こうやってお袋の後ろ姿を見ていたら随分と小さく感じる。今までどれだけ心配をかけたのかと・・・そう思うと少し心が痛んだ。


しばらくしたらコーヒーを手に持って牧野が戻ってきた。

「はい・・・総二郎、コーヒー入れてもらったよ。冷めないうちにどうぞ・・・」
「サンキュ!しかし、お袋のヤツ、毎日こんなことしてんのか?ちゃんと稽古のほうも進んでるんだろうな?」

「それは大丈夫!お稽古だけはきちんと済ませてからこっちを張り切ってるわよ。ただ毎日図面と睨めっこしてるから心配で・・・
私に聞かれてもわかんないでしょう?ここは西門の家なんだから口出しも出来ないし・・・今日総二郎が帰ってくれて良かったよ。
このままだとおば様が倒れるんじゃないかって思ってたから」

そこまで楽しいもんか?新しく娘が出来るって事が嬉しいのか・・・それとも牧野だからか?
俺が図面を見ていたら、牧野が顔を寄せて同じ図面を覗き込んでる・・・もう少し前に出てきたら俺の顔の前にこいつの耳が
来るんだけどって思っていたら、その通りに俺の唇の前に耳朶が来た。
もちろん昼間っから考えねぇけど、離れている今は少しでも一緒になりたいって思うもんだ!
だから耳朶にキスしたら「ひゃっ!」って声を出して牧野が身を屈めた。

図面を手放して牧野の身体を抱き締めると、俺の腕の中でおとなしくなった。

「なんだよ・・・調子狂うじゃん、なんで暴れねぇの?」
「暴れて欲しいの?総二郎・・・また、明日帰っちゃうんでしょう?・・・つまんないね」

「すげぇ可愛いこと言うんだな・・・。じゃあ、お前も一緒に京都に行くか?」
「出来ないでしょ?そんなことしたら向こうの人が何しに来てるんだって怒っちゃうよ」

「だな・・・じゃあ、やっぱり今はこうしてようぜ。時間がもったいないからな」

牧野を抱き締めたままこの離れの窓から外を眺めていた。
ここの庭にも梅の木が植えてあって、今はちょうど満開だ。こんな外れたところの植木まで手入れされている事に今更ながら
感動していた。それに良くみたらトサミズキなんかも咲いている。昔住んでた人達はここで同じように花を眺めたんだろうな。

「なぁ・・・やっぱり半分はこのまま和室でいいよな。俺はこの家の人間だからどうしてもこんな風景とも同居したいんだ。
つくしはどう思う?面倒くさいと思うだろ?この家のしきたりとかさ・・・息苦しくなんねぇか?」

「多少はあるよ。そりゃ、西門だもん。覚悟はしてきたけどね。おば様について教えて貰ってるけど全然わかんなくて落ち込むよ。
でも、嫌いじゃないよ。この畳の上も障子の白さも、縁側なんて最高だよ・・・総二郎がいてくれたらね」

「そうか・・・じゃあ、奥の方だけ改装して、この庭が見える場所はこのままにしような」


俺が帰ってきたらここに牧野と住む・・・もう一つの準備も終わった。

*******

この日は西村さんを含めて西門に常時いる古株の弟子達を交えて小さな宴会が行われた。
もう明日の朝にはここをでて京都に戻るから大酒飲むわけにもいかない。午後からは向こうで会合も予定されていた。
お袋に改装の手配を頼んで、家元には春にでも正式発表したいと頼んだ。

飲み会と言うよりは飲みながらの打ち合わせのようだった。

「総二郎、そう言えば京都の弟から連絡があったぞ。退院が決まって自宅療養に戻るらしいが、早ければ4月には復帰できるらしい。
京都支部の幹部から元哉のことを聞いて安心したようだし、向こうでもいい話になってるそうじゃないか!
やる気も出たし、少しは腕も上がったらしいし、嫁さんも決まるとなれば休んでもいられないってな。
やっぱり原因はあの頼りない息子だったんだなぁ。こんな家に生まれれば仕方がないが、お互い息子には苦労するなって話したよ。
これで総二郎も早くこっちに帰れそうじゃないか?」

「なんで親父まで息子で苦労してんだよ!こんなに良い息子を持てて幸せだろうが!」

気がついたら親父は牧野を隣に座らせて酌をさせていた!なんてエロジジイだ、息子の女を勝手に使いやがって!
そして西村さんまでが牧野の肩を持って話しかけてる・・・ちょっと俺がいない間に風紀が乱れてねぇか?!

そしてお袋が俺の隣で話しかけてきた。

「総二郎さんが京都に行くときに寂しくなるなぁって思って悲しかったんだけどね、つくしちゃんがいてくれたから救われたわ。
本当はあの子が寂しかったんでしょうけど、私たちの前では絶対に言わなかったのよ。無理して笑顔作ってるときもあったわね。
そうだわ・・・ちゃんと届いてるわよ。あなたが特注したつくしちゃんのお着物。あの桐箪笥にしまってありますからね。
時間が出来たら西門に伝わるお着物もつくしちゃんの方に移さないと・・・!忙しいわね」

「お袋、少しゆっくりしろよ。つくしは逃げねぇし、俺も戻るんだからさ。あいつが心配してたぞ?お袋が倒れるって・・・。
そんなにいろんな事を急いでると後が退屈になるからさ、もう何にもしなくていいから、つくしの側にいてやってくれたらいいよ」

「総二郎さん・・・」


寂しいなんて言われるのも恥ずかしいような、嬉しいようなだけど。
まぁ、こうしてみると牧野とこの家は問題なく「家族」になってるみたいだし・・・。

これでほとんどの準備が終わった・・・ってことかな。


「あ!総二郎、ダメじゃない!おば様を泣かしちゃあ!」

「お前・・・そろそろお母さんって呼んでやれよ。もう一回泣くかもよ?」


案の定、お袋は号泣した。


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長いことダラダラと書きましたが明日がラストでございます。
正しく進めたかどうかわかりませんが、最後まで二人を宜しく・・・♥
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Comments 4

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2017/09/09 (Sat) 13:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは。

なんだか恋愛ドラマを超えてヒューマンドラマになってる?(笑)
なんて嬉しいコメントかしら!ありがとうございますっ!

私の親戚に(会ったことは少ないんだけど)京都の名家にお嫁に行った人がいるんですけど
その人の家が1階に20部屋ぐらい、2階に13部屋だったかな?あるんですって。
車庫は5台全部外車。外の外壁の修理で1400万円・・・何年も前に聞いたこの話が忘れられない。

さて、西門ってどんな家だろう。
でも、国宝級の日本庭園にいくつものお屋敷が連なってるって読んだことがあります。

よく総二郎のマンションに住んじゃうお話しもあるんですが、この2人にはこのお屋敷内に
住んでいただきたくて書きました!

明日の最終話、どうぞ最後まで楽しんで下さいませ!ありがとうございました。

2017/09/09 (Sat) 13:38 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/12 (Tue) 13:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、今晩は!

最後まで家元夫人を面白いおばさんにしてしまった!
どれだけ息子夫婦の生活を心配してるんだか!
それだけ総ちゃんが凄いんだろうなぁ・・・って事にしましょうかね。

なんだか今回のラストは「あ~あ、最後かぁ・・・」って自分でも思います。
書いてて楽しかったので。

でも、またいつかこんな二人を書きたいですね!
今日もありがとうございました!

2017/09/12 (Tue) 19:56 | EDIT | REPLY |   

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