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花沢のお父様からの連絡があったのは西門さん達と会った日の夜だった。

フランスから直接私に電話が掛かるなんてことは今まで一度もなかった。
両親からの伝言はいつも加代さんか、執事の清水さんから聞くばかりで、私の携帯が鳴ることはなかった。
画面の表示にある「お父様」の文字・・・決して嬉しい報告ではない気がして、タップする勇気が出ない。
 
だけど出ない訳にもいかない。何度目かのコールでやっと通話ボタンを押した。


「もしもし・・・お待たせしてすみません。つくしです」

『おぉ、つくしか、すまんな、こんな時間に』

「いえ、大丈夫です。どうかしたんですか?初めてですね、フランス滞在中のお父様からお電話いただくなんて」

『はは・・・そうかもしれないね。実は今日、高城君からこっちに連絡があったのだがね・・・』

電話口で聞いた高城さんの名前にドキッとした。フランスのお父様にわざわざ連絡をした・・・?
その一言だけで背中がゾクッとして、電話を持つ手の平に変な汗をかいてしまう。少しだけ電話を持つ手が震えているのがわかる。

『実はな、今度アメリカで高城コーポレーションの副社長の結婚式があるそうだ。それに高城家が揃って出席するらしいが、
そこにつくしを招待したいと言ってきたのだよ。もちろん断わる理由もないからお受けしたのだが、つくしは少しぐらい大学を
休んでも問題はないだろう?明後日には日本を出発するそうだから、それに同行しなさい』

「私が・・・アメリカにですか?もう、お返事してしまったの?」

どうしてそうなるの?・・・私は正式には公表すらしていない、仮の「婚約者」なのに。
しかも会ったこともない人の結婚式に出ないといけない理由がわからない。この結婚式は単なる口実で目的が他にあることは
明白だった。彼は日本で正式発表されていない婚約を海外で先にしてしまおうと考えてるんだろう。
花沢はそうなったとしても問題にはしない。だって、この話はうちのお父様からの申し入れのようなものだもの。

そして、今は類が日本にいない・・・これを高城さんが知らないはずはない。

私が断れないように、お父様に頼んで命令という形をとらせたんだ。


「お父様、私はあまり体調が良くないんです。アメリカに行くのはちょっと・・・最近まで主治医の森先生がお屋敷に泊まってくださる
ぐらい悪かったの。ですから、せっかくですけどお断りしたいんです。まだ、旅行なんて自信がないわ」

『ふむ・・・それも加代からの報告で聞いてはいたよ。まだ具合が悪いままか?加代は森は病院へ戻ったと言っておったが・・・』

「えぇ、先生にはお帰りいただいたわ。でも、大学の講義を受けるのも辛い日が多いの。どうしても行かなくてはいけませんか?」

『つくし・・・それなら、加代に頼んで森も同行させよう。それならいいだろう・・・主治医だしお前の身体のことはよく知っているのだ。
同行してもらえばつくしも安心だろう。なに、高城君の話だと、少し向こうでのんびりしたいとも言っていたから2週間ぐらいだろう。
そんなに長期でもないから、つくしの不安がなるべく少なくなるように考えてやろう。それでいいな』


こうなったら、もう聞いてくれることはない。花沢家ではお父様の言葉が絶対だ・・・命令に逆らうことは出来ない。
でも、私1人であの人と2週間もいるだなんて絶対に出来ない・・・私は条件を出した。

「お父様、森先生は同行いただかなくても結構です。その代わり、加代さんを同行させていただけませんか?
具合が悪いときはいつも加代さんに見てもらってるので心強いわ。それなら頑張れると思うんですけど」

『加代を?・・・まぁ、いいだろう。つくしがそれで安心するなら加代に付き添ってもらいなさい』

「ありがとう・・・お父様。そうさせていただきます」


無気力に電話を持つ手が耳から離れて指が緩んだ・・・そして、カタンと音をたててスマホが床に落ちる。
それを拾うこともせずに茫然と立っていた。

高城さんとアメリカで2週間過ごす?・・・この私が?

私はベッドに座り込んだ。
頭が真っ白で何も考えられない。あの人との旅行なんて想像も出来なかった。
もし、向こうで婚約者だと公表されたらどうしたらいい?もし、同室にでもされたら何処に逃げたらいいの?
この話が実は嘘で、このままアメリカに留まることになったらどうしよう・・・それよりもこの身体に触れてきたらどうしたらいいの!

いろんな事を考えていたら部屋をノックする音がして加代さんが入ってきた。


「つくし様、大丈夫でございますか?先ほど旦那様から私にも連絡がございましたわ・・・反対したのですけど、聞いてはください
ませんでした。申し訳ございません・・・お力及ばずで・・・」

「いいのよ。加代さん・・・あなたが悪いわけじゃないでしょう?謝らなくてもいいわ。それより同行の件、勝手に言ってごめんね」

加代さんは小さく首を振って、私のすぐ側に来てくれる。
加代さんのお腹にポスって頭をくっつけたら優しく抱き締めてくれた。

「ちゃんと私が見張っててあげますから大丈夫ですよ。高城様が近づいてこられたら加代が追い払って差し上げますわ!
加代は何があってもお守りしますからね・・・ちょっと、見た目も歳も性別も違いますけど、類様の代わりですから」

「ふふっ!加代さんったら・・・でも、ありがとう。心強いわ」


このあと加代さんはお父様からの伝言を私に話した。

「それともう一つ、旦那様がつくし様に言い忘れたことがあると言われまして、その・・・今回の事は類様にはお話ししてはいけないと・・・。
そのようにおっしゃいました。今、類様はフランスでのお仕事が忙しいそうです。類様はつくし様の事となると我を忘れておしまいになる
ので、それをご心配されてるのです。
もし、集中力を欠いてミスでもあればお立場がないと・・・重要なお役目を担っておいでですから特に神経を遣われているとか。
その邪魔をしないように、とのことでしたわ」

「類に話してはいけないの?でも、黙って行ったらその方が怒ると思うわ」

「さようですね・・・でも、旦那様の言われることも一理あります。この話をお知りになれば類様はきっと日本に戻るって言われますわ。
それはどうしても避けなくてはなりません。どうでしょう、加代がしっかりお守りますから、ここは旦那様の言うとおりに・・・」


加代さんに説得されて、類に連絡するのはやめることにした。
電話だと位置情報で場所がわかる。メールだけのやりとりは許可された。


「電話に出ないだけでも十分心配掛けると思うんだけど・・・だって、あの類だもん」

「そうですね。ではこのところお休みが続いたために、大学のレポートが大変なのでお電話を遠慮してメールにして下さい、とでも
私の方から連絡をしておきますわ。それなら2週間ぐらい大丈夫でしょう?その頃には類様のご帰宅も近づいてるでしょう。
つくし様の旅行も終わっていますもの。そのぐらい我慢して下さいな」

「変ないいわけ・・・類が騙されるかしら?」

「つくし様なら疑うでしょうけど、私からなら大丈夫ですわ!」


何故か自信満々の加代さんに、類に嘘の連絡をしてもらうことになった。
この旅行がとても不安・・・高城さんと行くってことだけじゃなくて、何かが胸の奥が警鐘を鳴らす・・・とにかく不安だった。


*********

<フランス>

「まぁっ!・・・本当に来てくれたのね?類!フランスには花沢の仕事で来たの?例のプロジェクトの関係かしら?」

フランスに来たら寄ってくれと言われていた事もあって、俺は静のアパートを訪ねていた。
そこは今までの静だと考えられないような小さくて古いアパート・・・でも、温かくて幸せな匂いのする部屋だった。
迎えに出てくれた静は少しふっくらしていて、お腹も妊婦だとわかるぐらいに大きくなっていた。

あのスレンダーな静がこんなお腹を抱えているなんて!それがとても幸せそうで嬉しそうで、そして羨ましかった。

「元気そうだね!約束だったから来たよ。旦那は?今制作中?」

「えぇ・・・今は奥の書斎に籠もってるわ。こういう時は極力声を掛けないの。話しかけても怒らないけど邪魔でしょう?
疲れたらちゃんと自分から出てくるわ。それを何日でも待つこともあるのよ?」

静は今でも弁護士の仕事は続けているらしい。
臨月まではしっかり働くんだって張り切っていた。そうしないと暮らせないんだって・・・静の口から生活って言葉が出るなんて
これまで想像したこともなかったよ。

今までは誰かに入れてもらっていたのに、今日は静が紅茶を入れてくれる。
ティーカップから立ちのぼる湯気の向こうで、以前よりも優しい笑顔の彼女が俺を見ていた。

「類は幸せ?自分の人生は自分のもの・・・ちゃんとわかってるわね?」

「うん、もうわかってるよ。とうとう総二郎とあきらにもバラしちゃったよ・・・驚いたみたいだけど、協力してくれるらしいんだ。
ねぇ、静・・・いつかつくしもこんな風になるかな」

俺は静のお腹にそっと手を置いてみた・・・そこには新しい自分の分身がいるんだって、ラファエルは思うんだろうな。
どれだけ愛おしんだろう。こんなにも産まれてくるのを待ち焦がれる存在・・・2人の宝物だもんね。

「私、自分が母親になるってわかってからはね、つくしちゃんのことを考えると胸が痛むの。彼女のことはもちろん可哀相だと思うわ。
でもね・・・置いていったお母様も絶対に今でも後悔して泣いてるはずよ。それも救えたらいいのにね・・・。
まだ産まれてないこの子でさえ、成長が見られなかったらどうしようって思うもの。もし見つかった時に本当のお母様が後悔して
泣いていらしたら、その時は許さなくてもいいけど責めないであげて欲しいわ・・・難しいとは思うけど」

「見つかった時の状況だね。許せるかどうかなんて今はわかんない・・・その時の感情にまかせるよ」


静のアパートで少しだけそんな話をしていた。


KOSU2.jpg

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Comments 4

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2017/09/30 (Sat) 07:42 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、おはようございます❗

メモらなくて大丈夫(笑)
彼は多分、喋る予定もございません!
マコッちゃん、徐々にブラックになってきました…
最初の設定はもうちょっと可愛かったんだけどなぁ。

引き離されていきますが、いつ、どーやって会えるやら…。

月末ですね…今日は昼から出勤です。
棚卸しがあるの。1ヶ月が早いです…。

2017/09/30 (Sat) 08:12 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/30 (Sat) 22:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!おはようございます!

あはは!薬やら毒やら盛るのが好きですね?
まぁ、ここで襲われたらとんでもない事になるので誠君には我慢してもらいましょう。
って、出来るのか?
加代さんにはお食事も夜もつくしちゃんについててもらいましょう。

加代が薬盛られたりしてね・・・。怖い怖い・・・誠君!

今日もありがとうございました!

2017/10/01 (Sun) 08:07 | EDIT | REPLY |   

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