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plumeria

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牧野のダンスの練習が始まって一週間が過ぎた。

足にはマメが出来て、それを潰してしまって血が滲んでる。それでも休まずに俺の家で練習を続けた。
痛いだろうに、可哀相に思うけどここでやめることは出来ないんだよね?あいつと踊るまでは意地でも練習するんだろう?


「牧野、肩が上がってる・・・もっと下げて?でも肘まで下げたらダメだよ。左肩、もう少し下げて・・・ほら、また腰が逃げた!」

「一度に言われたらわかんないよ・・・頭がこんがらがる。花沢類、もう少しゆっくり出来ないの?」

「ゆっくりしてもいいけど間に合わないだけだよ。そのぐらい牧野は踊れてないんでしょ?恥をかいてもいいなら止めたらいい。
でも綺麗に踊りたいなら、全然まだその域じゃないよ。どうするの?俺はどっちでもいいよ」

「・・・意地悪!」

意地悪?確かにそうかもしれない・・・ここまで必死な姿を見たら、これが何のためかを考えたら苦しくて堪んないよ。
今、この腕であんたを抱き寄せてこの胸の中に押さえ込んでしまいたい!教えながらでも俺の頭はそんなことばかりを考えてる。
鏡を見たら、二人ともワルツなんて思えない顔してる・・・牧野は苦しそうで俺は悲しそうで。

「ねぇ、牧野。考えたんだけど、制服でやるのやめない?やっぱり気持ちが入らないでしょ?それに脚裁きの練習にもなるしね。
ドレスだと男性の足に絡んでくるからそれにも慣れた方がいいよ。ドレス、持ってるの?」

「ううん・・・私はそんなもの持ってないもん。当日のドレスも友達から借りることにしてるし・・・」

「そう・・・うちの母親のはサイズが合いそうにないね・・・あきらのとこどうかな。夢子ママと牧野、身長同じぐらいでしょ?」


あきらに連絡を入れたらすぐに来るように言われた。
夢子ママは牧野の事が大好きだから、こういう時はすぐに協力してくれる。
美作に入ったらすでに何着もの衣装が並べられていた。

「つくしちゃん、ダンスを類くんに習ってるんですって?どうしてあきらくんじゃないのぉ?あきらくんもすごく上手なのよ?
今日はうちのダンスフロアで練習したら?類くんと交代であきらくんにも教えて貰いなさいよ!」

「ありがとうございます。こんな綺麗なドレスもお借りして・・・」

「いいの、いいの」って夢子ママは牧野をこの家のダンスフロアに引っ張っていった。
あきらは暇だったのか特に気にもせず、俺と一緒に牧野の練習に付き合うだなんていうけど、本当はドレスだけで良かったのに!
牧野が嬉しそうにしているから仕方なく、あきらの家のダンスフロアに向かった。

嬉しそうな牧野と夢子ママ、気楽そうなあきらの後ろを、多分機嫌の悪い顔をした俺が歩いてる。
本格的な床材と音響設備を整えた美作のフロア。花沢と広さもほぼ同じで片側の壁全面は鏡張り。
違うのは夢子ママの趣味でレースとフリルの世界になってることぐらい。中央のシャンデリアは特注かな・・・まるで、ヨーロッパの
王室のような造りに牧野はポカンと口を開けていた。


「じゃあ、まず類と牧野が踊れよ。俺がここから注意してやるから。類、ワルツでいいんだな?」

「うん。スローワルツの方・・・じゃあ、牧野・・・中央に出て、ホールドを組んで」

場所が変わるのと、1人とはいえ見ている人がいるってのは緊張度が違う。
牧野はすでに身体が固くなっていて、踊る前から結果が見えてる気がした。

「緊張してるの?うちと同じだと思って・・・相手だって変わってないんだから心配しないでいいよ」
「う・・・うん!頑張る!」


曲がかかって一歩踏み出したけど、俺にはすぐに伝わる動きの鈍さに、リードする手が少し強引になる。
すぐにダンスには煩いあきらが音楽を止めた。やっぱりね・・・そう思ったけど牧野は急に止められた音楽にキョトンとしている。

あきらは不思議そうに俺たちに近づいてきた。そこで言われた一言・・・牧野より俺がショックだった。


「お前達、何やってんの?踊ってねぇじゃん・・・気持ちって今どこにあるんだよ。お互いに気持ち入れてないだろ?」


気持ちだなんて・・・確かに教える事には専念したつもりだけど、牧野が何を考えてるのかを想像したら気持ちなんて入れられない。
牧野に至っては気持ちを入れる余裕すらない。それがあきらには伝わってしまうんだろう・・・僅か数分でバレてしまうだなんて。

「顔が直接見られないんだから、伝えられるのは手だけなんだぜ?類、少し俺と変わってくれ。もしかしたらお前に緊張してるかも
しれないだろ?牧野も頭で考え事しながら踊ってると顔に出るぞ?基本ステップがわかってるなら男のリードに任せておけよ。
難しいことをしないなら単純動作の繰り返しだ」

「う・・・うん。よろしく、美作さん」

牧野は俺の手を離れてあきらの方に向かった。
あきらの言う事なんて今までも牧野には伝えてるよ!それでも牧野が理解してくれないんだ・・・俺を頼りにはしてくれない。
俺の手がどれだけリードしても、牧野はそれについてきてくれない・・・踊れば踊るほど離れていく気がするんだ。


フロアの真ん中であきらと牧野がホールドを組んだ。
それを壁に寄り掛かったまま、怒った顔で睨んでる俺がいる。


「いくぞ・・・とにかく牧野は俺についてくればいいからな。多少脚を踏もうが我慢してやるから止まるなよ」
「うん・・・わかった」

ワルツの曲が始まった。あきらの脚が動き出すと自然と牧野がステップを踏み始める。


あれ?・・・なんで?

そこで見たものは今までと違う牧野・・・すごく軽くステップを踏んであきらと踊る牧野の姿だった。
多少のミスをしても上手に誤魔化しながら、フロアを優雅に回っていく2人に目を奪われた。
確かにあきらのリードは上手いんだけど、だからってここまで変わるのか?どうしてあきらだとそんな顔で踊れるの?


もしかしたら俺は練習相手にもならなかったってこと?牧野を綺麗に踊らせてあげたくて頑張ったのは何だった?


たった一度ここで踊っただけなのに、明らかに今の方が「ワルツ」になっている。
この2人を見たくなくて目を閉じたまま、やけに甘いワルツの曲とダンスシューズが床を踏みならす音を聞いていた。
結局、牧野は一度を動きを止めることなく、曲が終わるまであきらとホールドを解くことはなかったんだ。

踊り終わると息をはぁはぁ言わせながら牧野は俺の前に戻ってきた。
その顔は満足そう・・・そうだろうね、今まであんなに踊ったことはないんだから。


「牧野、なんなのさ・・・あきらとなら踊れるんだ。それなら、あきらに教えてもらいなよ・・・始めからそうしたら良かったんだ!」

「花沢類・・・?どうして怒ってるの?」

「怒ってなんかないよ。牧野が例え練習でも相手を選び間違えたって事だよ・・・それだけ」

思ってもいない言葉が牧野に向かう。
本当は上手に踊れたことを褒めてあげたかったのに、俺の口からは褒めるどころかナイフのように傷つける言葉しか出ない。
夢子ママのドレスは可愛らしくて牧野が踊る時には、その堅さをカバーするかのように翻っていた。
それさえも途中からは見ていない。今だってそのドレスを握り締めるように持っている牧野の手しか見えない。

ぎゅっと握った手・・・それを優しくとったのはあきらだった。

あきらは牧野の右手にそっとキスした・・・それが視界の端に見えたとき、心臓がドクンと音を立てた。


「牧野、なかなか良かったよ。上手くなってるじゃん・・・感動したよ」

「美作さん・・・ありがとう」

「でも、プロムで踊るならもう少し頑張らないとな」

それは俺のセリフだろう?なんであきらが牧野に囁いてるんだ・・・しかも手にキスまでして!
俺はそこら辺に置いていた自分のジャケットをサッととって、あきらの家のダンスフロアから飛び出した。


「花沢類・・・!」

「牧野!ほっとけよ、自分が教えられなかったから自分自身に腹を立ててるんだ・・・牧野のせいじゃない。
それよりも今日からは俺が教えてやるよ。多分、その方が牧野も上達すると思うぜ?」

あきらの声が聞こえる・・・その通りだ!俺は自分自身に腹を立ててる・・・牧野に頼まれたのに何も出来なかったことを・・・。
それをたった1回であっさりとあきらに奪われたことを!


本当はどうしたい?
本当は誰の手をとりたいの?

本当は誰のことを思って踊ってるの?


Shall We Dance?・・・牧野の手をホールドしているのは誰?


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2017/09/16 (Sat) 15:13 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、今晩は!

題名は・・・「パートナー」でしたっけ?嘘かな?
違っていたらごめんなさい、何だか少し覚えています。
社交ダンスは好きなんですよ。でも、全然優雅じゃないですよね?あの、姿勢は腰を痛めます!
足を踏むってほんとなかな?って思っていましたけど、ホントなんですね!
1回しか踏んだことないですけど、踏みましたよ!確かに。

あの優雅なドレス・・・着てみたかったなぁ。
練習用のスカートで終わりました。

向いてないんだろうな・・・ダンス。

2017/09/16 (Sat) 20:32 | EDIT | REPLY |   

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