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その日の午後、時間通りに高城夫婦が花沢を訪れた。
雨の中きちんと着物を着た美智子は玄関先で出迎えた俺に深々と頭を下げ、後ろにいた勇作氏も疲れたような顔で少しだけ礼をした。
この2人にも受け入れがたい内容もあったんだろう・・・アメリカで打ち明けて以来、ほとんど口をきかなくなったらしい。

ただ、ここにもう1人いるはずだった人物がいない・・・つくしの父親は見つからなかったんだろうか。


「どうぞ。お待ちしていましたよ。両親も友人も揃っています。こちらに・・・」

無言のまま、俺の後から2人は奥の応接室に向かった。

ノックをして入ると正面にはうちの両親、そして横にはつくしが座っていた。
少し離れたサイドテーブルの椅子には総二郎とあきら、車椅子に座った加代が一番端にいて怖い顔で部屋全体を見ている。
そんな中に俺と高城夫妻が入ると、執事がそのドアを静かに閉めた。

凄い緊張感・・・張り詰めた空気の中、この時間にも降り続いている雨の音が応接室に微かに聞こえているだけだった。
全員がもう1人の存在がないことに不思議な顔をしている。つくしも会えると思っていた父親の顔がないことに落胆したように見えた。


「久しぶりですな・・・高城社長。フランスに来られたそうですが私達がパリから動かなかったのでお会いしませんでしたな」

「はぁ・・・そうですね。私どもは不具合の調整で行っただけでしたから・・・それに先日はお嬢様の事で申し訳ないことを・・・」

「それは高城のせいではない。もう、そのことはいいでしょう。つくしもこの通り元気に戻ってきましたので・・・それよりもお話を
聞きましょうか。どうぞ、お座り下さい」

高城夫妻にうちの両親の正面に座るように案内して、俺はつくしの隣に座った。
顔を見るとさっきより随分とすっきりしている。これならどんな話を聞いても大丈夫だね?つくしと眼が合うとお互いに笑顔になった。
それを呆れた顔で見るのは総二郎とあきら・・・でも、母さんも同じように呆れた顔を俺たちに向けていた。


「それでは、高城美智子さん。類からの報告であなたがつくしの産みの母親だと聞きましたが本当ですかな?まずはそこから
聞きましょう・・・」

「はい。類さんのお友達がお調べになったとおりですわ。私がつくしちゃんを産んだ・・・母親です。そして、こちらの門の前に置きました。
毎日こちらの方が門の前のお掃除をされる時間を調べていましたので・・・それに合わせました。見つけていただいて門の中に
入って行くのを見届けてから・・・自宅に戻りました」

高城美智子はつくしが加代に抱かれて入って行くのを見ていたと言った。つくしの顔が少し歪む・・・でも、泣くような事はなかった。
その時にテーブルに並べられた写真・・・つくしはそれを覗き込むように見つめた・・・自然とその中の一枚に手が伸びた。
それは産まれたばかりのつくしだろう、まだ裸の写真・・・胸の下の痣がくっきりと映っていた。その向こうに映っているのはあのバスケット・・・
そこに掛けてある毛布もつくしが包まれていた物と同じだった。


「これは・・・私ですね?」

「そうよ・・・産まれて2週間目ぐらいのあなた・・・ごめんなさい。あなたがお腹にいるときからこちらに育ててもらおうなんて酷いこと
考えていたの。だから一枚でも多くあなたの思い出を写真に残しておきたかった・・・ずっと私1人の宝物で持っていたの」

そうか・・・このイギリス製のバスケットや上質なおくるみなんかはつくしのために用意したんじゃなくて、高城誠のために西門が
用意したもの。そう考えたら納得がいく。この時の高城家にそんな余裕はなかっただろうから・・・。


そして、高城美智子はこの度の経緯を始めから自分の口で両親に説明した。
姉の妊娠と相手が西門清四郎であったこと、その子を高城家に養子にもらったこと、勇作氏の持病により子供が持てないこと、
高城工業の倒産、そして自分の妊娠・・・逃げるように東京に来て、ここで姉につくしを取り上げてもらったこと。
そして・・・花沢につくしを託したこと・・・

「勇作さんとの子供が持てないのに、私の過ちで妊娠がわかり西門の清四郎様に相談したんです。その時に援助をいただいて
全てを姉に話して東京に来ました・・・清四郎様はその後も高城に資金援助をしてくれてその時に抱えた借金の返済もして下さいました。
それはうちが引き取った誠に苦労をさせたくなかったからという、清四郎さんの親としての思いだったんです。それに甘えて私達は
アメリカにまで逃げるようにして渡り、そこで再興したんです」

私の過ち・・・その言葉に勇作氏は眉を寄せ、露骨に険しい顔をした。誠曰くとても仲の良い夫婦だという・・・そんな2人の20年間を
壊してしまったんだろうから、つくしはそれが自分のせいのように感じてこの時ばかりは悲しそうな顔をした。


「それで・・・つくしの父親は誰ですかな?」


父さんの質問はここにいる全員が知りたかったこと。その注目が美智子に集中した。
これはまだ勇作氏も知らないのかもしれない。美智子の口から出る人物の名前を聞きたくはなさそうだった。

「・・・つくしちゃんの父親はすでにこの世にいませんでした。大阪に訪ねて行ってわかったんです。もう5年も前に亡くなっていました。
勇作さんの・・・親友なんです」

「私の親友・・・?5年前に亡くなった親友といえば・・・まさか!」

勇作氏にはその人物がわかったんだろう、びっくりして美智子の方を睨みつけて声を荒げた。つくしは自分の父親がすでに他界
したと聞いて驚いたが、それがこの勇作氏の親友だと聞いて尚更顔を強張らせた。
父さんも母さんも・・・総二郎とあきらも全員が動きを止めた・・・美智子はハンカチで目頭を押えながら言葉を続けた。

「はい・・・牧野産業という会社の社長をしていた、牧野晴男さん・・・その人がつくしちゃんの父親です」


牧野・・・その男がつくしの父親?どこからもその名前は挙がってこなかった。勇作氏は両手で顔を覆って下を向いてしまった。
そして小さな声で誰に言うわけでもなく独り言のように話した。

「晴男・・・あいつは確かに私がお前を紹介した時から妙な気持ちを持っていたんだ・・・結婚する前だったから何かと俺に別れるように
言ってきたり、俺に隠れて贈り物をしようとしたり・・・西門に紹介したのも晴男だ。西門の大御所は美智子のような女が好きだから
後援会に入れば今後の事業にも口利きしてくれるだなんていいながら、実は西門に手を出させて俺と別れればいいぐらいに考えていたんだ!
まさか、美智子の姉さんとそんな仲になるとも思わずに・・・本当は美智子を傷ものにしてでも俺から奪おうとしたんだ・・・!
あの男は親友だといいながらそんなことを・・・っ!」

そんな勇作氏を横目で見ながら美智子の話は続いた。


「確かに・・・牧野さんは私が勇作さんと結婚する前から何かと誘ってきていました・・・。ありもしない勇作さんの浮気話とか持ち出して
どうにかして別れさせようとしていたみたいです。でも、私は勇作さんを愛していました・・・子供が出来ないことも承知の上でした。
結婚して、誠をもらって・・・その子を自分の子として育てようと頑張っていたときに倒産したんです。もう、金策に走る勇作さんを
見るのが辛かった・・・その時に牧野さんがお金を貸してくれると言ったんです。ゆっくり返してくれればいいと言ってくれて、自宅に
呼ばれました。少し怖かったんです・・・でも、もうどこにも頼る人はいませんでした。西門に言えば良かったのかもしれないけど、
清四郎さんを個別に頼って、万が一姉と西門の事を知られてはいけないと・・・誠が西門の血を引いてるなんてバレたらいけないと
思ったんです。だから・・・牧野さんに会いに行きました。そこで・・・そこで・・・」

美智子の声が詰まって話すことが出来なくなったが、その先は聞かなくてもわかる。
誰もそれを全部聞こうとはしなかった。

でも、つくしは望まれて出来た子供ではなかったということだ・・・その話を聞きながらつくしは眼に涙を浮かべた。

そして一番聞きたくなかった質問・・・勇作氏がそれを口にした。


「何故、産んだのだ・・・!堕ろそうとは思わなかったのか!」

「それは一度も思わなかったわ。あなたの子供じゃなかったけど、この命を奪う事なんて出来ない・・・だから、悩んだのよ。
この命も産まれれば幸せになるかもしれない・・・それだけを必死に考えたの。そして、この家の幸せそうな笑顔の類さんに救いを求めたの・・・
私の子供もどうか、幸せになって欲しいと願いを込めて。つくしちゃんをここに置いてから二週間、通行人を装って毎日様子を見に来たわ。
やっと1回だけ類さんが抱っこしてくれてるのを見て安心したわ。だから、あなた達とアメリカに行けたの・・・。
私が唯一この世に送り出した命はこれで幸せになれるだろうって・・・そう思ったのよ」



雨が少し優しくなってきた。
つくしは一言も声を出さずに美智子の話を聞いていた。


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2017/11/03 (Fri) 07:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様~!おはようございます。

そうなのですよ・・・気が付かんかったの?美智子さん?って言いたいですよね。
ここまで来ると色んな疑問が湧いてくる(笑)それを自分で無視しようとしています・・・すまない!

よくぞここまで勝手な話を書いてるよね?って思ってしまう。
第一章が簡単だったような錯覚まで・・・(笑)

牧野・・・やめたら良かったですよね?!私も思った!
これは失敗したわ・・・あのパパが頭に出てくる・・・確かに(笑)

今日は仕事です。忙しいんですよね・・・サービス業は。
明日がお休み♥でも、旦那がいると出来ないの・・・ブログが(泣)

今日はありがとうございました!よい休日をっ!!

2017/11/03 (Fri) 08:25 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/03 (Fri) 19:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

もうこのおっさん達の会話を書く方がストレスで(笑)
どうにかして早く若い子達の会話に持っていきたくて仕方ありません!
誰だ!こんな場面設定したの!!←身も蓋もない発言。

どうせなら卓袱台出してひっくり返してやろうかっ!って感じですよね?
明日・・・もっと凄い爺さん登場。もう、イヤだ(笑)

2017/11/03 (Fri) 22:29 | EDIT | REPLY |   

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