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plumeria

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旭川の大きなスーパーに買い物に来ていた。もう随分寒いからコートにマフラーまでして顔の半分ぐらいが隠れるような格好してるんだけど、そうでもしないと食品売り場なんて歩けないくらいだった。
大きなカートに二つもカゴを乗せて、たった2人分なのに大量の食料品を入れていく。総二郎は珍しい物を色んな場所で発見してきてはカゴに入れていって、また何処かに消えていく。意外と子供っぽい所があるんだね・・・そんな彼の後ろ姿を見ながらクスッと笑った。

ここではとにかくお鍋が多かった。
寒いって言うのが一番の理由だけど、細かい作業が出来ない私はようやく包丁で何かを切るときに左手で軽く押えることが出来るくらいだったから。フライパンを持ち上げることが出来るようになったら少しはレパートリーも増えるんだけど・・・まだ、そこまでの力は出せなかった。

「つくし、カニ鍋食いたい!カニ買おうぜ?それには何かいる?」

「え?カニ・・・なんでそんなに細かい作業しないと食べられないもの選ぶかなぁ!総二郎が全部やってくれるの?」

「当然!最近の俺、主婦業バッチリじゃね?つくしが食えるようにしてやるからさ!そうだな・・・数匹買っとくか!冷凍しとけばいいんだろ?つくしはそれに必要なもの選んどいてくれよ」

「あっ!総二郎ってば・・・!」

私の言葉なんて聞かずに鮮魚売り場に走って行く・・・クスってまた笑うけど、すぐに私の顔から笑顔は消えていく。本当なら今の季節に総二郎がこんなことをしていてはいけないのに。今までだって年末になったら自分の誕生日でさえ忘れられて・・・!

「あっ!もうすぐ誕生日だ・・・今年もケーキ焼きたいな。でも1人じゃ無理じゃない?・・・総二郎に手伝ってもらう?いや、それは・・・」


私が毎年作っていたのは甘い物が苦手な総二郎でも食べられるようにってビターチョコを使ったケーキだった。
ほんの少しだけ毎年食べてくれていた・・・まぁ、お礼なんて一度も言われたことはなかったんだけど、お部屋に置いてたら毎年それだけは食べてて空のお皿が置いてあったから・・・。今年は初めてお祝いできるんじゃないかしら。


私の足はケーキの材料の売り場に向かって必要な物をカゴに入れていった。調理器具もオーブンも類の別荘にはあったから大丈夫だし。
ここの大型スーパーには結構材料が揃っていたから調子に乗ってトッピングまで選んで、久しぶりに楽しく買い物をした。
プレゼントなんて買えないけど、せめてこのぐらい・・・この日は総二郎に出掛けてもらって1人で挑戦しよう。そんな事を考えてニヤニヤしてたら、総二郎が慌てて走ってきた。

「どうしたの?そんなに慌てて・・・誰かに見つかったの?」

「は?ちげーよっ!お前がいなくなったから探してたんだよ!肉とか野菜の方にいると思うじゃねぇか・・・それが、どこにもいないからまた何処かに1人で行ったのかと・・・」

また何処かに1人で?・・・ふふっ・・・この人も私がいなくなったときのことを今でも思い出すんだね。


「私はもうどこにも行かないよ・・・総二郎がいる場所にいるよ。ごめんね、心配かけてばっかりで・・・」

スーパーの売り場の真ん中なのに、総二郎の腕が私を包む・・・「あぁ、良かった」って声が聞こえる。
なんて幸せなんだろう。こんなにも心配してくれる人がいるなんて・・・自分たちの置かれている状況を無視すれば私達は間違いなく、世界で一番幸せなはず・・・そう思えるぐらい彼は私の支えだった。


「ねぇ・・・あそこにいる男の人、Tレビで見た人じゃない?最近さ・・・なんだったっけ、ニュースでさ・・・」
「え?そうかしら・・・そんな有名な人がこんな所にいる?」


急に私達の耳に入ってきたのはすぐ近くで買い物をしていた親子連れの声だった!
総二郎も一瞬、ビクッとしてマフラーを持ち上げた。私は知らん顔してカートを押してレジの方に向かう・・・自然と足が速くなって心臓がドキドキと音を立てて鳴り続ける・・・どうしよう!何処かで誰かに見られている気がして恐怖が止まらなくなった!


「つくし・・・落ち着け。誰も見てねぇよ・・・誰も俺たちのことは気付いてない。今の親子連れも、もう違うこと考えてるさ」
「総二郎・・・っ!でも・・・」

「万が一、ここに西門が来てもお前だけは守ってやる。心配すんな!・・・早く帰ってカニ鍋しようぜ?俺、腹減ったんだよな!」


伊達眼鏡の奥で優しく笑う総二郎の瞳・・・臆病な私の事を怒りもしないで励ましてくれる瞳・・・。
いままでどうしても持ち上げられなかったのに、初めて私は左手で総二郎の手を握った。

「つくし・・・少し力出るようになったじゃん。今度からリハビリのために左手で繋ごうか!それもいいな!」
「うん・・・!ありがとう。もう大丈夫。怖くなくなった・・・」

私達は逃げているんじゃない・・・自分たちの幸せのために闘っているんだと思った。
そのためには私のこの左手も必要なんだ。攻撃するための武器は何もいらない・・・私達の気持ちこそがあの家に対する最大の武器だと総二郎が教えてくれた。


**********


「あぁっ!総二郎・・・気を付けて?ねぇ・・・ちょっと!手を切らないでよ?きゃあぁーっ!」
「やっかましーなーっ!もう少し静かに出来ねぇのかよ!カニ、切ってるだけだろうがッ!」

「だって!危なっかしいんだものっ!そこまで包丁を上げなくても良くない?ねぇ・・・調理器具じゃなくなってるよっ!凶器だよ、それ!料理バサミ何処かにあるんじゃないの?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!どー見たって調理じゃねぇか・・・そりゃっ!」

「きゃあぁーっ!やめてぇーっ!」

・・・やめてって何だよ!俺が一生懸命カニを解体してるのにっ!あんまりにもデッカいカニを買ったから大変なんだって!こうでもしないと切れねぇんだ・・・さっきネットで調べたから解体方法はこれであってるはずなんだよ!
俺がダンダンと派手な音立ててカニを打っ手切っていくからつくしは隣で大騒ぎだ!まぁ、それも見てて面白いんだけど。

「つくし、お前は葉物野菜なら切れるか?俺はテーブルで鍋の用意してるからコイツ達を頼むわ!出汁ってこの白だしでいいのか?最初に入れるのか?」

「あっ!先にお野菜を煮込むからカニは待ってね?ここのキノコ類と白菜を先に白だしで・・・煮立ったらカニね!最後はご飯と卵入れてカニ雑炊だね!」

「そんなもん食ったことないけど・・・最後にこの鍋の中に飯と卵入れんの?」

何にも知らないのねって笑ってるが知るわけがない!俺はこの年まで包丁なんて持ったことがないんだから!怪我したらいけないからって西門では3兄弟揃って調理場への出入りは禁止だったんだから。
もしかしたら、今はこの俺が一番家事できるんじゃねぇかな・・・いや、祥兄かもな。あいつはもう家を出てから数年は経つんだから。

つくしが何とか野菜を切ってきて、向かい合わせでテーブルについた。
すっげぇいい匂い・・・湯気の向こうでつくしがド真剣な顔で鍋の煮え具合をチェックして味見なんてしてる。

「うん!総二郎、食べてもいいよ?良く煮えてるから!いただきまーす!」
「おぉっ!つくし、カニの身、とってやるから待ってな・・・爪のとこでいいかな」

「何でもいいけど怪我しないでよ?指を切らないでね?」
「あ!そういえばさっき見つけたんだ!調理バサミ。こいつで切ればいいんだろ?」

「・・・早く使いなさいよ!」

いつまで経っても無意識のうちに俺の指の心配をするんだ・・・それは一生変わんないかもな。俺が西門を出ても、個人で茶を点てても、きっとつくしはこの指を守ろうとするんだろうな。それはそれで嬉しいよ・・・つくし。

「ほらよ!どうだ・・・!やっぱり器用だろ?カニの身とるのなんて意外と簡単じゃん!」
「調子に乗って・・・!そうやって自信過剰になると怪我すんのよ?子供の時から変わんないんだからっ!」

そう言いながら俺がとってやったカニの身を美味そうに食っていくのはつくしのくせに!
ギャアギャア騒ぎながらの飯の最後はつくしが言ってたカニ雑炊で締めくくった!確かに美味かった!

最近はリハビリだと言って茶も入れるようになった。
急須を持つのは右手だけれど出来るだけ左手を動かして、この時だけは顔が真剣になってる。手を出さないのも意外と苦痛なもんで、本当は代わってやりたかったがグッと堪えてその動きを見守った。
入れ終わるとホッとして湯飲みを俺の方に差し出してくる。俺が手招きしたらつくしは自分の湯飲みを持って俺の隣に座る・・・これはここに来てから毎日のこと。食後の茶だけは肩を並べて飲むことにしていた。


「サンキュ!なぁ・・・つくし。検診日って変えられるのか?」

「え?検診日・・・?産婦人科の?」

「あぁ・・・今日のあいつと重ならないように出来るんならそうしないか?あいつ・・・ヤバいだろ?」

つくしの顔色が変わった。
この俺が気付かないとでも思ったのか?全部丸わかりだったじゃねぇか!だから、わざとあいつの目の前でお前を抱きかかえて帰ったのに。

「今度やったら許さねぇけど、ああいうヤツはタチが悪い・・・手を出して叩き潰した方がいい相手と、始めから避けられるなら避けた方がいい相手がいるだろ?あの女は後者だ・・・と、思う。病院に掛け合うよ。それでいいな?」

「・・・うん。あの人、総二郎のことがすごく気になるみたい。それにあんまり幸せじゃないんだよ・・・だから、私のことが気に入らないんじゃないかな・・・でも、今日みたいなことがあったらイヤだから、会わずにすむならそうしたい。頼んでもいい?総二郎・・・」

つくしの肩を抱き寄せて耳にキスしたら持ってる茶を溢しかけて大騒ぎ!それでも離せずに抱き締め続けた!
やっぱりこうやって笑っていたい・・・こんな場所だからこそ、つくしを笑わせていたいんだ。


「これで少しは安心したか?今日一日緊張しっぱなしだもんな・・・じゃあ、今日も一緒に風呂だな!」
「それとこれとは関係ないじゃん!もうっ、総二郎のエッチっ!」


「そんなの今頃俺に言うのか?・・・バカだな、お前」


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2017/11/19 (Sun) 16:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

今日も沢山ありがとうございました!
総ちゃん達、少しずつ明るい兆しがあるでしょ?うんうん!・・・まだ色々あるんだけどね。
カニ鍋っ!総ちゃんなら包丁じゃなくて刀で切れば良かったかな・・・(笑)

実は・・・私これを書いたときにすごく違和感があったんですけど、無視してずっと先を書いていたんですよ。
でね、今日公開30分前にチェックしてて思いだしたんです!

カニって・・・キッチンバサミだよね?

急いでネットで調べたらやっぱり・・・「カニにはハサミを使いましょう」!!
そうだった!これは読者さんも絶対に気が付く!って思った時には遅かった・・・。
公開10分前・・・修正不可能・時間切れ・思考回路停止・・・

仕方ない。何処かにあるがわかんないことにしよう!

で、後から総二郎がハサミを見つけて食べるときには苦労しなかった!ってことになりました!

焦ったってもんじゃないです・・・こんなだから誤字が多いのよっ!(いいわけの天才)
まぁ、裏話でした~!ふふふっ!

2017/11/19 (Sun) 18:26 | EDIT | REPLY |   

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