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plumeria

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「あのう・・・専務、まだ5時過ぎですけどもうご自宅にお戻りなんですか?今日の書類・・・全部目を通してないでしょう?
明日は社長もフランスからWEB参加される定例会ですよ?今回はちゃんと見ておいた方が良くないですか?」

車の中で秘書の藤本という人が何か話してる・・・だけど、私の耳にはその言葉は入ってくるけど理解までは出来なかった。
ただ類の胸に半分顔を埋めた状態で、片手で肩を抱かれてるのにもう片方では手を握られてる。心は完全に凍ってしまったのに、身体は妙に温かいような気がしてぼんやりと類の身体の向こうの景色が流れるのを見ていた。

「そうだね・・・でも、彼女を放っておけないから家に向かって?悪いんだけど藤本は後で書類を花沢に届けてよ。自宅で読むから」
「うわっ・・・!今度は自宅に書類・・・扱き使いますねぇ!」

「・・・牧野のサンドイッチ食べたでしょ?」


車内のバックミラー越しに藤本さんが私を確認してる。
しかも一度や二度じゃない。もう、何回も見るからとうとう類が彼の後ろ頭を殴った!それが可笑しくてクスって笑った・・・。

「牧野、少しは落ち着いた?もうあそこには帰らなくていいからね。ちゃんと話してきたから」
「え?・・・話って何を?亮が何か言ったの?」

類は少しだけ悲しそうな笑顔でそれ以上は何も言わなかった。
亮は何処まで喋ったんだろう・・・それは真実だったんだろうか。類に嘘の情報を教えて、それを類が信じたら?
でもここでは話せなかった・・・藤本さんがいる。だから類もここでは聞いてこないんだろうと思った。

あのお屋敷の中で今夜はきっと類に軽蔑される。もう、観覧車の中でのような気持ちには戻れない。
そんな私の気持ちが伝わったのか、類が握る手がグッと強くなった。びっくりして顔を上げるとおでこにチュッ・・・とキスが!

「うわっ・・・ちょ、ちょっと類!車の中で!」
「あれ?ダメだったの?泣きそうになってたからさ。子供ってこうしたら泣き止まない?」

また子供?・・・こんな時でさえ類が優しすぎて涙が出る!私は笑っているのに涙が止らなくて、とうとう類のスーツを握り締めたまま声をあげて泣いた。泣いている間、ずっと類の手が背中をさすってくれる。

言葉はなかったと思う・・・でも、その手からは大丈夫だと、安心しろという気持ちが伝わってくるような気がするのは自分勝手な考えだろうか。


どのくらいこうしていただろう。
藤本さんの運転する車は昨日泊まった花沢邸に着いた。

類が先に車を降りて私の方のドアを開けてくれる。差し出された手をこの時は取ることが出来た・・・そして、今から社に戻るという藤本さんにお礼を言って頭を下げた。

「今日は私のせいでご迷惑をお掛けしました。あの・・・類さんは悪くないんで怒らないでいただけますか?」
「えっ!あっ、あの私は別にいつも怒っているわけではありませんよ?専務がおふざけになったときだけですからっ!それよりもあのサンドイッチは美味しかったです・・・良かったら、良かったら・・・」


「藤本・・・いいから早く帰って資料持ってきて!」

類がちょっと悪戯っ子みたいな顔で藤本さんに声をかけると、彼はブスッとして再び車を門の外に走らせていった。


**


いつものように両手を重ねて深々と頭を下げた加代が玄関先で俺たちを出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。類様は今日はお早いのですね。あら!牧野様もご一緒でしたか。それでは今日の夕食はこちらでなさいますか?それとも外出されますか?」

「食事は俺の部屋で2人でとるよ。それと牧野の部屋を大至急準備してくれる?俺の隣でいいから・・・母さんには俺から説明するから加代は何も言わなくていい。食事まで時間あるよね・・・喉が渇いたからお茶を持ってきてくれる?」

「畏まりました」


屋敷に入っても牧野の緊張は取れていないから無駄に広いリビングやダイニングは使わずに俺の部屋で話を聞こう。
そう思って加代にこれからの指示をした。牧野の部屋を用意させたといっても恐怖の方が強ければ昨日のように寝てもいいし・・・。強要なんてしないけど、この子の側についていてやりたいって気持ちは本当だから。

牧野の背中を支えながら俺の部屋まで連れて行く。小さな溜息を何度もつきながらゆっくりとその足は進んでいった。


部屋に入るとすでに昨日運ばれていたゲスト用のベッドなどは片付けられていて、ガランとした何もない空間に戻っていた。
部屋の真ん中にキングサイズのベッド。後はテレビとソファーとデスク、それにローボードが一つずつあるだけ。

「えっと・・・座ってって言いたいけどソファーが一つしかないよね・・・。ラグの上でもいい?気にしない?」
「え?それでいいの?・・・うん。その方がいい・・・ソファーなんて慣れてないから」

「じゃあ、着替えてくるね?牧野はどうする?部屋着に着替える?」
「えぇっ?そんなものここにはないわよ?私はこれで大丈夫だから!」

「プッ!何、緊張してんの?それに昨日も見たでしょ?ここには牧野の服も少しだけど揃えてるよ」
「ああっ!・・・そう言えばこの服も類がくれたんだったよね!ごめんなさいっ!」

1人で慌てて立ったり座ったり・・・この後のことを考えて動揺してるんだろうね。
そんな牧野を横目で見ながらネクタイを外してスーツを脱いだ。その時に部屋をノックする音が聞こえて牧野はビクッと身体を強張らせてドアの方に顔を向けた。そこまで怖がらなくてもあの男はここまで来やしないのに・・・。

「お茶をお持ちしましたよ・・・まぁ!牧野様、どうなさいました?ラグの上に座られてないで、どうぞ椅子の方に!」
「あっ!すみません。この方が楽だったんです。気にしないで下さい」

「まぁっ!そうなんですか?変な所も類様と同じなんですねぇ!類様も何度言っても床にお座りになるから・・・」

紅茶を持ってきた加代がそんな事を言ってケラケラ笑うから、牧野もつられてクスッと笑った。
それをクローゼットから見ていたけど、牧野のあの笑顔はまだ本物じゃない。早く元のように笑って欲しいって思うよ。
そういちろうと遊んでるときのような幸せそうな笑顔・・・いや、もしかしたらあの時も心底笑えてはいなかったのかもしれないね。

あのアパートの外に「自由」を求めていたんだろうか。あの男の「呪縛」から解放されて、何処かに行きたかったの?
そういちろうのように羽があったら、あんたはすぐに逃げられたのにね・・・なんて事を1人で考えていた。


「それではお夕食が整いましたらお持ちしますわ。それまでごゆっくりお過ごし下さいませ。牧野様のお部屋はこの部屋の左隣に準備しておりますからお休みの時はそちらに・・・まぁ、類様にお任せしますけどね」

俺に任せたら牧野はここから出られないけど・・・。
それもこの後の話次第だけどね。

部屋着に着替えて牧野の前に座った。


真っ白いラグの上で俺と牧野は向かい合って、その目を合わせていた。




「全部、ちゃんと聞くよ。俺は牧野の言葉を信じるから、何があったか教えてくれるよね?」

「・・・わかったわ。その前に亮は私の事をなんて言ったの?」

「牧野のことを自分のペットだって言った。あんたの両親が借金のカタに置いて逃げたって。でもそれはあの男が言った言葉だから・・・真実は牧野から聞きたい。あいつが言ったことが本当でもいいんだ。ただ・・・あんたの口から聞きたい」


泣きやなんでいた牧野の頬にまた涙が溢れた。
それを指で拭き取ってやると、牧野の口からあの男の説明が始まった。


「亮はね・・・私の前の彼なの。1年間付き合ってた私の彼なの」


そのいきなりの信じられない言葉に早くも俺の心臓が早鐘を打ち始めた!
あんな男が牧野の彼?とてもそんな風には見えなかったけど・・・!それになんで彼女のことをペットだなんて呼ぶんだ?

この先何を聞かされるのかとドキドキして、イヤな汗が額に浮かんでいた。
牧野の方も微かに震えてる・・・この部屋の空気が一気に重く、暗くなっていくのを感じた。



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Comments 4

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2017/11/26 (Sun) 05:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、こんにちは。

こんなにとんでもない展開になっても楽しいコメントありがとうございます!
そうそう、そんなノリで読んでいただけたら嬉しいです!

ちなみに亮・・・りょうって読んでね(笑)あきらじゃないから。

さてさて、何でこの男がこんなことしているのかは段々わかってくるとして・・・藤本!
完全に「花沢専務」に藤本になっている(笑)
彼には最後までこの調子で頑張っていただきます。

ふふっ・・・何処が短編だったんだろう!結構長くなっております。

と、いうことは亮はまだまだ?
この男を痛めつけるのは・・・もしかしたら類じゃないかも!

後半も楽しんで下さいませ!今日もありがとうございました!

2017/11/26 (Sun) 11:19 | EDIT | REPLY |   
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2017/11/27 (Mon) 01:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは~!

え?えぇ、彼氏だったの!
妖怪のような彼氏・・・違うか。




2017/11/27 (Mon) 11:11 | EDIT | REPLY |   

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