Sister Complex (73)

高城のパーティーが終わってから数日間、以前と変わらないごく普通の生活が続いた。
必要以上に自宅では話さない毎日・・・再び「お兄様」と呼ばれる事にも慣れてしまった。

父さんは日本で片付けなくてはならない仕事もほぼ終えたらしく、そろそろフランスに戻って向こうの新事業起ち上げの準備に入るようだ。
そうなると渡仏は近い・・・しきりにフランス本社とテレビ会議を行っていた。

「それではプランタンの支配人との接触は可能になったのか?そうか・・・いつまでが期限だ?あとどのくらい引き延ばせる?
それでは向こうの言いなりではないか!もういい・・・私が帰ろう!すぐに支度をする・・・先方にはこの私が商談相手だと伝えておけ!」

そんな怒鳴ったように聞こえる父さんの声がリビングにまで響き渡り、つくしと俺は目を合わせた。
これで2人はフランスへ向かうはず・・・つくしは肩を落としてホッとしたような素振りを見せた。
ソファーに座ったままクッションを抱えてクスクス笑ってる。自由な時間が戻ってくると信じているようだった。

俺はそんなつくしを見ながら手に汗が滲むのを感じた。
とうとうその時が来たんだと・・・これで父さんはつくしにあの時の話を告げるんだろうから。


そして両親がフランスへ向かう日の前日、4人揃っての夕食が始まった。
いつものように母さんは留守の間の注意点を細かくつくしに話している。もう何度も聞いたそれらの話を毎回きちんと受け止める。
そしてこれも毎回だけど、つくしとパリで買い物がしたいといいながら、もう来年の夏休みの調整をしていた。

父さんは無言で2人の会話を聞いているだけで自分からは何も話そうとはしない。
それはこれから話す内容を無意識に頭の中で繰り返しているからなのか・・・俺はそんな想像をしながら父さんを見ていた。


よく言えば穏やかな時間が過ぎていく。多少のぎこちなさを全員が感じながらの食事は最後のティータイムになった。
それまで一度も喋らなかった父さんが、夕食も終わろうという時間にその話を持ち出してきた。

「類、つくし・・・私たちは明日の午後にフランスに向かうが、今日は少し重要な話がある。2人とも冷静に聞くように。
ますは類・・・お前はもうしばらくしたらフランスに来なさい。今回のプロジェクトの合同会議には責任者のお前の出席は当然だからな。
期間は数週間だ。その間は大学の方も休みなさい。いいな!」

「はい。わかりました。正式な日程と資料が出来次第いただけたら助かります」

「私の秘書が手配をする。お前にもそろそろ正式な秘書が必要かもしれんな・・・適当な人材を探させよう」

秘書・・・?そんなものをつけられたら身動きがとれなくなる・・・あえてここでは断わらないが迷惑な話だった。
この後も少しそのプロジェクトについての話をされたが、全く頭には入らなかった。いや、別に聞かなくてもわかりきった内容だったから。
むしろ、このプロジェクトの関係企業として道明寺や高城とどう関わるのかの方が重要だ。
出来たら関わり合いたくない・・・司はともかく、高城には海外でまで嫌味を言われるなんて考えただけでも腹が立つ・・・!
元々が別の施設の担当だから会うこともないはずなのに、何故かこういう時に限って関わってしまいそうな気がして憂鬱だった。


「これから先の長いプロジェクトになるから初めが肝心だぞ!若いからと言って業者連中に舐められんようにしなくてはいかん!
お前の場合そこが心配だ」

「精一杯人付き合いをよくするように努力しますよ・・・でも、こればっかりは性格ですからね。諦めて下さい」

「・・・もう少し、前に出ようとは思わないのか?お前を見ていると何でこんなに不安になるんだろうな・・・」

勝手に不安になってるだけなのに・・・こう見えてやるときにはやるんだけど!
総二郎やあきらのように上手く丸め込むような話し方が出来ないだけ。だから行動で示せば問題はないはずだ。
むしろ司のように余計なことを言って契約破棄されたりはしないだけいいと思うんだけど。

それも全部自分の中に留めておいて、父さんの話は右から左に流しておいた。


「それと、つくし・・・」

父さんの話が俺からつくしに変わった。それまで普通にお茶を飲んでいたつくしはビクッとして手を止めた。
母さんも手を止めてつくしの顔をジッと見つめる。テーブルの上で両手を組んだまま、父さんはゆっくりと爆弾を落とした。


「つくしは高城誠君との婚約に向けて話を進めていくことにしたからそのつもりで心の準備をしなさい」


婚約・・・その言葉に部屋の隅で待機していた加代も表情を変えた。

俺はその言葉が出ることは覚悟していたが、いざ本当に告げられると背中に汗が流れる。グッと膝の上で拳を握り締めた。
ジロッと父さんを睨んだが、この人は俺を見ようとしない・・・母さんの方が悲しそうに俺を見ていた。


「婚約・・・ですか?お父様、話が違います!まだいいっておっしゃったわ!!イヤです・・・お断りして、お父様!」

テーブルを強く叩いて音を鳴らし、席を立って抗議した。その振動でカップが倒れて白いテーブルクロスにシミが広がった・・・。
今までみせたことのないつくしの行動に母さんも父さんも、加代までがびっくりしていた。

「先ほども話しただろう?冷静に聞きなさい。つくし、椅子にちゃんと座りなさい。相手は元々が小さな会社からの新興企業だが
これからは社交界にも出てくるだろう。お前が手本となって礼儀作法を教えるぐらいの気持ちを持ちなさい。いいな・・・」


「申し訳ありません・・・お父様」

椅子には座ったけど、その手は膝の上で震えていた。でもここでつくしの手を引き寄せてやる事も出来ない。
声をかけようにも母さんの眼が俺から離れない。今はやめておいた方が良さそうだと判断した。


「誠君とのことはこの前のパーティーで向こうのご両親とも話して決めた事だ。だが、もちろん道明寺の時のようにすぐに発表など
考えてはおらんのだよ。せめてこのフランスでのプロジェクトが終了しなくてはうちも高城も身動きは出来ないだろう。
そのぐらい先の話だ。ただ、正式に発表はしないがそういう相手・・・婚約者の立場になると言うことだ」

「発表しないだけで同じだわ・・・私は高城さんをそういう対象として見ることは出来ません」

「それは今の気持ちだろう?つくし・・・話してみたがなかなかいい青年だ。まずはお付き合いをしてみなさい」

「でも・・・!」


「つくし、あなたの気持ちもわからないわけではないのよ?お母様だってお父様とは会っていないのに婚約したんですもの。
不安だらけで仕方なかったわ・・・でも、あなた達が産まれてここにいるでしょう?今はお母様も幸せですもの」

よく聞くセリフだ・・・自分たちもこうだった、だからあなたたちもこうしなさい・・・この世界は時代遅れも甚だしい!
今時見もしない相手と結婚なんてしないのに、自分たちを例として出されても困るだけなのに・・・。


結局最後までつくしは返事をしなかったけど、父さんの言葉は絶対だ。
この先は高城がつくしの前に大きな顔して出てくるんだろうと思うと気分が悪かった。
司の時もそうだったけど今回の方が覆す材料がない。高城についての情報もなにもかもが不足しているんだから・・・。



そして次の日の昼前、両親はこの花沢邸を出てフランスへ帰っていった。



*********


そして夏期休暇が明けて再び大学へと向かう毎日が始まった。

あれからつくしは少し塞ぎ込みがちになり、外出も出来なくなった。
司の時と同様ストレスから食事を受け付けなくなり、貧血で寝込むこともあったから、受ける授業も最低限に留めていた。
時々は点滴も必要なほどで、花沢の主治医はしばらくこの家に常駐することになった。それはフランスからの指示だった。
この健康管理に対する異常な気のつかいかたも司の時と同じで、余計につくしを苦しめていた。

結婚するなら身体に異常があってはならない・・・跡継ぎが出来ないと困るからこの世界では女性は健康であることは何よりも重視された。


夜になると不安がって俺の部屋に来る。今日もそうだった・・・1年前を思い出すと言って俺の腕の中で泣いていた。

「つくし、大丈夫だから・・・わかってるよね?どうにもならなかったら一緒にここを出よう」

「類にそんなことはさせられないもの。まだ決っていなかったから言えたのよ・・・でも、本当にそうなったら出来ないよ!」

「出来るよ。俺はつくし以外、何もいらないんだから・・・」

つくしの頬を押さえてキスをする。
少し抵抗するのを押さえ付けるように、つくしの両手を捕まえてしまう・・・。

「今だけはなにも考えないで・・・俺の事だけ見てなよ。そしたら怖くないから・・・」
「嫌だ・・・やっぱり怖い。類、またあんな日が来るかと思うと・・・」

「怖くないよ。つくしの前には俺しかいないから・・・」

そのキスはどんどん深くなっていって、つくしの総てが欲しくなる・・・そして俺たちは抱き合ったまま朝を迎える。

何度も何度もつくしの名前を呼んで、泣きながら求めてくるつくしの身体を受け止める。
「類・・・愛してる」その言葉を聞きたいために、それを言わせるために耳元で「つくし、愛してる」って囁いてる。


誰か俺たちをこの泥沼から救ってくれないだろうか・・・弱くなったときはそんな事も思った。
絶対にこの手を離さない、誰にもつくしの身体に触れさせない・・・目が覚めるとこの言葉が戻ってくる。



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2017/09/23 (Sat) 13:54 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

わんこ様、今晩は!

非常にややこしくなってきましたが、何となく後半の半分いったのではないでしょうか?
今からちょいと事件はおきますが、毎回お話しが続いてるのかどうかを確認するので必死です!
きっと矛盾がどこかに・・・でも、もうそれを誰も気がつかなければいいのに(笑)と、密かに思っています。

はぁ・・・このお話本当にしんどいです。
今度はもっと簡単なお話にしますよ・・・。子供でも理解出来るヤツ・・・それが理想かな!

もうしばらくお付き合い下さると嬉しいです!
きょうもありがとうございました!


2017/09/23 (Sat) 18:44 | EDIT | REPLY |   

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