FC2ブログ

plumeria

plumeria

「これさ・・・何のためにいると思う?」

類が目で見ているのは「妊娠届け」・・・それが何故必要かって?そんなことは男の俺にはわかるはずもなかった。
答えることが出来ずに黙ってそいつを見ている俺をジッと見ている・・・首を横に振ってテーブルに書類を置いた。
類もクスって笑って「お互い様だよ」なんて言っている・・・そして、その書類を手にとって類までが眺めていた。

「これね・・・今頃牧野が一生懸命探してると思う。俺が黙って牧野の鞄から取ってきたんだ。ちょっと余所見してるときにね。
俺もこれが何のために必要なのかわからなかったから調べたんだ。そしたらさ・・・母子手帳をもらうためなんだってさ。
でも、それって牧野の住民票がある所で交付されるから、北海道じゃもらえないじゃん。でも、欲しいんだと思う・・・
この書類だけ大事に鞄にしまうとこ見たんだよね。ホント、牧野って嘘が下手だから・・・」

「母子手帳・・・」


それが欲しくて?それなのにここから早く逃げたい気落ちの方が強かったのか・・・。
類はもう一度俺にその紙を手渡して、今度は真剣な表情をした。

「これから言うことは利用された俺から、2人に対しての要求だと思って聞いてくれる?
総二郎・・・これを区役所に持っていって代理で母子手帳もらって来て。委任状が必要だけど、そのくらいどうにかしてよね。
西門を出たんなら牧野の所に行って、あいつを支えてやって・・・。それと、これ、牧野のアパートの鍵。ここの解約もしてくれる?
そして、腕の不自由な牧野が困らないように車も乗りやすいものに変えて、牧野の荷物を持って北海道まで来て。
場所は教えてあげる・・・花沢の使ってない別荘があるんだ。そこに住めるように手配してる」

類が差し出したつくしの部屋の鍵・・・テーブルの上に妊娠届けと一緒に置かれたその鍵を自分の手に取った。
もうあのアパートに帰る気がないって事か。そりゃそうかもしれない。西門とは目と鼻の先だ・・・住めるわけがなかった。

「相変わらずやることが早いな。お前は昔からそうだ・・・先を読むのも、それを調べるのも人一倍早い。今回の事もつくしから聞いて
お前が全部を決めるのに半日しかかけてないだろう?俺だってモタモタしたつもりもねぇのにな・・・流石だな」

「・・・牧野の事は特別。総二郎から奪いたくて20年近く見てきたんだから・・・お前の前で言うのも悔しいけど、本気で愛してるからね。
時間をかけたら牧野の心を俺に向けさせる自信はあるよ。でも・・・子供がいちゃ無理だよ。小さな総二郎には勝てない」

そんな言葉でふっと笑う。
小さな俺・・・何だかくすぐったい気がして類の顔が見れなかった。多分・・・今、俺は照れたような顔してるはずだ。
気が付かれないように口元を隠したけど、そんなものこいつに見抜かれないはずがない・・・。


「俺は明日の朝一番でまた旭川に向かうから。総二郎がすべてを終わらせてくるまでは俺が傍についておくよ。1人にはさせられないからね。
それと、多分嫌がるだろうからこの事は総二郎が来るまでは言わない。明日からまた検査が続くんだ。もしかしたら再手術かもしれない。
だからって急いでこないでしっかりと準備してきてよね・・・他には何かある?」

「いや・・・すまなかったな。西門のゴタゴタに巻き込んで・・・」


「・・・あの女はどうしたの?まさか、婚約とかしないよね?」

「俺はもう家を出たから千春とどうこうなることはないが、西門がどう出るかはわかんねぇな。千春は俺がいなくなっても西門を出ない
と言うし、婚約発表もするみたいなことは言ってたけどな。そんなもの、もう俺には関係ない・・・報道発表するならしたらいい。
恥をかくのは西門だからな」

千春の話にいい顔をするはずもなく、彼女が西門に残ると聞いた類は呆れたようにソファーに崩れた。
確かにこの三日間、俺のスマホには毎日西門からの着信とメールが入っている。親父だけじゃなく中にはお袋からのものまで・・・
それらは見る前に消去して着信もすべて削除する。それの繰り返しだった。
関係ないといいながら、本当は残してきた仕事が気になっている。今度の日曜日には横浜で大きな茶会が予定されていた。
それに11月に入れば大炉の準備・・・そしてこの時期は新しい茶の手配。それが終われば12月・・・初釜に向けての準備が始まる。

20年以上やってきたこれらの行事をすべて放棄したんだ・・・でも、後悔はしていなかった。


「本当は今日も東京に戻るつもりなんてなかったんだ。牧野の様子をみていたらとても1人にはさせておけないって思った・・・。
でも、牧野が待ってるのは俺じゃない。そして、牧野は俺に遠慮してる上に妊娠の事がいつバレるかって心配してる。
俺が傍にいることで余計なストレスがかかってるんだ。それもわかってる・・・だから、総二郎に話そうと思ったんだ。
今回ほどお前に腹がたったこともないけどね・・・それよりも牧野が笑ってくれる方が嬉しいから・・・」


最後にグラスの酒を全部のみ終えた類はそのままソファーに横になった。

これ以上はこいつにも迷惑はかけられない・・・いや、類にとっては迷惑なんかじゃないんだろうけど辛い想いには変わりない。
俺はテーブルの上に置かれた書類を全部持って類の部屋を出ていった。
言葉なんて何も出せなかった。両手で目を覆った類も一言も声を出さなかった。

ただ、ドアを閉めるときに後ろ向きで一言だけ・・・。


「お前に言われたことを全部してから、必ずつくしの所に行く。それまで・・・あいつを頼む。・・・俺もお前にしか頼めないからな」

類からの返事なんてない。
それでも、こいつは明日の朝早くにつくしの所に行ってくれるはずだ。


********


『いい加減に俺のものになればいいんだよっ!総兄なんか忘れればいいっ!』



「いやぁあっ!・・・っ!やめてぇっ!・・・はぁっ・・・はぁっ・・・あれ?」

凄い汗・・・真っ暗な病室で急に目の前に現われたのは考ちゃんが私に手を伸ばして襲ってくる場面だった!右手で額を拭くとびっしょりと
濡れている・・・もう寒いこの土地なのに何だか身体が熱かった。それに、今見た夢が鮮明に頭に残っていて震えが来る・・・!
ベッドの上のランプをつけたくても身体が思うように動かなかった。精一杯の力でナースコールのボタンを押すとすぐに看護師さんが来てくれた。

「すみません・・・少し嫌な夢を見るの。怖いからこの上の電気をつけてていいですか?」

「あら・・・眠れないの?お薬・・・でも、あなたは妊娠してたんだったよね?先生に聞いてみるわ・・・・・・え?熱があるんじゃない?」

看護師さんが私の腕を触ったときにそう言った。確かにそう言われれば熱っぽいのかもしれない・・・だけど、それよりも恐怖の方が
上だった。
もう一度目を閉じれば考ちゃんが現われそうでとても寝られない。
気が付いたらお医者様が呼ばれてて、私の体温を測っていた。38.1度・・・かなり熱が高くて急いで産婦人科のお医者様も駆けつけた。
私の回りには数人の人がわらわらと動いていて、そのおかげで恐怖からは逃れられた。

「あまり強い薬は使えないないので、比較的穏やかなさようのものにしますね。胎児にも影響しますから・・・頑張れますか?
すぐ側に看護師がいますから何かあったら呼んで下さい。わかりますか?牧野さん?」

「はい・・・大丈夫です。お腹の子供は?・・・大丈夫ですか?この子だけは絶対に助けないと・・・」

「今はまだあなたと子供は一体です。あなたに何かあればこの子は1人ではどうしようもないんですよ?まだ、そのくらい小さな
命です。一緒に頑張りましょうね」

あぁ・・・そうだよね・・・この子は私がいないと今は大きくもなれない。私に何かがあったら生きていけないんだ。
それならもっと強くならなければいけなかった・・・幻影なんかに負けてはいけないんだ。

そう思うんだけど目を閉じればやはり悪夢は私を襲った。
一晩中、熱と悪夢と闘いながら・・・その合間に総二郎を夢に見た。


小さな子供を抱いて、私に微笑んでくれる総二郎の夢を見た・・・幸せすぎて怖いくらいの暖かい夢・・・。


総二郎・・・会いたいよ。
どうして私はこんなところに1人でいるの?・・・総二郎、私を探してる?
もしも、探してくれてるなら、それだけでいいよ・・・心だけはどこにも行かないで、私を傍に置いておいてね?


言葉に出来ない想いは涙になって溢れ出す・・・それを拭う手はどこにもなかった。


HIMA14.jpg
11月になったよ?(笑)
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/01 (Wed) 15:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

小さな総二郎・・・勝てないですよね!
流石の類くんも無理だわ・・・小さな類くんでも無理でしょうけどね。

今度小さなシリーズでも書いてみようかしら。
・・・無理か。私のようなサスペンス女は子供向けではないかも。

子供なのにエロ・・・苦情殺到しそうだわ。(真剣に考えた自分が怖い)
11月になりましたよね!そうそう!10月末にエンド出来ると思ったの!!

全然終わんない・・・12月にはならないと思います!
頑張るぞーつ!!

2017/11/01 (Wed) 23:15 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply