FC2ブログ

plumeria

plumeria

つくしがテラスから戻ってきた。
少しだけ悲しそうに見えるのは気のせいだろうか、俺の姿を見つけて真っ直ぐこっちに向かって来た。
そんなつくしを笑顔で迎えてあげる・・・そうしたら少しつくしも微笑んで真横まで戻ってきた。


「なんだその顔は!ホントにこの兄妹は見ていてこっちがイヤんなるよ!そこまで仲良くなくてもいいだろうに!」

「あきらだって妹見たらこうなるだろ?同じじゃない」

「俺の妹は小さいから可愛いんだよ!つくしちゃんくらい大人になって兄貴がそんなんじゃマジでこの先彼氏が出来ないぞ?
それはそれで心配だろう?モテる妹ってのも自慢じゃないかな。泣いたときだけ慰めてやるってのも兄貴の仕事だぜ?」

急にその言葉を出したあきらを横目で睨んだら悪戯っぽく笑ってる。そして近くまで来たつくしに手を差し伸べていた。
あきらは何も知らないから仕方がないんだけど、その会話を両親に聞かれていないだろうか。
つくしがチラッと2人を確認したけど、ちょうど他の招待客と話し込んでいた両親は聞いてなかったみたいだ。
大丈夫だと眼で合図してきた。


「高城に何か言われたの?・・・つくし、変な顔になってるよ?」

「うん・・・もうすぐ近い関係になるって言われたわ。もうお父様達が私と高城さんの婚約で動いてるみたいな言い方だったけど・・・
彼には断わったわ、だけどほら・・・こういうことって私の気持ちだけじゃどうしようもないでしょ?・・・本当はどうなっているのかしら」

「まだ、なにも動きはないよ。おそらく高城がつくしを揺さぶったんじゃない?返事なんてしなかったんだろ?」

「してないわ。でも・・・怖い。あの人、何か企んでないかしら。すごい自信があるみたい」


あきらが不思議がるからこれ以上は話せない。
大丈夫だと耳打ちだけして会話は終わらせた。高城が室内に戻ってきたのを確認したから、つくしを反対側へと移動させた。
不安そうに下を向くつくしは少し震えているようだった。
抱き締めるわけにもいかないから、両親の見えないところでその手を握ってやる・・・あきらにも見えないようにそっと・・・。


つくしに断わられたからなのか、あいつはもう俺たちの所には来なかった。
少しだけ悔しそうな顔をして、こっちを睨みながら反対方向へと去って行く・・・その時の顔が一瞬誰かに似ているのに気がついた。
今まで見たことがある誰か・・・思い出せなかったけど、確かに誰かに似ている。

誰だっけ・・・自信家で少し冷めた感じ。どこかで会ったことがあるヤツに似ている。それは多分僅かな部分だろうけど・・・。



会場内の音楽が変わって、招待客が中央のフロアを空け始めた。
ワルツの曲が流れてくるとダンスに覚えのある連中がペアになって、今度は中央に集まって来る。欧米ではよく見るダンスタイムだ。
沈んでいたつくしの気分転換にはちょうどいいタイミングかもしれない。
あきらがウインクしてつくしを誘ってる。つくしも顔を上げて嬉しそうに笑っていたから「行っておいで」と背中を押してあげた。


「約束だからな。つくしちゃん、パートナーになってくれる?」

「喜んで・・・お願いします。美作さん」

「あきら!あんまり近づかないでよ?それと踊りながら口説いたって無駄だからね!」

「くっつかないと踊れないだろうが!それに口説きはしないけど、俺のダンスにつくしちゃんが惚れるかもしれないぜ?」

あきらが手を差し出すと、つくしがその手に自分の手を重ねる。
あきらに背中を支えられてフロアに向かうつくしを1人、後ろから見ていた。
フロアのほぼ中心であきらはつくしとホールドを組んで、お互い見つめ合ってる・・・それだけでホントはかなりムカついていた。
まぁ、あきらだし、つくしにその気はないし・・・腕組みをして会場中央を見ていたらやけに周りが騒がしくなった。


「あの・・・類様はどなたかとお約束でもしているのかしら・・・もしよろしかったら踊りませんこと?」

急に横から声をかけてきたのは確か同じ大学の生徒・・・何となく見覚えがあるだけだから名前なんて当然知らない。
その後ろにも数人・・・どう考えても俺にダンスの申し込みをしてもらおうと、待ち構えているようだった。


「申し訳ありませんが、そこで待っていただいても私と踊る相手はここにはいませんから・・・どうぞ、他を」

そう言うと、黙って帰っていく。母さんは俺がつくし以外の女性と踊ればと思っているようだけど、これだけは絶対にお断りだ。
つくし以外の手を取る気なんてない。カモフラージュだとしても誰とも踊る気なんてなかった。

そんな俺の前でつくしは優雅にあきらと踊っている。
ラベンダーカラーのドレスはこの会場内でも光り輝いていて、2人が何処で踊っているのかすぐにわかるほどだった。

さすが、あきら・・・つくしはワルツが苦手なのに全然それを感じさせない。
いつもは少し固い踊り方をしているのに、あきらがリードだと柔らかく感じる・・・それほど男性で変わってしまうのがダンスだから。
ちょっと悔しかったけど仕方がない。苦笑いしながら2人を見つめていた。



カツン、と靴音が響いた。
その時、横に来たのは高城・・・テラスから戻った後、どこかに消えたはずなのに何故か俺の横に立って2人を見ていた。


「美作くん・・・上手なんだな。彼はこういう戦法が得意なのか・・・覚えておくよ」

「何の話?あきらは別につくしに気があるわけじゃない。あきらは全部の女性に対していつも平等に優しいだけ。
戦法だなんて言い方はどうだろうな。あきらはそんな男じゃないよ」

「そういう事?ふーん・・・じゃあ、ライバルじゃないんだな。やっぱり君だけって事?彼女を縛り付けてるのは」

ここでもお互いに顔も見ようとしない。肩がつきそうなほどの距離にいるのに目線は正面にしか向いてない。
つくしに断わられたせいなのか今までになくピリピリとした緊張感が伝わってきた。

「近い関係になる・・・って言ったらしいね。どういう意味?」

「わかりきってるじゃない。君が思ってるとおりさ。君と義理の兄弟ってのも気に入らないけどね。義弟になってもお手柔らかに・・・。
俺が言いたいのはそれぐらいかな。その時には妹から離れてくれればいいよ。じゃあ・・・」


高城はつくしが戻ってくる前にこの場を離れて別の集団の中に再び消えて行った。
急上昇した会社の跡取り息子・・・高城誠は今、自分のすることが失敗するかもしれないなんて思ってもいないんだろう。
だから計画したことは総てその通りに実行されると信じているんだ。

そんなはずはないのに。司の一件を見てもそうだ・・・この世界に完全も完璧もない。まだ、そこがわかってないんだ。


曲が静かに終わって、踊っていた連中がホールドを解いてフロアから離れていく。
つくしもあきらにエスコートされたまま俺の所に帰ってくる。そしてあきらの手から俺の手に渡された。

「お疲れ様・・・随分綺麗に踊れていたね!びっくりしたよ。相手があきらだから踊りやすかった?」

「うふふ・・・そうね!美作さんは本当にリードがお上手なのね!私が1回も止まらずに踊れるなんて・・・ねぇ!」

「そうだね。必ず1回は転けて、1回は足を踏まれるよ?あきら、踏まれなかったの?」

「3回、踏まれたよ。実は結構痛かった・・・でも、気がつかなかっただろ?」

うそっ!って自分で自分の口を押さえてるつくし。
人の足を踏んでも気がつかないってどれほど鈍感なんだって3人で笑い合っていた。



「あ・・・曲が変わったわ。類・・・踊らない?」

「いいの?・・・見てるよ?」

「いいわよ。私が強引に誘ったっていうわ・・・さぁ、行きましょう!」


両親が見ていたけどつくしに連れられてもう一度フロアに向かった。
まるで悪戯っ子のように戯けた笑顔で俺を引っ張って、自分の方から手を伸ばしてくる・・・その笑顔は今日の一番だった。
でも、あきらのように堂々と真ん中では踊らずに、フロアの端の方でひっそりと2人の世界に入り込んで行く。



「類・・・私が何処にも行かないように捕まえていてね」

「もちろん・・・何処にも行かせないよ。今すぐここからつくしを連れて自由な場所に行きたいぐらい」


俺の中でつくしが蝶のように舞う。
薄紫の羽を翻しながら、美しく、気高く、つくしが俺の中で舞っていた。


KOSU13.jpg
関連記事

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply