FC2ブログ

plumeria

plumeria

遠くで除夜の鐘が鳴り響いた瞬間、俺はつくしをベッドの中で抱き締めていた。
本当は身体を繋げたいけど優しくしてやれる自信もないし、何よりこいつの中の宝物は守りたいし。
だから、つくしの身体を撫でてその少し柔らかく、豊かになった部分だけを愛してやる・・・まぁ、これは新年だからってわけでもなく、疲れていない夜には欠かさなかった俺たちの儀式みたいなもんだけど。

「つくし・・・年が明けちゃったな。今年は大変だ!親になるんだもんな・・・今からワクワクすんな!」
「総二郎ったら!おめでとう・・・今年も宜しくね。去年よりも甘えちゃうけどさ」

絡めた指先にはまだ力が入らないけど、必死で俺を掴もうとするその左手が愛おしかった。
くっきりと残る首の傷も・・・その「勲章」に俺は必ずキスするんだ。こうやって元旦の朝は始まった。

**

新しい年が明けても俺には例年のようにすることがなかった。
毎年はドタバタと過ごしていた12月も家庭教師として生徒の家に行く以外はつくしの側にいたし、1日のうち好きな時間に茶を点ててつくしと飲んで・・・少しずつ大きくなるつくしの腹を眺めながら過ごしているだけだった。

それはそれで幸せなんだろうと思う。ほんの少し物足りない気がするのはまだ慣れないからだ・・・自分にそう言い聞かせていた。


今日はつくしにも着物を着せてやろう。もうこれ以上腹が大きくなると無理だけど、今ぐらいなら帯をキツくしなければ大丈夫だろう。何処に行くわけでもない。初詣すら何があるかわからないから行かなかった。

俺はまず自分が着物に着替えて、茶の準備をした。
つくしは少しずつ自分でも包丁を使って料理をするようになっていたから、キッチンで雑煮を作っているらしい。正月らしい香りがこの「茶室」にまで届いていた。


「つくし、そろそろお前に着物着せてやるから来いよ!そっちは一段落ついたのか?」
「はーい!準備出来たよ。後はお餅を入れるだけ・・・その前にここで初釜なんだね?ふふっ!私だけの初釜、贅沢だねぇ!」

「ばーか!何が初釜だよっ!炉なんて開いてないんだから初釜なんて言うか?普通に茶を飲むんだよっ!」
「はいはい。そんなところだけ煩いんだから・・・じゃあ、お願いします」


1月の着物は縁起物を使う。
つくしの着物はそこまでないから、持ってきたものの中で春らしいものを着せてやった。帯はつくしに確認しながら苦しくないように軽く締めて、帯留めさえ省略だ。

そして桜子に買ってこさせた俺が愛用している抹茶を使う。
つくしは俺の正面に座ってジッと手先を見つめていた。まるで西門で稽古をつけていたときのような真剣な眼差しでこっちの方が緊張してしまう。何とも言えない懐かしい空気が流れていた。

茶碗をすっと差し出すと、両手をついて礼をしてゆっくりとその両手で茶碗を持った。
少し左手が震えているけど顔には一切の不安を出さず、ゆっくりと茶碗を口に運んだ。 

そしてまたゆっくりと茶碗を戻して「結構なお点前で・・・」、そう言うとはぁーっと溜息をついた。

「くくっ!無理すんなよ?でも、出来るようになったじゃん。大丈夫か?・・・痛まなかったか?」

「うん、もう痛みはほとんどないのよ。力が入らないだけなの。少し痺れるんだけどそれにはもう慣れたわ。良かった!お茶碗を落として着物が汚れたらどうしようかと思ったわ」

「心配しなくてもその着物はそこまで値打ちもんじゃねぇよ。人間国宝が作った着物ならビビるだろうけどな」

もう少ししたらつくしにも茶を点てさせてみよう。
もしかしたらこれもいいリハビリになるかもしれないしな・・・つくしがやるって言えばだけど。
久しぶりに2人で着物を着て茶を飲んで・・・この後はつくしの作ってくれた雑煮を食べた。これが二人っきりで迎えた初めての正月だった。


*********

<東京・西門邸 side千春>
「お家元、これは一体どうされるおつもりですかな?我々後援会の意見も無視されるということですか!このまま総二郎君が戻って来ないのなら、やはり京都の分家筋のご子息をこちらにお呼びした方がいいかと思うんだが?」

「いや、それはまだ考えてはおりませんな。総二郎がこの家を出たと言ってもまだ数ヶ月のこと。若いだけに少しだけ道を迷っているだけでしょうが、茶を捨てられるような男ではございません。総二郎は戻ってくる・・・必ず西門の血があの子にこの道を選ばせると信じておりますからな」

今日は初釜だというのに、話の中心は新年の祝いではなく、総二郎さんの進退についてだった。
私との婚約を発表すれば仕方なく戻ってくると思っていたお家元の思惑は外れて、やはり総二郎さんは戻ってこなかった。

何処かでつくしさんと出会えてひっそりと暮らしているんでしょうね。
でもやはり無理があるのよ・・・隠れてくらす生活なんて長くは続かないわ。必ずどちらかが疲れてくる。
多分総二郎さんが疲れてくるんじゃないかしら。ここでの生活が長いんですもの・・・普通の暮らしなんて無理でしょう?

早くそれに気がついて戻っていらっしゃいませ・・・千春はいつまでも待ちますわよ?


「それにしてもどちらに行かれたんでしょうな。本当に見つからないのですか?なんの手掛かりもないと?」

「・・・うむ。八方手を尽くしたのですが、行きそうな所には何処にもおらんのですよ。もう1人捜している者がいるのですがその子も見つからないのです。一体何処を探せば良いのやら」

「何処かでお茶をされていると言うことはございませんか?あれほどの才能をお持ちで、自らもかなり精進されていた方だ。
簡単にお捨てになるとは思えないが?何処かで茶などを購入されていたら見ている人がいるのでは?西門で使うものは一級品だから、いきなり質を落とせないでしょう。都内のお茶屋に聞いてみられたら?」

「あぁ、そう言えば・・・」

ここで言葉を出した1人の後援会役員の男性にみんなの眼が向かった。


「年末近くに西門御用達のお茶屋に1人のお嬢さんが来られていて、相当な量のお抹茶を購入されていましたよ。あれは確かここの後援会にお入りの方でした。お名前が・・・確か、三条様ではなかったかと。総二郎さんがお好みの銘柄を随分と買い込んでおられましたねぇ」

その発言はお家元の顔色を変えた。
私はよく知らないけれど、確かに総二郎さんのお友達で三条さんと言う女性がいるというのは調査済みだった。
その人は若い女性でありながらすでに社長をしていて、確かファッション関係や化粧品の会社だったはず・・・そんなに大量な抹茶なんて不自然な買い物だわね。

「その三条さんがもしかして総二郎の居場所を知っているかもしれないと?」

「いやいや!そうは言ってませんよ?ただ、不思議だっただけです。若いお嬢さんが来るような店じゃない上に、その方はメモを見ながら買っていたのでご自分のではないと思っただけです。総二郎さんと結びつけた訳ではない。見かけたと言ったまでです」

「・・・それでも今は小さな手掛かりから探すしかありませんからな・・・わかりました。少し調べてみましょう」


総二郎さん・・・もしかしたら、かくれんぼはあなたの負けかもしれなくてよ?


yjimageAATOY8GO.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/29 (Wed) 13:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

すみませぬ。ついに始まった最後の戦い・・・これからエンドまでは再びシリアスな場面が多いかと。
千春・・・実はもう1人おりますけどね、面倒な人が。彼女も出てきます。

さぁっ!これを乗り越えて行くんだっ!総二郎っ!(てめぇが乗り越えろよ!by総二郎)

桜子、そうだよね(笑)いい事言うなぁ!
でも彼が買いに行ったらお話しが進まないよ・・・?

2017/11/29 (Wed) 15:39 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/29 (Wed) 20:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・爆笑!

誰がT・Mって?(笑)ごめんなさーい!書き方が悪かったっ!(笑)
違うよ~💦千春ともう1人・・・だよ~💦と、を入れなかったからとんでもない人を連想させたのね?

いたでしょ?変なヤツ!思い出してっ!!
階段から落とそうとしたヤツ!思い出した?

もちろんT・M来たら流石に私も静かにします。怒られそうだ・・・(笑)


2017/11/29 (Wed) 23:26 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply