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高城がフランスの水素複合貯蔵システムの現場に入ったのはプログラムミスが発覚した次の日だった。
藤本から社長と高城が現場に入ったと報告があり、出向くかと聞かれたが断わった。
会わずに済むなら会いたくなんてない。つくしをアメリカにまで連れ出したんだ・・・会えば何を言い出すかわからなかった。

施設そのものが違うために直接会うこともなく、自分の担当する再生可能エネルギー貯蔵システムのモニターを見ていた。
慌ただしく人が出入りする別棟にたまに目をやるけど、おそらく中では高城が真っ青な顔で検証しているんだろう。
俺はエンジニアというわけでもないけどプログラム作成には立ち会っているから、この苦労はわかるつもりだった。

だから余計に今の高城には会いたくない。企業人としては今の高城がどれだけ焦っているかわかるから・・・
側にいたら同じ日本人としては助けたくなるかもしれない。でも、男としては許すことは出来ない・・・複雑な感情があったから。


「Mr花沢、少しいいですか?」

「はい。どうかしましたか?こっちは順調に作動していますけど・・・なにか?」

「いえ、ここではなく水素複合貯蔵システムの方に来ていただけませんか?アメリカから来た日本の企業のエンジニアに会って
欲しいのですが・・・時間とれませんか?」

「道明寺ですか?高城・・・ですか?」

「そう言えばご存じでしたね!高城コーポレーションという企業ですよ」

この担当者が言うには高城誠と現地のフランス担当者の会話が上手くいかないらしい。
高城は英語は堪能だがそれ以外の言語が出来ない。おまけに焦りもあるから余計に会話がスムーズにいかないんだろう。
一応俺はフランス語と簡単なドイツ語、イタリア語ぐらいは出来る。フランス語なんて母国語みたいなもんだった。

「それで、私が行って通訳でもするんですか?そのぐらいなら可能ですけど・・・」
「もちろんです!別会社のプログラムに手を出せなんていいませんよ。とにかく急いで来ていただけませんか?」

面倒くさい・・・一番始めに思った言葉だ。

仕方なく問題の施設に向かった。
行っても俺の出現を高城がどう思うかはわかんないけど・・・。


******


モニタールームには大勢の人間が集まっていて、どこに高城がいるかなんてわからないほどだった。
多分ここには数ヶ国のエンジニアが集まっているんだろうから、聞こえてくる言語も様々だ。ただその中でも日本語は特別だ。
聞き覚えのある声が奥の方で響いていた。

「くそぅっ!どうしてこんな組み立て方になってるんだ!誰がやった?これは高城の指示どおりじゃない!」

そんな声が聞こえると、その日本語が理解出来ない周りの連中は顔を見合わせている。感情を露わにして捲し立てる高城に
周りのエンジニアが落ち着くようにと声を掛けているけど全く耳に入らないのかミッションシートを握りつぶすよう持っていた。
そしてこの部屋の後ろの方には冷静に事態を見つめている高城社長がいた。

誠と違って落ち着いているが、どこかこの非常事態に似つかわしくない表情だ。


「高城社長、お疲れ様です。花沢ですが、この度は大変でしたね」

「おぉ、花沢の・・・いや、まだ試験段階でのトラブルだからそこまではね・・・ただ、どうしてもうちのような出来たばかりの会社は
小さいことでもそれが原因で経営不振に陥るものだからね。随分前を思い出してしまってね・・・」

高城工業の倒産のことか・・・確か小さな部品一つの設計ミスから、この人はすべてを失った。
それと今回のミスを重ねて考えてしまうんだろう。高城ももしかしたら同じ事を考えてあれだけ必死なんだろうか・・・。
各国のエンジニアに英語で話しかけながら、大型のモニターに映る数値を睨み付けていた。

高城社長の隣にいたらさっきの現場担当者が近寄ってきた。

「Mr花沢、申し訳ないが、あの青年を手助けいただけませんか?通訳も兼ねて・・・どうも一人でやろうとして誰の意見も聞いて
くれないのです!すみません・・・こちらへ!」

「花沢君、申し訳ないが誠も気が高ぶってるんだろう・・・私ではもうあんなコンピューターは扱えないから口が出せないんだよ。
手伝ってやってくれないか?すまない・・・この通りだ」

高城社長までが俺に頭を下げる。この人は社長という立場であっても元は職人・・・こういう態度にそれが現われるんだろう。

「私はエンジニアではありませんから詳しいことはわかりませんよ。それにこれは高城のプログラムソフトですからね。協同開発者の
高城のエンジニアを呼んで下さい。それまでに私が出来ることならやってみますけどね」

人混みを掻き分けて中央まで行くと、そこのモニター前の椅子には高城が座っていた。
大画面のモニターに表示されている数値の計算式を探っては修正を繰り返す・・・そして間違ったのか慌ててまた修正をする。
こんな時はのんびりしているのはむしろ外国の方だから、生真面目な日本人はどうしても焦って修復作業に夢中になる。
多分周りの関係者は早くしろと言ってるわけじゃない。

「なにを焦ってんの?周りの声が聞こえてないんでしょ・・・そんなんじゃまたミスするよ?」


俺が声を掛けると高城の手がピタッと止まった。
そして振り向いて俺を睨み付ける。そういう事か・・・ここで俺に失敗した姿なんて見せたくないってわけだ。
日本で見た来たあの自信家の高城ではなく、ミスを修正するために汗を流すプログラマーの顔をした高城がそこにいた。

「何をしに来たんだ・・・花沢はここの担当じゃない!出て行けよっ!」

「・・・別に好きで来たわけじゃないよ。呼ばれたから来ただけ・・・取り敢えず通訳しとくよ」

そう言うと周りにいた関係者にフランス語とドイツ語とイタリア語で説明した。
今から高城が修復をするから心配せずに持ち場に戻るようにと。そして何人かのエンジニアからの質問を高城に伝えると
不機嫌な声で高城が呟く言葉をまた相手に伝えた。少しずつモニタールームが静かになり、やがてこの部屋には高城の関係者
だけとなり作業は進められた。

仕方なくこいつの隣でプログラムシートと入力画面の照合を行い、一致しない一カ所を見つけてしまったのは俺・・・。
原因はやはり高城誠のプログラムミス・・・数値の計算式にたった一つ、アルファベットの入力漏れがあった。
静かになったら頭が冴えてきてすぐに見つけられたミスなのに、さっきまで大声で喚いていた高城は小さな見落としに気づけなかっただけ。

「なんでだ・・・どうしてこんな小さなミスをしたんだ?この俺が・・・」

「誰にだってミスはあるんじゃないの?確かにこのミスのせいで作業が二日間遅れたけど、事故にまでは至ってない。
これが本格稼働前で良かったと思いなよ。それと、あんまり自分の腕を過信しないことだね」

「何だと・・・お前みたいに産まれたときから将来が約束されたヤツらに言われたくない・・・!俺は必死で勉強してこの高城を世界に
認めさせるために開発に力を入れてきたんだ!それなのにこんなミスを世界に晒すなんて・・・っ!」

「そう思うんなら徹夜でこのプログラムソフトの見直しでもするんだね・・・一発で修正可能なら高城の汚名返上じゃない?
2回やったらアウトだけどね・・・そんなことはどうでもいいんだけど」

俺にとってはここからが本題だ。
高城は俺の方を見もせずに大型モニターを見つめていた。


「つくしはどこにいるの?」

「・・・ニューヨークだ。婚約者としてパーティーに出席させた。そして今からはプライベートで旅行の予定・・・だったんだけどな」

「じゃ、高城は暫くここで作業でもしてなよ。つくしは返してもらうからね」


「兄妹のくせに・・・なにが返してもらうだ!」

「全部のチェックには最低でも3日間は掛かるでしょ?責任もってじぶんでしろよ」

高城の言葉なんてもうどうでもいい。加代に電話をしてさっさと東京に帰るように指示を出そう。
この部屋の隅で未だ立ち尽くす高城社長に挨拶だけして、自分のモニタールームに戻った。


*********


「つくし様、予定が色々と変わりましたわねぇ・・・。初めての海外ですもの。ご自分で少し出歩いてみられたらいかがでしょうか。
高城様がこちらに戻るのもいつになるかわかりませんでしょう?この部屋に閉じこもっていても気分が塞がりますわね」

窓から眼下の街を眺めていた私に加代さんがそう話しかけてきた。
確かにそうだった・・・ここに来てまだ3日目だけど自分の意思で動いたことが一度もなかった。
常に監視されているかのように高城さんの眼があって、縛り付けられているようだったから。

「そうねぇ・・・でも、私はニューヨークの街なんて全然知らないし、類もいないから怖いのよね。だってここはアメリカでしょう?
治安ってどうなの?東京より怖いんだよね?・・・どうしようかしら」

「まぁ!花沢のお嬢様がなんて気の弱いことを!裏通りなどに足を踏み入れなければ大丈夫ですわ。加代が付き添いますから
すこしお出かけしてみましょうか?これでも加代はニューヨークには何度か来ていますのよ?」

「・・・うそっ!そうなの?」

「お任せください!これも大事なお勉強ですわ。世界を知ると言う意味ではご自分の足で歩くのが一番ですからね」


急に出来た自由時間・・・私は加代さんとニューヨークの街に出掛けることにした。
まさかこれがとんでもない事件の始まりになるとも知らずに・・・。


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Comments 4

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2017/10/10 (Tue) 06:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、こんにちは🎵

何故?(笑)
延ばしてないですよぉ!全然そんな気ないですって!
延びたのはややこしくしすぎて総ちゃんの出番が増えたからですって!
しかも、予定外に司くん、出したからなんですよー!
100を越えるなんて思ってもなかったですよ(笑)

でも、大丈夫!10月には終わります‼️(笑)

2017/10/10 (Tue) 12:25 | EDIT | REPLY |   
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2017/10/10 (Tue) 22:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

誠君はまだ何も知らないのですよ。すみませんね、ややこしくて。
自分でも何が何だかわかってないですからヤバい状態です。たまにどっちの類書いてんだかわかんなくなりますからね!
たまーにキャラが可笑しくないか?って思ったらそういう現象だとお考え下さい。

夜の類君がお昼に来たのね?・・・と。

寒くなったと思ったらお昼は暑かったし・・・風邪引きやすい時期なのかな。
会社で風邪引きさんが多いです。もらわないようにしなくちゃ!
そう言えばブログを始めた時はインフルエンザで会社を休んでるときでした。
高熱が出なかったのにインフルエンザって反応が出て、急に休むことになったのでブログを開始した覚えが・・・。

早いなぁ・・・月日が経つのって。

2017/10/11 (Wed) 00:46 | EDIT | REPLY |   

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