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plumeria

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私が気がついたとき、病室には誰もいなかった。
場所を聞くと鎌倉にある総合病院だと言われた。何故自分がそんなところにいるのかはわからない・・・わかっているのはここに
連れてきたのが考ちゃんだろうということだけだった。だけど、その考ちゃんも今はどこにいるのかわからなかった。

そして看護師さんからお腹に赤ちゃんがいると知らされた。もちろん、総二郎の赤ちゃんだ・・・まだ、2ヶ月らしい。
自分のお腹に右手を当ててみる・・・まだ全然信じられなかった。思い当たることはもちろんある。気をつけなかったのかと言われると
そこまでの余裕はなかったのかもしれない。いや、もしかしたら希望があったのかもしれないけど。


「牧野さん、あなたはここに緊急で運ばれてきたんだけど、この件についてはどうしましょうか・・・連れてきてくれた人がお相手の方?
それならお見舞いに来てくれた時にお話ししましょうか?付き添ってくれた方はお母様かしらねぇ・・もしご希望なら入院手続きを
とられた西門孝三郎さんとご一緒の時でもいいわよ?腕の怪我のこともあるし・・・一緒に説明聞きたいよね?」

お母様?・・・まさか、ここに来たときに家元夫人が一緒だったのかしら・・・!
あの人は救急車も呼ばずに自分でここに運んだの?だから、こんな離れた場所に!・・・それって、自分のした事を隠そうとしたのね?
私の身体よりも、自分たちのスキャンダルを出さないようにすることを優先させたのね・・・?!酷いよ・・・考ちゃん!!!

考ちゃんの名前を聞いたら全身が震え出す!看護師さんが驚いてすぐにドクターを呼んでくれた。
妊娠中でもつかえる薬には限りがあるらしくて、看護師さんに指示しながら効き目が穏やかだという安定剤のようなものを投与されたみたい。

少し落ち着いた私にさっきの看護師さんがまた声をかけてくる。小さな声で囁くように・・・私は薬のせいでウトウトし始めていた。

「なにか訳でもありそうね・・・でも、あなたの身体のことだから説明はちゃんと聞かないとね。今はまだ頭に入らないかもしれないから
ゆっくり休んでていいわ。それと・・・赤ちゃんのことはまだ西門さんには話してないの・・・どうする?」

「・・・絶対に言わないで下さい。あの人は私とは関係のない人です・・・お腹の子供の父親ではないんです」

「そう・・・相手の方には連絡出来る?来てもらいましょうか?」


総二郎にここに来てもらう・・・?でも、即答できなかった。
だってあれだけ止められたのに考ちゃんに会いに行って、こんな目にあって病院にいるだなんて説明する勇気がなかった。
言えば絶対に来てくれることはわかっていた。どんなに怒っていても必ず来てくれる・・・それだけは信じることが出来たんだけど。


「少し考えます・・・あの、私の怪我はどうなんですか?あちこちが熱いような痛いような・・・傷が深かったんでしょうか」

「あぁ、怪我の方ね・・・」

看護師さんが説明をしてくれたのは私の首の傷と左手の傷についてだった。
首は刃物のようなもので鎖骨の上の方を深く切っていて、もう少しズレていたら頸動脈を損傷していたかもしれないと言われた。
傷が深かったから傷痕が残るのは仕方がないだろうと・・・問題は左腕だった。

「左腕の傷は神経を傷つけていたから、もしかしたら後遺症が出るかもしれないわ。指が動かしにくいとか、ものが持てないとか・・・
細かい作業には影響は出るでしょうね。そのぐらい傷が大きかったの。しばらくは痺れたり痛んだりを繰り返すと思う。
西門さんの話では自宅で割れたガラスの上に倒れこんだって言われたんだけど・・・それは確かなの?もしも違うのなら警察に話しても
いいんだけど。ドクターも最初はそう言っていたの・・・でも、途中から話さなくてもいいって言い出したからおかしいと思っていたのよ」

警察に・・・?私は何かの被害者に見えたって事なのね?それだけ不自然な怪我なんだ・・・。
多分、それを止めたのは家元夫人だ。病院側に何を言ったのかもわかる・・・考ちゃんを守るためならいくらでも出すだろうから。


「・・・治りますか?左腕・・・時間がかかっても治るんなら・・・」

「神経を切ったり傷つけるとね、その後の後遺障害は人それぞれ・・・予測は出来ないの。意外と平気だったり、その反対もあるわ。
牧野さんがどちらなのか、今の段階ではわからないわね」


左腕に障害が残るかもしれない・・・それは、残酷な一言だった。
もし、左腕が役に立たなかったら、総二郎が頑張って説得してくれて、私が彼の横に立てる事になったとしても西門のお荷物になる
と言うことだ。お茶が出来ない私がそんな家の中に入ることは出来ない・・・総二郎に余計な苦労をさせてしまう。
それに首にこんな傷跡がある女が着物なんて着てお茶会に出るだなんて、それだけで妙な噂が立ってしまう。

左腕に巻かれた包帯と未だに続いている点滴・・・まるで動かないこの腕を右手で触ってみた・・・あまりその感覚がない。
麻酔が効いているかのように痺れがあるんだけど、自分の意思で動かすことが出来なかった。

「少し眠くなりました・・・1人にしてもらえますか?」

「そう?じゃあ、何かあったらそこのナースコール、使ってね」

「はい、ありがとうございます」


バタンとドアが閉まる音がして、その後はシーンと静まりかえった。


****


自分の中に総二郎の赤ちゃんがいると言われた。
そう言えば、いろんな事があって気にしていなかったけど・・・確かに遅れていた。それを、妊娠だなんて全然考えなかった。

私はベッドの中でもう一度右手でそっとお腹を触ってみた。もちろんなんの変化もない・・・むしろ前よりも痩せてるみたい。
だけど、この子は私がこんなにストレスを溜めて、あんな騒ぎも起こしたのにちゃんとここで生きててくれるんだね。

総二郎が知ったらなんて言うだろう。喜んでくれるんだろうか・・・それとも、困るのかしら。
そんなことを考えながらも、私の閉じた瞼の裏では総二郎がすごく喜んで私を抱きしめてくれる姿しか想像出来なかった。
だから、教えたらきっと飛んでくる。そして、全部何もかも捨てて私の事を選んでくれるだろう・・・それが辛いと思った。

だって、それは西門を捨ててしまうってことでしょう?お茶を辞めるってことでしょう?

私の妊娠が総二郎からお茶を取り上げてはいけない。茶道はあの人そのものだから・・・。


私に同時に与えられた幸せと悲しみ・・・

「うん、大丈夫・・・この子がいれば大丈夫・・・私はこの子のために強くなろう。父親がいない分、2人分愛してあげるからね」

お腹に向かって話しかけると、実感もないのにコクンと何かが反応したような錯覚まで起きた。
そんなわけないのにね。出来たら男の子がいいな・・・総二郎にそっくりな男の子・・・そうしたら毎日傍にいられるじゃない?
枕が濡れているんだろうか、少し冷たく感じた。動かせる右手が今度は私の顔を拭う。


総二郎・・・今頃怒ってるよね?多分、すごく怒ってるよね?
私のアパートにも行ったんでしょう?数少ない友達にも電話連絡したんでしょうね・・・そして、きっと仕事を休んでるんでしょう?

私は声が出ないように傍にあったタオルを口に当てて泣き続けた。
もう流れる涙がなくなるってくらい、髪も枕も濡れてしまっても抑えることが出来なかった・・・!


『つくし・・・あんたの子供が泣いてるよ?母親ってのは滅多に泣くもんじゃないのよ・・・』


「・・・え?お母さん?」

どこかから聞こえてきたのは懐かしいお母さんの声だった。
私の赤ちゃんが泣いてるって?・・・私が泣くから、一緒に泣いてるって言ったの?

その声はとても温かくて優しい声・・・亡くなってから何度か聞いたような気がしたけど、久しぶりにお母さんを思い出していた。

今度は私がお母さんになるの?
じゃあ、もう泣いてはいけないわね・・・お母さん、だもんね。


小さな天使が私の中で微笑んでいるような気がした。


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Comments 4

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2017/10/22 (Sun) 12:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは~!

ピンチの時の・・・ふふふ。来ましたね?
どうなるのかはお楽しみに・・・ここからガラッと変わるんですよ。
10月に終わる予定が大幅に延びております!11月になったらこのタイトルは恥ずかしいんだけど(笑)

イベント、楽しんでもらえてますか?
それは何よりです!頑張って書いてよかった・・・途中何回か死にそうになりましたから!
私も管理人さんが予定表つくって下さったので確認したら、続いていたのでびっくりしました!
読者さんには面白くないだろうに・・・とはいえ変えることも出来ないし。
しかも、一番自信のないBattleでしたから!孫悟空の後に本編ラストかい?みたいな。

あと一週間ありますのでどうぞイベントも宜しくお願いします!
今日はありがとうございました!

2017/10/22 (Sun) 16:58 | EDIT | REPLY |   
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2017/10/25 (Wed) 12:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は

えぇ、もちろん!バレないようにこそっと逃げますわよ?
こそっと・・・ね。

さて、どうやって逃げるのかが問題です。
・・・え?バレバレ?・・・でしょうね!

2017/10/25 (Wed) 23:54 | EDIT | REPLY |   

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