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私と話をしたいという千春さんの申し入れは家元夫人から茶道会館へ伝えられた。もちろんそれを断わることなど出来るはずもない。
事務長はあっさりと私に今日の仕事はここまで、と言って早退許可を出した。


総二郎とすでに関係を持っているからだろうか。この人に対して嫉妬なのか、それとも気が咎めているのかわからなかった。
だから自然と 俯いてしまう。千春さんは堂々と正面を向いているのにその顔を見ることが出来なかった。

「どうかしたのですか?ご気分でもお悪いの?そうでなければお顔を上げて下さいな」

「あ、ごめんなさい・・・緊張してしまって・・・」

自分に都合良く緊張だなんて言ったけど、本当はこの人と会いたくなかっただけ。でも、仕方がないので顔を上げて眼を合わせた。
やっぱり凄く綺麗な人・・・生粋のお嬢様という感じのこの人が、なぜ急に私と話したいと言ったのだろう。

総二郎から離れろと言いたいんだろうか。それとも違う話?
千春さんが何を考えているのかがわからなくて、ドキドキして心臓が痛くなるほど締め付けられた。


「つくしさん・・・って可愛らしいお名前ですわね。ご両親がつけてくださったの?」

「はい?あっ!名前ですか?はい、父がつけてくれたらしいです。もう亡くなっていますから正確なことは知りませんけど・・・」

「あら、ごめんなさい。余計なことを申し上げましたかしら・・・ご苦労なさったのね」

ごめんなさいと言う千春さんだけど、その顔には謝罪なんて感じられず、この部屋に入ったときとなんの変化もない無表情のまま。
もしかしたら私の事を可哀相な境遇で育ったんだと哀れんでいるんだろうか・・・少し卑屈な考えも起こしてしまう。


「あなたは確か孝三郎さんのお相手の方でしょう?と言うことは私達は いずれ義理の姉妹と言うことになりますのね?
よろしくお願いいたしますわ。わたくしはほとんど和泉の屋敷から出ずに生きて 参りましたから、世間というものを知りませんの。
ですから、あなたのように色々と知っている方が妹になって下さると心強いわ。 頼りにしています・・・つくしさん」

「・・・いえ、私は考ちゃ・・・孝三郎さんとはそんな関係じゃありませんから・・・」

態と言っているんだろうか。さっき、廊下で会った時の変わり様からしたら総二郎と私の事を知っていると思ったのに・・・。
義理の姉妹になるだなんて話をしていても、その表情はそれを受け入れてはいないようだった。
自分と私とが立場は違うけど、同じ西門のお嫁さんになるだなんてプライドが許さない・・・全身でそう訴えているかのように見えた。

「あら・・・家元夫人はその気みたいでしたわ。あなたはこちらで小さい時からお世話になっているんですって?大学まで出させて
いただいたのでしょう?普通は他人にそこまでしませんもの。余程あなたが可愛いのでしょうね・・・そうじゃなければ息子の相手に
だなんて考えませんわ。この西門の末の息子さんといえど、迎えようと思えば良い家柄のお嬢様はいくらでもいますもの・・・」

「・・・そんなことはわかっています。でも、私が頼んだわけではありませんから」

「でも、これでご恩返しが出来ますわね。育ての親が本当にお母様になって下さるんですもの、嬉しいでしょう?それに何もない
あなたのような方が伝統ある西門の一員になれるだなんて光栄ですものね。手を挙げたとしてもなかなか叶わない事ですわ。
そう考えるとこのお話もお受けになるしかないでしょう?・・・余所見なんてしている場合じゃございませんわ」

「余所見?・・・それは・・・」

「わたくしは総二郎様の許嫁ですからご忠告したまで・・・あなたとは上手にお付き合いしていかないと、総二郎様にも怒られそうですから。
お互いに西門の血を絶やさぬようにいたしませんとね・・・この家にはそれが一番大事なのですってよ?嫁ぐというのも大変ですわね」


この言葉の後、私は何も言えなかった。
千春さんはやっぱり全部知っていて、私に総二郎から手を引けと言ってきたんだ。
こんなにも美しくてプライドの高いお嬢様に こんな言葉を出させたのは私だ・・・。

「お仕事のお邪魔をいたしましたわね。つくしさん、孝三郎さんはお優しい方みたいよ?その硬い心を開いて飛び込んで行かれたら?
もし、何かが気になるならここを出てお二人で暮らしたら宜しいわ。家元夫人もきっとお許し下さるわよ?」

何かが気になる?それは総二郎と千春さんの事を言ってるの?・・・次々に出る彼女の言葉に耐えられなくなって膝の上に置いた手が硬く握られた。
千春さんはそこまで言うとすっと立ち上がって居間から出ていった。
1人残された私は暫くその場から動くことも出来ずに座ったまま・・・涙すら溢れることはなかった。



どのくらいの時間そうしていただろう・・・窓から差し込む陽がオレンジ色に変わろうとしていた。
何かを考えていたかというとそうでもない。すでに考えなければいけないことは十分に考え抜いて結論は出ていたのだから。

一つだけ言えることは、私は総二郎から愛されているという事実に変わりはないと言うことだった。
そして私も彼を裏切ることはない。考ちゃんを選ぶことはない・・・たとえ、私が総二郎の前から消えたとしても。
どうしても考ちゃんを選ばなくてはいけないのなら、総二郎との約束を破って私はここから消えてしまおう・・・そう思っていた。

心配なのは総二郎がお茶を辞めてしまうことだけ・・・それだけは絶対にさせてはいけない。
彼からお茶を取り上げてしまうことは出来ない。そんなことをしたら総二郎が総二郎でなくなってしまうから・・・。


*********

<side千春>
つくしという女に出会った。
どこが良いのかしら・・・ごく普通の容姿、むしろ子供のような幼さで、とても総二郎様が夢中になるとは思えない女だった。
あんな子にこの私が負けてしまったのかと思うとプライドが許さなかった。

おまけにあの子は孝三郎さんまでが夢中だと言うから理解が出来ない。あのつくしという女はいったい何を持っているんだろう。
男性を惹きつける要素があるとは思えなかった。だから、つい・・・キツい言葉で彼女を責めてしまった。

彼女を1人居間に置いてきてしまったけど、その場にいることが苦しくなったのは私の方だった。 あの純粋そうな瞳を見ていると
自分のドロドロした気持ちが見透かされているようで怖かった・・・総二郎さんの許嫁だなんて言いながら気持ちがそこにないことを
悟られてるんじゃないかと。打算のない人間は苦手・・・私は常に家のために、和泉のために生きろと言われて育ったのだから・・・。

祥一郎さんさえこの西門にいて下さったら私もこんなに嫌な女になることはなかったのに・・・!
つくしさんを責めるような言葉を出しておきながら、私自身も何かに縛りつけられているような気がして胸が苦しかった。


その時に前の方から歩いてくる男性を見かけた・・・総二郎さんそっくりの弟、孝三郎さんだ。


私の中の黒い部分がまた顔を出す・・・。
彼が私に気が付いて近寄ってきたので、最高の笑顔で迎えてあげた。

「あれ?あんたが総兄のお嫁さん・・・千春さんだっけ?すっげぇ美人だね!初めまして!」

「ふふっ・・・噂どおりですこと。初めまして、和泉千春ですわ。孝三郎さんですわね?宜しくお願いいたしますわ」

茶髪で調子の良さそうな末っ子だこと。
総二郎さんとは性格が全然違うのね。それなのに孝三郎さんもつくしさんが好きなのね?・・・本当に不思議な兄弟だわ。
この子には予定どおり、つくしさんと婚約していただかないと・・・この私が総二郎さんにまで捨てられるわけにはいかないんだから。

「今そこでつくしさんとお話ししてましたの。孝三郎さんとご結婚されたらお互いにの西門の嫁になるわけですから仲良くしましょうと・・・。
随分と可愛らしい方ですのね、つくしさんって。いつからお好きなの?小さい頃からこの家に一緒にいたんでしょう?」

「つくし?あぁ、俺がつくしを好きなのはガキの頃からだから、もう20年近くかな・・・それを言うなら俺たち兄弟3人ともだから!
結局つくしをもらうのは俺になったんだけどね!これってラッキーだよね!」


「・・・祥一郎さんもでしたの?」

「多分そうだと思うよ。祥兄はわかりにくかったけどね。この家を出るときにつくしを連れて行こうとしてたらしいからそうなんじゃない?
つくしの方が断わったらしいけどね・・・その辺はよく知らないんだけど!じゃあ、またね!千春さん」

この軽い青年は私に片手を上げてにこやかに去って行った。
精一杯笑顔をつくって私も手を振ったけど、その姿が見えなくなると一気に自分の中に嫉妬の念が湧いてくる。

祥一郎さんまでがあの女を好きだったの? それじゃあ、私は何年前から裏切られてきたの?


何度か会ったときに私に見せた笑顔はなんだったの?
祥一郎さん・・・あなたのせいで私はどんどん恐ろしい女になっていくような気がする・・・。


今では開くこともない鍵の掛かったあなたの部屋・・・私の眼は今日もそこを見ているのに・・・。


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Comments 2

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2017/10/14 (Sat) 23:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!おはようございます!

ど・・・どんな意地悪ですか?どうしよう・・なにがいい?
ムカデのゴムおもちゃとか、廊下にバナナとか、ドアを開けたら黒板消しが・・・。
いつの時代の悪戯だ?しかも西門邸で?

鬼になるかどうかはわかりませんが、千春ちゃんのことも見守っていただけると嬉しいです!
考ちゃんは・・・こいつはいいや!(笑)

今日もありがとうございました!

2017/10/15 (Sun) 10:16 | EDIT | REPLY |   

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