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plumeria

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暫くその街角で待っていたら、さっきの男性が私のバッグを手に持って戻ってきてくれた。
すごい汗をかいてて、はぁはぁと肩で息をして・・・そして、私にバッグを手渡してくれた。やっぱりどう見ても外人っぽい。日本語が上手なだけかしら?何処かの企業にお勤めの人なんだろうな。私が見ても上質と思われるスーツなんだもん。

「あのっ、すみませんでした。追いかけてもらったうえに取り返してもらって・・・あの、大丈夫ですか?」
「あぁ、何でもないんだ・・・けど、あんまりにも久しぶりに走ったからさ・・・脇腹痛くなっちゃったよ!」

「ホントにありがとうございます!助かりました・・・あれ?」
「どうかした?」

取り返してもらったバッグの中身・・・お財布だけがなくなっていた。そのほかのものはあったんだけどお財布だけがっ!

「やだ・・・!お財布がないわ。それだけ盗られたのかな。ど、どうしよう・・・!」
「財布だけ盗られたの?いくら入ってたの?まさか、全財産?」

「・・・えっ?!」

いくら入ってたかって?全財産・・・確かに全財産に近いんだけど、人に言うほど入ってないのよっ!日本円で言えば5000円くらいで、それであと10日間過ごさなきゃいけないんだから!・・・でも、この人にそれを話すの?
いや、それはいくら何でも恥ずかしいわ!多少はアパートに帰ればあるし。

「あっ、あの、確かにお財布がないんですけど大丈夫です。何とかなりますから。本当にありがとうございました。ぶつかったのは申し訳ありませんでしたけど、日本語がわかる方で助かりました!じゃあ、これで!」

彼に深々と頭を下げてアパートに戻ろうと向きを変えた。でもその瞬間、いきなり後ろから腕を掴まれて引っ張られ、思わず後ろに転けそうになった!

「うわぁっ!なっ、何ですか?」
「えっと、名前がわかんないや、君!お金がないんでしょ?どうするの?その格好だと観光客じゃないでしょ?」

「は、はぁ・・・確かに観光ではないです。でも、何とかしますから」
「外国にいるのに何とかするって言っても本当は考えられないでしょ?・・・はい、これで暫くはどうにかしなよ」

その人はいきなり自分のお財布からお金を取り出して私の手に握らせた。でもその額がとんでもなくて、盗られた金額の100倍ぐらいあったからびっくりして彼に突き返した!いくら何でもこれだけのお金、盗られてないっての!

「とんでもないです!大丈夫ですから・・・返って困ります。こんなに盗られていませんから!」
「でも、お金ないと困るでしょ?生活するなら少しは持ってないと。じゃあさ、貸してあげるから今度返して?それなら良くない?」

「は?今度返す?・・・あぁ、それなら・・・」
「クスッ、良かった!じゃあ、気をつけてお帰り。またね!」


すごく爽やかにその人は交差点の信号を渡って私と反対方向に歩いて行った。
何だったんだろう。すごーく格好良かった・・・まるで、映画に出てくる人みたい。何処の人だろう・・・日本語が上手すぎるわ。
もしかして日本人?いや、まさか・・・あんな眼の日本人っている?鼻だって超高かったわよ?

あれ?そういえば・・・!


「あーーーっ!!名前も聞いてないっ!どうやって返したらいいのよ!このお金っ!あっ・・・」


顔を上げて彼が消えていった方向を見たけど、もう何処にも姿がなかった。
日本なら目立ったかもしれないけど、このフランスじゃあ茶色の髪も目立たないし・・・どうしようっ!

私は仕方なく彼から握らされたお金をバッグに入れて、胸の前で抱えるようにしてアパートまで走った。だって今度盗られたら絶対に返せないんだもん!周りにいる人が全員怪しく見える・・・初めて引ったくりに遭った私は怖くてその日、寝られなかった!


********


街角で日本人の女の子に出会った。何歳だろう・・・俺より随分年下に見えたけど。
1人でパリに来てるのかな。まさか働いてるってわけじゃないよね?学生かな・・・何処のリセ(高校)だろう。
ん?大学生だったりして・・・くすっ!それなら随分と幼い顔だったね。

そんな事を考えながら休憩時間から戻ったのは俺の会社、っていうか親の会社、花沢物産フランス本社だ。
俺がこのフランスに赴任したのは日本で大学を卒業してすぐだからもうすぐ1年になる。毎日が同じ事の繰り返しで退屈だった。
特に刺激もなく、役員とはいえ本格的な仕事も少ない。父である社長に付いて、この会社全体の把握をすることが当面は俺の任務みたいなものだった。

歴史を感じるパリの中心地でありながら近代的な外観の本社ビル。入社してくるフランス人達はみんなこのビルに夢があるだなんて言うけど、俺は一度もここに夢なんて感じたことがなかった。
出来るはずもないけど、ここ以外で夢を見つけたい・・・何度もそう思って生きてきた。自分の人生に選択肢を持てる人が羨ましかったな。

レドショッセ(地上階)に入ると、丁度今から外出する母さんと会った。今日も随分と若作りしちゃって・・・シャンパンベージュのスーツにゴールドのアクセサリーはこの人によく似合うんだけど派手すぎるって毎回忠告するのにね!

「あら、類。何処に行っていたの?お父様がお呼びだったわよ。早く社長室に行きなさい」

「わかった。・・・母さん、会社では社長で呼ぶんじゃなかったの?」

「あぁ、そうだったわね。じゃあ私のことも母さんじゃなくて副社長と呼んで欲しいわ」

まったく・・・!家族で同じ会社に勤務するなんてろくなもんじゃない。家なんだか会社なんだかわかんない。母さんはにこやかに手を振って数人のSPと秘書を引き連れて会社を出て行った。
そして俺は父、花沢社長にこれからの経営方針なんてものをくどくど説明されて、今後の予定やら今の最重要課題やらを聞かされたあと、やっと今日の業務から開放された。


パリでは会社と自宅がそこまで離れていなかったから、毎日ブラブラと歩いて通勤していた。
こうやって1人でいる時間が好きだったから。

今日も実はあの引ったくり事件に巻き込まれたとき、この近くにある小さな公園でのんびり空を見ていた。ホントに何もない小さな公園なんだけどすごく落ち着くから気に入っていた。会社で息が詰まったら、秘書の目を盗んでよくそこで昼寝してるんだよね。


ちょうどここだっけ・・・。

俺はあの子と出会った場所に来て、その時の事を思い出していた。
大きくて黒い印象的な瞳だった・・・ジッと見ているとこっちが吸い込まれるかと思ったぐらい。

「あの子の名前、聞けば良かったな」

どこに住んでいるんだろう。歩いていたんだからこの辺り?東洋人だと一発でわかる風貌だったから今度見かけたら声でもかけようかな。
ほんの少しだけど掴んだ時の彼女の華奢な腕の感触が残ってる。あんなに細い腕で頼りない感じなのに、1人で逞しく生活してる。それだけで俺にしてみれば尊敬できることだった。


もう一度会えそうな気がするのは何でだろう。
いや、もう一度じゃなくてあの子が俺に何かを与えてくれそうな予感がする・・・すごく大事なものが手に入りそうな気がする。


花沢類 22歳・・・そろそろ秋の気配がしているパリの街で、小さな夢を探しながら自宅への道を歩いていた。


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2017/12/09 (Sat) 13:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは。

あはは!「君の名は」って聞かなきゃね!
私、フランスじゃないですけど、イタリアでタックルされました。でも何も盗られなかったし怪我もしなかった!
じゃあ何でタックルされた?って20年経っても謎です。

ここの副社長ですか?うん、好きな方ですよ。タイプカフェラテです(笑)
あっ!これには藤本出てこないから!
えーと、そこまでギャグじゃないかな?甘々です。

素敵なXmas・・・うん、まぁ(笑)多分・・・素敵だと思います。

多分ね?

2017/12/09 (Sat) 17:14 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/11 (Mon) 09:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

1日500円!ダメだったかなぁ(笑)つくしちゃんだからいいかと思ったんだけど。
だって、朝ご飯とお昼は職場で食べられるもん!晩ご飯に500円!豪華じゃない?

・・・ダメか!(そういう私の子供はフランスにおりますが現金にカードにってめっちゃ渡しました!心配だもん!)

普通の男が走ってお腹痛くなっても「バカじゃないの?」っていいそうですけどね。
類なら介抱したくなるよね~!

脇腹・・・摩りたい。絶対に殴られるな!

うちの子・・・すっごく間抜けた顔してるんだけど大丈夫かな(笑)
引ったくりに遭いませんように・・・もしあったら類に出会えますように!(笑)

2017/12/11 (Mon) 16:11 | EDIT | REPLY |   

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