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お家元が決めたという総二郎の婚約者は、ある日突然西門邸に現われた。
それは誰もが認める家柄のお嬢様で、少しだけ見たけれど私とは全然違う気品に満ちあふれた美しい人だった。
総二郎と並んだらなんてお似合いな2人だろう。美男美女で、とても私が入る隙間なんてなかった。

千春さんという彼女は旧華族、和泉家の長女で、その曾祖父は西門の先代と深いお付き合いがあったらしい。
なんでも戦時中に西門の先代を戦火から助け出したらしく、命の恩人だからその後も何かと和泉家の無理難題を聞いてきたという。
それが未だに続いていて、この度、彼女を西門流後継者の婚約者にと和泉家の強い意向があったのだと。


「本当はね、あのお嬢様は祥一郎さんに夢中だったらしいわ。それが祥一郎さんがいなくなったから総二郎さんに鞍替えしたの。
誰でもいいわけじゃないんでしょうけどね、ほら、総二郎さんが一番お顔立ちでは綺麗でしょう?自慢の旦那様になるってものよね!」

「祥ちゃんのお相手だったんですか?千春さん・・・」

「そうね、祥一郎さんなら何度か会ってるはずよ?小さい頃からの許嫁みたいなものですもの。何年か前に顔合わせしてるわよ。
まさか、総二郎さんでもいいとは思わなかったわ。でも、少し印象が変わったわね。昔はもっと感情があって明るい人だったと思うんだけど」

茶道会館に偶然来た後援会の幹部の奥様がそんな話をしてきた。
私は祥ちゃんのことはあまり気にしていなかったから、そんな許嫁って人がいた事も、その人が西門に来ていたことも知らなかった。

祥ちゃんのことが好きだったって言うのに、総二郎でもいいの?人を好きになるってそんなものなの?
流石にそこは気になったけど、もしかしたら千春さんも家の命令には逆らえないのかもしれない。
もしそうなら可哀相だ・・・押しつけられた結婚相手をせっかく好きになれたのに、急にその相手を変えられたのだとしたら・・・。


茶道会館の窓から少しだけ見える本邸の応接室。
今そこで総二郎と千春さんが会ってるんだと思うと胸が苦しかった。彼女が総二郎をのことを好きになったらどうしようと・・・。

**

お昼が過ぎて、ダイニングから茶道会館へ向かう途中で家元夫人と出会った。
幸いお一人だ・・・例の千春さんという人が一緒にいなかったことはラッキーだった。
いつかは会うことがあるかもしれないけど、今日いきなり会う勇気なんてなかったから。

「あら、つくしちゃん。今日は元気がないみたいねぇ?どうかしたの?悩み事があるんならお話聞くわよ?」

「あ・・・いえ、悩みというか・・・」


考ちゃんとの事を断わろう。

咄嗟にそう思いついて、家元夫人に向かって「お話がある」・・・そう言った。
にっこり笑った家元夫人は機嫌が良かった。理由は総二郎の婚約が整いそうだから?考えたくないけれどそれしか思いつかない。
家元夫人の職務室に入れられていつものようにお茶を用意された。


「それで、どういうお話なの?孝三郎さんのことかしら?」

「はい。そのお話ですけど・・・申し訳ありません!私は孝三郎さんとの結婚は考えられません。ごめんなさい・・・」

テーブルに着くぐらい頭を下げて断りを入れた。部屋はシーンとなり、家元夫人からの返事はなかった。
あれ?・・・どうかしたのかしら。まさか、凄く怒ってる?

そう思ってゆっくり頭を上げたとき、家元夫人はケタケタと笑い出した。
ここは笑うところではないんだけど・・・それとも、今まで私は2人にからかわれていたんだろうか。
そう思っていたら意外な答えが返ってきた。

「まぁ!つくしちゃんったら遠慮しなくていいのよ?あなたにはちゃんと後ろ盾をつけますし、まぁ、使用人だった人の子供っていうのは
もう知られていることですものね。それを承知でお話ししたんですもの、気にすることはないわ。
もう!心配させないでちょうだいな!今日はせっかく総二郎さんのお話が纏まったんですもの、こんな日に孝三郎さんのお話が
なくなるだなんて・・・・・・そんなことは許しませんよ?」

「・・・えっ?」

最後の一言はゾクッとするほど低い声で、眼を合わせた私は家元夫人の表情に凍りついた。
眼が笑っていない。なのに口角を上げて微笑んだ口元・・・許しませんよってどういう意味?


「つくしちゃん・・・孝三郎さんのどこが嫌なのかしら。あの子は良い子よ?昔から元気で素直で私の言うことはなんでもきく子なの。
反抗期もなかったし、あれでお茶に本気を出してくれたらいいとは思うけど、そこはあなたの腕次第だって言ったでしょう?」

「家元夫人・・・私はここを出ようと思っています。ですから、孝三郎さんとのことは・・・」

「西門を出る?あぁ、茶道会館を出るって言うのね?それは問題ないわ。西門の息子のお嫁さんがいつまでも事務員なんか
しなくてもよくってよ。話が本決まりになったら考えましょう。総二郎さんの事を先に済ませないと孝三郎さんが気になるらしいの。
だから、しばらくはこのままだけど、つくしちゃんのお気持ちはよくわかったわ」

「家元夫人!」

「いいのよ?つくしちゃんが気が引けるって言うのもわかるわ。だからちゃんと表向きは体裁を整えます。それでいいわね?」


わかっているはずなのに全然話を聞こうとしてくれない。
考ちゃんが先に総二郎を片付けるように言ったですって?・・・つまり、総二郎を先に結婚させて私たちを離そうとしてるの?
サッと席を立った家元夫人はドアを開けて私の方の見た。それはここを出て行けというサインだ。

「失礼します。お忙しい中お時間いただきました・・・申し訳ありません」

「ほほ・・・いいのよ。またゆっくりとお話ししましょうね、つくしちゃん」


********


その日の夕方アパートに帰ろうと廊下を歩いていたら、縁側に総二郎が座っているのが見えた。
悲しそう・・・というよりは辛そうな顔。今日の話はどう思ったんだろう。
相手の人は綺麗だった?もしかして一目惚れなんてしてないよね?総二郎は私だけを見てくれてるよね?

・・・でも、どうしようもないんだね。

足音もさせないで近づいたら本当に後ろに立つまで気が付かなかったらしい。

でも、何となく側まで行ってはいけないような気がした。
横に誰かがいるわけでもないのに、総二郎の隣にまだきちんと見たこともない千春さんの影があるように感じてしまう。


「総二郎・・・私の事なら気にしなくていいんだよ。総二郎はこの家の後を継ぐ人だから仕方がないよ・・・。私の事を好きだって
言ってくれた言葉が嘘じゃないなら私はそれだけでいい・・・ちゃんと、前を向いて生きていけるからさ」

「・・・お前が良くても俺が良くねぇよ!1人で決めるな・・・!俺はもう他の女は抱かないって決めてんだ。だからあんな女が来ても
跡取りなんて出来ねぇよ」

いかにも総二郎らしい露骨な表現に、悲しいのに少し笑ってしまった。

「総二郎、お茶だけはやめないでね?もし・・・私をとるためにお茶を捨てるって言うなら私は総二郎の前から消えるわ」

総二郎が私に伸ばしかけた手を止める。
もうその手をこの家では掴むことが出来なくなってしまったのね。その綺麗な手はいずれ彼女の手をとるんだね・・・。
そう思ったらもう総二郎のことを見るのも辛かった。このままだときっと泣いてしまう・・・急いで帰ろうと立ち上がった。


「もう、送ってもらう事も出来ないね。千春さんって言うんでしょ?・・・今日からここに住むって本当?」

「あぁ、そうらしいな。お袋の向こう側に部屋を作ったらしいが俺には関係ねぇよ」

「総二郎の部屋じゃないの?・・・良かった・・・」


良かったって思わず呟いてしまった。
私が初めて潜り込んだあのベッドに他の女の人が寝るだなんてとても耐えられない、そう思っていたから。

「それじゃあ帰るわ。これ以上遅くなったら暗くなるからね。じゃあ・・・またね」


「つくし・・・お前、変な気を起こしてんじゃないだろうな」

総二郎に背中を向けて帰ろうとした私にそう声をかけてきた。
でも振り向いて総二郎の顔を見るのも辛かったから、私は何も答えずに裏門の方に向かった。

背中に総二郎の視線が刺さるような気がしたけど、泣いた顔を見られたくない。
涙で彼を繋ぎ止めるようなマネはしたくなかった。


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Comments 6

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2017/10/06 (Fri) 14:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こ・・・こんにちは!

えらい怒りようですね・・・毎度申し訳ない。
いや、このぐらいで怒ってたらこの先が読めなかったりして・・・(笑)
ど、どうしよう。私のところにブタクサが届いたら・・・朝起きたら玄関にブタクサ・・・怖いわ!

頑張れっ!総二郎っ!えみりん様から変なモノが届くかもよっ!!

と、いうことで総二郎が頑張るそうです。
でも、類も頑張るそうです。

ワタシガイチバンガンバラナイトイケナイノネ・・・。

2017/10/06 (Fri) 15:46 | EDIT | REPLY |   
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2017/10/06 (Fri) 21:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんばんは

もも様、今晩は!

あはは!洗脳ですか!
自分に甘えてくる末っ子が可愛いんですよ。それが洗脳なのかな・・・?
そうですねぇ・・・大暴れしてメチャクチャにして殴り倒してから飛び出たい!その気持ちは同じです!
自分だったらですけど。

今回は家元夫人が嫌なおばさん設定なので(笑)結構皆さんお怒りモードで・・・申し訳ないです。

「そ・・・総二郎!早くどうにかしないと読者さんが怒ってるよーっ!!」

と、伝えておきます。そのうち頑張ってくれると思います!

今日はありがとうございました!

2017/10/06 (Fri) 23:53 | EDIT | REPLY |   
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2017/10/07 (Sat) 23:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

あぁっ!ごめんなさいね、さとぴょん様の嫌いなタイプの家元夫人で・・・!
意地悪じゃないんだけど本当に考ちゃんしか見てない人なんですよ!困った人です・・・はい。

こっちでは総二郎に頑張ってもらわないとっ!
どの話をとっても、今誰が活躍してるんだかわかんない状態っ!
plumeria、ブログ始まって以来のパニックになっております!もう少し普通の話が書けんのかいっ!
って感じです・・・。

睡眠不足だからかな?(と、いいわけをする)(*^▽^*)


2017/10/08 (Sun) 09:59 | EDIT | REPLY |   

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