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「ツクシ、ちょっといいかな?」
「はーい!」

次の日、仕事が終わって着替えて帰ろうとしたときに、オーナーから呼び止められてキッチンに戻った。
そこにはもう職人さんは誰もいなくてオーナーとアランがニコニコして私を待っていた。

「実は今度の日曜日にHホテルでちょっとしたパーティーがあってね。そこは日本の企業が主催者だからツクシに行ってもらいたいんだよ。ちょうどその日は結婚式が重なっていて、そのホテルだけでは人手が足りないからってうちの店に声がかかってね」

「は・・・い。私でいいんですか?」
「アランともう1人ベテランが行くよ」

オーナーの話では、このホテルのパティシエはオーナーと同期の人で仲がいいらしく、時々こうして応援に行っているそうだ。
今回は日本の企業が簡単なパーティーをするということで、その立食式の会場のケーキコーナーを担当するらしい。
お客様がそこに来たらケーキの説明とお皿に取ってあげるサービスをするんだって。
招待客の目の前で作るわけではなく、私でもいいって話だった。まぁ、日本語が出来るってだけの話だけど。

「厨房で作るのはうちの職人とアランがいるから心配しなくていいよ。ケーキはいつもここで作っているものを出すわけだからツクシにも説明は出来るからね。頼んだよ。給料はその分特別手当を出すからね!」

「はいっ!頑張ります!」

作るわけでもないのに特別手当って大笑いしながら、その話を引き受けて帰った。うん、まぁ、いつもと違うことは楽しいかもしれないし。日本語が話せるのは嬉しいし!

何となく嬉しい気分で、でもバッグだけはしっかりと前で抱きかかえながら私はアパートに帰った。

そして、昨日の彼と出会った場所まで来たときにふと思ったの。
ここは表通りに繋がっているビルの間にある狭い通路。しかもこのビルにはお店なんて一つもないし、この奥ってパリ市内にしては少し寂しい場所のように感じるんだけど。
あの人、すごくいいスーツ着てたのにこんな狭い通路から歩いてきたんだよ?この辺りって会社なんてなさそう。何でこっちから歩いてきたんだろう。向かって行った先は高層ビルが建ち並ぶオフィス街・・・それは納得するんだけど。

私は何だか気になって、彼が出てきた方に歩いて行ってみた。
毎日、表通りは歩くんだけど、怖いから知らない道はあえて避けていた。だからこんな奥に行くのは初めて・・・本当は何かのお店でもあるのかしら?あの人が行きそうなお洒落な喫茶店とか?
いろんな事を考えながらその通路を進んでいくと・・・そこには小さな公園があった。

数本の木の下に綺麗なベンチと小さな花壇と、古い噴水があって・・・何だかとっても落ち着いた雰囲気の公園だった。
まさか、ここに来てたとか?あの人が?・・・うーん、似合うけど、違うよね?

でも、ちょっと座ってみようかな。

私はその公園に入ってベンチに座って、空を見上げてみた。
木漏れ日が気持ち良くて、その向こうに広がる秋の空が薄いブルーで何処までも高く見えた。


どうしてかしら・・・やっぱり彼がここで、私と同じように空を見上げていたような気がしてならなかった。


********


「類、また届いてるんだけどどうするの?招待状・・・もう何通目なの?本当に類には彼女がいないの?」

「また同じ事を言う・・・。いないよ!いい加減にしてくれないかな。まだ22でしょ?そんなのいなくったって焦る必要もないじゃん」

自宅で久しぶりに家族揃って食事をしていると始まるのがこの話だ。フランスの色んな企業の経営者が自分の娘の誕生日だとか会社の設立記念日だとかに俺を呼びたくて送ってくる招待状。
父さんにではなく俺に送られて来るっていうことは、明らかに恋人募集中って意味らしくて、母さんは俺と誰かを結びつけたくて必死なんだ。「娘が欲しいのよ」・・・今からでもいいんじゃないの?って言いたくなるよね。

「こちらのお嬢様はすごく美人さんよ?ちょっと性格がキツそうだけど。それともこちらはどうかしら?ぽっちゃりしてるけど優しそうだし・・・いい大学も出てるじゃない?一度会ってみたらいいのに。どうしても嫌なの?」

「全然興味ない。悪いけど、母さんが誰を選んだって俺は会うつもりはないよ。そういう人は自分で探すから」

「あら!興味のない人がどうやって探せるの?そんな事言ってるとあっという間に50歳ぐらいになってもう誰も来てくれないわよ?お母さん、あんまり歳とってから孫の世話なんてしたくないの。類・・・親孝行してよね?」

「・・・孫だなんてこれっぽっちも欲しくないくせに!」

父さんは終始無言でワインを口に運んでる。多分この人は俺に結婚なんて早いって思ってるだろうから何にも言わないんだろう。
それよりも仕事を覚えろって感じだ。もし、そんな話を言い出すなら相手企業次第ってことかな・・・両方とも鬱陶しい!
母さんが色々喋ってるのを無視して美味しくもない料理を食べていた。

「あ、そうだわ!来週のうちのパーティーに静ちゃんとそのお友達も招待しましょう!それがいいわ。彼女ならいいお友達も沢山いるし、それこそ日本人でもフランス人でも沢山来て下さるわ!少しはそうやって女の子と会話してご覧なさい?人生変わるんだから!ねぇ、あなた!」

「ん?ははっ・・・まぁ、類。社会勉強だと思って少しはエスコートしてみたらどうだ?私はまだ結婚しろなんて言わないが、このまま放っておいても母さんが煩いだけだ。今回は言うことを聞いておけばいいさ」
「まぁっ!あなたったら!私は真剣に類の将来を心配してるのに!」

「ご馳走様・・・パーティーになら出てもいいけど、変な期待はしないでくれる?じゃあ、今日はもう休むから」


暫く続きそうな母さんの話を聞きたくなくて、さっさと自分の部屋に戻った。

**

会社が大きくなればなるほど俺の回りは煩くなる。これが嫌で本当はパーティーなんて行きたくもなかった。

俺が通った日本の学校もそうだった。いつもいつも何処かから女性が色んなものを送りつけたり待ち伏せたり、招待状なんてものもいつの間にか持ち物の中に入ってたり。
だけどその中に1人でも自分自身をちゃんと持ってる人がいたっけ?もし俺が花沢物産の跡取りじゃなかったら選ばなかったんじゃないの?誰もが俺のバックグラウンドだけを見ているとしか思えなかった。

そうじゃなきゃ俺の事をなにも知らないくせに恋人になろうだなんて言えないよね。

本当の俺を見てくれる人、花沢と切り離して見てくれる人がいい。そうじゃないと一生の恋になりそうにないから。


面倒くさいけど今度のパーティーには顔を出さなきゃね。
でも、多分そこでも俺の恋は始まらないと思うけど。



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2017/12/10 (Sun) 13:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは。

恋、始まってくれないとお話しが成り立たないようっ!(笑)
しかし、パリに送り込んでまでつくしちゃんに貧乏設定するなんてマジ可哀想ですよね。
しかも、私、全然わかんないのにパリの市内地図見ながら書いてるんですけど、こんなパリのド真ん中に
貧乏なつくしちゃんが住めるんですかねぇ。

私の設定だとつくしちゃん、セーヌ川の近くの結構いい場所にいるんですよ。

まぁ、いいか!(笑)

えー?
クリスマスストーリーなのに年越し?
一応今回は細かく設定して25日に終わるようにしたのに(笑)
実は問題発生・・・すでに1話オーバー(笑)
切り詰めなきゃっ!流石にこれはオーバー出来ない!

あ!そうそう!

明日からの総ちゃんクリスマスストーリーに考ちゃんが1回出ます!(笑)
これ、可愛い設定だから!楽しみに待ってて下さい!

では、また~!

2017/12/10 (Sun) 14:39 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/11 (Mon) 10:16 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・爆笑っ!

確かにはじかれたようですね!確認させていただきました(笑)
そうなんだ・・・それくらいで?

じゃあお話しなんてほとんどがヤバいじゃないの!(笑)お話しだからいいんだけど。
それにしても厳しいのね。

えっと・・・基本類くんがそうであるかどうかは考えないようにしております(笑)
でも、初めてだと下手そうなので一応何かしらの経験は持っているという認識で書いております。
そんな無茶な!(笑)

えぇ、すべてその考えです!
あの赤ちゃん時代から一緒に住んでいた設定のシスコンですらこの考えで書いてます(笑)
静以外の何処かの誰かから一応手解きは受けてると・・・。

いやいや、頭の中で想像し始めるとブチッ!とスイッチが切れるので考えません。

さとぴょん様・・・怖い質問だったわ!(笑)

2017/12/11 (Mon) 16:33 | EDIT | REPLY |   

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