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別荘で生活を始めて数日、つくしは自分で出来る範囲の家事を頑張っていた。もちろん、今は力を入れることが出来ないからやれる事は限られているが、それを助けることは苦ではなかった。
むしろ何もできなかった時と比べると、これを幸せにも感じられるほどだ。それをつくしは申し訳なく思うのか、手伝ってくれとは滅多に言わなかった。

時々見ていたら凄く危なっかしい。
医者から言われているのは重いものを持たないことぐらいで、機能回復のためには動かせる範囲で動かしたほうがいいとのこと。
少し痺れるのか何度もさすりながら家事をしていた。

「少しは俺を頼ればいいのに・・・。何でもかんでも一人でやろうたってまだ無理だろう。何をしたらいいかだけ言ってくれよ。
こう見えて器用なんだから結構出来ると思うんだけど。それともやっぱ頼りねぇか?」

「そんなんじゃないけど、これもリハビリだからね。大丈夫!どうしてもダメだって思った時は絶対に嫌だって言ってもやってもらうよ?その時に出来ないなんて言わないでよ?頼りにはしてるわ・・・総二郎しかいないんだから」

俺しかいないなんて言われたらやるしかねぇよな!
もしかしたらつくしの方が俺の使い方を知ってるんじゃねぇのかな・・・言われるがまま、キッチンに立って今日も肉を切っていた。

そんなゆっくりと時間が流れていく。その中で少しずつ、あの茶碗の温もりが恋しくなっていった。

「なぁ、つくし・・・lここの隅に茶室、作ってもいいかな。やっぱりさ、一日に一度ぐらいは茶を点てる生活ってのを続けたいし、お前にも飲んでもらいたいって思ってる。西門とは切り離していいんだ・・・でもさ、俺は茶とは一生の付き合いだと思ってるから。・・・だめか?」

「ダメなんて思わないわ。もちろん賛成よ!・・・私も総二郎のお茶、飲みたいよ。こんな手だからお作法は出来ないけど」

「そんなもん、どうでもいいよ。お前の為に点てたくて道具一式持ってきたんだから。久しぶりだろ?見せてやるよ」


俺は西門から出てくるときにに持ってきた桐箱を開けて、中からつくし専用の茶腕を出した。
燿変紫光天目抹茶茶碗・・・結構いいもので、家元がつくしのために作らせた京焼だ。女性に使いやすいようにと大きさと深さを
特別に小さくしてもらい、成人した時に贈ったもの。これはどうしても置いていくことは出来なかった。

そのほかにも稽古用の茶碗をいくつかと、少しの抹茶と小道具一式を詰めた桐箱・・・これをつくしの前に並べると懐かしそうに右手で持っていた。
落としたらいけないから・・・そう言って左手を出さずに、つくしは自分の大事な茶碗も抱き締めるように抱え込んだ。


「やっぱり総二郎はこうしていなくちゃね。家の事だけさせちゃいけないのよ・・・いつでも始められるように、ここでもお茶を点ててね。
今のとこ私しか飲む人がいないから、正客を独り占めってこと?総二郎の正客なんて頼んでも中々なれなかったのに、随分贅沢だわ!私もいつか出来るといいんだけどなぁ・・・」

「焦んなくても大丈夫だろ。茶なんて年取った方が美味く点てられるもんだぜ?俺みたいな人間のほうが珍しいからな!」
「さりげない自慢だね!でも・・・そうかもね」


この後、類の許可だけもらってこのリビングの隅に畳を入れるだけの簡易的な茶室を作った。もちろん障子や襖なんてものはない。
ただ屏風で仕切っただけで天井を見上げれば豪華なシャンデリアが輝いてる。ちょっと茶室にしちゃ眩しすぎるけどな。

ここらには道具を揃えた店はなく、ただ西門に覚られるわけにもいかないから最低限のものを札幌まで買いに行った。
この時はドライブだなんて言ってつくしを誘い出す。でも、見慣れない土地で逃避行しているような俺たちは隠れるようにして移動した。

それでも、楽しかった・・・共に逃げるような生活でも、そこには満ち足りたものがあって幸せだった。


抹茶は気に入ったものがなかったけど、その店で味見して一番納得するものをこの冬中使える程度の量を買い求めた。
本来冬は炉を切るんだけどここではそんな事は出来ない。だから夏用の風炉を据えて釜を懸けるようにした。最後に大棚を揃えて車に詰め込んで、名寄までの道を同じように帰って行く。「危ないよ?」って言うつくしの言葉を無視するかのように、2人の手は繋がれたままだった。

「雪が降ったら流石にやらねぇよ。まだ時間がかかるから少し休んどけ」
「うん・・・少し疲れた。着いたら起こしてね?」

子供のようにあどけない寝顔のつくし・・・時々横を見ながら考えていることは西門の動きだった。まだ・・・発表はされていない。


********


別荘に戻ったらさっそく買い揃えたものを畳の上に並べ、大棚の上に道具を置いていった。
花なんて生けてもないのに花器を置き、香炉も並べる。これが1つ欠けても凄く気になって仕方がない・・・そこにあれば何故か安心するって何だろうな。

そして風炉を据えて釜を懸けた。ここで俺は久しぶりに着物に着替えた。もちろん茶会用の袴じゃない。極簡単なもの・・・。
それでも帯を締めたら気持ちまで引き締まる。それを横で嬉しそうにつくしが見つめるんだ。

「つくしも着ようぜ?持って来てるから・・・ちょっと待ってな。持ってくるよ」
「え?でも・・・私は」

「着せてやるから心配すんな!いいじゃん・・・たまにしかこんなことしねぇよ。いつもは服でいいんだけど、今日は特別!これだけ
支度したんだからな!」

つくしにもアパートから持ってきた着物を着せてやった。今は自分では着ることが出来ないから恥ずかしそうに俺が着付けるのを
黙って見てるだけ。やっぱり少しだけ首元から傷が見える・・・つくしはそれを鏡で確認しては溜息をついた。

あえてそれには触れない。慰めても結果は同じだ・・・それなら、自分で乗り越えるしかないのだから。
自分と子供を守った証だ。そこに残した傷跡を悲しいものだと決めつけるなよ?つくしが「茶室」に来るまで黙って待っていた。


そしてやっと畳に座って、つくしは俺の右側に座った。
凄く久しぶりで緊張する。こんなにもドキドキしながら茶を点てた事なんてなかったんじゃねぇかな・・・茶筅を回す手が震える。
それをつくしに気取られないように、顔だけは余裕を見せてるつもり・・・だけど、つくしもそんな俺を見てクスッと笑った。

「あ・・・ごめんなさい。だって・・・総二郎の手が・・・」
「・・・仕方ないだろ?何週間か点ててないし・・・場所が違うからやりにくいんだよ!」

「ううん・・・違うでしょ?総二郎は嬉しいんだよ。だから、嬉しすぎて手が震えてるんだよ」


「まあ・・・な。当たってる」

つくしの前に茶碗を置いたら、右手だけで持って・・・軽く頭を下げた。俺が笑ったら、茶碗を口に運ぶ・・・コクンとつくしの喉が小さく鳴った。

数回に分けて飲み干して、静かに茶碗を元に戻した。「結構なお点前で・・・」涙声のつくしがそう言った。

「美味かったか?・・・やっぱり俺はお前に飲んでもらうのが一番嬉しいや・・・これからも飲んでくれよ?」

「うん・・・ありがとう。本当にありがとう・・・」


俺の中に流れる西門の血はどうやっても消えないみたいだけど、それは別に茶会で注目を浴びなくてもいいんだと今更ながら思う。
1人の女のためだけにこうやって茶を点てるだけで、こんなにも清々しい気持ちになれる。
いつかはつくしから茶を点ててもらえたらいいと思ったけど、それは口に出せなかった。つくしを焦らせるから・・・。


「それじゃあ、着物を脱いでそろそろお風呂の準備しようか!今日は遠くまで買い物に行って疲れたもんね!」
「あぁ・・・そうだな。それなら一緒に入ろうか?髪も洗ってやるよ!」

「えっ!そ・・・それは嬉しいけど!もう・・・そんな事ばっかり考えるんだから!総二郎ったら!」

気分を変えようと、つくしがテレビのスイッチを入れた・・・そん時にテレビに流れたニュースの内容に俺は固まった・・・。


『茶道表千家、西門流の跡取りでもいらっしゃる西角総二郎さがこの度、皇族の血を引く和泉家の長女、千春さんと正式に婚約されたことが発表されました。現在、総二郎さんは東京を離れて修行中とのことなのですが、すでに千春さんは西門家で同居されているそうです。西門総二郎さんと言えば有名な英徳学園の・・・』


つくしの手からリモコンが落ちた。


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2017/11/16 (Thu) 13:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは~!

そうなの・・・毎回前日チェックしてたらなんでこんな終わり方してるんだろうって思うんですよ。
しかもドンドン闇に向かうような書き方してねぇっ!そう言いながら終わりにも近づいているんですよ?実は・・・。

まだ油断ならない女も残ってるんだけどね。
総ちゃん変装してもダメじゃないかな(笑)わざと格好良く変装しそう・・・
「やっぱ俺ほどの男になると滲み出るよな!」とか言って自己満足しそうな気がするんだけど!

で、そんな総ちゃんが恋しいですか?
それは・・・若宗匠を呼んでこいってこと?・・・呼んでくるか!そろそろねっ!

2017/11/16 (Thu) 13:34 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/16 (Thu) 15:52 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・修正完了!(笑)ありがとうございました。冷や汗~💦

ん、が抜けたんですよね(笑)パソコンが「違うよ?」って言ってくれたらいいのに~!
何回見ても起こるんですよね・・・誤字って。
ホントに違う人が見つけてくれた時に感謝と共に落ち込むったらありゃしない!申し訳ございません。

特にシリアス物はドン引きされますもんね・・・。

このお話?多分幸せに終わると思います・・・私の気分が落ち込まなかったら(笑)
良くあるのがね・・・掃除郎(笑)これってパソコンが悪いと思うの!

今日はどうもありがとうございました・・・はぁ、もうやだ(笑)

2017/11/16 (Thu) 16:55 | EDIT | REPLY |   

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